「リオルっ!!」
トガの方に突っ込んでいて蒼炎に囲まれそうになっていたところを、梅雨ちゃんが火傷するのも厭わずに舌を伸ばして、火の中から引っ張り出してくれた。
「大丈夫っ!?」
「ありがとうフロッピーっ!」
梅雨ちゃんにお礼を言いつつ、トガの方に向き直る。
燃え上がる火の中心に、トガ……荼毘に変身したトガがいた。
トゥワイスに変身しなかったのは、私たちを殺せても、切り札がそれで終わってしまって他の戦場には関われなくなってしまうから、温存した感じか。
トガは周囲に蒼炎を振りまいて、ニア・ハイエンドの対応に当たっていたプロヒーローや、感知に集中していたプロヒーローたちを火達磨にしてしまっていた。
幸い周囲が海だったのもあってすぐに鎮火はできているけど、洒落になってない。
それに、現見さんに変身していた時に、普通にトガと同じ動きをしていた。
オリジナルの運動能力を知らないからあくまで予測にはなるけど、変身したからと言って機動力が下がるわけじゃないと思う。
荼毘の火力に、トガの機動力とミスディレクションなんて考えたら洒落になってなかった。
お茶子ちゃんと梅雨ちゃんじゃ相性が悪すぎる。
というよりも、ここに居るヒーロー全員、相性が悪いと言っていい。
ギャングオルカは対抗できる可能性はあるけど、彼をニア・ハイエンドの対応から外すのはまずい。
それなら……
「2人とも……トガは私に任せて……ギャングオルカの方に……!」
「なに言ってっ……!?私も戦うよ!!」
お茶子ちゃんが驚愕したような感じの反応を返してくる。
だけど、近寄らないと攻撃手段がないお茶子ちゃんと、舌や蹴りと言った身体を使った攻撃になってしまう梅雨ちゃんでは、今のトガに対抗できるとは思えなかった。
それに、私なら荼毘との戦闘経験もあるし、トガのミスディレクションも他の人よりは大きな問題にならない。
「……トガの身体能力とミスディレクションを使える荼毘を相手にすると仮定すると……2人だけじゃなくて……ここにいるヒーロー皆、相性が悪すぎる……私は、荼毘との戦闘経験もある……トガに対しても有利に戦える……」
「大丈夫なの?リオルが無茶をしようとしているなら、私たちだって……」
梅雨ちゃんが心配そうな声で自分も戦うと言ってくれる。
だけど、そんなリスクは冒して欲しくなかった。
2人が今のトガと戦うのは、私が許容できない。
私が一緒に戦っても、守り切れる自信が無い。
大切な友達に、死ぬようなリスクは冒して欲しくなかった。
だから、私1人で戦う。
プロも、相性が悪いなら無理してこっちにきても死ぬだけの可能性がある。
それなら、私1人で戦った方がマシだ。
私が、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんを守る。
絶対に死なせない。
その意思を固めるとともに、波動がどんどん膨れ上がって、全身から可視化している量も増えていく。
「大丈夫……私が2人を守るから……波動も、この前ほどじゃないけど増えてるから「いつまでおしゃべりしてるの?」
私が後ろの2人に話しかけていると、トガがこっちに向けて劣化ジェットバーンみたいな技を放ってきた。
トガの動きは注視し続けていたから、そんな攻撃に後れを取るはずもない。
上半身くらいの大きさの波動弾を作り出して、向かってくる蒼炎に投げつける。
「行ってっ!!私は大丈夫だから任せてっ!!早くっ!!」
炎の余波を受けながら、波動弾の向こうから炎を噴き出しつつ駆けてくるトガを見失わないように注意を払う。
蒼炎の影響を少しでも軽減するために、纏っている波動の濃度を上げて身体強化をかけていく。
そして、波動弾をいなして炎の中からナイフを振りかぶってきた荼毘の姿のトガの懐に潜り込んで、腹部に向けて発勁を放っていく。
「っ……ごめんっ……!」
「他のヒーローに状況を伝えて協力を仰ぐわ!辛いだろうけど、耐えてねっ!!」
感知系個性のヒーローの感知は、さっきの蒼炎で完全に崩されてしまった。
立て直すまで少し時間がかかるとは思う。
そんな状況なのもあって、2人はミスディレクションを使って近づいてきていたトガを認識できていなかったことに気が付いて、その特異性と蒼炎のコンボの脅威を認識して、ギャングオルカの方に向かってくれた。
その動きを感知しながらトガのナイフを避けるために上空に跳び上がる。
「恋愛的な意味で好きな相手しか……個性は使えないって聞いてたんだけど……?」
「その情報、古いよ。瑠璃ちゃん」
ホークスの思考の感知から把握していた内容との齟齬に思わず質問してしまうと、トガは冷めた感じで返答してきた。
そこで、トガの思考は相変わらず読みづらいけど、返答してきたことで最低限は読めた。
私の個性が使えなくて、荼毘と色々試したのか。
条件は強い友愛か何かみたいだけど、それでも脅威でしかない。
トガの脅威度が跳ね上がっている。
そんなことを考えている間にも、トガは炎を練り上げている。
だけど、その攻撃は既に荼毘が私にしてきた攻撃だ。
巨大な波動弾を練り上げて、保持したまま盾のようにして炎の方にかざしてしまう。
そこまでやって、すぐに気が付いた。
トガの蒼炎は、荼毘よりも規模が小さい。
というよりも、自傷するほどの炎を使ってない。
それなら、トガの技術と合わさってもやりようがある。
波動弾をかざしたまま波動の噴出を組み合わせて、トガの方に急加速をかけて落下していく。
そのまま波動蹴を放つけど、トガはそれをギリギリでいなして周囲に炎を振りまきながらナイフを振りかぶってきた。
それを見て、私もトガの懐に飛び込みつつ腕を振りかぶる。
「発勁っ!!!」
まずはナイフをどうにかしようと思って、ナイフを持っている腕に発勁を放つ。
それに対して、トガは身を屈めて回避して、そのまま切りつけつつ反対の手で炎を投げつけてくる。
だけど、それ自体は予想できていた。
思考も居場所も、本当に読みづらいけど、動くものがあることが微かに認識できるのは変わってない。
トガから離れた炎は普通に見えるから、むしろさっきよりも若干見つけやすくなってるくらいだ。
だから、そのまま足から波動を噴出して、軸をずらしながら横に吹き飛ぶことでナイフと炎を避けてしまう。
状況は、膠着状態だった。
攻撃が当てられない。
何度も何度も接近して離脱してを繰り返すけど、私は感知にほぼ全振りして、トガは相変わらずの意味の分からない身体能力で、お互いに回避し続けてしまう。
荼毘に変身して身体の大きさが変わってるから、多少やりづらくなったりするのかと思ったけど、全然そんなことはなかった。
多分、荼毘の身体に関しては相当慣らしてある。
そのせいで、お互いに入っているダメージは、軽い火傷だけだ。
いい加減埒が明かないと判断して、トゥワイスのことだけは最大限警戒してトガの動向に注意を払いつつ、一気に飛び退いて距離を取る。
そう思ったのはトガも同じだったみたいで、同じように距離を取ってきていた。
そのタイミングで、戦場に大きな声が響き渡った。
「ショートっ!!荼毘、確保ぉっ!!」
誰かは知らないけど、多分ギャングオルカのサイドキックの声だと思う。
その人は、他の戦場での戦果を報告してくれていた。
轟くんが、無事にやり切ったみたいだった。
私がその報告に安堵して、若干の笑みを浮かべたところで、トガの様子がおかしいことに気が付いた。
「……燈矢くんが、やられた?」
感情が抜け落ちたような表情を、荼毘の姿をしたトガが浮かべていた。
あまりの驚愕に呆然としているのか、ミスディレクションを使おうともしていなかった。
その感情は、最初は驚愕に包まれていたけど、すぐに怒りと憎悪に移り変わっていった。
「……嘘です……燈矢くんが、負けるはずがないです……!!」
「……あの人、嘘は言ってない……事実だよ……荼毘は負けた……轟くんに、負けたんだよ……」
少なくとも、連絡を受けた人は嘘を言ってなかった。
思わずそのことを言ってしまうと、トガが凄い形相で睨みつけてきた。
「……うるさいっ……!燈矢くんが負けるはずないっ……!私は、私たちはこんな世界を終わらせてっ、新しい世界で、普通に笑うんだからっ!!」
その言葉と共に、トガの周囲の蒼炎が、さらに大きく広がり始めていた。
……さっきからずっとそうだったけど、好意で変身したはずなのに、ここまで憎悪と悪意に満ちているのか。
多分、トゥワイスを殺された時からおかしくなって、堕ちてしまったんだろう。
「変わったね……本当に……前に会った時は……執着強めの好意以外は……新しい世界への期待と……好きに生きたいっていう希望に満ちた未来への願望と……そんなプラスの思考と感情ばっかりで……そこまで強い悪意を感じなかったのに……」
「だったら、何だって言うんですかっ!!」
トガが吠えるように叫んで、こっちに炎が迫ってくる。
だけど、私だって、トガに思うところがあるし、言いたいことだって、いっぱいある。
私にだって、ヴィラン連合に、超常解放戦線に、トガに、恨みがあるんだから。
迫ってくる炎を、真空波で正面から相殺して、言葉を続ける。
「……トゥワイスは……恋愛的な意味で好き……荼毘は……友達として好き……どっちも好きみたいだけど……もう、変わっちゃってる……憎悪が混ざって……純粋な好意じゃなくなってるよ……」
「……っ……!!うるさいんだよっ!!」
トガが、目を血走らせて怒鳴ってくる。
それと同時に周囲の蒼炎に揺らぎが生じた。
だけど、少ししてすぐにその揺らぎは取り繕われて、私とトガを囲むように、凄まじい勢いで蒼炎が広がっていった。
「あなたに私の何が分かるのっ!?理解者がいたっ!!恵まれていたあなたにっ!!」
「そうだね……私は……あなたよりは恵まれてた……全部受け入れてくれるお姉ちゃんがいた……お姉ちゃんがいたから、お父さんとお母さんも受け入れてくれた……だから……周囲に化け物扱いされても……耐えることが出来た……」
私がトガとの違いを口に出していくと、トガは、顔だけ半ば変身が解けた状態になって、ヴィラン以外の何物でもない凄まじい形相で睨みつけてきた。
「だけど……それとこれとは話が別だよっ!!大切な人を殺される苦しみが……悲しみが分かったんでしょっ!?それなのに、なんでまだたくさんの人を殺そうとするのっ!?その人にも大切な人がいることが、なんで分からないのっ!?」
「そんなのっ、知ったことじゃないっ!!私はあいつらとは構造が違うっ!!人間じゃないって言ったのは、あいつらの方なんだからっ!!あいつらを……私の大切な人を殺したやつを殺してっ!!何が悪いっ!!」
「そう……そういうこと、言うんだ……」
トガは、嘘を吐いていなかった。
心の底まで、ヴィランになってしまっていた。
他人の痛みが全く分からないのは仕方ない。
だけど、それでも、自分が感じたその痛みを、他人も感じるっていうのが、なんで分からないんだ。
「……私も……あなたたちに思うところがある……!あなたたちは……私の大切な人を……先生を……殺したんだからっ……!!あなたたちがっ!!」
超常解放戦線に対しての憎悪が増すのに合わせて、波動が暴風のように吹き荒れ始める。
「これ以上悲劇を繰り返すって言うならっ!!大切な人を殺すっていうならっ!!強引にでもっ!!止めてやるっ!!!」
爆発的に増える波動で強引に急接近して、多量の波動を圧縮した発勁を当てようとする。
「波動ぉおおっ!!!」
トガも同様に、蒼炎を吹き出しながら凄まじい勢いで突進してきて、炎を纏うナイフを振りかざした。
「は?」
そして、あと数mでぶつかると思ったところで、目の前に黒いワープゲートが開いていた。