波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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無力

「波動っ!!?」

 

腹部の激痛を感じながら、勢いのままに地面に倒れ込んでしまう。

物間くんが叫んでいるけど、それに答えることすらできなかった。

いつもと違う、味わったこともないような静けさに、支配されていた。

自分の周囲の見えていたもの……見たくなくても見え続けてしまっていたものが、何も見えない。

思考も、何も見えない。何も、聞こえなかった。

自分の波動すらも、見えなくなっていた。

その事実に愕然として、動くことができなかった。

 

そんな様子を嘲笑うかのように、AFOが口を開いた。

 

「ああ、そうだろうなぁ。オールマイトが死に、クラストは重傷だ。君のさっきまでの様子からして、周囲に近づいてくるヒーローもいないんだろう?ワープゲートで呼び寄せるという千載一遇のチャンスも不意にした。そんな状況で抹消とワープゲートが消えれば勝ち目などない。そうするしかないよなぁ」

 

AFOが、ゆっくりと近づいてくる気配を感じる。

いつもなら、どこにいるのかも、何をしようとしているのかも、手に取るように分かるのに、何も分からない。

さっきの銃弾が個性消失弾だったのは、言うまでもなかった。

打たれた脇腹を抑えながら、なんとか起き上がってAFOを見据える。

 

「だが、瞬きもできず個性を切り替えることもできない木偶の坊と、無個性の小娘の2人で、どうやって僕に勝つつもりかな?」

 

ニヤニヤと笑いながら、AFOが問いかけてくる。

その余裕の笑みが、AFO自身の心情を物語っていた。

 

「コピーの制限時間は5分だったかな?どのみち、抹消を使われている間は巻き戻しも止まるんだ。その間、ここまで裏をかいてくれた、お礼をしないといけないね」

 

「……っ……波動っ……!!僕の後ろにっ!!」

 

「……私は大丈夫だからっ……物間くんは、AFOを見続けてっ……!」

 

AFOの言葉を聞いて即座に移動した物間くんが、私を庇うようにしながら前に出る。

だけど、ダメだ。

今この場で物間くんに攻撃を加えられるのは、そのまま敗北に直結する。

抹消が切れたら、AFOは私と物間くんなんて気にしなくなるだろう。

オールマイトの蘇生が間に合ったとしても、さっき同じような条件でAFOに負けてしまっている。

一応治崎もいるけど、どこまで戦ってくれるか分からないし、オールマイトと治崎が力を合わせたところで、全盛期のAFOに勝てるとは思えない。

そもそも、治崎は分解と修復が出来るだけであって、それを使って自分の身体を大きくしたり、いろいろ飛ばしたりできるけど、いくら自己再生ができても、さっきのAFOの動きからして敵うとは思えなかった。

だから、治療にどれくらい時間がかかるかは分からないけど、ここを通すわけにはいかない。

治崎だけでもこっちに来たら、何か変わる可能性はあるけど、それは賭けでしかないと思う。

多分、それを認識した瞬間、AFOは今みたいなゆったりした舐め腐った動きじゃなくなる。

そうなった時に、物間くんが相澤先生のように抹消をAFOに使い続けられると思えない。

インカムは、さっきの衝撃でどこかにいってしまったみたいで、司令部に連絡を取ることもできない。

 

とにかく、物間くんが瞬きするような状況になるのは、絶対にダメだ。

殴られるのはもちろんそうだし、視線がAFOから外れる可能性があるから、物間くん自身が攻撃を加えるのもダメだ。

 

「物間くんは……抹消で見続けながら……司令部に報告して……何か、手を……考えて欲しいって……私が……それまで、食い止めるから……」

 

「その傷で何言ってるんだ……!?僕のせいでこうなったんだぞっ!?それをっ……!!」

 

「他に手がないから、お願いね……物間くん……」

 

もう八方塞がりみたいな状況だけど、AFOは放置できない。

他に戦える人もいない。

私が、やらないとダメだ。

そう思って、腹部の痛みに耐えながら、物間くんの前に出た。

 

 

 

「オールフォーワンっ!!」

 

AFOに、正面から殴りかかる。

今の状況で回り込んだりとかの器用なことをできる余裕もなかったし、したところで裏をかけるとは思えなかった。

 

「おいおい、個性すらない非力な小娘のそんな攻撃で、僕をどうにか出来ると思っているのか?」

 

殴りかかった拳を、AFOは難なく手で受け止めてくる。

それどころか、私の手をそのまま掴んで逃げられなくして、さっき銃で撃たれた傷の箇所を、思いっきり殴られた。

 

「っ……!?」

 

凄まじい激痛で息が詰まると同時に、悶えて動けなくなってしまう。

そんな隙を見逃してもらえるはずもなく、私の手を離したAFOは、動けない私に向かって、さらに拳を振り抜いてきた。

 

傷口には当たらなかったけど、お腹を直撃したその拳で、私の身体は宙を舞った。

受け身を取ることすらできずに、そのまま地面を転がされてしまう。

それと同時に、こみ上げるような感覚を覚えて、止まると同時にせき込んでしまった。

 

「ゲホッ……ゴホッ……」

 

口の中に血の味が広がっている。

口の中を切ったとか、そういうわけじゃないと思う。

肺がやられたとも思えないから、喀血とかじゃなくて、吐血だと思う。

多分、さっきの銃撃と、今殴られたので、内臓をやられた。

だけど、止まるわけにはいかない。

せめて、オールマイトと治崎がここに来るまでの時間を稼がないと……

口元の血を手で拭いながら、激痛に耐えつつまた立ち上がる。

 

「随分頑張るじゃないか。さっきの希望を持つ感じからして、オールマイトの遺体に何かしているんだろう?その仕掛けはあと数分でここに助けを呼べるほどの物なのかな?」

 

「そっちは、随分、おしゃべりだね……」

 

「抹消がある間は何を出来るわけでもないからね。精々、いたぶって憂さ晴らしするくらいしかできることがない。とはいえ、僕にとってはボーナスタイムのようなものさ。たった5分とはいっても、楽しまなければ損だろう?」

 

「……本当に、悪辣な男……」

 

ニヤニヤと笑いながらにじり寄ってくるAFOに、吐き捨てるように言葉を返す。

そんなタイミングで、司令部への通信が終わったらしい物間くんが、大声を張り上げた。

 

「女をいたぶるような悪趣味なことしてないでっ!僕の方に来いよっ!!僕を狙えば抹消もどうにかできるんだぞっ!!」

 

「別にどっちを狙おうが僕の自由だろう?瞬きが怖くて攻撃も、庇うこともできない役立たずを狙う必要性を感じないね。それとも、抹消をやめて増援でも呼んでみるかい?僕はそれでもいいよ。さっきのように誰かが君を庇ってくれるといいね」

 

本当に、悪辣な男だ。

読心はできなくても、物間くんの心を踏みにじるような行為をして愉悦を楽しんでいるのが、容易に想像できた。

だけど、ここで私が逃げたら、AFOは拍子抜けして物間くんの方に行くだけなのは目に見えている。

物間くんが通信が終わってるのに自分の方に誘導しようとしていたから、多分すぐ近くに増援に来ることができるような人はいなかったってことだろうし、治崎もすぐに来れるわけじゃないってことなんだろう。

そんな状況なせいもあって、私を見据えて歩いてくるAFOに、正面から向かって行くくらいしか、手が無かった。

 

 

 

「イレイザーヘッドの巻き戻しと、抹消とワープゲートの併用による奇襲。その作戦は悪くないが、詰めが甘すぎたね。巻き戻しの使い方は、僕の方が上手だったようだ。だからこうして痛い目を見る」

 

AFOに、首を掴まれて持ち上げられた。

激痛に苛まれながら立ち向かうことなんて、できなかった。

何度も殴り飛ばされて、蹴り飛ばされて、起き上がれなくなってしまったところで、捕まってしまっていた。

 

「……もう、すぐ……おーる、まいとが……」

 

「希望はそれか。蘇生の手段となると……オーバーホールかな?だが、それにしては随分とてこずっているようじゃないか。裏切られたんじゃないかい?」

 

「それ、は……ない……」

 

AFOが煽ってくるけど、それはないと信じるしかない。

死を防ぐことが出来なかった時点で、治崎を信じるしかなくなったんだから。

私が絞り出すように反論すると、AFOはニヤニヤと楽しそうに嘲笑っていた。

 

「まあいい。君がこの先を見ることはないんだからね。精々オールマイトを絶望させる材料になってくれよ」

 

「波動っ!!!」

 

AFOが首を締めながら、腕を振りかぶってくる。

それを見た物間くんが、目を閉じないように必死で開き続けながら、こっちに走ってきてくれていた。

物間くん、多分自分を責めちゃうよなぁなんて思いながら、せめてもの抵抗にAFOの腕をつかむ。

当然そんなことでどうにかなるわけもなくて、AFOは私の頭目掛けて拳を振り始めていた。

思わず目を閉じてしまって、その衝撃を覚悟してしまう。

 

 

 

それなのに、いつまでたっても衝撃は襲ってこなかった。

不思議に思って目を開けると、そこには、鋭い石片をAFOの背中に突き刺すヒミコちゃんがいた。

 

「私のお友達に、何してくれてるんですか」

 

「裏切ったのは分かっていたが……本当にいいのかい?君は好きに生きたかったんだろう?」

 

AFOは、私を投げ捨てながらヒミコちゃんを振り払って、ヒミコちゃんの方を向いた。

投げられるままに転がされてしまう私に、物間くんが駆け寄ってくる。

そんな中、私の方を見ながら、ヒミコちゃんが言葉を続けた。

 

「私、燈矢くんや弔くんは結構好きですけど、あなたのこと、好きじゃないんですよ。あなたに協力した結果支配されるなら、お友達が……瑠璃ちゃんがいる世界の方がいいです」

 

「ほう、好きじゃない。好きじゃないと来たか。これでも、君は優遇しているつもりだったんだけどね」

 

「本気ですか?スピナーくんをおかしくして、燈矢くんを弄んで、弔くんを乗っ取ろうとしてますよね。私が好きになる要素、どこにあると思ってるんですか?」

 

「なるほど、それは否定できないね」

 

AFOは、顎に手を当てながら考え込むような動作をする。

そんな様子を眺めながら、ヒミコちゃんは腰につけたままだった血の保管バッグから血を取り出して、口に流し込んだ。

AFOは、その様子を静かに眺めていた。

多分、今の抹消を使われた状態だと、ミスディレクションに対抗できないから無駄なことをしていないだけだろうけど。

その間に、物間くんはインカムから何かを言われていたみたいで、AFOを見据えたまま私を抱き上げて、大急ぎでヒミコちゃんから距離を取り始めた。

 

「ヒーローは嫌いだけど、私の大切なお友達を傷付ける人はもっと嫌いです」

 

そう言いながら、ヒミコちゃんは荼毘に変身して、蒼炎を周囲にまき散らし始めた。

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