波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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職場体験(後)

4日目。

今日もパトロールだ。

やっていること自体は昨日となんら変わらない。

ミルコさんの動きを見たり、かけられる一般人からの声援に応えたり。

そうして過ごしながら、あの時の感覚を意識して波動の圧縮を試し続けていた。

 

足の方に波動を集める。ここまではいつも通り。

だけどやっぱりあの時のような量を集めることが出来ない。

あの時キャパオーバーにならなかったのは、波動の量が増えていたからだと思う。

それが今は元に戻っている。

若干体育祭前よりは増えている気がしないでもないけど、微々たる差でしかない。

圧縮をあの時のままの感覚でやろうとしても上手くいかないのは、これが理由だと思われる。

 

だから、範囲をさらに絞る。

足の裏、その一点にいつも足に集中させる量を押し込めるだけ押し込むイメージだ。

おそらく、これであの時よりも規模は小さいけど似たような状況に出来ていると思う。

ここまでは何とかなる。昨日もここまでは出来た。

 

ここからが問題だ。

うまい具合にこれを弾けさせることが出来ないのだ。

 

「ヴィランだあああ!?」

 

「きゃああああ!!」

 

そう思っていたら、ミルコさんがまた跳躍した。

この先のお店で集団強盗事件が起こっているみたいだ。

波動から感じる悪意からして、3人のヴィランによる犯行みたいだ。

ミルコさんはあっという間に小さくなっていった。

私も走ってそのお店まで向かう。

私がお店に着いた時には、ミルコさんは空中で『踵月輪(ルナリング)』という蹴り技を繰り出して2人のヴィランを鎮圧したところだった。

それを見て気が付く。

今、ミルコさんはウサギとしての身体能力を利用して技を放っていた。

今までジャンプにだけ集中してミルコさんの動きを見ていたけど、空中で器用に蹴りを強化するなんて使い方もあるのか。

 

そこまで考えて、ふと思った。

今まで私はあの時の感覚のように波動を弾けさせようとしていたけど、必ずしも弾けさせる必要ないんじゃないだろうか。

今のミルコさんのように、必要な方向に、必要な力を向けられればいいのだ。

つまり、圧縮した波動を、意図的に一部から放出できれば、同じ効果が得られるのではないだろうかということだ。

 

私は放出は苦手だけど、できないわけじゃない。

幼少期に少量の波動の放出をして気絶してしまってから、やろうと思わなくなっていただけだ。

だから、波動の放出の仕方は分かる。

そのやり方を応用して、放出するための穴を、圧縮した波動があるところに開けるイメージで行けば……

 

ヴィランの一人が逃げている。

ミルコさんが2人を鎮圧している隙を突いたようだ。

当然、ミルコさんは既にそのことに気が付いているし、そっちに向かおうとしている。

 

きっと、今がこの技を試してみるチャンスだと思う。

ミルコさんはキャパオーバーを気にしなくてもいいから、自分の跳躍に付いてこいと言った。

ミルコさんが跳躍するのは、ヴィランを見つけた時。

つまりヴィランが居る時でも、キャパオーバーを気にしなくていいからついてこいということだ。

今、私が跳躍に成功してあのヴィランの前に出ることが出来れば、ヴィランは足を止めざるを得ない。

私もコスチュームを着ているのだから、一見して学生だなんて思わないと思う。

そうすれば、ミルコさんがヴィランを捕えやすくなる。

今が、試すときだ―――

 

 

 

足に波動を集中させる。

さらに足の一部に波動を詰め込む。

踏み切りの瞬間に、波動を集めていたところに、小さいころにやったような、体内の波動を放出する穴を開けるイメージで―――

 

そう考えた瞬間、足に圧縮していた波動が、一気に噴き出した。

踏み切りに合わせて、身体が上空に向けて跳ね上がる。

ヴィランは余裕で飛び越えた。

問題は着地だ。

この勢いで私が普通に着地できるとは思えない。

急いで足に波動を集中する。

 

波動を集中させたことで、よろめきながらではあったけどなんとか着地に成功した。

私の全身は何もしなくても脱力してしまいそうな程になっていて、明らかにキャパオーバーだ。

だけど、無理をしてでもヴィランの方に向き直る。

 

「てめぇ、ヒーローか?まあいい、こんなチビ女のヒーローなんかが来たところで「月墜蹴(ルナフォール)!!」

 

ヴィランが私に襲い掛かろうとしたその時、上空からミルコさんが凄まじい勢いで降ってきた。

ヴィランの頭にミルコさん渾身の踵落としが炸裂して、彼は敢え無く気絶した。

 

それと同時に、遠巻きに見ていた一般人から歓声が上がった。

 

「ミルコー---!!」

 

「すげええええ!!」

 

「ありがとおお!!」

 

私はその歓声を聞いた途端、全身が脱力してしまう。

なんとかなって良かった。

 

そんな私の方に、ミルコさんがそのまま私の方に歩いてきていた。

 

「できたじゃねぇか」

 

「……はい……でも……もう限界で……」

 

「確かに動けなくなるのはいただけねぇが、初めてで意識保ってりゃ上出来だ」

 

そう言いながら、ミルコさんは腕を引っ張って私を立ち上がらせて、そのままひょいっと背負われてしまった。

さらにあろうことかミルコさんは、未だに歓声を上げている人たちの方にそのまま歩き出した。

 

「ミルコもすごいが嬢ちゃんもすごかったな!」

 

「ママ―!しっぽー!」「こらっダメでしょ」

 

「あ、もしかして雄英の子!?」

 

背中をバンバン叩かれたり、小さい子供に尻尾を掴まれたり、私が動けないのをいいことに好き放題される。

揉みくちゃにされてしまったけど、不思議と嫌な感じはしなかった。

 

 

 

「今日はもう休んでていい。動けるようになっても休んで明日に備えとけ」

 

ミルコさんは私をホテルまで運ぶと、そんなことを言いながらまたパトロールに繰り出していった。

私はミルコさんに置かれた自分の部屋のベッドで、脱力したまま動けなくなっていた。

動けないのに意識はある。すごく手持無沙汰だ。

 

ふと思い出してスマホを見てみる。

特に通知はない。

職場体験に戻れていれば出れないかもしれないけど、それはそれでいい。

無事とはいえ怪我がないかとかも心配だし、轟くんに電話をかけてみることにした。

数回のコールで轟くんは電話に出てくれた。

 

『波動か……』

 

「うん……ちょっと心配で……電話かけちゃった……ヒーロー殺しと……会ったんだよね……?怪我とか……大丈夫だった……?」

 

『ああ。俺も緑谷も飯田も、入院することにはなったが命に別状はない』

 

「そっか……ならよかった……」

 

入院することになったってことは、相応の怪我をしているということなんだろう。

心配ではあるけど、命に別状がないなら良かった。

 

『なぁ、ちょっと聞きてぇんだが……波動は……俺との試合のせいで、手がダメになったりとか……してねぇよな……?』

 

手がダメに?なんでそんなことを聞くのかがさっぱり分からない。

 

「別に……なんともないけど……なんで……?」

 

『いや、その……呪いが……』

 

「のろい……?」

 

何故呪いなんだろうか。本当に意味が分からない。

 

『いや……俺がハンドクラッシャー的存在になってる気がしてな……』

 

「はんどくらっしゃー……?」

 

本当に意味が分からない。どういうことなんだ。

 

『わりぃ……なんでもねぇ……』

 

「そっか……なら……いいんだけど……」

 

『そういえば、波動はこんな時間に電話してて大丈夫なのか?』

 

「その……キャパオーバーに……なっちゃって……休んでろって……」

 

『そうか……――――』

 

その後も少しの間話して、電話を切った。

後ろの方で緑谷くんと飯田くんが会話する声も聞こえたから、割と元気みたいで安心した。

 

 

 

夕食の時間になった。

ミルコさんはいつも通りの時間に帰ってきて、動けるようになった私と一緒に食事を取っていた。

 

「今日の動きは良かった!この調子で行け!」

 

上機嫌で人参に噛り付きながらミルコさんが褒めてくれる。

だけど、私の課題は山積みだ。

 

「……でも……1回でキャパオーバーに……なっちゃいました……」

 

「そこは昼も言った通りいただけねぇな」

 

「はい……なので……キャパオーバーにならないように……調節を……頑張ろうと思います……」

 

今後の課題は、アレを使ってもキャパオーバーにならないようにすること。

込める波動の量を少なくして、小規模でも同じことが出来るようにすればキャパオーバーにはならなくなると思う。

代わりに繊細な波動の操作が必要になるから、練習は必要だと思うけど。

 

「調節が出来るようになれば攻撃も視野に入るからな。その方針でいけ」

 

「攻撃……?」

 

「お前の波動は別に足専用じゃねぇんだから、使えるのは跳ねるためだけじゃねぇだろ」

 

目から鱗が落ちる思いだった。

確かにその通りだ。

波動を集める場所を変えればいいのか。

例えば、掌底に波動を集めて叩きつける瞬間に噴出できれば、それはなかなかの攻撃になるんじゃないだろうか。

他にも、踵やつま先に集めて、蹴りや踵落としの瞬間に波動を噴出させれば……

どんどんイメージが湧いてくる。

これは、是が非でも調節の技術を習得しなければ。

 

 

 

5日目

午前中に波動を噴出しての跳躍をしてみたけど、調節に失敗してキャパオーバーになってしまった。

そのまま休憩できるようなベンチで休まされて、動けるようになってからミルコさんに再合流した。

午後は1回目はキャパオーバーにならなかったけど、全然跳ねることが出来なかった。

込める波動が少なすぎたようだ。

2回目はその失敗を鑑みて波動を増やしてみたら、今度はキャパオーバーになった。

なんだこれは。調節が難しすぎる。

午後にキャパオーバーになった時点でホテルに運ばれて、この日はそれでおしまいになった。

 

 

 

6日目

午前

跳躍にいい感じの波動の量が分かった。

そこそこ跳ねるけど、キャパオーバーにならない。そんな量が。

さらに量を少なくしても、圧縮を頑張ればちゃんと跳躍できることも分かった。

ただ圧縮を頑張るとそれに集中しないといけなくなっちゃって、あまり現実的じゃない。

 

午後

跳躍は何回かなら出来るようになったから、攻撃に手を出してみようと思う。

パンチはあんまりうまくできる気がしない。

というよりも、パンチはどこに波動を集めればいい感じに当たるかが分からないのだ。

だから、掌底に集めて試してみた。

波動を集めるということ自体は出来たし、噴出も出来た。

だけど夕方、パトロールが終わる直前にミルコさんに完成度を見てもらったら、タイミングが全然だめだと言われてしまった。

どうやら、私が喧嘩慣れしていないせいで当たるタイミングできちんと噴出出来ていないらしい。

 

夕食の時にもミルコさんに「まずそのへっぴり腰をどうにかしろ」とまで言われてしまった。

やはり体術か……

 

 

 

7日目

 

「じゃあ、感知も利用していいからやってみろ。無理だと思ったら言え。私が捕まえる」

 

ミルコさんにひったくり犯の確保を任された。

最終日だから、テストみたいな感じなんだろうか。

任されたからには全力でやる。

攻撃はまだできないけど、移動は大体感覚を掴んだ。

 

波動でひったくり犯の位置は常に確認できている。

だから、一度逃がして安心させることにした。

被害者の女性にも、私が常に位置を把握していることを伝えて待ってもらう。

 

200mくらい離れたところで、犯人は路地裏に入った。

路地裏に入ってからは、犯人は歩いている。

私は大通りの方から、油断しきった犯人を追いかけた。

犯人はもう『逃げ切った』と考えている程度には安心していた。

 

大通りの方を走って犯人を追い抜く。

この後犯人が通る十字路に面する道で、足に波動を集めて待機しておく。

犯人は小心者だ。思考を読めば分かる。

滑走の個性をうまいこと利用してひったくりをしたみたいだけど、内心が小物すぎる。

多分、実力差を見せつければあっさり捕まえられると思う。

 

そして十字路に犯人が入る直前で、私は圧縮していた波動を噴出して犯人の目の前まで吹き飛んだ。

 

「ひっ!?な、なんだてめぇ!?」

 

「ヒーロー見習い……リオル……ひったくり犯を……捕まえに来た……」

 

「ひ、ひいいいいいい!?」

 

目の前にすごい勢いで飛んで出てきたせいで、犯人は怖気づいたらしい。

ひったくりをしてまで取った荷物を投げ捨てて、個性を利用して滑りながら一目散に逃げだした。

 

そんな様子を見て、私はもう一度足に波動を圧縮して噴出する。

犯人に向かって吹き飛ぶことで体当たりをして押し倒した。

そのまま犯人に馬乗りになって、ブラフで顔の前に手を掲げる。

 

「私……手からもさっきの……出せるんだけど……まだ抵抗する……?」

 

「あっ……ぁぁぁぁぁぁ……」

 

犯人は意味もない声を出しながら脱力した。どうやら諦めたらしい。

 

「やったか」

 

「ミルコさん……これで確保……で、いいですよね……?」

 

「上出来だ」

 

被害者の女性がミルコさんと一緒にのんびり歩いてきた。

警察も一緒に来ている。

 

犯人はそのまま警察に引き渡した。

私は犯人が投げ捨てた荷物を拾って、被害者に渡す。

 

「はい……荷物……お返しします……投げてたから……中の物……壊れてないといいですけど……」

 

「ありがとうございます……!中身のことはいいんです!助かりました!」

 

「どういたしまして……」

 

感謝の言葉に、笑顔で答える。

思考も、中身のことは本当に気にしていないようで安心した。

 

「あの、サインもらってもいいですか?」

 

そう言って女性は、荷物の中から定期入れのようなものを出して、ペンと一緒に差し出してきた。

 

「ん……お安い御用……です……」

 

「あ、ありがとうございます!大事にしますね!」

 

まだ拙いサインを書いてあげると、女性は大喜びで手を握ってきた。

なんだかちょっと恥ずかしい。

でも自分が小さいとはいえ事件を解決できたという実感が、今更湧いてきた。

 

 

 

結局この日はこれ以上の事件もなく、お昼過ぎにパトロールを切り上げた。

これで、職場体験は終わりだということだろう。

たった1週間。

短い期間ではあったけど、すごく有意義な時間だった。

 

「この1週間の成長は目覚ましかった!良かったぞ、波動!」

 

「ミルコさん……1週間……ありがとうございました……」

 

ミルコさんの言葉に、頭を下げてお礼を言う。

そんな私に、ミルコさんは真剣な表情で続けた。

 

「ああ。これからも励めよ。お前は私に迫るものがある。そう確信した」

 

「はい……頑張ります……あの……できれば、インターンの時も……お世話になりたいなって……」

 

「それはその時の私の気分次第だ!」

 

ミルコさんはニヤリとした笑みを浮かべて笑い飛ばした。

この人は、本当に気持ちいいくらいさっぱりした人だ。

 

「波動は覇気があれば言うことないんだがな……ほらよ」

 

そのまま終わるのかと思ったけど、ミルコさんは紙を1枚差し出してきた。

確認すると、そこには電話番号が書いてあった。

職場体験の時に事前に聞いていたミルコさんの番号じゃない。

これは……

 

「私のプライベートの番号だ。気が乗れば相談に乗ってやる」

 

その言葉に、思わず笑顔になってしまう。

プライベートの番号を教えてもらえて、相談にまで乗ってくれるらしい。

そこまで認めてくれたということだろう。

 

「……はいっ!ありがとうございますっ!」

 

「そうだ!普段からそのくらいの覇気を持って話せ!」

 

ミルコさんは獰猛な笑みを浮かべながら冗談めかしてそう言った。

 

その後、ミルコさんはパトロールに戻っていった。

私は帰りの新幹線の中で、スマホに登録したミルコさんの番号を笑みを浮かべながら眺めていた。




基本的に毎日パトロールしてました
一応職場体験中の流れを整理すると

1日目:指名理由を聞く
2日目:ミルコの動きを見ても何もつかめず。ヒントを貰う
3日目:波動の圧縮という可能性に気が付く。飯田のピンチに轟を頼る
4日目:体育祭の再現に成功。轟に電話
5日目:キャパオーバーにならないように調整の練習
6日目:跳躍に関しては物にする。攻撃はまず「へっぴり腰をどうにかしろ」と言われるレベル
7日目:ひったくり犯を自分の力で捕まえる。ミルコのプライベートの電話番号を貰って瑠璃ニヤニヤ

って感じです。
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