仮設要塞に移住した翌日。
私は、ちょうどA組の仮設要塞に訪れていたオールマイトと相澤先生のところに向かっていた。
私よりも少し先に、障子くんと口田くんも2人の下に向かっている。
用件は、2人も同じみたいだった。
異形の者が"病院"を目指しているというのは、身体が大きい異形系の個性の女性が考えていたから分かっていた。
昨日出立前に少し話して、その話を聞いたらしかった。
障子くんがその話を聞いて、何もしないわけがなかった。
「俺たちをセントラル病院防衛に配属してください」
障子くんが真剣な表情で打ち明けると、先生たちの動きが止まった。
相澤先生もちょっとビックリした表情をしていた。
「何でそれを知ってる……!?まだ伝えてないだろ……波動か?」
「波動からは何も聞いていません。あの大きな女性が気になることを話していたので、外界の様子を伺いました」
「大きなあの子か!」
「加えて避難民の方にも」
相澤先生に疑いを持たれたことに、ちょっと憤慨してしまう。
私、今までそこまで口が軽いことがあっただろうか。
いくら私が内情に精通しているからって、そこで疑われるのは心外だ。
「……私……そこまで口軽くないんですけど……」
「波動さん?」
「ん……口田くん、障子くんも……配属の希望を言いに来たんだよね……」
「"も"ってことは……」
「ん……私も……」
口田くんが私の方を見て、びっくりしながら聞いてくるのに対して、正直何をしに来たのか伝えてしまう。
別に隠すようなことでもないし、隠すつもりもないし。
障子くんも私の方をチラリと見てきたけど、真剣な表情で先生の方に向き直った。
「……すまん、波動。俺の方から言いたいことを言いきるぞ」
「ん……どうぞ……」
障子くんの言葉に、話を続けるように手で促す。
それを感じ取った障子くんは、言葉を続けた。
「決起……異形の者が"病院"を目指して動いていると聞きます。そこに、俺を配属してください」
「障子くんが行くなら、僕も行きます」
障子くんに続いて、いつもは自己主張を全然しない口田くんも希望を伝える。
先生は、それを真剣な表情で見続けていた。
「これを見過ごして、俺はこの先、ヒーローを名乗れない」
許可の返事をくれない先生に対して、障子くんがダメ押しのように思っていることを伝えていく。
先生はそれを聞いて目を閉じると、溜息を吐きながら小さく首を振った。
「……まだ確約はできん。情報戦を仕掛けてるところだ。状況次第で、お前たちの希望通りになるようにする。それでいいな」
「はいっ……!」
「十分です。ありがとうございます」
先生の仕方なさそうな返事に、口田くんは嬉しそうに返事をして、障子くんは深々と頭を下げた。
先生の思考からして、特に嘘を吐いている様子もない。
実際に偽の搬送先の噂を流したりして、情報戦を仕掛けたりしているみたいだし。
その情報に引っかからなかった場合に、障子くんをそこに配属する感じかな。
そんなことを考えていたら、先生は障子くんたちから私に視線を移していた。
「で、お前は」
「先生……私を……奥渡島に配属してください……」
「……トガか」
「はい……」
死穢八斎會で何があったか分かっている先生は、すぐに察してくれた。
まあ、察したはいいけど、悩ましそうに頭を掻いちゃってるけど。
「……確かに、お前の配属の候補地の一つではあったがな……」
「波動少女は、AFO、死柄木、荼毘、トガ、ギガントマキアと、皆から候補地の推挙が多いんだけど……理由は何かあるのかい?」
相澤先生のぼやきを補足するように、オールマイトが確認してくる。
それに答えるために、私はずっと考えていたことを、オールマイトの目を見て話し始めた。
「私は……仮免試験で……死穢八斎會で……トガに……勧誘されたんです……一緒に来ないかって……自分と似た者同士だから……来た方がいいって……」
「似た者同士?」
「はい……周囲に対して……自分の感情を……思ったことを隠して……仮面を被って生きてきたところとか……あとは……自分にとっての普通が……周囲に受け入れてもらえなくて……生きづらいのも似てるって……」
「それは……」
トガに言われたことをそのまま伝えると、オールマイトは唸りながら顎に手を当て始めた。
相澤先生は私を見定めるように見続けている。
ちゃんとどうしたいのか言わないと、希望が通ったりはしなさそうな感じか。
そう思って、言葉を続ける。
「実際……トガが言ってることは間違ってないと思うんです……トガには……抑えきれない吸血衝動みたいなのがあるのは……散々見てきた波動から分かってます……両親がそれを毛嫌いして……普通の生き方を強制していたのも……本人が狂ったように言ってましたし……私も……制御できない読心のせいで……色々ありましたし……周囲から向けられる負の感情をやり過ごすために……お姉ちゃん以外には……無関心でいるようにしてたので……」
「普通の強制と、無関心の仮面、か……確かに、似てると言えなくもないのかな」
「はい……なので……似てるのは間違いないです……だけど……トガと私には……決定的な違いがある……これは……相澤先生にも言いましたよね……?」
「ああ。受け入れる家族がいたかどうかだったな」
先生も小さく頷いてくれる。
障子くんと口田くんは初めて聞く話に、目を白黒させている。
まあ、この話はお姉ちゃんと相澤先生にしか言ってないし、知らないのは当然だから仕方ない。
「はい……私にはお姉ちゃんがいました……だから……踏みとどまれました……それで……トガの訴えを聞いて……同情したわけじゃないんですけど……トガが……お姉ちゃんがいなかった場合の……自分の姿なんじゃないかって思ったら……他人事と思えなくて……トガは……私や……お茶子ちゃんに……お友達になろうって……しつこく言い寄ってくるんです……それに……ヴィラン連合に対して居心地の良さを感じていました……それを考えたら……連続失血死事件も……あの行いも……誰かに受け入れてもらいたいからしている……暴走なんじゃないかって思ったら……止めてあげなきゃいけないって……思ったんです……」
「止めるか……出来ると思うのか?トガは、超常解放戦線の一員だ。殺人事件を何度も起こしてる。そんな相手を説得するつもりか?」
「……言葉だけでどうにかするつもりはありません…………だけど……私は……読心とか関係なく……トガの気持ちが……分かるんです……分かってしまうんです……」
先生は、静かに私を見つめ続けていた。
でも、私にだって、何も策が無いわけじゃない。
……トガは、多分、ヴィラン連合の中でも、理解されてなかった。
荼毘はイカレ女なんて呼んでるっぽい思考をしてたし、スピナーはトガの本質を理解してないと思うし、コンプレスは逮捕されてて、死柄木はAFOが混ざった変な状態だ。
トガの思考からは嘘だとは感じなかったから、ヴィラン連合の居心地がよかったのは確かだと思う。
だけど、その居心地の良さは、不干渉と異常性の許容というものから成り立っているものだと思うのだ。
今まで見てきた思考からして、あそこがそこまでお互いを理解し合っているとは思えなかった。
「周囲に向けられる不愉快な思考も……私を排斥しようとした同級生も……あまりにも鬱陶しくて……どうにかしてやろうかと思ったのだって……1回や2回じゃありません……それを……無関心で蓋をして……耐えていただけなんです……だから……トガが……抑圧されたくないって……自由に生きたいっていう気持ちが……私には……分かるんです……読心と……吸血衝動で……ものは違いますけど……周囲に気味悪がられるのも……排斥されて、受け入れてもらえないのも……同じだと思うんです……」
「……それで?」
先生は、私が言ったことを咀嚼しながら続きを促してくる。
トガは、普通に生きたがっていた。
普通に生きて、普通に恋をして。
ただ、その普通が、多くの人の"普通"と違っただけ。
それを理解してもらえなかったから、"普通"に生きることを強制されて、耐えられなくなって、爆発して、最後にはヴィランになってしまって、異常者として弾き出された。
でも、じゃあ超常解放戦線が作る未来に、AFOが作る未来に、彼女の求めるものはあるのだろうか。
吸血衝動を持つ者としては、普通に過ごすことはできるかもしれない。
だけど、その世界で、普通に恋をして、普通に生きるなんていうことが、できるんだろうか。
私が超常解放戦線に入った場合も、同じ問題に直面すると思う。
治安が崩壊して、負の感情で、怨嗟の声で埋め尽くされた世界で、普通に生きることが出来るだろうか。
少なくとも、私は絶対に無理だと思う。
そして、それはトガも、そんなに違わないと思うのだ。
ヴィラン連合の数少ない面々は、友としてなら一緒にいることが出来るかもしれない。
深入りせずに、最低限の距離を保って、仲間意識を持つことが出来るから。
だけど、そんな仲間意識が、いつまでも続くものだろうか。
AFOが支配する世界で、ずっと、仲間なんて意識を持つことが出来るだろうか。
そこでトガが望んだような、普通の、自由な生き方ができるだろうか。
私には、とてもできるとは思えなかった。
だからこそ、止めてあげた方がいいと思った。
トガの、似た者同士として、唯一、心の底から理解してあげられる、理解者として。
「トガは、私が止めます。AFOが支配する世界……そんな世界に、彼女の求めるものがあるとは思えません。だから、彼女の暴走を、私が止めます。彼女と似た者同士で、理解者になれる、私が」
「……はぁ。分かった。俺の方から希望も含めて進言しておく。お前はトガのミスディレクションを無視して位置を把握できるし、拒否されることはないだろう」
「ありがとうございますっ……!」
相澤先生は溜息を吐きながら認めてくれた。
まあ、心配そうにはしてるんだけど。
「礼はいい。波動も、障子たちも……やりたいことがあるのはいいが、命だけは粗末にするなよ。それだけは頭に叩き込んでおけ」
「はい!」
私がすぐに頷くと、障子くんと口田くんも頷いて返事をしていた。
それだけ、先生の目は真剣そのものだった。
白雲さんと重ねて、無謀な事だけはするなって考えているのは、ありありと伝わってきていた。
とりあえず、これで希望も通してもらえるってことになったし、私は仮設要塞の中に戻った。
障子くんたちも、私に続くように戻ってきている。
もう決戦まで時間もあまりないし、私は私でできることをしないと。
特に今は、もう決行日は決まっている上に、いつAFOが予測と違う行動を取ってくるか分からない。
1秒でも、無駄にすることはできなかった。