波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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奥渡島

トガを感知することに集中して、波動弾と真空波で牽制を仕掛けていく。

時折私にニア・ハイエンドの攻撃が飛んできて、避けるために意識を逸らした瞬間にスッと意識の外に消えていく。

だけど、感知系の個性では最上位と言っていいほどの感度を持っている私の個性でも捉えきれないのは分かり切っていたから、オールマイトたちは、感知系のヒーローを私以外にも配置してくれていた。

 

「トガを感知し続けろ!意識するだけでいい!それがリオルへの最大のサポートになる!」

 

感知系の個性を持っているヒーローが、トガの位置を思い浮かべながら声を張り上げてくれている。

波動から思考が読めなくなるっていう部分が私に対して絶大的な効果を発揮するせいで勘違いしやすいけど、それはあくまで副産物でしかない。

ミスディレクションの本来の効果は他人の意識を向けさせないことで姿を晦ませることにある。

だけど、これはトガの意図的な無意識だけじゃなくて、視線の動きとか、そういうのも複雑に支配して初めて効果を発揮する。

トガがあまりにも簡単にやっているように見えるせいで、分かりづらくなっているだけだ。

でも、だからこそ、私の意識から逃れることに集中したら、その分他の感知にはかかりやすくなる。

実際、今も周囲の感知系個性にその位置を捉えられている。

まぁ、それでも感知し続けない限り普通に意識の外に逃げられてるみたいだから、トガのミスディレクションの異常な実力の証明になっているんだけど。

 

そんな感じだから、トガの位置は周囲のヒーローの思考も含めて見てしまえば把握し続けるのは難しくない。

たとえ私の意識から外れて、動き続ける石のような感じの波動になっていて私がすぐに見つけることができないとしても、感知系個性のヒーローの思考を意識して読めばトガを再捕捉できるからだ。

そうして把握したトガの位置目掛けて、一気に距離を詰める。

 

「私は……あなたの考え方を否定するつもりはないよ……トガヒミコ……!私は、あなたの気持ちが……他の人よりも、ずっと分かるから……!」

 

「そうだよね!だって、瑠璃ちゃんはお父さんとお母さんとは違う!お茶子ちゃんとも違う!私たちは、似た者同士だから!他人に、生き方を押し付けられた側なんだから!」

 

言葉に合わせて、懐に潜り込んで発勁を放ったはずだったのに、トガはそれを難なくいなしながら私を切りつけてくる。

そんなものをそのまま受けるはずもなく、波動の噴出で急加速を掛けながら軸をずらしてナイフをいなしていく。

そんな様子を眺めながら、トガはこっちを鋭い眼光で睨みながら言葉を続けた。

 

「……それなのに、なんで好きに生きたいと思わないの!?"普通"の人をいっぱい救けた瑠璃ちゃんを罵って、テレビも、ネットも、瑠璃ちゃんの悪評をバラまいて!!元同級生とかいう奴らの主観に満ちた罵倒をぶちまけられて!!なんでそれでも、そんな奴らを守ろうとしてるの!?瑠璃ちゃんに、"普通"であることを強制した奴らなんかを!!」

 

「……私だって、あんな奴らのことなんか救けたいと思えないよ!!だけど、私にはお姉ちゃんが、友達が……大切な人たちがいる!!だから!!」

 

波動が身体から揺らめきながら可視化し始めているのを認識しながら、増える波動を強引に圧縮して高威力の発勁でトガのいる方向を薙ぎ払う。

トガは、その場で姿勢を低くして懐に潜り込んでくることで、いなしてきた。

それなら、蹴り技を当てるだけだ。

 

「あなたもそうでしょ!思考を見てれば分かるよ!大切な人が……仲間だって思える人達がいるんでしょ!?」

 

私の波動の噴出で勢いをつけた膝蹴りをいなしたトガは、そのまま攻撃したりしないで距離を取ってきた。

 

「……そうだね。それで、そうだったら何か変わるの?ヒーローの瑠璃ちゃん」

 

トガが、こっちを見定めるように眺めてきていた。

表情が、明らかに変わっていた。

憎悪の感情が強くなっている。

トゥワイスの事を考えている辺り、トガと一番仲が良かったのが、よりにもよってトゥワイスだったのか。

……だけど、トガがこっちに憎悪を向けてきたって、私がすることは変わらない。

 

「変わらない。何も変わらないよ。私は、あなたを止めるためにここに来た。私と似てるからこそ……気持ちが分かるからこそ、周囲に嫌悪を向けられて、排斥されて、仮面を被って……耐えられなくなったあなたを、止めに来たんだよ」

 

「ふ、うふふ……なんで、似てる境遇なのに……ここまで違うの……」

 

さっきの、「私をどうしたい?」に対する答えを返すと、トガは俯いて悲しそうな笑みを浮かべ始めた。

トガの思考には、『どうして普通になれないのあなたは……!!』とか、『普通に生きてよ……!!』とかいうヒステリックな女性の声から始まって、『矯正していきましょう。"普通"に』とか、『正しく消していきましょう』とかいう事務的な女性の声が続くように響いていく。

私に向けられていた罵倒の思考のような言葉が次々と流れて行って、最後には『違うんだこれ、もう根っこが!人間じゃない子、産んじゃった!』とかいう発狂したような男の声が聞こえたかと思ったところで、トガは、悲しそうな笑みのまま顔を上げて、静かに口を開いた。

 

「もういい。もう分かったよ。悲しいけど、瑠璃ちゃんは、私と交わることは、ないんだね」

 

そんな風に、寂しそうにトガが呟いた瞬間、トガは腰に巻いて背中にくっついている謎の装置から伸びる管を、展開し始めた。

今のが、トガに向けられていた言葉とかだっていうのは、容易に分かった。

あとは、矯正なんていう最悪な思考は、多分、私の元同級生が、なんで私に受けさせないんだ!とか考えていた、カウンセリングだと思う。

保護者が異常だと感じた行動を、世間一般が感じる"普通"の状態に矯正するカウンセリング。

トガはそれを受けることを、強制されたのか。

正直、同情しないわけじゃない。

だけど、だからと言って、トガの行動を許容できるわけじゃない。

 

「ヒーローとヒーローが守る人たちだけが人だもんね……瑠璃ちゃんも、もうその枠に収まったんだね……だから、もう交わることは、ないんだね……!」

 

トガの背から伸びる管と両手のナイフが迫ってくるのを見て、言葉だけで止まらないのを再確認する。

もう、強引に止めた後に、話せばいい。

そう思って私は、さらに自分の波動を膨れ上がらせるように、皆のことを、皆が命の危機にあるこの状況を、強く意識する。

荼毘に襲い掛かった時ほどじゃないけど、それでも、普段なんか目じゃないくらいまで波動が膨れ上がっていく。

その波動を使って即座に波動弾を形成して、投げたりしないで手に保持したまま振り回して、トガから先行して伸びてくる管を薙ぎ払っていく。

 

私の周りを抉り込むように回り始めたトガを牽制し続ける。

そのタイミングで、今まで周囲のヴィランへの対応をしながらトガの隙を伺っていたお茶子ちゃんが、駆け寄ってきた。

 

「待ってトガヒミコ!!」

 

お茶子ちゃんはトガが私に振りかぶっていた腕を掴んで、私の近くから引きはがしてくれた。

そのまま少し離れた位置まで強引に引っ張って行ってくれる。

 

「あなたと会ってから、あなたの事考えてた!!」

 

「私は考えなかったよ、もう!お茶子ちゃんがパパとママと一緒だっていうのは、もう分かったから!!」

 

トガが、激しい憎悪の感情をお茶子ちゃんに向けた。

そのままお茶子ちゃんに向けて、激しい悪意を見せている。

その攻撃は、ミスディレクションすら使っていなかった。

トガは、前後からお茶子ちゃんに攻撃するつもりか。

それを認識してすぐ、波動の圧縮をかけていく。

 

「世界が私を拒むなら、私も世界を拒む。お茶子ちゃん、悲しいね。あなたなら分かると思ったのに、だってお茶子ちゃんは、私と同じ人を―――」

 

トガが話しているのを尻目に、一気にお茶子ちゃんの方に近づいて迫っていた管を叩き落として破壊していく。

それと同時に、梅雨ちゃんもトガ本人を蹴り飛ばしていた。

 

「おくれてごめんなさい」

 

「お茶子ちゃん、無事!?」

 

「大丈夫、ありがと!」

 

梅雨ちゃんが謝りながら着地する。

その裏で私は、トガを見据えて警戒しながら、お茶子ちゃんに傷の確認をする。

それに対して、お茶子ちゃんはすぐに答えてくれた。

波動で見ていた通り、特にケガもしていないみたいだ。

 

「生きにくい……私はこんなに"好きなのに"。もう、いい。瑠璃ちゃんも、お茶子ちゃんも、梅雨ちゃんも……大好きだけど、もういいよ」

 

トガが、地を這うような声で呟いていく。

その裏で、その思考はお腹につけている箱のような収納に向いていた。

……その中にあるのは、血か。

 

「なりたい自分になりたいの。私は、私が当たり前に生きたいだけ……そこに、ヒーローはいらない!だから消えてね、さようなら!」

 

そう言いながらトガは、収納の中の血を意識しながら、『ねぇ?仁くん』なんて考えていた。

仁くん……仁……?

分倍河原仁……!?

それを認識した瞬間、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんを含めた、ここにいるヒーロー全員に、テレパスを飛ばした。

 

『トガがトゥワイス、分倍河原仁の血を持っていますっ!!!これを飲まれたら全てが終わりかねないっ!!!』

 

私のテレパスを受け取った瞬間、周囲の人たちの思考が驚愕に包まれた。

ホークスが殺したトゥワイスの個性、2倍がどういうものだったかは、既にヒーローに共有されていた。

個性の複製をされている可能性が、0ではなかったからだ。

ホークスから、解放軍潜入時にストックの血に何があるかは徹底して洗ったし、戦闘後の痕跡も消したと聞いていた。

だけど、今、現実としてトガはそれを持っている可能性が非常に高い。

ここでそんなものを使われたら、ここにいるヒーローが全滅する可能性がある。

ヴィランはほとんど確保して、残っているのはトガとニア・ハイエンドだけだ。

だけど、もし使われたらそれを全部ひっくり返される可能性が高い上に、もしも黒霧を奪還されたら、全ての戦場が崩壊する。

それだけは、ダメだ!!

 

一気にトガとの距離を詰める。

 

「仁くんのこと、隠せるとは思ってないよ。瑠璃ちゃんがいるなら、全部筒抜けになるのは、分かり切ってるから」

 

「だったら!!諦めてその血を!!」

 

トガに波動弾を投げながら、発勁を当てにいく。

それをいなしながら走るトガは、思考を巡らせていた。

トゥワイスの血液量は、30~40分の変身が限度みたいだ。

嘘を吐いている感じが無いし、考えている思考そのまんまのところから抜き取って解釈してるから、私が勘違いしてるってこともない。

そして、トガは今その血を飲んで、数的優位を覆せても、変身がこの島だけで終わってしまう可能性が高いことも認識していた。

今までの独りよがりな好意の押し付けじゃなくて、大局的な戦術を、考え始めていた。

 

そこまで読んだところで、トガがミスディレクションを使ったのか思考が読めなくなった。

そして、私の背後に回ったトガの波動を追って、身体を反転させたところで、トガが、何かを梅雨ちゃんとお茶子ちゃんの方向に投げていた。

その投げた何かが割れた瞬間、上空にいたニア・ハイエンドから、大量の攻撃が、お茶子ちゃんたちに降り注いだ。

私は、その範囲からお茶子ちゃんと梅雨ちゃんを弾き出すために、波動の噴出で吹き飛んだ。

2人を抱き込んで、なんとか攻撃の範囲外に出たところで、急いでトガの方に向き直る。

 

そこには、口を大きく開けて、血を飲もうとしているトガの姿が、視界に入った。

 

「言ったよね。行動が分かりやすいって。ヒーローの瑠璃ちゃん」

 

阻止するために、再度波動の噴出で距離を詰めるけど、その血は、トガの口の中に入ってしまった。

 

 

 

その数秒後、爆発的に広がる蒼炎が、周囲を包み込んだ。

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