訓練が終わって、寮に戻ってきた。
寮の扉を開いて皆で順番に上鳴くんが床に倒れ込んだ。
「つ……疲れた……!」
「か、上鳴くん……!」
まぁ、口田くんが気にかけてあげてくれているから放置でいいか。
結構ウェイよりの状態になってて脱力してそうだし、女子で手伝えることは少なそうだ。
「皆、速やかに就寝しよう。俺たちの強さは若さだ。一挙手一投足全て力につながる。歯磨きは忘れないようにな!」
上鳴くんを無視して飯田くんが皆に語り掛ける。
相変わらずのクソ真面目だ。
まあ空回りしてるわけでもないし、頼りになる感じのクソ真面目なんだけど。
そんなことを考えていたら、透ちゃんもソファに倒れ込んだ。
「私も疲れたー!」
「私も……疲れた……」
「瑠璃ちゃんも結構動いてたもんねぇ。もう早くシャワー浴びて寝た方がよさそうだねぇ」
透ちゃんがぼんやりした感じでそう呟くけど、それはもうちょっと後になってしまいそうだ。
オールマイトと塚内警部、校長先生、ナイトアイが、近づいてきていた。
「……寝るのはまだ……無理そうだけどね……」
「え?どういう「わたしが!!毎日のように来た!!」
「ちゃす。元気っすね……」
「逆にな!!」
オールマイトたちが緊急会議をしていたのはちらちら気にするようにはしていたけど、結局どうするつもりなのかは分からなかった。
乱戦の訓練に集中してたし、そこまで気を配れてなかったせいだけど。
全盛期のAFOをどうにかする方法が思いついたんだろうか。
どうにかできるならいいんだけど、あれの全盛期とかどうすればいいか想像もできない。
そんな中、寮に入ってきた人を確認した緑谷くんが嬉しそうに飛び出した。
「ナイトアイ!もう歩けるようになったんですね!」
「久しいな、緑谷。歩けるようにはなったが、まだ戦闘などできそうにもない状態でね。裏方のサポートをしにきたのだよ」
「いえ!ナイトアイにサポートしてもらえるなら百人力です!」
緑谷くんがブンブン振られる犬の尻尾が見えるんじゃないかってくらいの勢いで、ナイトアイに詰め寄って行った。
久しぶりに会えたのと、よくなっているのを確認できたからなんだろうけど、それでもだいぶすごい勢いだった。
皆そんな緑谷くんを苦笑いしながら眺めていると、百ちゃんが口を開いた。
「……何か決まりましたか?」
「概要はね。現在、限られた者にのみ、その概要を伝えている……第二次決戦の最終プラン、その協議を行う」
百ちゃんの問いかけに対して、オールマイトは静かにそう言った。
その言葉を受けて皆は、さっきまでの疲れなんてどこにいったのかってくらい、真剣な表情で耳を傾け始めた。
「AFOのことは私たちがよく知っている。この捜索でやつが見つかる可能性は低い」
「……まぁ……そうですよね……見つかると思ってるなら……私を捜索に回すでしょうし……」
「今プロがしてくれてる捜索は無駄ってことすか?」
オールマイトの言葉に、私の率直な感想を返す。
本当にAFOが見つかると思って真剣に探しているなら、私を雄英に置いておく理由がない。
私は緑谷くんたちと一緒に戦うって表明しているし、仮免だけどヒーローなんだから公安やオールマイトたちが躊躇する必要がない。
だけど、オールマイトたちは、捜索成功の薄すぎる確率を砂粒程度上げるよりも、私があの力を使いこなすことを期待しているんだろう。
一応、感知の性能がほぼ知られていたとしても、学生でもあるからヴィラン側から見た時にいないからどうかと言われても微妙なラインでもある。
ちょっと何か別の要素があったら瓦解するような絶妙なバランスな気がする。
そして、私にそれを期待して引っ込めておく以上、学生であるという建前が必要だ。
だからこそ、オールマイトたちは囮なんていう手段に学生を使うことをしなかったんだと思う。
「逆だ。青山による誘き出しにつながる」
「狡猾な臆病者を引きずり出すためには、心をゆっくり解きほぐす必要があるんだ」
「必死で探してるけど見つからないざけんなよ死ねカスっつーポーズか」
「爆豪くん……口悪すぎ……」
爆豪くんの言葉に、思わずツッコんでしまう。
相変わらずヒーロー志望なのに、なんでそんなに口が悪いんだ。
そんなことを考えていると、百ちゃんがオールマイトに対して再び質問を投げかけた。
「……青山さんは、嘘を吐いて殺された人がいると仰っていました。波動さんも確認していたようですけど、嘘の確認方法が分かったのですか?」
「それもクリアだ。事前に青山少年に聞いていた情報は、書面、文面でのやり取りはなく音声通信のみでのやり取りをしていることだ。この情報を基に、波動少女がした予測が、言葉、声を聞いてすぐに嘘だと分かる個性か、自身に対する悪意を言葉から感じ取れるのではないかということだった」
「……?波動と同じ読心の可能性とかは無いんすか?」
「あるわけねぇだろ。あいつら、夏の段階で波動をサブターゲットにしてやがったんだぞ。サーチを盗った以上、あの段階でこいつをわざわざ狙う利点が読心しかねぇ。個性の複製ができる奴らが読心持ってんなら、本命の成功率下げてまで取ろうとする必要がねぇだろ」
オールマイトの説明に上鳴くん質問したけど、爆豪くんがすぐに説明してくれた。
爆豪くんは本当に察しがよくて助かる。
私と同じ結論だし。
私が頷いていると、上鳴くんはさらに聞き返してきた。
「で、でもよ、合宿の時って俺たちにも読心のこと言ってなかっただろ?どうやってAFOがそれを知ったんだよ」
「……とりあえず……可能性はいくつかある……」
「え、マジ……?」
「ん……1つ目……トガが情報共有した可能性……トガは仮免試験の時点で既に読心を把握してた……どのタイミングで知ったか分からない……共有してた可能性はある……2つ目……私の地元に……AFOの手下がいる可能性……3つ目……I・アイランドのヴィランと……AFOにつながりがあった可能性……あの事件……私の読心が無いと解決できない方法で解決したから……事件の流れが伝わってたら……読心の可能性を推測できる……」
「読心がないと解決できない方法って言うと……」
「瑠璃ちゃん、一度もデビット博士と顔を合わせずに黒幕だって特定してるんだよ。オールマイトも瑠璃ちゃんの話聞いて、ヴィラン退治したらすぐに友達のはずのデビット博士の逮捕に動いちゃってるし、あれを知ってるなら確かに推測できるかも」
私の説明に、透ちゃんが補足説明してくれる。
実際あの流れを知っちゃってると推測できるだろうし、AFOがあのヴィランを通じ何らかの情報を得ていれば可能性としてないわけじゃない。
というよりも、あの時点での私の個性の詳細を知ってないと欲しがる理由が無さすぎる。
「まあ、そういうことだよ。そこから、さっき言った2点に絞って、波動少女が予測を立ててくれた。その予測を基に、波動少女が弾いてくれた内通者たちに尋問を行ったんだ。そうしたら、やはりいたんだよ。AFOの嘘の判定を試すために、悪影響は及ぼさない、冗談で通じる程度の何気ない嘘を混ぜて反応を伺った者が。その者が言うには、その嘘に対して、AFOは一切の疑念を抱かなかったそうだ。つまり……」
「嘘が分かってない……読心じゃないのも確定……悪意の感知でほぼ確定ですね……」
「ああ。そして、悪意に関しては既に波動少女の検証でクリアしている。音声に悪意を乗せなければ、奴は安心して現れる。だから相澤くんのアイデア通り、彼が生きる!」
オールマイトはそういうと同時に、カモンっ!!なんて言いながら大きく手で合図した。
それと同時に、寮の扉が開いてコスチュームを着た心操くんが入ってきた。
捕縛布を首に巻いて端っこを垂らしている感じが、ちょっと透ちゃんの忍者スカーフに似ている。
「心操ーーっ!!」
「コスかっけーー!!」
「作戦聞いた時驚いたわ。だって対抗戦のときは……喋らせることはできなかったハズよ」
皆心操くんの姿を見て、興奮気味に話しかけ始めていた。
そんな皆に対して、心操くんはちょっと自嘲気味に笑いながら、口を開いた。
「……まいっちゃうよな。4月になったらヒーロー科に編入して、皆と競い合ってくと思ってた。その為に"個性伸ばし"訓練続けてきたのに、まさか進級留め置きなんてさ……行けるぜ。俺が青山と両親を操って喋らせれば、そこに俺の意思も、彼らの感情も介入しない。ただその分、条件は厳しくなるけど」
「ん……私も保証する……たとえ心操くんに悪意があっても……洗脳対象の言葉、行動からは悪意を感じられなかった……AFOが悪意感知で嘘を判定している可能性が高いから……成功率は高い……」
心操くんの説明に、私も補足しておく。
私からのお墨付きとあって、皆は一気に盛り上がり始めていた。
「波動さんのお墨付きなら、僕も安心だよ☆」
「すっげーーー!!」
「すげぇや!!」
「サンキューシンソ―!!」
「ヒーロー名は!?」
「A組入るの!?B組入るの!?」
「AにしろA!!」
皆が盛り上がり続けるのを見ながら、心操くんが呆然としたように「明るい」と呟く。
まぁ、皆結構底抜けに明るいし、よっぽどの何かが起こらない限りは大体こんな感じだ。
そこに校長先生が、心操くんは相澤先生が鍛えてくれていたことを説明してさらに盛り上がりを見せていた。
そんな空気の中、常闇くんはさらに気になっていたらしい点を問いかけた。
「しかし……問題はここからでは?誘き出して一網打尽に?可能だと?数が減ったとはいえ……その場に大量のヒーローが待ち伏せていれば、それこそバレてしまう」
「そこは大丈夫だよ……こっちには、物間くんがいる……」
「物間くん……?……そうかっ!!」
私が物間くんの名前を出すと、緑谷くんはすぐに気が付いたようだった。
まあ緑谷くんなら気が付くか。
それだけ色々考察しているだろうし、黒霧がスカじゃないことも、すぐに気が付くだろう。
「そうだ。いるからバレてしまうなら、そこに、いなければいい」
オールマイトの説明を受けて、皆の盛り上がりは最高潮に達していた。
ワイワイ喜びあっている感じの皆を尻目に、私はオールマイトにテレパスを送る。
だって、これがどうにかできてないなら、壊滅する可能性すらある。
巻き戻しによる個性のストックがどうなるかが分からない以上、AFO1人に壊滅させられる可能性すら、あるんだから。
『オールマイト……全盛期のAFO対策……何か思い浮かんだんですか……?』
『……ああ。一応、考えてはいるよ。ただ、成功するかは分からないけどね。それだけ、不確定要素が多すぎる。明日以降、私以外の予知もしてもらって、少しでも精度を上げるために情報を得る。方法は―――』
オールマイトが、淡々と作戦を教えてくれる。
……それなら確かに可能性がある、と思う。
あとは、タイミング次第か。
まぁ、タイミング次第で全てが瓦解するから、そもそもそれを出来るかさえなんとも言えないんだけど。
そう思って、私も気を引き締めながら、盛り上がっている皆の方に交ざりに行った。