波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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取り引き

トゥワイスの姿をしていたヒミコちゃんが、私の姿に変身した。

鏡があるわけでもないのに自分が目の前にいることに違和感は覚えないでもないけど、今はそんなことはどうでもよかった。

ヒミコちゃんが呆然としたような感じで、私と顔を合わせてきている。

顔を見合わせたまま固まっていると、ヒミコちゃんの目に少しずつ涙が滲んできていた。

 

「どう?嘘じゃないの、分かった?」

 

「……瑠璃ちゃんっ!!」

 

私の姿をしたヒミコちゃんは、すごい勢いで抱き着いてきた。

急なその衝撃に空中でバランスを崩しそうになってしまうけど、なんとか体勢を立て直す。

その思考は驚愕と歓喜に包まれている。

この感じからして、初めて友達になって欲しいって、本心から言われたんだろう。

まぁ、ヴィラン連合の面々は年も離れていたし、仲間って意識はあっても友達って意識があったかは怪しい物があると思うし、ヒミコちゃんが仮面を被っていたころの友達はカウントしてないだろうから、仕方ない部分もあるか。

 

「個性、使えたんだね。良かった。使える前提の提案だったから」

 

「私、ずっと瑠璃ちゃんのことは友達だって思ってましたし。応えてくれなかったのは瑠璃ちゃんの方です」

 

ヒミコちゃんが目じりに涙を溜めながら、拗ねたように口を尖らせる。

私の顔が口を尖らせてる感じだから違和感は凄まじいけど、すごく自然体で話してくれていた。

私も普通に話すのが疲れてきたし、自然体に戻すか。

 

「一緒に来ないかって……誘ってたのが悪いと思う……」

 

「最初からつれない態度でした」

 

「林間合宿襲撃してきたのに……普通に対応とかできると思ってる……?」

 

あんな会い方をしておいて、どう受け入れろというのか。

なんだったら次の時も仮免試験に入れ替わりなんていう手段で潜り込んでたし、その次は死穢八斎會だ。

こんな会い方ばっかりで、話すら戦いながらで、どう友達になれというのか。

難易度高すぎる……というか、そんなことが出来たらサイコパスだと思うんだけど。

 

「……仕方ないじゃないですか。仮面を被らずにお友達なんて、作ったことなかったんだから」

 

「ん……気持ちは分かる……私も……読心を隠した状態じゃないと……友達を作ろうとしたことなかったよ……」

 

ヒミコちゃんの言葉に、やっぱり共通点が多くて笑ってしまう。

ヒミコちゃんも、ちょっとだけ笑顔が浮かんでいた。

だけど、確認しないといけないこともある。

それによっては、対応を変えなくちゃいけないし……

 

「ね、ヒミコちゃん……まだ戦うつもり、ある……?戦うつもりがあるなら……気絶させないといけなくなっちゃうんだけど……」

 

「……仁くんのことを考えると、まだ戦いたい気持ちはあるよ。だけど……」

 

ヒミコちゃんは、心の底から悩んでいた。

戦えば、また私と殺し合うことになる。

ヒミコちゃんの感覚的にはそれもありっぽいけど、理性が、初めてできた友達を殺すの?って感じで、悩んでいた。

だけど、できることなら……

 

「ヒミコちゃん……自首しない……?」

 

「……やです」

 

「ヒミコちゃんと私自身の為に言ってるんだよ……?ここで自首しないと……超常解放戦線に戻って殺し合うか……どうにかして逃げて……逃亡生活に戻ることになる……お友達とは……好きな時に……沢山お喋りしたくない……?」

 

「やです。自首なんかしたら、瑠璃ちゃんに会えなくなるじゃないですか」

 

ヒミコちゃんが、ツーンとした感じで顔を横に向ける。

だけど、考えが無いわけじゃないんだけどな。

ヒミコちゃんにも読心である程度は伝わってるだろうし。

私がヒミコちゃんに酷いことをしたくてこんなことを言ってるわけじゃないことも分かってると思うんだけど……

 

「だとしても、やです。私は普通に生きたいんです」

 

「まぁ、そうだよね……でも……何もなしってわけにもいかない……だから……ヒミコちゃん……もしも……タルタロスみたいなところに捕まるんじゃなくて……私がある程度の頻度で会いにいける場所で……隔離されるみたいな感じだったら……自首してくれる……?」

 

「……私、気分で監視を撒けちゃうし、ガチガチに拘束でもされてないと逃げられちゃうよ。絶対認められない。お友達に会えないんじゃ意味がないよ」

 

「その答えってことは……肯定と受け取るよ……もし認められたら……これ以上戦わないって誓ってね……」

 

ヒミコちゃんの答えを聞くのもそこそこに、インカムに手をかける。

そのまま司令部の方に通信をかけた。

 

「塚内さん……聞いてましたよね……?」

 

『……ああ。確かに聞いていた。だが、正気の沙汰じゃない。未成年とは言っても、連続失血死事件の犯人で、超常解放戦線の幹部だぞ。そんなことを認められるわけがない』

 

塚内さんは、当然のように全否定してきた。

まあ、ヒミコちゃんは超常解放戦線の幹部なんだから、そういう対応になるだろうとは思っていた。

それに、過去に殺された人間もいる。

普通に考えたら認められることじゃない。

 

「私は無罪にしろなんて言ってません……この前の脱獄騒動で……タルタロス含めて、全ての監獄は崩壊……実力のあるヴィランを閉じ込めることが出来る施設が存在しませんよね……あるとしたら……移動式牢(メイデン)くらい……マスキュラーとかの監視も……手を焼いてるみたいですし……」

 

『……それがどうした』

 

「ヒミコちゃんのミスディレクションがあって……どうやって拘束しておくつもりですか……?監視が必要ですよね……」

 

『おい、まさか……』

 

ここまで言ったら、塚内さんも想像がついたみたいだった。

 

「私が監視します。青山くんと同じように、私の範囲内に常に居続けてもらえば、居場所も、変身も、思考も、全部読んで、私が監視できます。青山くんがつけていた装置に、私のコスチュームと同じ、私の波動を溜め込んだ水晶をつけておけば、すぐに位置の把握も出来ます。だから……」

 

『だから、認めろと?』

 

「はい。認めてください。認めてくれれば、ヒミコちゃんは戦わないことを約束してくれました。彼女はまだ、入れ物に残っているトゥワイスの血を1滴程度持ってますし、荼毘の血も持ってます。これ以上戦うのは、ヒーロー側の消耗につながる」

 

塚内さんが荒々しく頭を掻いているであろう音が聞こえてくる。

ヒミコちゃんの危険度と、司法取引としては成り立たないあまりにも寛大過ぎる措置に、頭を悩ませているのは明らかだった。

だけど、またヒミコちゃんと戦い始めるのは悪手だ。

 

『こっちは内心を読めてないんだぞ。トガがそれを約束したと、本当に保証できるのか』

 

塚内さんは、静かにそう聞き返してきた。

これは当然の確認だ。

この確証が持てないと、承諾なんて話には絶対に行きつかない。

 

「……ヒミコちゃん……私の感知範囲の半径1km周囲内とかで……監禁状態にはなるだろうけど……犯罪をしないようにすれば普通に生活していいって言われたら……納得できる……?」

 

「そう言われても、血は飲みたくなっちゃうよ。絶対我慢できない。私にとって、好きな人になるのが普通なんだから」

 

「ん……分かってる……血を飲みたくなったら……私の血を飲んでいいから……あとは……飽きた時の為に輸血パックでも準備して会いに行こうか……?」

 

「輸血パックはあんまり美味しくないんだけど……でも、瑠璃ちゃんの血を飲ませてくれるなら、いいよ。その条件で納得する」

 

「ヒミコちゃんの言葉に……嘘はないですよ……塚内さん……」

 

ヒミコちゃんのその言葉に、嘘はなかった。

彼女の本質は、別にヴィランに堕ち切ってるわけじゃない。

トゥワイスのことがあったから、おかしくなったりはしていたけど……

それでも、彼女の感性が、彼女の個性が、世間一般の法律に触れて、ヴィランとして扱われてしまっただけ。

彼女は、彼女にとって普通にしていただけで、悪意なんてなかったのだ。

殺人の罪が無くなるとは言わないし、思ってもいない。

絶対に許されないことなのは間違いない。

だけど、それを抜きにして考えると、ヒミコちゃんは普通の女の子でしかない。

だから、約束してくれたなら、きっと大丈夫。

 

『……はぁ……分かった、俺から上に掛け合ってみよう。トゥワイスとして戦場を荒らす力を残しておきながら自首したことを説明し、理解が得られるように動く。だが、それ以上の条件が付く可能性が高いぞ。拘置所に幽閉して、波動さんが面会できる程度の条件まで落ちる可能性もある。それは頭に入れておけ』

 

「はい……ありがとうございます……ヒミコちゃんも、それで大丈夫……?」

 

「……分かりました」

 

ヒミコちゃんは、納得してくれていた。

犯した罪から考えると、すごく軽い措置にはなってしまう。

だけど、もし要望通りの内容が通ったとしても、今後一生監視され続ける生活になるし、少しでも怪しい行動をしたら私が即逮捕することになる。

そして、もし軽犯罪であっても罪を犯したら、今度こそ投獄される。

今の日本の状況だと、投獄できる環境もないから死刑、なんて可能性もゼロじゃない。

それに、塚内さんが言っていた通り、どこかに幽閉されて私が面会できるなんていう条件になる可能性も、結構高いとは思ってる。

ヒミコちゃんは、私の読心をして、その可能性も分かった上で了承してくれていた。

 

塚内さんとしては、苦渋の決断だったんだと思う。

だけど、今ここで下手な手を打ったら、またヒミコちゃんが暴れかねない部分がある。

それを考えると、今の戦況からして無視できないリスクだと判断したんだろう。

遺族からしたら納得できる対応じゃないんだろうけど、それでも、これが今できる最善だと思った。

 

「じゃあ……降りよっか……」

 

「……うん」

 

ヒミコちゃんが返事をしてくれるのに合わせて、ゆっくりと降下し始める。

ヒミコちゃんは、その降下中に変身が解けた。

ヒミコちゃんの意思っていうよりも、効果時間切れで戻った感じっぽい。

あんまり私の血を飲まないでくれたのか。

地上の方で、複製の山が消えたことに喜んでいる思考をさっきから沢山感じられる。

私も、無事に複製をどうにかできたことに安堵していた。

あのまま数十分もトゥワイスが暴れ続けていたら、戦線は完全に崩壊していた。

その可能性を防げただけでも、取引の価値はあったと思った。

 

地上に着くと同時に、お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、響香ちゃんが駆け寄ってきた。

ヒミコちゃんが居心地悪そうに私の後ろに隠れようとしてくる。

だけど、ヒミコちゃんは私と10cmくらい身長差があるから、全然隠れられてない。

頭、普通に見えてるし。

そんな様子を微笑ましく思いながら、ヒミコちゃんが普通に立って私の側にいることにびっくりしている3人に手を振って、考える。

ヒミコちゃんを止めることはできたけど、戦いはまだ終わってない。

そのために、この後しないといけないことを考え続けていた。

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