波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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女子更衣室にて

救助訓練レースの後倒れたまま動けなくなってしまっている私に、三奈ちゃんが肩を貸してくれた。

 

「緑谷もだけど、波動も跳べるようになったんだね!」

 

「ん……まだ……すぐキャパオーバーになっちゃうけど……」

 

「いやそれでも十分すごいでしょ!」

 

三奈ちゃんが手放しに誉めてくれて、少し照れてしまう。

さっきまで凄く悔しがっていたのに、それはそれとして褒めてくれるあたり三奈ちゃんの人の好さが出てると思う。

 

「ああ、完敗だった。謙遜する必要はない」

 

「でもほんとにすごかったね。最後のなんか特に。あれ、どうやってたの?」

 

飯田くんが同意して、尾白くんが最後の空中ジャンプについて聞いてくる。

 

「あれは……圧縮した波動が……手から噴出する勢いで……跳んでる……爆豪くんを参考にした……」

 

「あー、なるほど。爆豪か」

 

そんな風に私たちが話している影で、オールマイトがこっそりと緑谷くんに話しかけていた。

『話さなければならない時がきた』とか、『ワンフォーオールについて』とか気になる思考がオールマイトから聞こえてくる。

今日の放課後話すみたいだし、少し気にかけておこうかな。

 

私はそのまま三奈ちゃんと話しながら、皆がいるモニターの前まで戻った。

 

「瑠璃ちゃん1位おめでとう!あのジャンプ、すごかったね!」

 

「ん……ありがと……」

 

透ちゃんが駆け寄ってきて祝福してくれる。

三奈ちゃんから透ちゃんに引き渡された私は、そのまま皆が座っている所に座らされた。

その後は皆と話しながら訓練の様子を見学していたら、授業が終わる頃にはちゃんと動けるようになっていた。

 

 

 

授業が終わって、皆で救助訓練レースの感想や課題を話しながら着替えをしていると、隣で着替えていた透ちゃんが口を開いた。

 

「うーん……やっぱり私機動力、というか運動能力全般が課題だなぁ」

 

「そこはウチもだよ。移動とかにも活かせないし……」

 

透ちゃんの呟きに、響香ちゃんも同じように溜め息を零す。

透ちゃんの運動能力自体は私よりもよっぽどいい。

だけどやっぱり、個性の応用という点では"透明化"は難しい。

奇襲、潜伏、潜入とかなら活躍は容易だけど、それ以外の活用方法となると途端に難しくなる。

響香ちゃんもその辺は同じだと思う。

音系統の個性は便利は便利だけど、移動にどう生かすかと言われるとパッと思い浮かばない。

 

「ん……でも……こういうのは……適材適所……」

 

「ええ、そうですわ。葉隠さんは隠密行動、耳郎さんは索敵とそれぞれ得意分野がありますし。得意な部分を伸ばして補いましょう」

 

私の意見に百ちゃんも同意してくれた。

やっぱりこういうのは分担も大事だと思う。

 

「でもウチの索敵って波動のには遠く及ばないからなぁ」

 

「……私、遠くの音とかは聞けないから……響香ちゃんの方がすごい所も……あるよ……?」

 

「そうよ響香ちゃん。響香ちゃんの感知もすごいわ」

 

得意な部分として索敵を上げられた響香ちゃんが、私の感知と比べてなんとも言えない表情になっている。

だけど実際、響香ちゃんの方が優れている所もあるのだ。

私は半径1km以内なら人がどこに居ても感知できるし、何をしているかも考えていることも分かる。

だけど、音や匂いといったものは分からない。

さらに言えば、波動が関与しない映像通信や電話といった方法を取られると、視覚的な情報とその場にいる人間の思考以外の情報は何も分からない。

その点で見れば、遠くの音を聞き分けて会話を全て知ることが出来る響香ちゃんの方が優れているのだ。

 

「私も課題多かったからなぁ。自分を浮かせるのはいいけど、もっと酔わんようにしやんと……」

 

「私も課題だらけでしたわ……」

 

「えー?ヤオモモはテキパキと道具作って移動出来てたのに?」

 

 

皆でワイワイと話しながら着替える最中に、それを感じ取った。

隣の部屋……というよりも隣の男子更衣室から、すごく邪な思考を感じ取ってしまったのだ。

ブドウ頭の『こ、これは!?』とかいう思考と、それに付随する私たちの裸や下着姿を妄想する気持ち悪すぎる思考を。

 

これから着るために持っていた服ですぐに身体を隠す。

 

「あれ?瑠璃ちゃん急にどうしたの?」

 

急に身体を隠して険しい表情をする私に、透ちゃんが声をかけてくれる。

 

「ん……すぐに分かる……皆も身体……隠した方が良い……」

 

百ちゃんにすぐに塞いでもらうという手もあるけど、ブドウ頭はもう行動に移そうとしている。

今百ちゃんを穴の前に立たせてしまうと、百ちゃんだけがっつり見られてしまう可能性がある。

そんな酷いことはできないから、全員穴から離れて身体を隠すのが一番だ。

私の返答に皆は疑問符を浮かべるが、その疑問はすぐに解消された。

 

「おい緑谷!!やべぇ事が発覚した!!こっちゃ来い!!」

 

ブドウ頭の声は、女子更衣室にも響いていた。

 

「見ろよこの穴ショーシャンク!!おそらく諸先輩方が頑張ったんだろう!!隣はそうさ!わかるだろう!?女子更衣室!!」

 

それだけで皆どういう状況なのかを察したようだ。

一瞬で空気が冷めて皆無表情になる。

 

「……こういうことかぁ」

 

「そこ、よく見ると穴空いてるね……向こう側は見えないけど……」

 

男子更衣室と女子更衣室を隔てる壁には、なぜか小さな穴が開いていた。

今まで全然気にしていなかったから気が付かなかったけど、波動をよく見てみると向こう側をただのポスターか何かで塞いでいるだけの穴があった。

 

「ウチに任せて」

 

「お願いね、響香ちゃん」

 

制裁を立候補してくれた響香ちゃんが、穴の脇に近づいて右耳のイヤホンジャックを壁に突き刺す。

そのまま左耳のイヤホンジャックでいつでも穴を突けるように、音でタイミングを図り始めた。

 

「峰田くんやめたまえ!!ノゾキは立派な犯罪行為だ!」

 

「オイラのリトルミネタはもう立派な万歳行為なんだよぉぉ!!」

 

飯田くんが止めてくれようとしているけど、おそらくブドウ頭は止まらないだろう。

 

「八百万のヤオヨロッパイ!!芦戸の腰つき!!葉隠の浮かぶ下着!!波動のロリ巨乳!!麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱぁあああ!!」

 

女子の身体を揶揄する下劣で最低な言葉が響き渡る。

全員が穴の方にゴミを見るような視線を向ける中、響香ちゃんが穴にイヤホンジャックを突き刺した。

 

「あああ!!!!」

 

その直後、ブドウ頭の断末魔の叫びが響き渡った。

目にイヤホンジャックが突き刺さって爆音の心音を響かせられているようだった。

 

「ありがと響香ちゃん」

 

「何て卑劣……!!すぐにふさいでしまいましょう!!」

 

言葉通り、百ちゃんがすぐに個性で穴を塞いでくれた。

 

『ウチだけ何も言われてなかったな』

 

……響香ちゃんはブドウ頭の言動の中で、自分だけが挙げられていなかったのが不満らしい。

響香ちゃんは引き締まった身体をしていて、スレンダーですらりと綺麗なボディラインなのに、その良さがあのブドウ頭には分からないらしい。

だけど、私にも不満がある。

 

「……私……ロリじゃない……皆と同じ、15歳……」

 

そうだ。私はロリじゃない。

身長は女子の中で一番小さいけど、四捨五入すれば150cmなのだ。

透ちゃんも梅雨ちゃんも響香ちゃんも四捨五入すれば150cm、同じなのだ。

断じてロリではない。

 

私がその心無い言葉に胸を痛めていると、透ちゃんが頭を撫でて慰めてくれた。

だけど、今頭を撫でられるのは子供扱いされているようで釈然としない。

 

私の言葉に反応して響香ちゃんが『同い年なのになんで……!!』とか嘆きの思考を伴いつつ胸を凝視してきたけど、反応はしない。

ここで慰めたりしても傷を抉るだけなのは分かってる。

私も身長のことで同じことをされたらすごくイラっとするから、そんな真似はしない。

 

 

 

着替えが終わって放課後。

緑谷くんがオールマイトのいる仮眠室に通された頃、私は飯田くんに呼び出されていた。

三奈ちゃんがキラキラした目で見てきたけど、これは絶対にそういうことじゃないと釘をさしておいた。

 

「呼び出してすまなかった、波動くん」

 

「ん……気にしないで……それで……話って何……?」

 

校舎裏の誰もいない一角。

一歩間違えたら告白の現場と勘違いされかねないそこで、私は飯田くんと向かい合っていた。

 

「俺は……怒りで君の忠告を忘れ、約束を破りそうになってしまった……!」

 

飯田くんは、真剣な表情で話し出した。

 

「緑谷くんのメッセージを見て、君が轟くんに連絡を取ってくれていたことも聞いている!俺の愚かな行動が、君にどれだけ心配をかけたか……!!あの時の波動くんが……どんな思いで俺を送り出していたか……!!それを俺は、僕は踏みにじったんだ……!!」

 

震えながら行われるその告白に、私は何も言い返すこともできなかった。

 

「緑谷くんと轟くんが来てくれていなければ、僕は殺されていただろう!君との約束を破るところだったんだ!本当に、申し訳なかった!」

 

飯田くんはそこまで言い切るとすごい勢いで頭を下げる。

彼はそのままの姿勢で固まり、頭を上げようとしなかった。

 

「……いいよ……ちゃんと、約束通り……生きて帰ってきたんだから……」

 

「だが……!」

 

「本当にいいの……友達を心配するのは……当然のことでしょ……?」

 

そう、友達なのだ。

緑谷くん目的ではあったけど、頻繁に一緒に昼食を食べたりしているし、話も結構している。

真面目で裏表のない彼に、不快感はない。

読心を隠しているからこそ出来た友達だとしても、私にとって数少ない友達なのだ。心配して何が悪い。

最初は頑なに頭を下げたままだった飯田くんだったけど、そこまで言ってようやく頭を上げてくれた。

 

「……ああ、そうだな。ありがとう、波動くん」

 

「ん……それでいい……」

 

飯田くんは私の言葉に同意して、謝罪から感謝の言葉に切り替えてくれた。

その表情は、憑き物が落ちたようにすっきりしたものに変わっていた。

 

その後、飯田くんと話しながら教室に戻った。

教室に入った途端、三奈ちゃんがキラキラした目でなんの用事だったのか問いかけてくる。

そういう話じゃないって言ったのに、信じてくれていなかったらしい。

私が再度三奈ちゃんにそういうことではないと釘を刺すと、ようやく理解してくれた。

「つまんないの」とか文句を言われるけど、最初からそうじゃないと言っておいたはずだ。

 

 

 

私が飯田くんとの話や三奈ちゃんへの説明をしている間に、オールマイトと緑谷くんの内緒話は終わったらしい。

思考から聞こえたのは、耳を疑うような情報ばかりだった。

個性を奪う個性"オールフォーワン"

それに対抗するために受け継がれてきた個性"ワンフォーオール"

ヴィラン連合のブレーン。

ここまではいい。

思考から察するに、オールマイトは過去にヴィラン連合のブレーンを下してる。

彼が居れば、何とかなると思えてしまった。

 

だけど、そこから先の緑谷くんにすら打ち明けなかった情報。

オールマイトの命が、そう長くないかもしれないということ……

この思考を感知して、私は言葉を失うことしかできなかった。

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