波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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増殖

私とトガの間に出現したワープゲートは、お互いの視界を完全に遮っていた。

これだけで、凄まじくまずい状況なのは理解できた。

即座に発勁を下に放って大きく跳び上がって、トガの方に急降下していく。

 

だけど、当然そんな後手の行動が間に合うはずがなかった。

トガは、走っていた勢いのままにワープゲートをくぐりぬけようとしていた。

そして、その手は、腰に巻いている、血を入れているケースに、伸びていた。

 

「シガ……ラキタチヲ救ケル……トガヒミコ……アナタハドウシタイ?」

 

ワープゲート……黒霧は、脳無としての状態で現れていた。

思考にノイズが走っている。

それは分かるけど、脳無としての思考しか、感じ取ることが出来なかった。

そんな黒霧の声に対して、トガは血を口に流し込みながら、答え始めていた。

 

「……ホークスはじめ……全てのヒーローをせん滅。私を拡散して、黒霧さん」

 

ワープゲートをくぐるトガの姿は、既にトゥワイスに変わっていた。

その最悪の状況を察知して、私の波動はさらに膨れ上がり始めていた。

 

即座に地面に着地して、小さくなり始めているワープゲートに向かって間髪入れずに地面を蹴る。

遠くでニア・ハイエンドと戦っていたはずだった梅雨ちゃんとお茶子ちゃんが、無重力になって凄まじい勢いで私の方に飛んできているのを感じる。

だけど、お茶子ちゃんたちが間に合うか分からない。

これで私も待つって言うのはあり得ない。

そう思って、波動の噴出で一気にワープゲートに飛び込んだ。

 

 

 

「どうやら、恵まれない少女たちの争いは、より恵まれない少女に軍配が上がったようだね」

 

「―――そいつを殺せっ!!!今すぐっ!!!」

 

ゲートを出てすぐに、100m以上離れた位置にいるホークスの声が、戦場に響き渡っているのを感じた。

そのすぐ近くに、明らかに全盛期だと思われるAFOがいた。

作戦はうまくいかなかったか、そもそもやることが出来なかったのか、どっちかはわからない。

その周囲に、満身創痍のエンデヴァーと、ズタボロのホークスを筆頭に、ヒーローは皆、ボロボロになっていた。

だけど、作戦の中核の物間くんが、ここにはいない。

少なくとも、ワープしてきて失敗したような状況じゃない。

だけど、そんなボロボロのヒーローの中に、響香ちゃんも入っていた。

響香ちゃんの耳が、片方、無くなってしまっていた。

 

「響香……ちゃん……?」

 

AFOとの戦闘でやられたのは、明らかだった。

あんなの、リカバリーガールの治療じゃ治らない。

リカバリーガールは、欠損を治せない。

欠損を治せる可能性があるのは2人いるけど、信用できるのはエリちゃんだけだ。

治せる。治せはするけど、それでも、そんな重傷を友達が負わされているのを見て、自分の中の怒りが、抑えきれなかった。

 

「……もう、これ以上っ……!!大切な人をっ!!傷つけないでよっ!!!」

 

吹き荒れる波動は、ギガントマキアにビームを放った時のように膨れ上がり続けていく。

 

そして、凄まじい勢いで増殖し続けているトガを視界に入れる。

本体がどれかは分かる。

だけど、複製され続けるトゥワイスと荼毘を見て、すぐに本体の方に行けないのを理解した。

なんでトゥワイスと荼毘しか複製していないのかは分からないけど、それでも、複製され続ける憎悪に満ちたトゥワイスと荼毘の姿をしたトガは、脅威でしかなかった。

山のように折り重なって、蒼炎が周囲を包み込んでいく。

蒼炎で焼かれて消えていく複製もいるけど、そんなの微々たるものでしかない。

トゥワイスの複製が荼毘とトゥワイスを生み出し続けている現状で、こんなのが、響香ちゃんたちの方に行ってしまったら、今度こそ、死んでしまう可能性が高い。

そんなの、許容できるはずがなかった。

 

折り重なる複製たちの方に向かって急降下しながら、大量の波動で波動弾を練り上げる。

そのまま両手に巨大な波動弾を作り出して、周囲を一気に薙ぎ払う。

そして、そのままテレパスを悪意を感じない人たちに無差別にかけた。

 

『増殖するトゥワイスと荼毘に近づかないでくださいっ!!!安全を保障できないっ!!!囲んで溢れる分の処理に集中してくださいっ!!!』

 

ここ以外にもトガの複製たちがいる可能性があるけど、それでも、ここにいるこいつらは、私が対応するべきだ。

私がポカをした。

トガに僅かでも隙を与えてしまうようなタイミングと場所でワープゲートが出現したとか、そんなのは言い訳でしかない。

私のせいでこんな状況に陥った。

エンデヴァーもホークスも常闇くんも、今、必死でAFOを食い止めている。

彼らは作戦通りに動いていてくれた。

オールマイトたちが考えていた最善策が出来なくなったのは、私のせいだ。

私が食い止めないと……!!

私が、皆を、守らないとっ!!!

 

「私がっ!!!皆を守るっ!!!このっ!!!波動の力でっ!!!」

 

飛び上がって、両手から一気に波動を放出して、ビームを前方に放つ。

それを、増殖し続けるトゥワイスと荼毘を薙ぎ払うように照射し続ける。

それだけで、威力は十分だった。

複製の複製は、耐久力が落ちる。

トガ本体から離れていくにつれて、複製されていくのがトゥワイスだけになって、荼毘の複製も炎を使わなくなっていっているから、ここまで分かりやすいものはなかった。

嵐のように噴き出し続ける波動の光線が当たった瞬間に、トゥワイスも、荼毘も崩壊していく。

 

友達を傷つけられた怒りと、皆の命の危機で、強い怒りと憤りを感じているはずなのに、不思議なくらい頭が冷えていた。

荼毘と戦った時のような、怒りで沸騰しそうになって頭が冷えている感じとは、たいぶ違う感じがした。

そんな中、本体であるトガが、複製を凄まじい勢いで消し続ける私を鬱陶しがって、ミスディレクションで紛れながら近づいてくるのも分かる。

周囲を薙ぎ払い続けて増殖を少しでも抑え続けている現状で、トガに近づかれたら、まともな戦闘が出来ない。

この波動の嵐を当てようとしたところで、光線の挙動程分かりやすいものはない。

トガの身体能力とミスディレクションがあれば、容易に回避することが出来ると思う。

だけど、この波動の嵐を止めるわけにもいかない。

これを止めれば、その途端にトゥワイスの増殖速度が洒落にならないくらい上がるのは目に見えてる。

……トガが近づいてきた瞬間に、一瞬だけ光線を切って対処するしかないか。

 

 

 

そう思ったところで、周囲に凄まじい暴風が吹き荒れて、増殖し続けるトゥワイスを、空中に巻き上げた。

 

「この波動……」

 

指のような何かに乗って飛びながら感知範囲内に入ってきたその人たちは、見覚えのある波動をしていた。

 

「雄英からの避難民の受け入れは完了。専守防衛という当初の任に注力しておりましたが、最早趨向は累卵の危機との旨の報告を受け―――士傑高校ヒーロー科一同っ!!助太刀致します!!」

 

「風は吹くんじゃなくて!!吹かせるモンっすよ!!」

 

この風は、夜嵐くんの個性か。

周囲を暴風のように巻き上げ続けてトガトゥワイスの増殖を防ぎ続けてくれるそれは、今の私には追い風でしかなかった。

 

『複製の削りは任せますっ!!!私は本体にっ!!!』

 

「うおっ!?これなんの声っすか!?頭に響く感じっ!?」

 

増援と囲みをしてくれていた残存ヒーローに、テレパスで私は一度削りから離脱することを伝える。

夜嵐くんがすっとぼけた感じの反応を返してきているけど、彼はトガとAFO、両方に攻撃を加えてくれていた。

それに、削りをしてくれている増援は夜嵐くんだけじゃない。

士傑高校の面々に、ピクシーボブさんを筆頭とした広範囲攻撃を得意とするヒーローが、多数来てくれていた。

複製の削りを任せられる増援であることを確信して、トガが走ってくる方に向けて光線を照射して、一気に複製を削り取る。

 

そして、一気にトガとの距離を詰める。

通ったそばからすぐに複製が増殖していって、薙ぎ払ったところを埋め尽くしていく。

その中から時折荼毘が作り出されて、周囲に蒼炎を放ってくる。

それを掻い潜りながら、トガに向かって溢れ出し続ける波動を圧縮して、手に巨大な波動弾を生成しながら、一気に飛び掛かる。

 

「トガっ!!!」

 

「邪魔を、するなぁあああああああっ!!!」

 

近づいたところで波動弾を投げると、トガは複製たちを盾にして、上空に跳ね上がって、ナイフを振りかざしながら私の方に飛び降りてくる。

それに合わせて複製たちも攻め寄せながらナイフと蒼炎で攻撃をしようとしてきている。

それを感知して、即座に四肢に波動を圧縮していく。

トガ本体がいる方向に発勁を放ってその方向の複製たちを排除して、一気に跳び上がる。

そのままトガの懐に潜り込んで、勢いに任せて上空に押し出していく。

 

「いつまでこんなことを続けるつもりっ!?」

 

「うるさいって言ってるでしょっ!!あなたが私の、何を知ってるの!!?理解者がいたくせにっ!!私の何が分かるって言うのっ!!!」

 

トガに向かって声をかけると、トガは、怒り、悲しみ、嘆き、憎悪……そんな感情を振りまきながら、さっきと同じように言い返してきた。

確かに、私は読心で得た情報しか知らない。

だから、情報は歯抜けだし、トガに何があったのかを正確に理解できているかと聞かれたら、理解はしきれていないと思う。

 

「理解はしきれてないと思うっ……!!だけどっ!!気持ちは分かるよっ!!読めちゃうだけなのに、何も悪いことしてないのに、それを怖がられたっ!!私にとっては普通のことだったのに、それで化け物扱いされたっ!!嘘を吐かれる不快感を、なんで皆耐えられるんだって、嫌悪感が拭えなかったっ!!だから仮面を被ったんだよっ!!!あなただってそうでしょっ!!?」

 

「っ……うるっさいっ!!!」

 

トガは、そう叫びながら私の背中にナイフを突き立てようとしていた。

上空に無理矢理押し出しているから、トガの攻撃手段は限られる。

思考が読みづらくても、行動を予測するのは簡単だった。

トガが振りかざしてくるナイフを、発勁を当てて吹き飛ばす。

冷静さを失っているのか、トガがそれを避けることはなかった。

 

 

 

トガを強引に説得しようとし始めたところで、地上の方で、またワープゲートが形成されているのを感じた。

 

『お父さん……!!!』

 

変身でも複製でもない、全身に重度の火傷を負った状態のオリジナルの荼毘が、AFOに肉薄し続けていたエンデヴァーを呼びながら、笑顔でワープゲートから這い出てきていた。

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