波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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ダツゴク確保レース

「聞こえた、複数の破壊音」

 

ロボットが運転している輸送車の助手席にあるコンソール。

そこにイヤホンを挿して外の音を聞いていた響香ちゃんがそう呟いた。

……まだ私の範囲外なんだけど。

 

「ほんと……?まだ私の感知範囲外だけど……」

 

「待って……車の走行音が遠くなってく」

 

助手席には響香ちゃん。

後ろの座席には同じ3班の透ちゃん、お茶子ちゃん、尾白くん、緑谷くん、私がいた。

男女で2:3に分かれて向かい合って座っている。

……女子多いなこの班。私は嬉しいけど。

決めたのオールマイトだったよね。

まぁ、緑谷くんがいるから突出した単体戦力がいらないって判断なだけか。

 

「距離は?」

 

「約二キロってところかな」

 

「すごい……私じゃそこまで感知できない……」

 

「ま、音くらい波動に勝てなきゃね」

 

響香ちゃんが胸を張って答えてくれる。

うん、本当に音に関しては私はもう足元にも及ばない。

私は範囲だけは無駄に広いけど、逆に言うと範囲外に関してはどう応用しても見えないし。

半径1kmは広いようで狭……いやそんなことないな。

響香ちゃんがおかしいだけだこれ。

 

「その距離なら……緑谷くんでいけるよね……」

 

「うん」

 

気を引き締めた緑谷くんが顔を上げる。

大人っぽくはなったけど、前みたいな危うさは感じない。

 

『ハッチ、オープン』

 

運転ロボットが運転席の方でボタンを押すと、装甲車のハッチがゆっくりと開いていく。

それだけで、車内には風が流れ込んできた。

 

「緑谷くん……!さっきと同じ感じでサポートはするから……!気にせずいって……!」

 

「うん!」

 

お礼を言いながら緑谷くんは既に浮き始めている。

……正直、サポートがいるかと言われると、緑谷くんからしたらほぼ必要ないとは思うんだけど、こうやってお礼を言ってくれる辺り律儀だ。

 

『7th、浮遊……プラス、エアフォース!』

 

その思考と同時に、緑谷くんはすごい速さでハッチから飛び出していった。

準備中もこっちが追跡するように距離を詰めていたおかげで、ギリギリ私の感知範囲に入り始めている。

これならサポートもできそうだ。

物資を強奪していたヴィランたちは、後方から迫る緑谷くんにすぐに気づいたらしい。

面白いくらい慌てている。

個性は……ブーメランとボールとトラック?

まぁこれなら伝えれば対処してくれるか。

 

『デク……ヴィランの個性は手からブーメランと……ボールみたいになって跳ねる個性と……トラックと合体……?大丈夫だとは思うけど……気を付けて……』

 

『ありがとう!』

 

皆もまとめてテレパスしておいたから、二度手間になんてこともなってない。

さて、こっちも飛び出す準備をしておくか。

緑谷くんほどじゃないとはいえ、この中だと私は間違いなく戦える側だ。

ジャンプ形式とはいえ跳べる。

……入学時からは考えられない変化だな。私が戦える側とか。

私なんてへっぽこもいいところだったのに。

 

「じゃあ……私も行ってくるね……」

 

「私たちもすぐ追いつくから!」

 

「ん……ありがと……」

 

お茶子ちゃんや透ちゃんに声をかけられながら、走っているトラックから飛び出す。

大急ぎで手と足から波動を噴出して、体勢を立て直しながらトラックを追い越して地面に着地する。

そのまま大きく飛び跳ねる要領で緑谷くんを追いかけ始めた。

 

 

追いついた時には、もうほとんど終わっていた。

トラックのヴィランにセントルイススマッシュを叩き込んでるし、私はそこで跳ねてるボールヴィランを叩けばいいかな。

そう思って、距離を詰める最後の一歩で大きく跳ね上がる。

 

「波動蹴!!」

 

「ぐうっ!?」

 

弾力に富んだ大きなお腹に波動蹴を遠慮なく叩き込んだ。

衝撃をだいぶ吸収されたけど、それでヴィランは気絶したらしい。

そのまま動かなくなった。

波動からして、間違いなく気絶してる。

 

それを確認しながら生成していた波動弾を、隙を突いて緑谷くんから逃げ出していたブーメランヴィランに向けてまっすぐ飛ばした。

 

「波動弾!!」

 

飛んでくるブーメランに相殺された。

だけど、今はこれで十分だ。

 

『尾白くん!』

 

「尾空旋舞!!」

 

武器を相殺されたヴィランの身体に尾白くんの尻尾が巻き付く。

そのまま激しく回転をかけられたヴィランは空中に放り投げられ、何もできずに落下してきていた。

大急ぎで落下点に入って、勢いを殺すために死なない程度に発頸を叩き込んだ。

安全?に地面に落ちてきたヴィランを、急いで拘束する。

 

「ダツゴク……確保……」

 

「こっちも、確保!」

 

私が気絶させておいたボールヴィランはお茶子ちゃんと透ちゃんが拘束してくれたらしい。

お茶子ちゃんの個性で浮いているヴィランの横で、透ちゃんが笑顔で手を振っていた。

 

「それにしても、ホントすごいね……緑谷のOFAは……」

 

「ん……私たち……補助しかしてない……」

 

「いや、波動も大概なんだけど……」

 

「そう……?」

 

「やってることがもうミルコとそう変わらないじゃん……蹴り弱くなった分、手と飛び道具使ってくるから厄介極まりないし……」

 

ふむ……そういう考え方もあるのか。

まぁ、ミルコさんの弟子である私からしたら嬉しい言葉でしかない。

 

 

 

「よろしくお願いします」

 

「ご苦労様です」

 

輸送車で近くの警察署まで移動して、緑谷くんとお茶子ちゃんが代表してヴィランを引き渡してくれている。

さっき別で捕まえたヴィランと併せてこれで4人目だ。

 

輸送車の中では、透ちゃんが無線を起動していた。

 

「こちらA組3班!ダツゴク4名確保!」

 

『っ、テメェらも4人かよ……はっ!波動いてそれなら実質的に俺らの勝ちだな!』

 

「……私を気にする必要……ある?」

 

画面に映った爆豪くんは一瞬顔を歪めた後にそう言ってきた。

後ろにはお弁当を食べている三奈ちゃん、切島くん、常闇くん、口田くん、砂藤くんも映っている。

砂藤くんなんかは糖分補給も兼ねているのか、ケーキを鷲掴みで食べていた。

……いいな、私も食べたい。こっちにもあったりしないだろうか。

……ないじゃん!!

輸送車の中の波動をくまなく見たけど影も形もない!!

 

「ケーキ……ずるい……!!」

 

『んっ!?な、なんだよ急にそんな恨みがましい目で見て……これは個性用に自分で用意した糖分だからしょうがないだろ』

 

「ずるい……お腹空いた……甘いものが食べたい……」

 

『っ……帰ったら作ってやるから、今はそれで納得してくれ……』

 

「ん……!約束……!!」

 

よし!これでケーキは約束された!

寮に帰るのが楽しみだ!

 

「る、瑠璃ちゃん……今は報告中なんだから……」

 

「ん……自重する……」

 

苦笑する透ちゃんに頷くと同時に、新しく通信がつながった音がした。

 

『A組2班。ダツゴク6名確保した』

 

『ああ!?自慢かコラ!!』

 

報告している轟くんの後ろには、2班の梅雨ちゃん、百ちゃん、飯田くん、上鳴くん、障子くん、峰田くんが映っている。

 

『数を競っているワケじゃないぞ!大・爆・殺・神、ダイナマイトくん!』

 

「……長すぎ……バクゴーじゃ駄目なの……?」

 

『よくねぇわ!!』

 

覚えづらい言いづらい報告しづらいの最悪なヒーロー名だと思うんだけど……

まぁ本人がいいならいいか。

叫ぶ爆豪くんにお茶子ちゃんと緑谷くんが並んで苦笑している。

……そういう細かいところまで気が合うな。

早く付き合えばいいのに。まだしまってるらしいけど。

 

そんなことを考えたタイミングで、緊急通信の音が鳴った。

 

『西地区の港にヴィランが出現と報告有り、目撃証言から……ダツゴク、喰有銀次……ヴィラン名ギンジと判明』

 

その説明と同時に、空中にモニターのようなものが表示されてヴィランの情報がずらずらと表示され始めた。

……強盗殺人の罪で120年の禁固刑?って、これ何人殺したんだろう。

とりあえず洒落にならないヴィランなのはよく分かった。

 

『個性、暴食。腹部にある口であらゆるものを捕食する。注意して当たられたし』

 

「西地区の港って……」

 

「このすぐ近く」

 

お茶子ちゃんの呟きに響香ちゃんが端的に答えていた。

 

「いこ……早く乗って……」

 

私が声をかけると、皆すぐに乗り込んできてくれた。

緑谷くんなんかは屋根に上がっている。

 

『緑谷くん……中じゃなくて大丈夫……?』

 

『大丈夫!出して!』

 

『ん……分かった……』

 

ロボットに目的地を伝えると、装甲輸送車がすぐに走り出した。

 

 

 

『ダツゴクの進路が変わった……向かってる先は避難所……デク……!』

 

『今すぐ行く!!』

 

緑谷くんに伝えると同時に、すぐさま飛んで行った。

ギンジは倉庫の壁を食い破り、瓦礫だらけの道路に飛び出しているような状況だ。

 

……あれ、何かから逃げてる?

避難所を襲うために向かってるんじゃないの?

一緒にいる女の人は人質?いや、それにしては表層の思考……

……ギンジの方を深く読心してみるか。

 

『この女さえいれば』『適合』?

要領を得ないな。

つまり重要なのはギンジよりも人質の方か。

そう思うと同時に、黒鞭で追いかけながら人質と思われる女の人を助けようとして彼女に触れた。

次の瞬間、緑谷くんが、急に激痛を感じて落下した。

 

「緑谷くん!?」

 

「な、なに!?デクくんどうしたの!?」

 

「っ、原因が分からない……なに今の……!?」

 

原因を確認するために急いで女の人を読心をしようとした瞬間、彼女が急に止まった。

違う、これは遅延?

波動の変化が小さすぎて思考が読み取れない。

原因は……この男か。

緑谷くんが止めようとしている、銃を撃っている身体の中が機械だらけのサイボーグっぽい人じゃない。

 

『デク!その人は違う……!むしろ逆!そっちじゃなくて……!』

 

『え!?』

 

オールバックのスーツの男……サイボーグっぽい人の思考からしてゴリーニファミリーとかいうところのヴィランか。

思考は……

自分以外の半球状のドーム内のものをスローモーションにする個性か。やっぱりこの個性が原因で女の人が止まったらしい。

男が近づいて動かなくなっていた女性に触れると、辺りに花が咲いた。

 

そこでようやく、輸送車は緑谷くんの近くに辿り着いた。

吐き気すら催す自分勝手なそいつの思考を読むのを中断して、私も輸送車を降りた。

 

「デクくん!」

 

「状況は!?」

 

「みんな、アレ!」

 

透ちゃんが指さす先には、感知範囲外の薄暗い空に、大型クルーザーが浮かんでいた。

 

「船が、空飛んどる……」

 

少しして、ようやくクルーザーが範囲内に入った。

そのタイミングで、もう一人、強烈な悪意を感じる男が範囲内に飛び込んできた。

着地してすぐに悠然と歩き始めたその男の顔は……なんだこれ……二重になってる……?

マスクをしてるけど、そういう問題じゃない。

表層は……オールマイトでしかない。

だけど、下の顔も、根本的な部分も、何もかもが違う。

 

「FUFUFU……もう大丈夫だよ、アンナ……なぜって……俺が来た!」

 

表情を最悪にした悪意塗れのオールマイト擬きが、悠々とそう叫んだ。

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