波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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ユアネクスト編です。
本編の「自主訓練」と「概要」の間に入るストーリーになります。
ユアネクスト挿入の為に周辺の日程関係のセリフや地の文を少々修正してあります。


ユアネクスト
A PIECE OF CAKE


私たちA組は、広場に集まっていた。

先生たちが全盛期のAFO対策を考える必要性が生じたのもあって、その間、私たちはダツゴク確保に協力することになったのだ。

もちろん、完全に私たちだけで好き勝手に動くわけじゃない。

各地のヒーローや警察とも連携するし、担当区域もちゃんと決められている。

今はその準備をオールマイトが整えてくれるのを待っているところだった。

皆コスチューム姿で集まってはいるものの、まだ出発までは少し時間がある。

だからなのか、緊張して静まり返るなんてこともなく、いつものようにそれぞれ雑談していた。

そんな中、三奈ちゃんが唐突に口を開いた。

 

「ねえ緑谷。個性5つも6つも使ってて混乱しない?」

 

確かに。

今となっては見慣れたけど、改めて考えると結構おかしなことをしている。

普通なら一つの個性をどう伸ばすか、どう応用するかで何年も試行錯誤するものなのに、緑谷くんの場合はそれを複数同時にやっているようなものだ。

 

「するよ!するけど、コツがあって。それぞれの個性を道具に見立てて、一回一回、取り出してスイッチを入れるイメージで使うんだ」

 

「道具?」

 

「六代目のアドバイス」

 

そう言いながら、緑谷くんは片手で何かを掴んで入れ替えるような動きをしてみせた。

 

「難しいけど、僕には合ってると思う」

 

「緑谷くん……前にも気配とか言ってたもんね……一つ一つの気配が分かるなら……まぁ納得……」

 

「あ、うん。黒鞭が暴走した時のことだよね。だけど、それとは別に――」

 

そう言いながら、緑谷くんの手が腰の辺りに伸びた。

……あぁ、あっちなのか。

見覚えのありすぎるノートが出てくる。

私からしたら既知の情報だからいいけど、皆にそれを言ってもいいのだろうか。

いや、別に秘密にしてたわけでもないんだろうけど。

緑谷くんのオタク気質は今更だから……大丈夫か、きっと。

 

「皆の個性を観察して、こうやったらすごく楽しそうとか、自分で色々妄想して書きなぐったりしてたのが役に立ってるのかなって思うんだ!」

 

「「そんなんしてたんかい」」

 

三奈ちゃんと響香ちゃんの声が綺麗に重なった。

 

「見して~!」

 

「俺も見てぇ!」

 

「あっ、いや! 見せる用じゃないし……」

 

緑谷くんが慌ててノートを胸元へ引き寄せる。

 

「えぇ……こうなるの予想してなかったの……」

 

思わず口から出た。

ノートまで取り出してこの流れを予想してなかったって正気なのだろうか。

どう考えてもこうなる流れでしかなかった。

クラスメイト全員の個性について、自分なりに考えた分析や妄想を大量に書き込んでいるなんて言われたら、内容を見たくならない方がおかしい。

 

「あっ!」

 

案の定、横から伸びた尾白くんの尻尾に引っ掛けられて取られちゃってるし。

 

「あぁっ、尾白くん!」

 

「うっはぁ、みっちり」

 

「字ちっさ!」

 

「書くと頭の中整理されるよね」

 

「コンボとか考えてんだねぇ」

 

「おいらのもぎもぎ上限数とかなんでナチュラルに覚えてんだよ」

 

「知恵の書……」

 

常闇くんが妙に神妙な顔をしている。

まぁこれはいつものか。

 

「瑠璃ちゃんは見ないのー?」

 

透ちゃんに声を掛けられて、私は首を横に振った。

 

「私……内容知ってるし……私のテレパスのノイズが出始める距離の分析とかは……結構役立った」

 

実際、あれはかなり役に立った。

自分では感覚的に把握していたことでも、数字や条件にして書き出されると分かりやすい。

特に疲労時と平常時の差とか、人混みの中でどれくらいノイズが増えるかとか。

本人である私が曖昧に認識していた部分まで、緑谷くんは横から観察して勝手に整理していた。

怖いと言えば怖いけど、有用なのは間違いない。

 

「あー、そりゃそっか。書いてる時から全部把握してるよね……」

 

透ちゃんが納得したように頷いて――途中で固まった。

 

「……そうなると当然私の分析とかも!?」

 

勢いよくノートへ向き直る。

私は無言で頷いておいた。

 

「どこ!?私どこ!?」

 

いそいそと確認作業に戻った。

やっぱり自分がどう書かれているかは気になるらしい。

一応、あのノートの中は有用な情報や分析がたっぷりではある。

それこそ、赤の他人に見せるのが憚られるほどに。

個性の強みだけじゃなく、弱点や本人の癖。

どういう状況だと判断が速いとか、反対に何を優先しすぎる傾向があるとか。

チームの組み方で鉄壁の布陣になるやつとか、個性の組み合わせとかまで書いてあったはずだ。

本人たちが見れば面白い分析ノートで済むけど、敵に渡ったら普通に困る情報が多い。

個人の技に関する分析や記述もかなりある。

 

組み合わせなら、お茶子ちゃんと飯田くんは分かりやすい。

無重力を掛けた飯田くんがエンジンを使って一気に加速。

摩擦や自重の影響を抑えながら高速で突っ込んで、最大速度で到達可能に……とか、そんな感じの案だった。

危ない。

だけど、上手くいけば強い。

大体緑谷くんの妄想はそんな感じだ。

 

「ねえ麗日、これ見て!」

 

「えっ、何々……ってデクくん!?飯田くん飛ばす気!?」

 

「いや、その、理論上は――」

 

「理論上で人を弾丸にしないでくれるかい!?」

 

実際あれはやったら弾丸なんて目じゃないレベルで吹っ飛ぶだろう。

そんなことをしてる裏で、緑谷くんは緑谷くんでじわじわ逃げようとしているし。

 

「……もう遅いから……逃げないで正面から話した方が……」

 

「いやでも波動さん……」

 

「おいテメェ!!何だこれ!!」

 

聞き慣れた怒鳴り声が広場に響く。

 

「分かってたけど、分かってたけど……!」

 

緑谷くんが頭を抱えた。

轟くんとコンボなんて書いてたのがバレたらこうなるのは分かってたことだろうに。

それを承知で取り返そうとしてないのかと思っていた。

 

「俺と轟がコンボ組めば最強かもだあ!?」

 

爆豪くんがノートを片手に詰め寄る。

 

「どこに怒る要素あんの!?」

 

「そこに関しては……否定しようのない事実だと思うけど……」

 

実際私もその通りだと思う。

怒るポイント自体は思考で理解はできるけど、それで怒るのも割と謎だ。

クラスメイトとペアで最強って嬉しいことだと思うんだけど。

 

「……組むか」

 

轟くんが真顔で言った。

 

「組まねーよ!!こいつと組まねーと最強にはなれねェってかあ!?」

 

爆豪くんからしたらペアで最強は願い下げらしい。

 

「爆豪くんって、一周回って卑屈だよね」

 

透ちゃんがぼそっと呟いた。

 

「……ある意味で……メンタル最強でもあるのかも……負けてないって自信の表れでもあるし……」

 

そういうことにしといてあげないと、卑屈とか言ってるのがバレたらまたうるさそうだし。

 

「俺ぁクラスターで、すでにこいつのひとつもふたつも上にいる!そもそも、こいつの膨冷熱波は俺のパクリだと思ってる!」

 

「確かにそう言われたらそうかもしれねぇ。伸ばし方といい、似てんのかもな」

 

「はぁ!?」

 

いつもの喧嘩が始まってしまった。

 

「私の発勁も……パクリなのは間違いない……」

 

蓄積して一気に解放するという意味では、似ている部分はある。

 

「そんな納得してねぇで、うるせぇからさっさとケンカ止めるぞ!!」

 

「そんなに……焦る必要ある……?」

 

「このままだと出発前に一戦始まんだろ!」

 

そう言われたものの、そもそもからしてこんなのいつもの光景でしかないのだから、あまり止める必要性を感じてない。

本当に戦闘になりそうなら止めるけど、どうせ口喧嘩だ。

それに、多分、というか既にこっちへ向かってきてるのを感じるから、オールマイトもそろそろ来るし。

来たらやめるでしょ、という程度の感覚でしかない。

私と障子くんと口田くんは、そんな喧嘩やノートを巡る喧騒を少し離れた場所から見守っていた。

 

「なんだかもう……」

 

「日常だな」

 

「ん……いつものでしかない……まぁでも……これも強くなってる証なのかも……」

 

初期とか、爆豪くんが切れてたら皆結構遠巻きに見てたし。

触らぬ爆豪に祟りなし、みたいな空気が多少なりともあった。

それが今では普通に言い返すし、茶化すし、必要なら止める。

轟くんなんて今も「組めば強いのは事実だろ」なんて真顔で追撃している。

楽しそうだ。

本人たちがどう思っているかは知らないけど。

でも、今の遠慮なしに言い合える関係は、間違いなくいい関係だし、いい仲間だし……いい友達だってことだと思う。

 

それはそれとして――

背後から近づいてくる大きな気配に意識を向ける。

 

「オールマイトも……そう思いますよね……」

 

びくっ、と空気が揺れた。

振り返る。

そこには片手を私の頭の少し上まで伸ばした状態で固まっているオールマイトがいた。

あろうことか無言で忍び寄って、いきなり頭を撫でようとしていたらしい。

 

「思いはする、思いはするんだが……波動少女、私が褒めようとしていたのも伝わってるだろう?」

 

「……伝わってますけど……」

 

褒めようと思った。確かにそうなんだろう。

よく皆を見ているな、とか。

成長したな、とか。

多分そんな感じ。

悪意がないのも分かっている。

 

「……いきなり撫でようとするのが……悪いです……頭を撫でられるのは……悪い気はしないですけど……それはそれとして髪が乱れるので……今は遠慮します……」

 

「そ、そうか」

 

露骨に肩を落とした。

そんなしょぼんとした顔せずに、さっきまでの威厳を保った顔をしてればいいのに。

ダメとは言ってないのだから。

今は嫌だってだけだ。

オールマイトは考え方は怖いけど、教師としては新人も新人でポンコツではあるけど、尊敬自体はしてる。

多分、本人が思っているよりずっと。

タイミングさえちゃんと選んでくれれば、別に撫でられるのも嫌いじゃない。

 

「はぁ、まあいい。皆、時間だ。行くぞ」

 

声色が変わる。

その一言で、さっきまで好き勝手に騒いでいた皆の空気も変わった。

 

「……!はい!皆さん、行きますわよ!!」

 

「「「はい!!」」」

 

皆の返事が重なる。

オールマイトが来た方向には、大型の装甲輸送車が準備されている。

見るからに頑丈そうな車体。

窓も最低限で、普通の車とは比べものにならないくらい分厚い装甲に覆われている。

今日から少しの間、私たちはこれに乗ってダツゴク確保に協力することになる。

とはいえ、オールマイトがついてくるわけではない。

オールマイトはここに残って、指揮や作戦立案に従事する。

全盛期のAFOを知る人間として、そして長年AFOと戦ってきた人として、オールマイトから得られる情報は多いからだ。

 

だからこそ私たちは、その間にできることをする。

あくまで運転ロボットが運転するこの輸送車に、青山くん以外のA組皆で乗り込んで、ダツゴクを捕まえるお仕事だ。

簡単な仕事じゃない。

相手がどういう個性を持っているのかも分からないし、追い詰められた犯罪者が何をするかも分からない。

 

「瑠璃ちゃん、頑張ろうね!」

 

隣から明るい声がした。

振り向けば、いつものコスチューム姿の透ちゃんがいる。

透明の忍者マフラーを風にはためかせながらこちらを見ている目に、しっかりと視線を合わせる。

 

「ん!透ちゃんも!」

 

さっきまで馬鹿みたいに騒いでいた皆が、今はもう完全にヒーローの顔をして輸送車へ乗り込んでいく。

その背中を見ていると、不思議なくらい不安は薄れていった。

相手がダツゴクでも、私たち皆で連携すれば怖いものなんてない。

……はずだ。多分。




戻ってまいりました。
それと同時に感想等でいずれとお約束していたユアネクスト編を書きました。
少しの間連続で更新していきますのでよろしくお願いします。
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