翌日―――
「アッハッハッハマジか!!マジか爆豪!!」
切島くんの笑い声が教室内に木霊する。
理由は簡単。
爆豪くんの髪が、いつものツンツン頭から8:2分けのぴっちりした感じに矯正されていたからだ。
「笑うな!クセついちまって洗っても直んねんだ。おい笑うなブッ殺すぞ」
「やってみろよ8:2坊や!!アッハハハハハ!!」
震えながら怒る爆豪くんに、切島くんはさらに爆笑で返す。
私も不覚にもすれ違った瞬間に噴き出してしまって、爆豪くんに「あっ!!?」って怒鳴られながら思いっきり睨まれてしまった。
爆豪くんの怒りにこれ以上巻き込まれないように、早々に女子が集まっている方に逃げる。
「へぇーヴィラン退治までやったんだ!うらやましいなぁ!」
「避難誘導とか後方支援で実際交戦はしなかったけどね」
「それでもすごいよー!」
梅雨ちゃんの席の近くで三奈ちゃん、響香ちゃんが話していた。
「私もトレーニングとパトロールばかりだったわ。一度隣国からの密航者を捕えたくらい」
「「それすごくない!!?」」
梅雨ちゃんの言葉に三奈ちゃんと響香ちゃんが驚愕の声を上げる。
その反応に梅雨ちゃんは特に反応を返さず、自分の席の方でいつもと違う雰囲気を漂わせていたお茶子ちゃんに声をかけた。
「お茶子ちゃんはどうだったの?この一週間」
「とても……有意義だったよ……」
お茶子ちゃんがコオオオオオオとかいう謎の音を立てながら、何かの型のような動きをし出した。
凄い。波動の量は増えてないのに、波動の動きがすごく研ぎ澄まされてる。
まるで武術の達人みたいな波動の動きだ。
この一週間で何があったんだ。
「目覚めたのね。お茶子ちゃん」
「お茶子ちゃん……凄い……波動がすごく研ぎ澄まされてる……」
「バトルヒーローのとこ行ってたんだっけ」
ビックリしている私たちを他所に、お茶子ちゃんは型の動きからパンチを繰り出していた。
本当にすごい。腕の波動が拳を中心に螺旋のように渦巻いている。
ミルコさんには及ばないけど、それでも目を見張るものがあると思う。
そんな話をしていたら、登校してきた透ちゃんもこっちに近づいてきた。
「おはよー瑠璃ちゃん!職場体験どうだった!?」
透ちゃんが興奮気味に話しかけてくる。
「おはよ……職場体験は……色々掴めた気がした……」
「おー!!私も勉強になることがいっぱいでね!?」
透ちゃんと話している最中に、ブドウ頭の方から暗い波動を感じる。
どうやらMt.レディのところで何かあったみたいだ。
これで改心してくれればいいんだけど……まあ、今はどうでもいいし放っておこう。
「俺は割りとチヤホヤされて楽しかったけどなー。ま、一番変化というか、大変だったのは……お前ら三人だな!」
そう言った上鳴くんは、緑谷くん、飯田くん、轟くんの方に話を振って、皆の視線が3人の方に向いた。
「ヒーロー殺しと会ったんだよな。命あって何よりだぜマジでさ」
「……心配しましたわ」
切島くんが爆豪くんにシバかれながら会話に入ってきて、百ちゃんは素直に感情を吐露していく。
「エンデヴァーが助けてくれたんだってな!さすがNo.2だぜ!」
言葉の通り、あの一件は結局、エンデヴァーのお手柄ということになっている。
私はあの時の轟くんとのやり取りで、エンデヴァーが現場にすぐに向かうことが出来ていなかったことを知っている。
エンデヴァーが後から来て、彼らを助けた可能性もあるにはある。
だけど、それならここまで轟くんが普通にしているとは思えない。
「……そうだな、救けられた」
「うん」
轟くんと緑谷くんがそう返答する。
3人の思考で分かったけど、やっぱりエンデヴァーがヒーロー殺しを確保したわけではないみたいだ。
だとすると、この結果になっているのは、3人がプロの指示なしに個性を使用したのを庇うためとかそのあたりだろうか。
「俺ニュースとか見たけどさ、ヒーロー殺しヴィラン連合ともつながってたんだろ?もしあんな恐ろしい奴がUSJ来てたらと思うとゾッとするよ」
「でもさぁ確かに怖ぇけどさ……尾白動画見た?アレ見ると一本気っつーか、執念っつーか……かっこよくね?とか思っちゃわね?」
尾白くんの言葉に上鳴くんがそんな感想を漏らした。
上鳴くんはミーハーのような感覚で言っている。
私もその動画は見た。だからどんな思想の下で犯罪を犯していたかも知っている。
でも、上鳴くんのその考えだけはだめだ。
「……上鳴くん……あれがかっこいいと……本当に思ってるの……?」
「え?」
「あいつは自分勝手な理由で……人を殺したんだよ……?被害者が……家族が……どんな思いをするかも考えずに……自分勝手な理由で……もし上鳴くんが……家族をあんな思想のために殺されたとして……受け入れられるの……?」
私の言葉で、上鳴くんはようやく飯田くんのことを思い出したらしい。
「あっ……飯……ワリ!」
「いや……いいさ。確かに信念の男ではあった……クールだと思う人がいるのもわかる。ただ奴は信念の果てに"粛清"という手段を選んだ。波動くんの言う通り、どんな考えを持とうともそこだけは間違いなんだ。俺のような者をもうこれ以上出さぬためにも!!改めてヒーローへの道を俺は歩む!!」
飯田くんは決意表明をしながら、ビシッと右手を振り下ろした。
そして気を取り直して、ハキハキと叫び出す。
「さぁそろそろ始業だ!席につきたまえ!!」
「五月蠅い……」
飯田くんの声が教室中に響き渡った。
常闇くんは迷惑そうにしているけど、飯田くんが元気そうで少し安心した。
「なんか……すいませんでした」
「ん……上鳴くんは猛省して……」
ヴィランの理論に絆されて不用意な一言を言ったんだから、反省して欲しい。
「ハイ私が来た。ってな感じでやっていくわけだけどもね、ハイヒーロー基礎学ね!久しぶりだ少年少女!元気か!?」
「ヌルっと入ったな」
「久々なのにな」
「パターン尽きたのかしら」
「もうネタ切れ……早い……」
登場の仕方のネタが切れたのか、いつものセリフをスッと言ってオールマイトが話し始めた。
なんか負け惜しみのように「尽きてないぞ、無尽蔵だっつーの」とか言っているけど、冷や汗が流れてるのを隠しきれていない。
「職場体験直後ってことで今回は遊びの要素を含めた、救助訓練レースだ!!」
「救助訓練ならUSJでやるべきではないですか!?」
オールマイトの説明に、飯田くんがすかさず質問した。
「あすこは災害時の訓練になるからな。私はなんて言ったかな?そうレース!!ここは運動場γ!複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯!5人4組に分かれて1組ずつ訓練を行う!私がどこかで救難信号を出したら街外から一斉スタート!誰が一番に私を助けに来てくれるかの競争だ!!もちろん建物の被害は最小限にな!」
オールマイトはそう説明しつつ、ススススと爆豪くんを指さす。
爆豪くんも「指さすなよ」なんて感じで不満そうではあるけど、納得はしているようだ。
この運動場γ、波動で見渡すだけでもすごく入り組んでいるのが分かる。
私でも最短ルートを考えるのが大変な程だ。
これは感知が出来る私は結構有利かもしれない。
「じゃあ初めの組は位置について!」
最初の組に指定されたのは、私、緑谷くん、尾白くん、飯田くん、三奈ちゃんだ。
「強いて言うなら波動さんと緑谷さんが不利かしら……」
「感知で最短ルート行ける波動はともかく、ぶっちゃけ緑谷の評価ってまだ定まんないんだよね」
「何かを成すたびに大けがしてますからね」
指定された私たちが立ち上がって準備を始めると、皆はモニターの前に座って話し出していた。
「やっぱ飯田が一位かな」
「あー……うーん、でも尾白もあるぜ」
「オイラは芦戸!あいつ運動神経すげぇぞ!」
「デクが最下位」
「怪我のハンデがあっても飯田くんな気がするなぁ」
「でもこういう複雑な所は瑠璃ちゃん早そうじゃない!?」
透ちゃんが期待してくれている。期待に応えられるように頑張ろう。
皆が好き放題話し合っているのを背に、私たちは指定されたスタート地点まで移動した。
指定された位置に着いた。
基本的な作戦はなるべく最短ルートを感知で読んで、そこを進んでいくので間違いはないと思う。
登りやすそうな階段が付いた建物がいくつかあるから、そこに登って跳躍を使って屋根伝いにショートカットをするつもりだ。
それに、こういうところならちょっと試してみたいことがある。
まだ攻撃にあまり使えない手からの波動の噴出の使い方を、爆豪くんを参考にして私なりに考えたのだ。
今回みたいな、攻撃を気にせずに走りながら跳躍するだけでいい状況なら、波動の圧縮に集中できそうだ。
圧縮に集中できる状況なら波動の使用量をセーブできそうだし、割と行けるかもしれない。
そんなことを考えていると、指定エリアの中央あたりで救難信号が発せられた。
救難信号のあたりの波動を見てみると、どうやらオールマイトは建物の屋上にいるらしかった。
『スタート!!!!』
オールマイトのその声とともに、全力で走り出す。
救難信号への最短ルートを考えながら走っていると、緑谷くんが飛び上がった。
彼は凄まじい速度で中央に向かって行っている。
「骨折……しなくなったんだ……」
オールマイトの個性をある程度使いこなせるようになったらしい。
その目覚ましい成長に少し驚いてしまう。
この調子で行けば彼が1位かなと思ってしまうような速度だった。
だけど―――
「あっ……落ちた……」
緑谷くんがパイプの上で足を滑らせて落ちていった。
これは好都合だ。
その隙に中央近辺まで最短ルートで辿り着いた私は、道中の上りやすい階段が付いたビルを駆け上がる。
ここのビルから跳び移っていけばオールマイトのいる建物だ。
ただし、2回目の跳び移らなければいけない距離が結構あって、1回の跳躍で行くことはできそうにない位置でもある。
ビルの屋上についた私は立ち止まって、集中して足に波動を集め始めた。
それぞれの足の裏に波動を圧縮できるところまで圧縮しきったところで、全力で走り出す。
目の前に建物の淵が迫ったところで、片足だけ波動を噴出して一気に飛び上がる。
結構な高さの建物から、上に飛び上がっているせいでなかなかの高さになっている。
怖いと思わないでもないけど、飛び移るビルの目星は既についているし、飛距離は十分だ。
「……よし……」
1回目の跳躍は難なく成功した。
問題は次のオールマイトが居るビルへの跳躍だ。
今の飛距離を考えても、やっぱり1回の跳躍だと届かない。
だから、手に圧縮しておいた波動を利用するつもりだ。
失敗したら落下するから、流石に少し怖いけど。
三奈ちゃんと尾白くんの思考からして、私が跳躍出来ることに気がついたらしい。
2人ともこの地点を視認できるくらいの距離まで近づいてきていた。
そうこうしている間にビルの上に登りなおした緑谷くんがまたぴょんぴょん飛んで一気に進み始めている。
飯田くんも地面を走り続けて既にビルの近辺に着いている。
1位を狙うならもう時間はない。
「……よし……行こう……」
再度気合を入れなおして、四肢それぞれの掌底と足に波動を集中させる。
圧縮を終えたところで、すぐに走り出した。
ビルの端、ギリギリのところで足の波動を噴出させて跳び上がる。
やっぱり飛距離は足りなくて、ビル間の距離が残り3割くらいになったところで落下し始めてしまった。
「波動さん!?」
近くに来ていた緑谷くんが、私が落下しそうになっていることに気が付いたらしくて、驚いたような声が聞こえてくる。
なにやらこっちに向かって助けようとするような思考を感じるけど、その必要はない。
私は両腕を下斜め後ろに向けて、両手の波動を同時に噴出した。
空中で落下しかけていた私は再び推進力を得て、オールマイトがいるビルの屋上まで一気に吹き飛んだ。
「フィニー--ッシュ!」
全員がゴールしたところで、オールマイトはそう宣言した。
私は無事1位だった。
ただ、空中でさらに推進力を得て再度ジャンプをするなんていう動作を初めて試したせいもあって、私はそれがどんな挙動になるかを理解しきれていなかった。
空中で凄まじい勢いで押し出されて、コントロールを失った私は屋上に叩きつけられそうになってしまったのだ。
大急ぎで両手に波動を圧縮して、ぶつかる直前に噴射することで勢いを殺して事なきを得た。
だけど急いで圧縮した結果、多量の波動を詰め込んでしまって敢え無くキャパオーバーになってしまった。
そういう経緯があって、私はオールマイト謹製の"助けてくれてありがとう"と書かれたタスキをつけられた状態で動けなくなっていた。
そんな私の横で、三奈ちゃんが悔しそうに地団駄を踏んでいる。
緑谷くんもゴールした直後に倒れ込んで、『足場の不安定な状況では跳ぶ先も加味すべし……』とか考えながら私と同じような状況になっていた。
結局順位はこうなった。
1位 私
2位 尾白くん
3位 飯田くん
4位 三奈ちゃん
5位 緑谷くん
「一番は波動少女だったが、皆入学時より"個性"の使い方に幅が出てきたぞ!この調子で期末テストへ向け準備を始めてくれ!!」
レースだったからそのまま1位にしてくれたけど、これが通常の救助訓練だったら私は落第もいい所だったと思う。
目的地に到着した瞬間キャパオーバーになるなんて、論外にもほどがある。
改善の余地があるし、今後練習をして慣れておかないといけない。
あと、ぶっつけ本番はやめよう。今回の件で学んだ。
2段ジャンプはスマブラの復帰をイメージしてもらえると分かりやすいと思います。
一応順位の理由としては、
瑠璃:最短ルートで走れる。ある程度近づいたら跳躍で一気に距離を詰めた。
尾白:尻尾でパイプからパイプへ移って移動できる。上に登れる関係上視界は良好で最短に近い道を移動できる。
飯田:単純にエンジンで足が速い。ただし入り組んでいる工業地帯でマップで大体の位置しか分からないところに向かうとなると、減速せざるを得ないしある程度時間はかかる。
芦戸:酸でビルよじ登ってたけどコレ相当時間かかるよね。
緑谷:落ちた。瑠璃が落下しそうになったのに気を取られてもう1回落ちた。
こんな感じで考えたときにこの順番が妥当かなと思いました。