息抜きから一夜が明けて、朝になった。
昨日の夜に、先生たちの思考がアメリカのNo.1ヒーロー、スターアンドストライプに関することになっていたのが気になりはしたけど、わざわざ聞きに行くのはやめておいた。
明らかに混乱した感じだったし、負の感情からして、訃報か何かだろうというのは深く読まなくても容易に想像がついたし、その時の先生たちの状態で聞きに行ってもすぐに教えてもらえるとは思っていなかったのもある。
今日オールマイトが言いに来てくれる感じの思考をしている辺り、特に聞きに行く必要が無かったのは間違いではなかったみたいだった。
しばらくしてからオールマイトがやってきて、1階に集められた皆に、案の定スターアンドストライプが死柄木に挑んで敗れたことが伝えられた。
そのうえで、オールマイトが考えていた内容をゆっくりと伝えられた。
その内容に対して、爆豪くんが顔を歪めながら言葉を返した。
「猶予ぉ!?」
「あぁ。本来なら死柄木は明日にも万全の身体となるはずだった。少なくとも一週間、死柄木は動けない。スターアンドストライプが遺してくれた、最後の猶予だ。この時間を有効に使う……死柄木とAFOを倒すために」
「一週間って……どういう基準で判断してますか……?死柄木は……仮死状態から万全でない復帰をした後でも……ある程度動いてましたよね……」
「……あぁ、スターアンドストライプが、自らの命と引き換えに、死柄木に大打撃を与えてくれた」
そこから、オールマイトはスターアンドストライプの戦いを語り始めた。
内心でキャシーなんて考えている辺り、オールマイトの知り合いだったっぽい。
そんな彼女が死んでしまった悲しみを隠すようにしながら、話し続けていた。
彼女の死を無駄にしないために。
「スターが……!死柄木にダメージが!?」
「アメリカの戦闘機からいただいた分析データだ。奪われた
「それじゃあ今が……」
「千載一遇のチャンス……!」
……この感じからして、自分の個性が奪われることを前提として罠を仕掛けた感じか。
奪われるために崩壊が使える死柄木に触られなければいけない関係上、自分の身を犠牲にする前提ではあるけど、スターが取れる手段であるのは間違いなさそうだった。
そんな手段に出ているということは、スター個人では敵わなかったということ。
エンデヴァーたちと共闘できれば違ったのかもしれないけど、アメリカから独断専行してやってきていたみたいだし、すぐに連携を取るのは難しい。
仕方なかった感じかな。
「一般人の避難も進みつつある今、早速残存ヒーロー総出で捜索を行っている。しかし痛手を負ったAFOがどう動くか……これまで以上に読みづらい。見つかっても見つからなくても、結局は総力戦になるだろう」
オールマイトの言っている総力戦と言うのは、OFA……緑谷くんや、私たちも含めた意味での総力戦だった。
もう、学生だとか言っている余裕がない状況なのは痛いほど分かっている。
大切な人を守るためにも、頑張らないといけない。
そして、皆が少し盛り上がり始めている中、オールマイトは敵の戦力を順番に数え始めるように、言葉を続けた。
「ともかく君たちには……動けないとは言ったが……依然最強のヴィラン、死柄木弔。同じくAFO本体。エンデヴァーに匹敵する炎……狂気の男荼毘。波動少女の感知すらもすり抜け、翻弄して見せた少女、トガヒミコ。残る3体のニア・ハイエンド。解放戦線の残党。そして未だに捕まることなく、AFOに従い暴れ回るダツゴク」
「……恐らくそれだけじゃない……」
「ああ。恐らくもっと増える」
オールマイトの言葉に、障子くんが反応する。
障子くんは、今まで虐げられてきた者たちが、AFOに同調してしまう可能性を考えていた。
異形差別。
障子くんがその存在を改めて示唆してくれた、田舎の忌むべき風習。
超常解放戦線には、スピナーなんていう神輿にちょうどよさそうな幹部までいる。
今まで虐げられた恨みつらみを抱え込んでいる異形個性の持ち主たちが、このままでいるとは思えなかった。
……というよりも、あれだけ悪辣なAFOが、それを利用しないとは思えなかった。
「対してこちら、前線に立つ者もだいぶ減ってしまった……スターの殉職を前に敢えて言う。君たち自身と、君たちが守りたいモノを守るために、この"猶予"を使って、少しでも力を底上げしてもらう」
そこまで言うと、オールマイトは私たちを順番に見つめてきた。
だけど、オールマイトから投げかけられた言葉に爆豪くんは耐えられなかったようで、プルプルと震えだしていた。
「んなもんとっくにやっとるわぁ!!!」
爆豪くんがはっきりとそういうと、あまりの勢いにオールマイトがビクッと反応した。
元No.1ヒーローでも、爆豪くんの勢いにはびっくりしてしまうらしい。
「オールマイトはデクくんと出てっちゃったから」
「いらしてもすぐ出て行きますし」
「群訝・蛇腔以降、プッシーキャッツの圧縮訓練を続けてたんです。寮内でできる範囲で」
「……ん……私たちも私たちなりに……できることをしてた……」
皆が口々にオールマイトに言葉を返していく。
でも、緑谷くんのことがあったから多少は仕方ないにしても、外に意識が向き過ぎていたオールマイトが悪い。
私以外の皆は、もう避難所として開かれるようになるくらいの頃には訓練を始めていた。
ヒーローが足りなくなるのは分かり切っていたことだから。
それに、今はAFOに挑まなければいけない緑谷くんについて行くって、皆が考えている。
誰にも、迷いなんてなかった。
「我々は緑谷と共に征く者……死柄木らを止めるまで、戦い続ける所存」
「ショゾン!」
常闇くんに続いて、三奈ちゃんすらも憮然とした表情でその意志をオールマイトに訴えていた。
皆がそんな感じで言いたいことを言い続ける中、緑谷くんがさらに言葉を続けた。
「これからかっちゃんたちが組手してくれるんです!波動さんが危機感知の訓練をつけてくれるっていうのと、かっちゃんがOFAを完成させてやるって「はあああい!?言ってねーーーよ!!!ダツゴクに耳千切られたんか!!!」
「変われよ!!」
爆豪くんのいつも通り過ぎる緑谷くんへの突っかかり具合に、砂藤くんが思わずと言った感じで叫びながらツッコみを入れた。
だけど、爆豪くんはそんなことも気にせずにさらに言葉を続けていていく。
「俺の新境地"クラスター"が通用するか確かめてぇ。OFA相手は、対死柄木・AFOへの一つの指標になる」
「そうだな……」
「ん……私も……戦力になれる……あのギガントマキアにやったことを……意識してできるように……緑谷くんに指導しながら、模索する……OFAは……いい練習台……」
私も、今日やりたかったことを口に出す。
緑谷くんへの危機感知の訓練は、だいぶ前からオールマイトにも頼まれていたことではあったし、昨日の夜のうちに緑谷くんに提案したら嬉々として受け入れてくれた。
トガのような存在がいる以上、勝手に反応する感知頼りというのは難しいから、慣れている私が教えた方がいい。
それをしながら、意図的にあの波動が溢れる状態になれるようになれば、緑谷くん程じゃないかもしれないけど、私も切り札の一角になれる。
お姉ちゃんと天喰さん、通形さんが一緒に模索している、混成大夥の境地。それに対するお姉ちゃんの波動のエネルギーの転用。
そこから推測される威力は計り知れないし、私がそれに追いつけるかも分からない。
だけど、少なくとも、今みたいに感知以外は足手まといなんて状態にはならないはずだ。
そんなことを考えていたら、切島くんが底抜けに明るい感じの表情で口を開いた。
「俺のことも殴ったりしてくれよ!」
「……そこだけ聞くと……ヤバい人でしかない……」
「俺はもっと硬くならなきゃいけねぇんだよ!波動も俺を殴ってくれ!!」
「……やること終わって……余裕があったらね……」
切島くんが相変わらずやばい人みたいな危なっかしい発言をしてくるけど、とりあえず流しておく。
今日は指導にもあるから、時間が取れるか分からないし。
「スターの遺志をついでいかねばな」
「とりあえず中庭あけとくわ」
「オイラのスターをよぉ……許せねぇ、クソが……」
「みんなのスターだよ」
……峰田くん、スターアンドストライプもストライクゾーンに入っているのか。
つまり、自分の数倍は身長があるムキムキの女性でも大丈夫らしい。
これは結構凄い気がしないでもない。
まあそんなことはどうでもよくて、皆がスターアンドストライプの遺志を、紡ごうとしていた。
そこからもたらされる儚くて細い希望でしかないけど、それでも、その希望に縋るようにして、前を向いていた。
私も、その遺志を紡いでいかないといけない。
スターだけじゃない。ミッドナイト先生の遺志もだ。
私が、大切な人を守ることが出来るヒーローになって、皆を、お姉ちゃんを守って、先生のその遺志を、想いを、紡いでいかないと。
私たちがそうやって思いを新たにする中、オールマイトが去年の、初めての戦闘訓練の時のことを考えていた。
『あの日の卵たちはとっくに孵っていて、嵐にもくじけず、今、頼もしく羽ばたかんとしている。AFO、やはりおまえは馬鹿なことをしたよ。このクラスは、強いぞ』なんて考えていた。
それはいい。
オールマイトがそう思ってくれていることは、私たちとしては嬉しいだけだし。
だけど、オールマイトに言っておかないといけないことがあった。
話ももう一段落したみたいだし、皆が話している様子を眺めながら、オールマイトにテレパスをかけた。
『オールマイト……明日か、明後日……ナイトアイが到着したら……お話があります……オールマイトの、未来に関して……この前考えていたことも含めて……じっくり話しましょう……』
私がそうやってテレパスを掛けると、オールマイトは小さく驚いたような表情を浮かべて、目を閉じた。
『……分かった。ナイトアイには、言いたくなかったんだけどね……この行動に出た場合の自分の未来と、ナイトアイに話した時の反応は、目に見えているし……』
『それを分かったうえでの提案です……逃げないでくださいよ……』
『にげっ……!?波動少女は私が逃げると思っているのかい!?』
『……ナイトアイを避け続けていた前科があるので……信用しきれません……インターンの時……緑谷くんのお願いも……私情を挟んで拒否してましたよね……』
『うぐっ!?そ、それに関しては何も言い返せないっ……!!』
私が思ったことをそのまま伝えると、オールマイトはうろたえる感じの思考をしていた。
正直、それを分かったうえで見ていると口には出してなくても、何か変なことを考えているのが分かるくらいの挙動不審加減だった。
まあ、私は別に皆にバレてもいいんだけど、オールマイトが嫌だろうからテレパスで声をかけたのに、そんなバレかねない反応をしていていいんだろうか。
せっかくI・アイランドの時に態度に出過ぎだって言ったのに、全く改善されてない。
隠し事が出来ないのは美徳だけど、相変わらずすぎるオールマイトにちょっとほっこりしながら、少しの間テレパスで弄り続けた。