「瑠璃ちゃん!大丈夫だった!?首から血出とるけど……」
お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、響香ちゃんが、ヒミコちゃんの方をチラチラ見ながら私に話しかけてきた。
「大丈夫……これは……説得のために血を飲んでもらった傷だから……」
「血を……?」
「トガ……ヒミコちゃんに、自分に変身させたの?」
首から流れた血を拭っていると、梅雨ちゃんが確認してきた。
ヒミコちゃんは相変わらず居心地が悪そうにしている。
まぁ、ヒミコちゃん的に響香ちゃんは琴線に引っかからなかったのか執着してる様子はなかったし、仕方なかった。
「お友達になってもらって……インカムで今後の扱いを塚内さんと相談して……説得した……私が嘘を吐いてないのを確認してもらうために……私に変身してもらったの……そのタイミングで……トゥワイスの複製が消えたはず……」
「って、ことは……自首、してくれたってこと?」
「ん……ね、ヒミコちゃん……」
「……そうですね」
ヒミコちゃんがそっぽを向いたまま答えてくれる。
複雑な感情を抱いているみたいではあるけど、不機嫌なわけではない。
その反応に、ちょっと苦笑してしまう。
そんなヒミコちゃんに、梅雨ちゃんはしっかりと目を見て口を開き始めた。
「ねぇ、ヒミコちゃん。私、あなたの言葉を聞いて、考えていたのよ。私は、ルールを守ることが、ヒーローだと思ってた。外れることが、ヴィランだと思ってた。でもね、そんなルールより、何より、向き合うべきだって思ったのよ。お茶子ちゃんも、向き合おうとしてたでしょ?」
「うん。私も、結構考え変わったよ。遅くなったけど、それでも、ちゃんと話をしたい」
「お茶子ちゃん……梅雨ちゃん……」
向き合って話をしたいっていう梅雨ちゃんとお茶子ちゃんに、ヒミコちゃんも小さく呟くように答えていた。
そんなヒミコちゃんのつぶやきに、梅雨ちゃんが名前で呼ぶのをやめてって言うことは、なかった。
「とりあえず……時間もないし……また今度……ゆっくりお話しよ……ヒミコちゃん……流石にこの場は……拘束しないといけないんだけど……大丈夫……?」
「自首するっていったんだから、拒否したりしないよ」
「ん……ありがと……」
ヒミコちゃんも、拒否することなく了承してくれた。
シンリンカムイに対応を任せればいいかな。
ホークスはズタボロだし、ホークスを抜いたここにいるヒーローの中で、一番ランクが高いはずだ。
そう思って、4人で移動し始めた。
「響香ちゃん……耳、大丈夫……?その……」
「ん?ああ。魔王と戦ってこれくらいの傷で済んでるんだから、運がよかったくらいだよ」
「……そっか……後で……ちゃんと治療しようね……」
「うん。ありがと」
響香ちゃんの左耳が無くなっていることを心配するけど、なんともないような感じで返された。
一応エリちゃんの巻き戻しがあれば欠損も治せるとは言っても、誰にでも使うわけにもいかない手段だし、心配になってしまう。
でも、響香ちゃんがいいって言ってるんだから、今はこれくらいにしておくべきか。
響香ちゃんの傷もそうだけど、周囲はAFOの齎した甚大な被害で、大惨事になっていた。
AFO自身はもう飛んでいってしまっている。
常闇くんとMt.レディやギガントマキアが倒れているのはとりあえずすぐに分かった。
ギガントマキアは最初は心操くんが洗脳で操って動かしていたみたいだけど、走ってるあたりからはギガントマキア本人の意思で動いていたらしい。
ヒミコちゃんと話している最中に、置いていかれた悲しみ、嘆き、怒りとかを感じ取れたから、それが原因で反逆した感じかな。
まあその反逆も、片腕片目がない状態だと力を発揮しきれなかったみたいで、一蹴されたみたいだけど。
他にも、色々なヒーローを配置していたのは知ってる。
だけど、AFOの前に、どのヒーローも容易くやられてしまった。
エンデヴァーやホークスには全盛期の姿に戻る可能性は伝えていたらしいけど、それでも、防ぎきれなかったみたいだった。
AFO自身の隙があまりなかったのと、巻き戻しの速度が思った以上に速かったらしいのもあって、作戦もこの場ですることはできていなかった。
まあ、あの作戦は来てから切り替えまで数秒はかかる。
今雄英の方がどういう状況なのか分からないけど、出来なかったなら仕方ない。
少なくとも、私がヒミコちゃんを止めるまで、トゥワイスがばら撒かれたと思うから、私のせいでもある。
でも、だからこそ、この後のオールマイトのことを思うと、動かないといけなかった。
少し移動して、埋もれてしまった人とか怪我をした人を救助しているシンリンカムイのところにたどり着いた。
私たちが近づいたところで、シンリンカムイはヒミコちゃんを見据えながら近づいてきた。
「……塚内さんから話は聞いている。自首したということで間違いないんだな」
「……まぁ、そうです」
ヒミコちゃんがぶっきらぼうに答えるのに、シンリンカムイは静かに頷いた。
シンリンカムイなら、任せられるかな。
愚直な感じだし、今もヒミコちゃんに対して含みがあるような思考をしているわけでもない。
私も、時間がない。
ナイトアイに聞いていた予知の断片からして、私がここにいつまでもいるのはダメだ。
そこでどうなるかとか、そこに行った結果私がどうなるかとか、考えるのは怖いけど、でも、行かない方がまずいと思っていた。
だから、ヒミコちゃんの対応を、皆とシンリンカムイに任せて、行くべきだと思っていた。
「……すいません……シンリンカムイ……私……行かないとダメなので……ヒミコちゃんのこと……任せてもいいですか……?」
「行く?どこにだ。ここから他の戦地までは距離もある。エンデヴァーに関しては、塚内さんから万が一に備えて誰も近づかないようにと指示が出ている。君の救助の腕は聞いている。できれば、手伝って欲しかったんだが……」
「……他の戦場じゃなくて、これから戦場になる場所です……私も……今から場所を確認します……」
そこまで言って、シンリンカムイに断ってから、インカムに手をかける。
そして、司令部に通信をつなぐと同時に、多分、受けてくれた通信手の近くで怒鳴っているであろう塚内さんの声が、聞こえてきた。
『馬鹿ヤロウっ!!"無個性"なんだぞっ!!!』
インカムから音漏れするくらいの大声だった。
それくらい、オールマイトを心配しているんだとは思う。
だけど、だからこそ、オールマイトとナイトアイは、塚内さんにこの情報を伝えなかった。
塚内さんは、ああ見えてオールマイトに対して強い想いを抱いている。
言えば止めるであろうことは容易に予想できたし、不確定の情報で不安にさせるべきじゃないっていう判断だった。
その音漏れを聞いて、困惑した様子のお茶子ちゃんが口を開いた。
「えっ?なに、どういうことっ!?」
「……オールマイトが……AFOを食い止めるために……戦場に立った……」
「なっ!?で、でも、オールマイトって緑谷に個性渡しちゃったから無個性なんでしょっ!?」
皆ギョッとしたような表情を浮かべていた。
だけど、とりあえず通信で聞いてしまわないとダメだ。
早く向こうに行かないと、作戦が瓦解する。
「ナイトアイ、いますよね……通信手の方……代わってもらえますか……」
『わ、分かりました。お待ちください』
通信手の人も、困惑したような、慌てたような感じで変わってくれた。
『オールマイトの現在地の確認だな』
「はい……教えてください……今から向かいます……物間くんは……」
『先程トゥワイスが雄英にも現れてな。今は気絶してしまっている。イレイザーヘッドは死柄木を見ているから動けん。物間が起き次第、奴とともに向かってもらう。現状向かう余裕があるのは、多古場と群訝、トロイアにいる者だけだ。余力のある者が急ぎ向かってくれているが、距離がありすぎる。時間がないと言わざるを得ない。波動にも、自分で向かってもらうしかない。場所は―――……』
そう言って、ナイトアイはオールマイトがいる地点を教えてくれた。
オールマイトが今いる場所は、愛知県。
雄英と群訝山を直線で結んだその線上で待機していて、今まさに、AFOと遭遇しているらしい。
AFOは、憎しみに囚われていた。
今まで散々邪魔をした憎きオールマイトを見逃すはずがない。
本当に時間がない。
距離もある。気絶してるなら物間くんのワープもできない。
自分で行くとすると、海を迂回して行かざるを得なくなる。
これじゃあ、私が着く頃には、オールマイトは、死体すらも消されている可能性が……
「時間がない……ごめん……行くね……」
「……知ってたのね、瑠璃ちゃん。何か、作戦があったの?」
「ん……ナイトアイの予知で……私も……姿が見えたって言われてた……行かないといけない……オールマイトの予知の結果に……抗うためにも……」
ここまで言って、他の人たちもどういう予知が見えていたか分かったらしい。
ナイトアイは、私の姿が見えたとしか言わなかった。
他の人のことには触れなかったし、思考も、同じだった。
つまり、オールマイトが死んだ時、その場には、私しか間に合っていなかったということだ。
今の状況で間に合うかは分からないけど……最悪の結果を回避するために、やるしかない。
「待って!!」
「お茶子ちゃん……?」
「私も行く!!私が行けば、一緒に浮いて向かえるでしょ!?瑠璃ちゃんなら、推進力出せるからっ!!直線距離で向かえるよね!?」
お茶子ちゃんが必死な感じで言ってくれるけど、でも、できればそれはやめた方がいいと思う。
お茶子ちゃんが向こうに行った場合、AFOと戦闘になって取り返しのつかない状態になる可能性がある。
私も人のことは言えないけど、私自身は、蛇腔の時の状態になることが出来れば戦える可能性があるし、できなくても、遠距離攻撃もある。
個性の強奪って意味でも、お茶子ちゃんは相性が悪い。
「ダメ……お茶子ちゃん……AFOと相性が悪い……私なら遠距離攻撃主体で戦えるから……」
「でも、間に合うか分からないんでしょ!?それなら……」
「それでもダメっ……!!危ないよっ……!!」
「それは瑠璃ちゃんだって同じでしょっ!?それに、それなら私がある程度のところまで送り届けるのも選択肢に入るよね!?」
お茶子ちゃんの為を思って言っていることだけど、納得してくれそうにない。
そのままにらみ合って平行線の主張をし続けることになってしまう。
ダメだ、本当に時間がない。
もう振り切ってでも……
そう思って、皆に背を向けようとしたところで、ヒミコちゃんがポツリと呟くように提案してきた。
「……それなら、私が行こうか?」
「ヒミコちゃん?」
「私、お茶子ちゃんの個性使えるよ?AFOさんのこと、あんまり好きじゃないし。むこうについても、私なら隠れてられるし。いいよ、協力しても」
ヒミコちゃんが、なんてことないかのように提案してくれていた。
確かに、ヒミコちゃんならお茶子ちゃんの個性を使えるだろうし、AFO相手に戦うつもりが無くても、隠れていられるだけの実力がある。
そして何より、嘘を吐いていなかったし、悪意も感じなかった。
「何を言っている!?自首したとはいっても超常解放戦線の幹部だぞ!?信用できるわけがっ……!!」
「シンリンカムイ……大丈夫です……悪意も感じないし……嘘もついてません……信頼できます…………ヒミコちゃん……お願いできる……?」
「うん、友達のお願いだもんね。頑張るよ。ただ、私もうお茶子ちゃんの血のストック持ってないから、また吸わせてもらわないといけないけど……」
「……っ……それくらいなら、いくらでもっ!ヒミコちゃんっ!!瑠璃ちゃんのこと、お願いねっ!!」
ヒミコちゃんは、お願いを快諾してくれた。
お茶子ちゃんも相性が悪いって部分を真剣に考えて、自分が行きたいところを耐えて、ヒミコちゃんに託すことにしたみたいだった。
血を飲まれることへの嫌悪とか、そんなことは一切考えてなかった。
その後は、時間もないからササッと進めた。
ヒミコちゃんがお茶子ちゃんから採血して恍惚とした表情で血を飲んでいるのを眺めつつ、塚内さんとナイトアイにヒミコちゃんのことを伝えた。
2人とも困惑していたけど、私が保障してなんとか信じてもらえた。
そして、1時間くらいは変身できると豪語してくれる量を飲んでお茶子ちゃんに変身したヒミコちゃんと一緒に、無重力になって飛び立った。
ヒミコちゃんの手を引きながら、波動の噴出で一気に加速をかけていく。
オールマイトを救けるために、AFOの下へ、一秒でも早く向かう。
そのことに集中してさらに加速をかけながら、決戦前日にナイトアイとした話を思い出していた。