作戦当日になった。
百ちゃんや上鳴くんといったあらかじめ雄英の中にいないといけない人たちは、早朝から移動を開始して雄英に戻っている。
そんな中、青山くんは緑谷くんを連れて、廃墟群の方に歩いていった。
本当なら不安で埋め尽くされている青山くんに直接声をかけておきたかったけど、やめておいた。
AFOは、やはりサーチを持っているような言動をしていたらしい。
青山くんが緑谷くんを特定の地点まで連れて行ったら、勝手に出てくるようなことを言っていたみたいだから。
だから私は、テレパスで青山くんを励ますだけに留めておいた。
まあ要約すると、『頑張って』みたいな感じのことを、ちょっと色々交えつつ伝えた。
それを聞いた青山くんは、私にお礼の思考を向けながら、気合を入れなおしていた。
緑谷くんと青山くんに、心操くんはついて行っていない。
心操くんはサーチに登録されていないとは思うけど、向こうが誘き出す地点を指定しているのが怪しい所だった。
もしかしたらその地点を監視している可能性もある。
着いたら連絡しろとかの指示もしていないAFO相手に、心操くんを連れて行く意味がなかった。
だから向かったのは2人だけで、サーチに登録されている可能性のある私たちは皆、部屋で待機していた。
全員バラけていたら怪しまれる可能性があると思って、一緒の部屋で待機してる人もいる。
私は透ちゃんと一緒に待機していた。
指定されたらしい地点は1km以上離れているから、どのタイミングで始まるかは分からない。
だから、私たちは皆、その瞬間を待っていた。
透ちゃんも昨日の不安なんてどこにいったんだってくらい真剣な表情で、待ち続けていた。
そして、目の前に黒霧の個性、ワープゲートの黒い渦が、現れた。
「瑠璃ちゃん!」
「ん……!!行こう……!!」
透ちゃんと目を合わせて頷き合う。
透ちゃんと一緒に覚悟を決めて、目の前で渦巻く黒いそれに、勢いよく飛び込んだ。
「ハーッハハハハ!!!フィィクサァアアア!!!」
次の瞬間、凄まじい量のヴィランの悪意を感じ取った。
物間くんがなぜかフィクサーなんていう黒幕的な意味合いの言葉を高笑いしながら叫んでいるけど、今はそんなことどうでもいい。
AFOがヘドロワープでヴィランを呼んでいるのは、見るまでもなく分かった。
同時に、荼毘が突出してきているのも。
普段だったら対応できる人にテレパスなり叫ぶなりして伝えるところだけど、今日は必要なかった。
同時に渦から飛び出していた轟くんが、向けられる炎に向かって即座に氷をぶつけていた。
「させやしねぇよ!馬鹿兄貴!!」
「焦凍ォオ!!」
荼毘は、恨んでいるであろう私なんかには目もくれずに、興奮気味に轟くんとエンデヴァーへの偏執的な執着を見せていた。
AFOはこの状況を理解しきれていなかった。
『ここで乱戦でもするつもりか……!?』なんて考えている。
だけど、理解しきれないならそれでいい。
分断の成功率が上がるだけだ。
そして、インカムからオールマイトの『システム"
それを認識してすぐに、私はトガの波動に集中し始めた。
トガのミスディレクションは厄介極まりない。
ちょっと気を抜くだけでスッと意識の外に消えていく。
そんなトガだから、分断対象であるトガが抜け出すことが無いように、トガ1人に集中して監視に努めた。
『皆今だ!!押し込め!!!』
オールマイトのその声と同時に、物間くんが生成したワープゲートに向かって、檻が一斉に動き出した。
トガは、緑谷くんに意識を向けて『壊して、早く』なんて言っている。
『緑谷くん、トガの意識があなたに向いてる……私も対応するけど……緑谷くん自身も気を付けておいて……』
『うん』
私の警告に、緑谷くんは真剣な表情で檻を睨みながら、思考を向けてくれていた。
そんなことをしている間に、檻は壊されてしまっていた。
だけど、もうヒーローが超常解放戦線の方に詰め寄っている。
多数のヒーローが同時に押し寄せて、一気にワープゲートの方に押し込んでいく。
お姉ちゃんも、死柄木が放り込まれていた檻に向けて、波動を放射し続けている。
奥渡島に配属されているヒーローたちも、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんを含めて、ヴィランをワープゲートに押し込もうとしていた。
それを尻目に、私はトガの監視に努める。
トガを押し込む力は足りている。
だから、私はトガのその緑谷くんに対する執着への警戒に、全神経を集中していた。
そして、やっぱりトガは動き出した。
ワープゲートに押し込まれたはずのトガが、向こう側からワイヤーのような何かを伸ばしてきていた。
明らかに緑谷くんを引きずり込もうとしている。
緑谷くんは、押し込む方に意識を向けていて気が付いてない。
伸びてくるそれを認識した瞬間、波動の噴出で急加速して、ワイヤーのような何かと緑谷くんの間に、身体を滑り込ませた。
「警戒はしといてって言ったはず!!」
「え!?」
波動を纏わせて身体強化をかけた手でワイヤーを掴みながら、緑谷くんに声をかける。
それを聞いた緑谷くんは、ちょっと驚いた表情をこっちに向けてきていた。
それを認識した爆豪くんが、口を開いた。
「あいつは波動に任せろ出久!!テメェはこっちに集中しろや!!」
「ん!!トガは私がどうにかする!!緑谷くんは死柄木を!!」
「っ……!ごめんっ!!」
爆豪くんの発破をかけるような言葉に、私も同意を示して緑谷くんに先に進むように促す。
緑谷くんは、そのまま死柄木を押し込んでいるワープゲートの方に飛び込んでいく。
私も、掴んだワイヤーを持ったまま、トガを押し込んだワープゲートに飛び込んだ。
視界が開けた先は、南国の島の浅瀬だった。
そんな中で、トガがワイヤー……注射器の管を手で弄りながら、鋭い視線を向けながらこっちを見据えてきていた。
「……瑠璃ちゃんを狙ったわけじゃないんですけど」
「……ダメだよ……こっちにも作戦がある……緑谷くんは……持って行かせない……」
私がそういうと、トガは目をスッと細めた。
思考からして、友達とか以前に大好きな緑谷くんと話す機会を奪われたことに対して、多少憤ってる感じか。
だけど、どんなにトガが緑谷くんと話したくても、それを許すわけにはいかない。
あとは……トガが聞きたいことに対する、緑谷くんの答えは分かり切っている。
今それをトガに聞かせるのは、ダメだ。
「まぁ、出久くんには後で聞くからいいや……瑠璃ちゃん、来てくれたってことは、答えを教えてくれるってことでいいんだよね?」
「……そうだね……答えは、NOだよ……私は、あなたと行くことはできない……超常解放戦線に加わるつもりはない……」
「……そっか」
トガの質問に、最低限の答えを返す。
それに対して、トガは寂しそうにつぶやくとミスディレクションを使い始めた。
相変わらず集中しないと波動を見失いそうになってしまう、驚異的な技術だ。
高速で近寄ってくるトガに対して、私も皆のことを、守りたい大切な人たちのことを考えて、波動の量を増やしてトガを迎撃する態勢に入る。
トガが切りつけてくるのに合わせて、身体の軸をずらしていなしながら、トガの方に発勁を当てようと腕を振っていく。
トガはそれを相変わらずの身のこなしで回避した。
「……変わったね、瑠璃ちゃん。表情が全然違う」
「……それは……あなたもでしょ……トガヒミコ……表情が、思考が、感情が……全然違うよ……」
今のトガは、悪意が膨れ上がっていた。
この前までは、確かに悪意は感じたけど、ここまで禍々しいと感じるほどのものではなかった。
トガの中に、激しい憎悪が渦巻いている。
それがトガを、心まで堕ち切ったヴィランに成長させかけていた。
その表情も、この前みたいに純粋に友達が出来たと思って喜んでいた時とは、全然違っていた。
思考からして、お茶子ちゃんとも何かあったみたいだ。
この前の蛇腔だろうか。
ヒーローへの失望すら、トガの思考から感じ取れていた。
私の指摘に、トガとしても思うところがあるようではあった。
それを私にぶつけるために、トガはまたミスディレクションを使って、距離を詰めてきた。
ここまで分かりやすい行動をしてくれるなら、素直に迎撃する必要すらない。
そう思って、私は高く跳躍した。
トガに波動蹴を当てるための軌道予測とトガの行動予測を始めたところで、それに気が付いた。
「避けろぉ!!!」
「ア、バアア!!!」
ギャングオルカの吼えるような警告から少し遅れて、私よりもさらに上空にあがった脳無が、身体から分離したパーツを凄まじい勢いで地面に伸ばしていた。
それを認識した瞬間、波動の噴出で身体の軸をずらして、その攻撃を回避する。
溜めていた波動の噴出を使っちゃって、身体が落下し始めたタイミングで、トガがナイフを投げてきたのが視界に入った。
まずい、回避が間に合わない……!
そう思ったタイミングで、私の腕に長い舌が巻き付いてきた。
そのまま勢いよく梅雨ちゃんの近くまで引き寄せてもらえて、ナイフを避けることはできた。
「大丈夫!?リオル!」
「ごめんっ!ありがとうフロッピーっ!」
私がトガに注意を払いつつ梅雨ちゃんにお礼を言う。
その間に、さっきの脳無の攻撃の余波で津波が発生して、こっちに波が押し寄せてきていた。
それに巻き込まれながら、トガは寂しそうな笑みを浮かべながら、私の方を見てきていた。
「瑠璃ちゃんも、もうすっかりヒーローって感じだね……ねぇ、ヒーロー。あなたは私をどうしたい?」
私に向けられたその言葉に、お茶子ちゃんが『まただ……!』なんて考えている。
これか。お茶子ちゃんに対する、ヒーローに対する諦めの源泉は。
そこまで言って、トガは波に飲み込まれて姿を晦ませた。
私は、トガに伝えたいことを考えながら、トガを見失わないように、読みにくい波動を注視し続けた。