波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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二重スパイ

……ついに来た、か。

信奉者とか取引した人間を潜り込ませようとしていたから、いつかは来ると思っていた。

弾いた人間は連絡が取れなくなっているはずだし、私が読心できることはAFOも分かりきっているはずだった。

それに、AFOはサーチを持っている。

ラグドールさんが緑谷くんのOFAを把握できていなかったから、全てが読めるわけではないけど、それでも私の個性の詳細は最低限は分かっているはずだった。

そんな状態だったのに、青山くんの両親に指示の連絡がきた。

自分の個性を過信しているのか、私がどこまで読心出来るのか読み切れてないのか分からないけど、それでも迂闊だと思わざるを得なかった。

USJと林間合宿で内通が成功しているから、私がそこまで読めないとでも思っているんだろうか。

それとも、失敗したらしたで切り捨てればいいと思ってる?

なんとも言えないところだけど、連絡が来たのは事実だった。

 

彼らは夕方になって訓練が終わった頃に動き出して、練習している青山くんをにこやかな笑顔で呼び出した。

内心の恐怖と焦燥、嘆き、悲しみ、息子への懺悔とか、いろいろな思考を必死で隠しながら。

その隠し方が功を奏したのか、皆一切不思議に思わずに、心配して見に来た両親が声をかけただけだと思ったみたいだった。

透ちゃんだけは、青山くんの覚悟を決めたような真剣な表情を見て訝しんでいたけど。

 

青山くんの両親に対してコンタクトがあったことは、すぐに先生たちにテレパスで報告した。

オールマイトから塚内警部に連絡を取ってもらって、すぐにこっちに来て待機してもらっている。

青山くんにだけは、まだ伝えてなかった。

なるべく自然な反応を返してもらいたかったからっていうのもあるけど、AFOの個性で、気になるところがあったから。

 

8月の青山くんの自白を聞いて、ずっと考えていた事だった。

裏切り者は、粛清される。

それは分かる。あの悪辣な男のやりそうなことだ。

だけど、どうやって裏切りを判断する。

AFOは、直接会うことは決してない。手の者が指示を出しているわけでもない。

AFO自身が、電話で指示を出している。

こんな方法で、どうやって裏切ったと判断するのか。

指示に対する結果のズレが発覚してから粛清する?

それで、絶対に逃げられない包囲網なんてできるのか?

だって、そんな方法で粛清しているなら、発覚前に海外に逃亡したり、整形で見た目を誤魔化したりできてしまう。

海外に逃げた裏切り者を、見た目が変わった裏切り者を、サーチを手に入れる前の状態でどうやって見つけた?

オールマイトがアメリカに逃れることができた以上、海外に手の者はほとんどいないと見ていいだろう。

だって、あれだけ大きな国で、日本と関わりの大きい国で、逃走先の候補として真っ先に挙がりそうな国なのに、手の者がいなかったのだ。

このことから、海外にはまだAFOの手が及んでいない可能性が高いことが分かる。

それを考慮して考えると、粛清の判断基準が普通じゃないのが容易に想像がつく。

だって、海外に逃げられたから粛清できませんでしたなんてことになったら、脅したところで国外逃亡されまくって、国外で告発されるのがオチだと思うからだ。

 

そうなった時に考えられる粛清の判断基準、裏切りの基準が、電話だった。

そもそも、なんでAFOが直接電話する必要がある。

殻木やギガントマキアのように、心からAFOに従う者がいたのに、なぜ黒幕がわざわざ出張る必要がある。

ここから考えられることが、AFO自身の個性の使用だった。

電話で判断できることとなると、限られてくると思う。

電話の相手が裏切ったらすぐに分かるような個性となると、私の"波動"による読心や、緑谷くんの"危機感知"のような警告系の何か、真さんの"嘘発見器(ポリグラフ)"による嘘の判別のような手段の可能性が、高いと思う。

ただ、読心かと言われるとなんとも言えないと言わざるを得なかった。

だって、夏休み時点での私をサブターゲットにする理由なんて、読心しかない。

個性の複製ができるのに欲しがる時点で、読心は持ってない可能性が高いと思っていた。

つまり状況的に、電話の声だけで、相手の発言や思考の裏を、読心以外の何かである程度読めていないとおかしいとしか思えなかった。

 

だからこそ、AFOは自分の個性を過信して、青山くんを切り捨ててない。

だからこそ私たちは、今の雄英に青山くんの両親を招き入れても、ギリギリまで放置した。

青山くんにも、両親に対して自然な反応を返して欲しかったから、伝えていなかった。

少しでも疑念が生じて、万が一AFOからの連絡があって、筒抜けになった場合が困る。

まぁ青山くんは、おかしいと言わざるを得ない状態の両親を見て、すぐに気が付いてしまったようだけど。

 

『……波動さん、分かっているね』

 

『ん……大丈夫……ちゃんと見てるから……対応は任せて……』

 

青山くんがゆっくり歩き出すのに合わせて、私も動き出す。

思考から移動先を確認して、先生たちにもテレパスをしてしまう。

青山くんの両親の個性が、凶悪度の低いものであることは分かっている。

だから、私が先行して死角に潜んで、AFOからの連絡が既に終わっていると判断した時点で拘束する。

先生たちもテレパスで指示した位置に、バレないように来て包囲してくれることになっている。

 

「……ごめん、透ちゃん……ちょっと出てくるね……」

 

「え?あ、うん。どこ行くの?」

 

「ん……ちょっと用事……」

 

「……そっか、いってらっしゃい」

 

透ちゃんに一声かけてから、寮を出る。

そのまま走って3人が向かう先である寮の裏手の森の中に先回りして、死角になりそうな木の上に隠れてしまう。

そこからは、3人の思考と挙動に集中した。

 

 

 

「やるしかないのよ……あの人が再び"指示"を出してきた。大丈夫……これまで通り、傍受されていても民間の日常に取れるように暗号化してあるわ。ここなら監視の死角になるでしょ……!?大丈夫よ!やらなきゃ私たちが殺されてしまうの!優雅!」

 

青山くんの両親は、凄まじい形相で青山くんの両肩を掴んで、訴えかけていた。

その様子を見た青山くんは、両親の様子を見て少しだけ悲し気に顔を歪ませて、2人を見据えていた。

 

「入学して間もない頃、うまくあの人の要望に応えたじゃない!!合宿でも誰にもバレずに居場所を教えられたじゃない!!」

 

「……出来ないよ、パパン、ママン」

 

「それでもやらなきゃだめなのよ!私たちだって……一度だって好きでやったことはないわ!けれど……もう遅いのよ!遅すぎるのよ……!!」

 

小さく首を振って否定する青山くんに、なおも母親は青山くんの肩を掴んで必死で訴え続ける。

殺されるのが怖いから必死で訴えかけているみたいだけど、青山くんは全く揺らいでいなかった。

むしろ、緑谷くんの様子を見て、読心で選別した私を見て、AFOによって齎された今の状況を考えて、今殺されない為に取り乱している2人の惨状を見て、さらに強く覚悟を決めていた。

 

「私たちは……もう関わってしまった!関わってしまったらもう……AFOからは逃れられないのよ!」

 

そこまで言い切りと、取り乱した母親は、肩で大きく息をして、呼吸を整え始めた。

それを見た青山くんは、肩に掛けられていた手に自分の手を重ねながら、真剣な表情で口を開いた。

 

「パパン、ママン……僕は、もう間違わないって決めたんだ。僕のやっていたことを知ったうえで、信じてくれた人がいた。裏切り者の僕に、手を差し伸べてくれた人がいた。その人の信頼に、期待に、応えたいんだ」

 

「優雅……?あなた、何を言って「ごめん……青山くん……明かしたなら……もうここまで……」

 

青山くんが明かしたのを確認して、私は木から飛び降りて、青山くんの両親を2人とも取り押さえた。

 

「なっ!?優雅っ!?どういうこと!?優雅っ!!?」

 

「パパン、ママン、ごめん。でも、ダメなんだ。AFOだけは、ダメなんだよ。2人が僕のことを想ってしてくれたのは分かってる。でも、僕は人の為に、人に喜んでもらえるように、皆の為に……僕を信じてくれた、波動さんの為に、戦うって決めたんだ。だから、AFOの指示には従えない。僕は、皆と一緒に、暗い世界に、輝きを取り戻すんだ」

 

「優……雅……」

 

青山くんははっきりと自分の考えを、やりたいことを口に出して、両親に語り掛けた。

青山くんの両親は、それを聞いて、それを言っている時の青山くんの表情を見て、固まってしまっていた。

そのタイミングで、先生たちが集まってきた。

私が飛び降りたのを見て、事が終わったと判断したらしい。

その中から代表するかのように、相澤先生が口を開いた。

 

「……よくやった、青山、波動」

 

「いえ……私は……そんなには……」

 

「すいません、僕の為に」

 

「謝るな。青山が有言実行してくれただけで十分だ。それに、お前の覚悟も聞くことが出来た……成長したな」

 

先生はすれ違いざまに青山くんの肩に手を乗せた。

そのまま、塚内警部と先生たちは青山くんの両親を拘束していった。

鉄のマスクのようなもので口を塞ぎ、後ろ手に手錠を掛けられ、その腕ごと、身体を拘束されていった。

そんな中、オールマイトに連れられた緑谷くんと透ちゃんが歩いてきていた。

……緑谷くんは危機感知が反応したから気になって、透ちゃんは、青山くんの様子がいつもと違ったから心配になったのと、私が出て行ったのは同じように心配したからだと思ってつけてきた感じかな。

それをオールマイトが止めてくれていたらしい。

 

「どういう、こと……?」

 

「青山くん……?」

 

緑谷くんと透ちゃんは、青山くんの両親が先生や警察に拘束されていくという現状が呑み込めないようで、呆然とした様子で呟いていた。

青山くんはそんな2人を見て、小さく笑みを浮かべていた。

『やっと謝ることが出来る』って、考えていた。

ずっと土下座したいとか考えていたし、もう枷もなくなったようなものだから当然か。

青山くんは、もうこっち側であることを、先生たちに、塚内警部に、私に証明して見せた。

そこに疑う余地はなかった。

 

「ああ、君たちも来ちゃったんだ……先生、もう隠さなくても、いいんですよね」

 

「……ああ。もう隠す必要はなくなった。好きにしろ」

 

先生の方に向き直って確認する青山くんに、先生も最低限のことだけを伝えて目を伏せた。

返事を聞いた青山くんは、吹っ切れたような表情を浮かべて、言葉を続けた。

 

「緑谷くん、葉隠さん……皆に、話がある。話さなきゃいけないことが、あるんだ」

 

呆然としたままの2人にそう告げた青山くんは、拘束されて連れていかれる両親を横目に見ながら、ゆっくりと歩き出した。

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