廃墟になってゴーストタウンのようになってしまった街の中を、逃走するヴィランを追って波動の噴出を繰り返す。
まあ、ヴィランなんて言っても脱ヒーロー派崩れの引くに引けなくなったごろつきでしかないからなんてことないヴィランでしかないんだけど。
そんなヴィラン目掛けて低空で加速を重視した跳躍を繰り返して、一気に距離を詰める。
「波動蹴っ!!!」
「うわぁ!?」
サポートアイテムで武装していても、実力自体はそこまでじゃない。
その男は私の踵落としを避ける素振りを見せることすらできなかったみたいで、直撃して倒れ込んだ。
あれから1か月。
私たち雄英生、というよりもヒーロー科生徒は、インターン先に合流して復興に尽力するように公安から指示が出ていた。
日本は、完全に崩壊してしまっていた。
大部分がヴィランのせいではあるんだけど、物資の供給が無い中で活動し続けていた脱ヒーロー派が、人がいなくなった家屋を破壊して押し入って、略奪をすることで補給していたという、目も当てられない実情があった。
そのせいもあって、重要施設やインフラはもちろん、家屋に至るまで、無傷のところを探す方が難しいと思ってしまうところまで破壊されつくしてしまっていた。
今は政府と公安の指示の下、ようやく復興に取り掛かり始めたところだ。
国外にも支援要請は出してはいるみたいで、少しずつではあるけど外国のヒーローが来てくれていると聞いた。
そんなことをするくらい人手不足なのもあって、ヒーローだけじゃなくて、仮免ヒーローも、ヴィランの拘束や、暴徒化した脱ヒーロー派の鎮圧に駆り出されていたのだ。
当然私もその中の一人だ。
ミルコさんと一緒に色んな所を駆け回って、ひたすらヴィランを拘束し続けていた。
「おー。お前も捕まえたか」
「はい……ミルコさんも……お疲れ様です……」
跳んできたミルコさんの両手には、拘束されたヴィランが引きずられていた。
流石ミルコさんだ。
大体の方角を言っておいただけだったけど、そっちの方向にいるヴィランを勘で全員捕まえてきてくれていた。
「おう。お前もな。そんじゃ、警察連れて行くぞ」
「はい……行きましょう……」
ミルコさんの提案を拒否する理由もないし、素直に付いていく。
簡単な拘束はしているけど、
実際、どのヒーローもヴィラン対応で動き続けているような状態だから、逃走のリスクのあるヴィランをいつまでも連れて行く必要性が一切なかった。
そんな目的でミルコさんの隣を跳んでいると、ミルコさんが声をかけてきた。
「お前、明日は雄英に戻るんだったか?」
「はい……明日は……卒業式なので……なにかありましたか……?」
ミルコさんの問いかけは、事務的な確認だった。
そうなのだ。
明日は何を隠そう、お姉ちゃんの門出なのである。
盛大に祝ってお姉ちゃんを送り出さなければいけない日だ。
このインターン擬きの合間を縫って、皆で企画して、準備を進めていた式だ。
雄英の校舎は甚大な被害を被ってまだ修理中だけど、幸いにも避難ブロックとか、寮の区画とか、一部の体育館とかは空中要塞化した中には入っていなかったから、壊れていなかったのだ。
だから、校長先生にお姉ちゃんたちと一緒にお願いして、卒業式をしてもらう運びになっていた。
そして、なんと明日の卒業式は、中継まで入る手筈になっている。
まぁ、テレビなんてまだ再開してないから、テレビ局のスタッフがネットで動画配信してくれるってだけではあるけど。
それでも、日本は復興に向かってるぞって、死柄木たちに立ち向かった学生が雄英を卒業して、プロヒーローとして活動を始めるよっていう、ちょっとでも明るいニュースを世間に発信するっていう目的みたいだった。
この配信をさせて欲しいって話は、最初はどうかなって思っていた。テレビ局なんて信用できなかったし。
だけど、この依頼をしに来たテレビ局のスタッフに、今までの私に対する報道とかを土下座するような勢いで謝罪されたのだ。
というか、実際に土下座された。
あの会見での振る舞いも、その後に憶測で誹謗中傷したことも謝られた。
実際に、謝罪文もネットとかで大々的に公表されている。
これは私に対してだけじゃない。緑谷くんや、非難の的となったヒーローたち全員に対して、真摯な謝罪がされていた。
そこには、超常解放戦線との最終決戦における、各戦場のヒーローの戦いの記録も公開されていた。
本当に心の底から謝罪しているのは、間違いなかった。
その上で、今の暗い日本に少しでも明るいニュースをって頼まれたら、断ることなんてできなかった。
だから、交換条件としてお姉ちゃんをすっごくかわいく撮って盛大に目立たせて、全世界に完璧超人アルティメットお姉ちゃんの存在を知らしめるように言うだけに留めておいた。
それを受けてちょっと記者の人たちが引いているのを見て、布教が足りていないと確信してしまった。
やっぱり全世界に向けて布教しないといけないな、うん。
そんなことを考えていると、ミルコさんはなんでもないような感じで言い返してきた。
「特にないな。お前がいた方が効率いいから、いねぇならいねぇで動き方考えないといけなくてな」
「そうですか…………そうだ、ミルコさんも卒業式……来ます……?」
「は?私が?」
「はい!リューキュウとか、ナイトアイとか、ファットガムとかが、お姉ちゃんたちのお祝いをするために顔を出してくれるって言ってたんですっ!!だから、ミルコさんもどうかなってっ!!」
ミルコさんも来てくれたらきっと盛り上がるし私も嬉しい。
そう思って提案してみたけど、ミルコさんは案の定すっごく渋い顔をしていた。
「いや、行かねぇよ。興味ねぇし、卒業する奴らと接点すらねぇじゃねぇか」
「そうですか……残念です……」
ミルコさんの素っ気ない返事に、ちょっとしょんぼりしてしまう。
「とりあえず、お前は明後日にはまた顔出すんだな」
「はい……明後日から学校が再開するまで……しばらくは……」
私が気落ちしながら返事をすると、ミルコさんが小さく溜息を吐いてから口を開いた。
「……私が顔を出す可能性があるとしたら、2年後だけだ」
「へ……?」
あまりにも唐突なその言葉に、気の抜けた声が出てしまった。
ミルコさんの方に顔を向けるけど、一切こっちを向いてくれない。
思考からして照れ隠しなのは明らかだった。
「……二度は言わねぇ」
「ちょっ、ちょっと待ってくださいっ!!ミルコさんっ!!もう1回っ!!もう1回言ってくださいっ!!」
「言わねぇつってんだろうがっ!!」
ミルコさんは、ぼそっと呟いて逃走するように速度を上げた。
私も、そんなミルコさんを追いかけるけど、ミルコさんはさらに加速していく。
警察署に着くまでの間、鬼ごっこが繰り広げられた。
でも、口ではそれ以上言ってくれなかったけど、私には、ミルコさんの思考が全部伝わってきていた。
それで嬉しくなっちゃって、自然と笑顔を浮かべたまま、警察を離れた後もミルコさんを追いかけ続けた。
……まぁ、そんなことをしていたら、いい加減怒ったミルコさんに拳骨を落とされたんだけど。
それでも、胸がポカポカする気がして、表情が、戻せなくなってしまっていた。
そして―――
「波動ねじれ」
「はいっ!」
お姉ちゃんがにこにこした満面の笑みを浮かべながら、壇上に登っていく。
私はその様子を、ドヤ顔をしながら見守っていた。
今、お姉ちゃんの素晴らしい姿が、美人で、かわいくて、あまりにも完璧すぎる姿が、全世界に公開されているのだ。
刮目するがいい、世界よ。これが女神の化身と言っても過言ではない私のお姉ちゃんだ。
あれから髪の毛はちょっと伸びてきていて、私と同じくらいになっているのがちょっと気になるけど、なんだかお揃いみたいでさらに嬉しくなってしまう。
卒業証書を受け取って小さく私に手を振ってくれるお姉ちゃんに、私も手を振り返した。
卒業式自体は、順調に進んでいった。
A組皆で考えた企画とか、それに対抗するように物間くんを筆頭としたB組が考えた企画とか、他にも豪華絢爛とかなんとか色々企んでいたサポート科とか、色んなものが入り混じって、最終的に混沌とした状況になってはいた。
だけど、送り出される卒業生も、企画をしている在学生も、参列している保護者の人たちとか、ヒーローとか、テレビ局の人とかも、皆心から笑っていて、すごく楽しい時間だったのは間違いない。
最終的に個性が飛び交い始めて、相澤先生がキレて抹消を使ったのはご愛敬だ。
久しぶりにこんなに笑った気がする。
それくらい、楽しい卒業式だった。
そんな卒業式も終わって、透ちゃんと一緒に体育館を出る。
「そういえば、瑠璃ちゃん泣かなかったね!ねじれ先輩の卒業式とか、瑠璃ちゃんもっと号泣するかと思ってたよ!」
「……そうだね……多分、昔だったら……号泣どころの騒ぎじゃなかったと思う……」
「あれ、今は違うの?」
「ん……お姉ちゃん以外にも大切な人が出来て……個性も、無くなった方がいいなんて……思わなくなって……それで……お姉ちゃんを笑顔で送り出すべきだって……素直に思えるようになったんだ……これも全部……透ちゃんと……皆のおかげだよ……」
「……そっか!」
透ちゃんの問いかけは、昔だったら絶対そういう反応だったんだろうなぁと思う。
だけど、今は違う。
お姉ちゃんが卒業しても、お姉ちゃんに会えないわけじゃない。
もちろん、会える頻度が下がっちゃうのは寂しくはあるんだけど……
代わりってわけではもちろんないけど、私には、透ちゃんがいる。A組の皆がいる。物間くんたちB組だっている。先生たちも、ミルコさんもいるんだ。
だから、もう大丈夫。
大切な人たちに何があっても守ることが出来るようなヒーローになるために、私は私が出来ることをしていく。
そのために、お姉ちゃんを笑顔で送り出すって決めていたから。
そんな話をしながら歩いていると、天喰さん、通形さん、甲矢さんと話しているお姉ちゃんが見えた。
そんなお姉ちゃん目掛けて、走って向かって行く。
そして、近づいたところで、お姉ちゃんに飛びついた。
お姉ちゃんは、そんな私の勢いをうまく流しながら一回転して、抱きしめてくれた。
「お姉ちゃんっ!卒業おめでとうっ!!」
「うん!ありがとー!……ふふ、瑠璃ちゃん、もう大丈夫そうだねっ!」
「うんっ!もう大丈夫っ!今まで、気にかけてくれてありがとうっ!」
お姉ちゃんが笑顔で問いかけてくるのに、私も満面の笑みで応える。
たまにはお姉ちゃんと会って、いっぱいお話したりもしたいけど、きっと大丈夫。
だって、もう私には、大切な人たちが、たくさんいるんだから。
これにて波動使いのヒーローアカデミア完結になります!
感想、評価、お気に入りなどなど、全て励みになっていました!
ここまで読んでくださった皆様、本当に、本当にありがとうございました!
活動報告にキャラ設定とあとがきを書いておくので興味がある方だけどうぞ!