整列をして礼をした後、自分たちのベンチの方に向かっていると、相澤先生に声を掛けられた。
「すまん、言い忘れていた。取材は気にしなくてもいいとは言ったが―――」
「……もう分かったんで……大丈夫です……先生たちとテレビ局の人たちも……テレパスに含めるようにしますね……」
「ああ、話が早くて助かる。手間がかかるが、一応テレビの番組にするって話だからな。片方のチームがずっと無言は困るんだ」
先生の言うことはもっともだと思った。
実際、私たちの会話のほとんどは私を中継する気満々だったし、基本的に無言を貫くつもりだったし。
こんな異様な光景をテレビで見せられても、視聴者は困惑するだけだろう。
仕方ない判断だと思った。
先生との話も終わって、早々にベンチで集まってる皆の方に合流する。
どうやらポジションを話し合っていたらしい。
「あ、瑠璃ちゃんおかえり!先生何の用だった?」
「テレビでずっと無言は困るから……無言でもいいけど……テレパスにテレビ局の人たちも含めてくれって……まあ当然の指示……」
「ああ、そっか。ウチらは心操相手に無言貫いたりするのはもう慣れてるけど、テレビで、しかもスポーツでそんなの見せられても困るよね」
「ん……そういうこと……ところで、ポジション決まった……?」
「外野は決まりましたわ。HLBのルールの特殊性を考慮すると、ホームランばかり打たれる可能性がありますので、飛行できて機動力もある常闇さんと緑谷さん、舌で遠くのボールを回収できる可能性のある蛙吹さんを配置することにしました」
……なるほど。
まあ確かに、砂藤くんとか障子くんとかは力技でホームランを打ちそうだし、爆豪くんとか轟くんとかは個性の応用でボールを吹っ飛ばせそうだ。
そう考えると跳躍、ないし飛べる人を配置するのが適切か。
「そんな感じ!それで、今は外野の人数を増やすべきかを話してたんだよね!」
「増やすとしても瑠璃ちゃんと飯田くんくらいしか適任者がおらんのやんな。私は飛び上がれても空中で細かいコントロール出来やんし」
「なるほど……」
「……ねぇ波動さん、ちょっと提案なんだけど」
私が皆の説明に納得していると、緑谷くんが考え込むのを辞めて声をかけてきた。
……あぁ、なるほど。
確かにそれでいいかもしれない。
残りのポジションは緑谷くんの案でよさそうだ。
そんな感じでポジションが決まった。
『それじゃあ皆……しまっていこー……』
『おー!!』
守備に就く皆にテレパスを飛ばしてから、百ちゃん作の伝導で電気を受け流せる紺色のマントを羽織ってキャッチャーミットを左手にはめた。
ポジションは最終的に、
キャッチャー:私
ピッチャー:百ちゃん
ファースト:三奈ちゃん
セカンド:お茶子ちゃん
ショート:響香ちゃん
サード:透ちゃん
外野(空中):常闇くん
外野(地上):飯田くん、緑谷くん、梅雨ちゃん
って感じになった。
まあ、特別に意図があって決めたのは外野陣とピッチャーとキャッチャーだけだ。
他は動きを見つつ適宜変える予定だったりする。
それで、相手の最初のバッターはHLBルールの野球経験者の砂藤くんだった。
開幕ブッパはどうせ対策されてるってことで止めたらしい。
まあ皆普通に避けられるようになっちゃったし、確かに今更感はある。
「キャッチャーが波動か……てことは、狙い球とか余計なこと考えられねぇな」
……これは砂藤くんの声で確定だし、普通に返答していいな。
というか、私個人は誰が話してるか普通に分かるし黙ってる必要がない。
皆のために中継テレパスしてるだけだし。
「ん……そういうこと……まぁ精々足掻いてみて……」
私はこの後百ちゃんがすることを考えて小さく笑いながら砂藤くんを煽ってみた。
これで冷静さをちょっとでも欠いてくれたら嬉しい。
そして、そんなやり取りが終わったところで、百ちゃんがマウンドでしていた創造が終わった。
マウンドの中央には、物々しい感じのピッチングマシンが鎮座していた。
「は……?え、それ、ありなのか……?マジ?」
「マジ……個性だからオッケーなのも確認済み……『百ちゃん……内角低め……200km/hのストレートで……』
『おまかせください!!』
私の指示を受けて、百ちゃんがきゃぴきゃぴしながら嬉々として機械を弄る。
つまりそういうことだ。
人間の限界を超えた球を投げられるピッチングマシンを作って、確実にストライクをぶち込んでいく。
そこに私の読心で狙い球とは真逆の球種、位置になるように指示をするのだ。
これだけで個性でごり押せない人たちを完封できると思ってる。
私は波動で身体強化をかければキャッチ自体は出来るし、来る場所も分かってるから早々に取り零したりもしないし問題ない。
そして、ドンッ!!!と凄まじい轟音を立ててボールがミットに収まった。
砂藤くんは腰が引けた感じで冷や汗を流しながら見送っている。
少し遅れて、球審をしてくれているロボットの音声が木霊した。
「ストライーク!!」
「……一応、聞きたいんだけどよ……今の何キロ出てんだ……?」
「ふふふ……なんと200km/h……変化球もコントロールもお手のもの……緩急までなんでもござれ……それを私の読心で采配までしちゃったり……」
「な、なるほど……」
私の返答に、砂藤くんが渇いた笑いを浮かべた。
「打てるかこんなもんっ!!!」
『シュガーマンあっという間に三球三振!!バットにかすりもしなかったー!!』
当然のように砂藤くんは打てなくて、叫びながら豪快なフルスイングをして三振になった。
それで、まあ1回は経験者がどんな感じなのか見せるってことで砂藤くん、尾白くん、障子くんっていう、素の身体能力に近いメンバーを固めていたらしくて、あっという間に三者凡退になった。
尾白くんは普通に三球三振。
障子くんが目を増やしてボールをしっかり見て当ててきたけど、芯でとらえることが出来なかったらしくてセカンドゴロになってお茶子ちゃんがワタワタしながら処理した。
1回裏、私たちの攻撃になった。
こっちは普通に打てそうな人を上位打線に回している。
1番私、2番飯田くん、3番緑谷くんだ。
……私が打てそうだと思われてるのが甚だ遺憾なんだけど……
私、そこまで運動が得意なわけじゃないのは今まで散々言ってきたと思うんだけどな……
まあ指名されたからには仕方ない。
やろうとしてることは分かるし、打てるかは別として出来る限り頑張ろう。
相手のピッチャーは無難に砂藤くんだ。
外野に轟くんと爆豪くんを配置しているあたり、私たちと考えていることは同じらしい。
そこまで飛ばせるかは分からないけど……
とりあえず波動を上半身に集中的に集めて身体強化をかけていく。
そして、読んだ思考かから来るところを予測して―――
「ストライーク!!」
「……あれ……」
「……それはそうだろう。狙ったところに寸分たがわず投げ込むというのは、神業の領域だぞ。そんなことが出来るのは八百万が作ったような機械だけだ」
空振りして呆然としながら出た私のつぶやきに、キャッチャーをしていた障子くんが説明してくれた。
……な、なるほど。
今まで球技なんてまともにしたことが無かったけど、普通そんなにコントロールがいいのはあり得ないわけで……
あれ、じゃあ私、読心でコースが分かっても打てなくない?
予測と違うコースに投げ込まれた時に修正できるだけの技量なんて持ち合わせてないんだけど……
「波動ー!!バット使わなくてもボール前に飛ばせば打った扱いになるから!!最悪バット使わなくてもいいから!!」
「……なるほど……?」
私がズーンと落ち込んでいると、響香ちゃんが叫んでアドバイスしてくれた。
……バットを使わなくてもいいとは知らなかった。
響香ちゃんが前にやった時に、実際に音圧だけで前に飛ばしたのがありだったらしい。
それじゃあいよいよ野球の皮を被った何かじゃないか。
……まあ、それがありなら……
片手でバットを持ったまま、反対の手で真空波を放つ準備を始める。
そして、投げ込まれたボールに対して、迎え撃つようにして真空波を放った。
真空波がボールに当たったのを確認して、一塁に向かって波動の噴出を使って一気に吹き飛ぶ。
ぼてぼてのショートゴロになったみたいだけど、切島くんが投げ返してくるまでの間に1塁に到達することが出来た。
『前もこんな感じの見た気がするが、これはありでいいよなぁ!!?とりあえず、この試合初ヒットだぁ!!』
「ナイス波動!」
「よし……」
「すごいな、そういうやり方もありなのか」
一塁の守備をしていた心操くんが、褒めるような感じで話しかけてくる。
だけど、こんなの無視一択だ。
ここまで分かりやすい罠もないだろう。
心操くんも、私が引っかかることは万に一つもあり得ないのが分かってるから変声機すら使ってないし。
そして次の打席の飯田くん。
ここは響香ちゃんと緑谷くん、百ちゃんがあらかじめ作戦を組んでおいたらしい。
すぐにバントの構えになった。
まあ飯田くんなら今の私と同じ感じでセーフティーバントに出来そうだし、全然ありだな。
飯田くんの思考が『これは卑怯なのでは!?』なんて感じになってるけど、立派な作戦だと思う。
実施問題なくセーフティーバントが成功してるし。
それで、大本命の緑谷くんだ。
砂藤くんが角砂糖を食べて剛速球を投げるけど、緑色の何かをバチバチと迸らせた緑谷くんが、一瞬で打ち返した。
このままいけば場外ホームラン確実というのがすぐ分かるくらい、特大の打球だった。
そんな打球を見て、轟くんがすぐに動き出した。
爆豪くんも飛んで向かおうとしていたけど、反対方向だったのと轟くんが動き出したのとで、任せることにしたらしい。
氷を出すつもりみたいだし、足場にして一気に急上昇してキャッチするつもりかな……?
なんて思って、キャッチされたら戻らないといけないから2塁の近くから様子を見守る。
だけど、轟くんは私の予想とは違う動きをした。
いや、まあある程度は予想通りではあるんだけど……
「轟っ!?お前なにしてんだよ!?」
「何してやがんだ半分野郎っ!!!」
「……?柵は超えないようにしたが、何かダメだったか?」
轟くんは、上空に大きくせり出した氷の中にボールを閉じ込めてしまったのだ。
……確かに、それならホームランにはならない。だけど……
……轟くん、もしかして野球をあんまり知らない……?
……まあ、エンデヴァーに虐待されてたわけだし、あり得ないわけじゃないか……
そう思いながら、私は本塁に向かって全力疾走を始めた。
「轟!!ホームランじゃないなら、ノーバウンドでキャッチするかボールを持った人間がランナーに触れなければアウトにならないんだ!!」
「早く溶かさねぇと!!」
障子くんの声を受けて轟くんが炎を出して溶かし始めるけど、普通に遅すぎる。
私と飯田くんは早々にホームイン出来た。
というか飯田くんが速すぎる。ほぼ私に追いついてたし、むしろ追い抜かないように気を遣われてた。
だけど、これで2点リードだ。
その後に続いて緑谷くんがホームを目指して走ってきている。
そんなタイミングで、飛び上がっていた爆豪くんが氷を爆発で粉砕した。
あ、まずい。
「ちょっ……!?飯田くんっ!!ホームから離れるよっ!!」
「な、なんだっ!?急にどうしたんだっ!?」
「いいからっ!!」
「死ねや出久ぅっ!!!」
私が飯田くんの手を引っ張って無理矢理ホームベースから離れるのと同時に、ボールを含んだ氷の塊が、大爆発を伴って凄まじい速さでホームベースに向かって射出された。
「流石にそれは取れんぞ爆豪!?」
隕石のように吹き飛んでくる巨大な氷の塊を見た障子くんは、即座に取れないと判断してベースから避難した。
とりあえずこれで直撃する可能性があるのは走ってきてる緑谷くんだけだ。
まだ後方を確認してない緑谷に大急ぎで警告する。
危機感知が反応してるとは思うけど、一応だ。
『緑谷くん後ろっ!!』
「……大丈夫、かっちゃんなら、そう来るよね!!」
緑谷くんも流石に予想していたらしい。
まああの氷からボールを取り出そうとすると爆豪くんが一番早いだろうし、爆豪くんがランナー緑谷くんに向かって何をするかなんて容易に想像できたんだろう。
振り向きざまにフルカウルで強化した蹴りを巨大な氷の塊に叩き込んだ。
「あ……」
「ぐっ!!?」
緑谷くんが自己防衛のために蹴り返した氷は砕け散ったけど、中のボールはそのまま、マウンドの近くにいた砂藤くんの方にまっすぐ飛んでいった。
10mそこらの距離から全力フルカウルで蹴り出されるボールを避けるなんて、出来るはずもなかったか……
砂藤くんはそのまま気絶してしまった。
「ご、ごめん砂藤くん!?」
『ここでデクが蹴り返したボールがシュガーマンを直撃っ!!たまらずダウンだぁああああ!!』
『……ボール蹴り返すのはありなのか?』
『ありだろ!!ほぼ正当防衛だったしなぁ!!』
『……早々に退場したら授業にならないな……退場したやつには課題でも出すか』
緑谷くんが砂藤くんの方に駆け寄ってアワアワしているのを尻目に、先生たちが解説席で話し続ける。
……そっか、ありなのかあれ。
やっぱりデスマッチじゃないか。
爆豪くんが死ねとか言いながら明らかに常軌を逸した速度のボール飛ばしてきたのとか触れられてすらいないし。
一応ホームベース目掛けて投げていたとはいっても、あれは明確な害意があったのにも関わらずだ。
最低限の体裁を保っていればいいらしい。
あ、というか緑谷くんホーム踏んでない。
「ランナーアウト!」
「え!?なんで!?」
主審ロボットにアウトを宣告された。
緑谷くんもびっくりしたのか、砂藤くんから目を離してロボットの方を振り返っている。
「……なんでもなにも……走路外れてマウンドの方に駆け寄ったでしょ……ホームベース踏む前に……」
「緑谷、野球は走路から横に3フィート……約1m離れた位置を走ったらアウトだ」
「そうなの!?」
障子くん詳しいな。
思考を見る限り、走路……塁間を結ぶ直線から左右それぞれ3フィートが走路で、そこからさらに3フィートの位置を走ったら自動的にアウトらしい。
走路外れたらダメなのは知ってたけど、細かい数字までは知らなかった。
とにもかくにも、緑谷くんはアウトだ。
爆豪くんはなんかご満悦な感じになってる。
アウト≒死に追いやって満足したらしい。
み、みみっちい……
砂藤くんがダウンしたから、そのままピッチャーは峰田くんに変わった。
響香ちゃんや障子くんの思考からして、前回もピッチャーをしたらしい。
今度のバッターは常闇くんだ。
何やら気合を入れている峰田くんは、常闇くんの視界に入らないようにしてロージンバッグを使ってすごい勢いで煙を立てている。
そんなにロージンバッグを使ってどうするんだろう。
……?
は?
それは流石にダメでしょ。
何が『誰にも打てないオイラの魔球の再来』だ。
ブドウ頭が投球動作に入ろうとしたところで不正を確信して、即座にタイムをかけた。
「タイム……」
「どうした波動」
常闇くんが確認してくるけど答えないで峰田くんの方に歩いていって声をかける。
「ボール見せて……」
「なんだ?オイラの玉に興味があるのか?波動もなかなk「御託はいいから見せて」
「な、なんだよ!?やめろよ!?」
ブドウ頭がふざけたことを言っているのを遮って、その手を強引に掴む。
やっぱりこれボールじゃないじゃないか。
このブドウ頭、もぎもぎとボールをすり替えてロージンバッグで白く偽装していたらしい。
これじゃあもぎもぎがバットにくっついちゃうんだから、どうやってもバッターは打てない。
「主審……不正です……ボール以外のモノを投げようとしてました……」
私がそういうと同時に、主審のロボットが近づいてくる。
それを確認して、ブドウ頭の手を離した。
ロボットがそのままブドウ頭が手に持っている物を確認してくれる。
「……グレープジュース退場!!」
「なんでだよ!?よく見てくれよ!!なぁ!!」
ブドウ頭が主審ロボットに詰め寄っていくけど、全く相手にされていない。
これ以上何かを言うつもりはないらしい。
……とりあえず私はブドウ頭から距離を取っておこう。
いつも通り過ぎる最低な目的で、主審ロボットに詰め寄って揉み合いになろうとしてるみたいだし。
実際、私が離れたタイミングで、狙いすましたかのようにブドウ頭がわざとらしく弾き飛ばされる演技をし始めた。
「うわっ!?……あれ、な、なんで波動、離れてるんだよ!?」
「……その思考見て……そのままそこにいると思ってるの……?最低……」
「なにいって「峰田、もう喋るな。お前はこっちだ」……はぃ……」
なおも食い下がろうとしてくるブドウ頭に、地を這うような低い声がかけられた。
まあ相澤先生なんだけど。
これ以上恥をさらす前に回収しに来たらしい。
不正だけでもアレなのに、さらにセクハラまでしようとしたのだ。
流石に先生的にもアウトだったらしい。
というかブドウ頭、テレビの撮影してるの忘れてるんじゃないだろうか。
回収されたブドウ頭は、そのまま相澤先生に連行されて実況席行きになった。
その後、相手のピッチャーが爆豪くんに変わった。
そこからは投手戦みたいな感じになっていた。
爆豪くん、ボールを投げる瞬間に爆発でブーストをかけてすごい剛速球を投げてくるのだ。
女子勢はバットに当てることすらできず、飯田くんはまともに飛ばせず、常闇くんは爆豪くんが
私も真空波で迎え撃ってみたけど、まともに飛ばないであえなくアウトになってしまった。
まともに当てられるのが緑谷くんだけだったから、結局点数にならなかった。
こっちの守備はこっちの守備で、百ちゃんのピッチングマシーンはまだ攻略されてなかった。
そんな感じなのもあって、5回裏時点で2対0とこっちのリードのままだ。
爆豪くんと轟くんには爆発と氷で痛い目に合わされそうになったんだけど、なんとか皆回避して誰もKOはされてない。
今のところ退場者は緑谷くんにKOされた砂藤くんと、反則退場のブドウ頭だけだ。
それで、次はちょうど上鳴くんの打席だった。
上鳴くんの思考からして、気付かれたな。
百ちゃんにテレパスしておかないと……
『百ちゃん……上鳴くん気付いたみたい……避ける準備しといてね……』
『わかりましたわ。波動さんも、感電しないように気を付けてくださいまし』
『ん……気を付ける……ありがと……』
これは私も百ちゃんも、緑谷くんたちも、皆分かっていたことだ。
百ちゃんのピッチングマシンは、緻密な制御をするために電子制御装置を搭載している。
どんなに電気に対する対策をしたとしても、そこに雷が直撃するような電撃を当てられてしまえばショートする可能性が非常に高い。
だから、このピッチングマシンは、上鳴くんが一番の攻略法だったりするのだ。
一応、上鳴くん自身も何もしてないのに雷撃だけ放つなんて無法はするつもりないみたいだし、空振りしながら電気を出してきそうだな。
「分かっちまったぜ、それの攻略法っ!」
「……わざわざ分かりやすく警告しなくても……こっちも察してるからいいよ……もう百ちゃん含めて皆に知らせてあるから……お好きにどうぞ……」
「えぇ……?なんかあっさりすぎねぇ?いや、やりやすいからいいんだけどさ」
上鳴くんが若干拍子抜けしたような感じでバットを構えた。
マシンが一球目を投げ込んだ瞬間、私を含めた内野陣は大急ぎで上鳴くんとマウンドから距離を取った。
ファーストからサードまでの皆は外野まで走っていって、マウンドの百ちゃんは常闇くんが速攻で回収した。
私は後方に逃げて上鳴くんから離れている。
そして、空振りすると同時に、上鳴くんが放電した。
正面に盛大にぶちまけられた電撃によって、マウンドのピッチングマシンは大爆発を起こした。
『チャージズマによってピッチングマシンが破壊されたぁ!これで試合が動いたかぁ!?』
「よっしゃあ!見たか!」
「ん……予想通り……主審、ピッチャー交代で……」
予想通りの結果に、主審のロボット交代を告げる。
それを見た上鳴くんは、またきょとんとして声をかけてきた。
「あれ、また創造してマシン作らないのか?いたちごっこになるの覚悟で壊したんだけど」
「一応テレビだし……同じ絵が続くのは面白くないと思うから……」
というか、攻略されるのはこっちも承知の上なのだ。
相手に上鳴くんがいるんだし。
だから、ちゃんと次のピッチャーも考えてある。
それも踏まえて、百ちゃんは適当な位置の守備に移動してくれている。
私ももう定位置に座ってるし、油断してるのか知らないけど上鳴くんはバッターボックスに入ったまま誰がマウンドに上がるのか考えてる。
次のピッチャーも、もう動き出してる。
さっき爆発して転がっていったボールが都合よく目の前にいったみたいで、もうボールも持ってる。
……手袋とブーツは脱いでるから、私にしか分からないだろうけど。
「あれ、ピッチャー誰だ?誰もマウンドに―――」
上鳴くんがそこまで言ったところで、私はキャッチャーミットを前に出して投げ込まれたボールをキャッチした。
「ストライーク!!」
「はぁ!?」
「……次のピッチャー……壊れたマシンの片付け終わってから……すぐにマウンドに立ってたよ……」
透ちゃんの忍者スカーフに包まれたボールを、スカーフをちょっとだけずらして見せてあげる。
それを見た上鳴くんが固まった。
「葉隠がピッチャーかよ!?というかそれありなのか!?ボール以外のものも投げてるじゃねぇか!?」
「そうだそうだ!!オイラは退場で葉隠セーフは変だろぉ!!」
上鳴くんに便乗して解説席にいるブドウ頭まで喚き出した。
だけど、ルールに抵触しそうな部分を確認してないわけがないだろう。
私が返答しようとしたら、透ちゃんがマウンドから元気よく声を張り上げた。
「ルールは確認済み!ボールに個性由来の何かを付ける分にはOKだって!だからこれはあり!!」
透ちゃんの返答に、上鳴くんが完全に固まった。
その隙に、透ちゃんはさっさと構え始めている。
私もさっさと座って上鳴くんにバッターボックスに戻るように促す。
上鳴くんも素直に従ってくれたけど、ほぼ諦めていた。
多分彼なりに必死で何かを観察してはいたんだろうけど、透ちゃんがまだ何もしてないうちにバットを振ってしまっていた。
透ちゃんはそれを見てから悠々と緩いボールを投げて、上鳴くんはあえなく三振になった。
「こんなの打てるわけねぇじゃねぇかっ!!」
「ふっふっふっ!これが私と瑠璃ちゃんのコンビネーションの力だよっ!」
「……打てるものなら、打ってみて……」
これが出来るから私は透ちゃんを推薦したのだ。
一応攻略法があるにはあるけど、上鳴くんにそれは不可能だ。
攻略できる可能性があるのは、相手チームだと爆豪くん、轟くん、障子くん、青山くんだ。
とはいえ、青山くんの場合は見えるようにした後に実力で打つしかない上に、見えるようになるのもそんなに長くないから、必ず攻略できるってわけじゃないけど。
他の3人は、ストライクゾーン全域を覆うように攻撃してきた時に打てる可能性がある。
まぁ、それに気付いたとしても、バットを振る意思がある時は私がストライクゾーンから大きく外して投げるように誘導するから、しばらく打てないと思うけど。
なんだかんだで回は進んで最終回の9回裏。
相手チームの攻撃だ。
こっちのチームはお茶子ちゃんが個性を使って、大量のバットを振って強引に当てたボールに無重力を伝播させて、ホームランで追加点があったくらいだ。
流石の轟くんでもほぼ真上に無限に飛んでいくボールをどうにかすることはできなかったらしい。
むこうのチームはここまでまともに打ててなかった。
爆豪くんと轟くんと障子くんは読心で徹底的にメタを張って打たせなかったし、青山くんは案の定レーザーで透ちゃんを見えるようにしてきたけど、それと同時に透ちゃんが集光屈折ハイチーズで直視できないレベルで光り続けることで強引にアウトを取った。
だから、結局9回まで誰も攻略できていなかった感じだ。
そんな感じで3対0。
今は透ちゃんにピッチャーが変わってから、2回目の爆豪くんの打席だ。
2アウトまでは追い込んだんだけど、炎を前面に展開した轟くんがその揺らめきから大体の投げたタイミングと位置を察して、氷ブッパでボールをはじき返してヒットを打ってきた。
守備でちょっともたついたのものあって、ランナー2塁の状態で爆豪くんに回ったのだ。
……嫌な予感がする、というか、爆豪くんがもう我慢の限界みたいな感じの思考になってる。
暴虐の限りを尽くしそうな感じだった。
一応、何回かストライクゾーンから外しておくかな。
そう思って透ちゃんにテレパスして、投げてもらったんだけど……
『皆っ!!打たれるっ!!その後は強引に突破してくると思うっ!!注意してっ!!』
「はっ、テメェらの動き散々見て、配球も投げるタイミングも大体分かってんだよっ!!前に転がすだけなら不可能じゃねぇっ!!
正面に、凄まじい爆風を巻き起こしてボールをはじき返した。
直撃は免れたボールは、力なく透ちゃんの方に転がっている。
「透ちゃんっ!!ファーストっ!!」
「うんっ!」
爆豪くんは、打ってすぐに爆速ターボで1塁に吹き飛んでいる。
だけど、一応透ちゃんの目の前に転がっていたから、ギリギリ間に合うかもしれないラインだ。
ファーストの三奈ちゃんも、この後何が起きるのかは大体察していたらしい。
送球をキャッチしてすぐに酸を出し始めた。
「溶解度は落として……アシッドマン・ALMAっ!!」
「おせぇっ!!
爆豪くんは、自分の方にぶちまけられた大量の酸を、三奈ちゃんもろとも連発する爆風で吹き飛ばした。
吹き飛ばされた三奈ちゃんが零したボールは、常闇くんが即座に拾い上げてお茶子ちゃんの方に投げた。
お茶子ちゃんもそのまま爆豪くんの前に立ちはだかってタッチアウトにする気満々になっている。
そんなお茶子ちゃんを尻目に、爆豪くんは上空に大きく飛び上がった。
「うえっ!?それありなんっ!?」
「走路から横にはずれてねぇだろうがよっ!!」
爆豪くんはそのままお茶子ちゃんに頭上に急降下して、触られる前に爆発を使って気絶させてしまった。
ボールはそのままコロコロと転がっていく。
響香ちゃんと百ちゃんも爆豪くんの走路上にいるけど、ボールを持ってないのに正面に立ちはだかることはできない。
……これ、私が最後にぶつからないとダメなやつか。
案の定、外野から凄まじい速さで走ってきた緑谷くんがボールを拾って、私の方に投げようとしてるし。
「波動さんっ!!!」
OFAを使って投げられたそれは、緑色の閃光を纏いながらすごい速さでこっちに飛んできた。
いや、取れるよ。取れるけど、もうちょっと手加減を……
仕方ないか……
波動を四肢に集めて、可視化して纏うレベルまで圧縮していく。
その流れのまま剛速球を強引に受け止めて、圧縮を解除しないで飛んでくる爆豪くんに向き合う。
爆豪くんは、もう目の前まで迫っていた。
馬鹿正直に待ってたら三奈ちゃんたちの二の舞だ。
そうならないために、手をかざしながら飛んでくる彼に向かって、特大の波動弾を形成しながら飛び掛かった。
「
「波動弾っ!!!」
大爆発を波動弾をかざすことで防ぎつつ、どうにか爆豪くんにタッチすれば……あ、まず―――
「前から言ってんだろ―――てめぇの攻撃は、読みやすいってなぁっ!!
「ぐっ!!?」
私が以前荼毘にしたみたいに、三角跳びの要領で波動弾を避けるようにして射線からズレた爆豪くんが、爆発を使って高速で回転しながら、私の方に吹き飛んできていた。
準備していなかった方向からの強襲を受けきることが出来るはずもなく、吹き飛ばされてしまった。
そのままバックネットまで吹き飛ばされて、私の目の前は真っ暗になった。
結局あの後、試合は次のバッターである口田くんを緑谷くんの剛速球で強引にねじ伏せて3対2で私たちの勝ちになったらしい。
最後の爆豪くんの暴虐で、三奈ちゃん、お茶子ちゃん、私を一気にKOされたけど、最終回であと1アウト取ればいいって状況だったのが幸いしたと思う。
まあそんなのはもうだいぶ前のことだからどうでもよくて、今は皆でそのテレビでの放送を見ているところだった。
私たちがワチャワチャ試合をしていただけだったのを、テレビ局の人が凄くうまく編集してくれたと思う。
特に悪意ある編集とかは見当たらなくて、純粋に私たちの個性の簡単な説明を添えつつ、マイク先生の実況と相澤先生の解説を主体に進んでいく形式だった。
私のテレパスも、分かりやすくテロップを入れることで差し込んでくれてるし。
普通に面白くなるように編集してるあたり、流石にプロだと思った。
まぁ、その犠牲になった哀れなブドウ頭がいるんだけど。
「なんでオイラだけこんな扱いなんだよっ!?おかしくないかっ!?」
「別におかしくないでしょ?峰田最低だったし」
「ん……反則した上にセクハラ未遂まで……言動まで含めたら完全にセクハラ……さもありなん……」
「むしろ、見せ場皆無だったのを面白おかしく弄ってくれただけマシだったんじゃない?」
女子が辛辣な言葉を浴びせると、ブドウ頭はぐぎぎと悔しそうに歯ぎしりをし出した。
自業自得とはいえ、ブドウ頭がやろうとしたセクハラを全部解説された上で前科があることまでバラされて、そのことをバラエティ風に弄られていたのだ。
前科がバレた原因が、実況席でしていたブドウ頭自身と相澤先生のやり取りのせいだったとしても、思うところがあるのだろう。
ブドウ頭、決戦の映像でAFO相手に啖呵切ってるのとかで結構ファンが付いてたはずだけど、もう二度と女子のファン付かないんじゃないだろうか。
まあ、女子のファンが欲しければ行動を改めろとしか言えないんだけど。
「あんまりだー!!」
ブドウ頭の心からの嘆きが寮に空しく木霊した。
上鳴くんや緑谷くんといった仲のいい男子が峰田くんを慰めに行ってるけど、女子は完全に放置の態勢に入っていた。
ここで慰めれば調子に乗ってセクハラしてくるのが目に見えてるし。
女子は女子で、お茶会をしながら反省会も兼ねて録画した番組を再生し始めていた。
峰田くんも慰められて気を取り直したらしく、最終的には反省会を兼ねたお茶会に皆が参加していた。
そんな感じで、皆で楽しくお茶会をしながら、夜は更けていった。