波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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オールマイト擬き

「俺が来た!」

 

悪意塗れの男がそう両手を広げて自信満々に叫ぶ。

その姿だけを切り取れば、確かに見覚えがある。逆立った金髪も、鍛え上げられた巨体も、歯を見せて笑う表情も。

だけど、頭の中へ流れ込んでくるものが、決定的に違っていた。

人を安心させるための笑顔じゃない。自分を見上げさせるため、自分の力に屈服させるための笑顔。

見た目が似ているからこそ、その中身の異質さが気持ち悪いほど際立っていた。

 

「あれは……」

 

「お……お……オールマイトぉ!?」

 

「違うっ……!こいつが、オールマイトなわけがないっ……!こんな、悪意塗れのやつが……!」

 

こいつがさっきのヴィラン、ギンジが逃げていた原因。

人質にされていた女の人は、今この人に抱き上げられている人は、個性が利用できるから捕まっていて、逃げ出そうとした。

銃撃していたサイボーグっぽい人は、この女の人を助けようとしていたんだ。

でも、理解できたからって状況が良くなるわけじゃない。

むしろ、最悪なことが分かってしまった。

 

「嫌!離して!嫌!」

 

「怖い思いをさせてしまったようだね、アンナ……」

 

オールマイト擬きが思考を完全に漏らさない優しい声音で声をかけると、彼女は思考が読み取れない状態になってしまった。

さっきまで恐怖でぐちゃぐちゃだった感情が、まるで布を被せられたみたいに消える。

表情まで穏やかになっていくのが、余計に不気味だった。

安心したんじゃない。何かをされている。

 

「助けてくださってありがとうございます、おじさま……」

 

「二度と俺から離れてはいけないよ」

 

女の人の個性の情報は、悪意を持っている乱入者たちの思考で嫌でも分かった。

過剰変容。

個性を一定期間強化・変容させる”常時発動型”の個性。

これは、適合すれば花が咲き、不適合なら激痛が走る。

適合率は低い。

つまり、触れることそれ自体がリスクでしかない。

あのオールマイト擬きが彼女に触れることができている以上、あいつは適合者だ。

なら、万が一助けようとして激痛で隙ができたら、殺されかねない。

助けるなら、あいつが油断している隙を突いたりしたうえで、彼女自身をどうにかしないと無理だ。

だけど、この後しようとしていることを考えるなら……

悠長に救出方法だけ考えている時間はない。

周囲にいる人の数、建物、逃げ道、そして空中に浮かぶクルーザー。

乱入者たちの頭の中から拾った情報が、一つの最悪な未来として重なっていく。

ここで止められなければ、被害はこの場だけでは終わらない。

 

「なにが、どうなってんの?」

 

「透ちゃん、通信機貸してっ!」

 

「えっ!?」

 

透ちゃんが持っていた通信端末をひったくる。

この状況下でも広域で通信できる特別製の、ヘッドセットとかでの音声通信よりも高性能なそれ。

大急ぎで話が通じる大人……オールマイトに通信をつなぐ。

っ、早くつながってよ……!

通信にかかる少しのラグにさえイライラしてしまう。

指先が汗で滑る。呼吸が浅くなる。

たった数秒。それだけなのに、今はその数秒の間にも何十人、何百人という人が危険に近づいている気がした。

逃げようとしているギンジを男が弾き飛ばしたりしているのとかを気にする余裕すらない。

 

『どうした!なにが起こ——』

 

「オールマイト!!報告です!!今すぐに周囲の人間すべてを避難させてください!!あいつらの目的は、あの飛んでいるクルーザーの要塞化!!周囲の人間やものを呑み込んで巨大化します!!」

 

『っ、どういうこと——』

 

「あの女性、アンナ・シェルビーノの個性は過剰変容!適合者の個性を強化・増幅するものです!あのオールマイト擬きは、バル——」

 

「ダメじゃないか。これから私が平和の象徴となるための演説をするのだから」

 

「ぐっ!!?」

 

『波動少女っ!!』

 

一瞬で距離を詰められていた。

気づいた時には殴り飛ばされていた。

咄嗟に波動で身体強化をかけたけど、ほぼダメージを軽減できてない。

お腹を思いっきり殴られたせいでまともに呼吸ができなくなってしまっていた。

周囲にいた透ちゃんまで衝撃波に巻き込まれて吹き飛ばされているみたいだった。

 

そんな中でその男、バルド・ゴリーニは、オールマイトに似せた顔を歪ませながらこっちを睨んでいた。

 

「随分と若い上に気が早いヒーローだ。この俺に盾突こうっていうのか?平和の象徴となるこの俺に」

 

「平和の、象徴?」

 

私が痛みに耐えながら息を整えていると、警戒と怒りを滲ませた緑谷くんが問いかけた。

 

「オールマイトだよ」

 

「げほっ……けほっ……オールマイトは……悪事をしてない女性を殴り飛ばしたり……しない……」

 

「やれやれ、凡人にこの俺の崇高な理想は理解できんか……。ならば、子供にでも分かるように説明してあげようじゃないか!」

 

オールマイト擬きはそれ以上こっちを見ずに、歩いてクルーザーの方に向かい始めた。

クルーザーの前まで移動して振り返った男の手には、金色のコインがあった。

そのコインが地面に落ちると辺りに光が広がり、黒い円柱となって男を持ち上げていく。

そのまま男は次々とコインを落とすと、コインからカメラ、録音マイク、照明機器が生え、果てにはカメラ付きのドローンのようなものまで表れ始めた。

 

そして、男にスポットライトが当たる。

瓦礫と混乱の真ん中に、場違いなくらい整った舞台だけが出来上がる。

助けを求める声も、怯える人たちも、こいつにとっては全部背景でしかない。

自分が主役として映るための舞台装置。

その認識が思考から伝わってきて、胃の奥がまた重くなった。

 

「ハロー・エブリワン!俺は新しきオールマイト、次代の象徴となる男だ」

 

「新しい、オールマイト……」

 

「違う、あいつは……あの男は、ただのヴィランでしかない……!」

 

呆然と呟く緑谷くんに、強く反論する。

スポットライトを浴びた男は大げさな身振り手振りで言葉を続けた。

 

「オールマイトが、なぜ平和の象徴と呼ばれるようになったか……答えは至ってシンプル。強かったからだ」

 

オールマイト擬きは力強く拳を握る。

 

「オールマイトの強さにヴィランたちは平伏し……力を持たぬ者たちは、その強さに憧れ……畏怖と羨望の希望となり、やがて象徴となった。だが、その象徴は失われた。周りを見渡してみたまえ。ヴィランに敗れ、世界から見放され、法と秩序を失い、原始に戻ったこの日本を……!」

 

仰々しく演説する男の内心は、どこまでも自分勝手だった。

いや、力による支配を信仰しているという点については、嘘は一切言っていない。

だけど、嫌悪感を拭えなかった。

強ければ従わせていい。

恐怖を与えれば秩序になる。

自分が頂点に立つことこそ平和なのだと、本気で信じている。

だからこそ厄介だった。嘘を暴けば終わる相手じゃない。

こいつ自身が、自分を正義だと疑っていない。

 

「こうなったのは、オールマイトが力を失ったからだ。今のヒーローが未熟だからだ。故に、俺は誓う!オールマイト誕生の地であるこの日本で、いや、この日本から、世界の新たな象徴となり飛び立つことを。オールマイトの理想を引き継ぐことを……」

 

男は、自分の言葉をかみしめるように俯き、少ししてから顔をあげ、自分を指さした。

 

「そう!次は、俺だ!」

 

『次は、君だ』

そのオールマイトの言葉が、嫌でも脳裏に過る。

オールマイトが次代を担う者たちに向けて発したそのメッセージ。

それを、この男は、自分に向けられたものだと認識していた。

どこまでも独善的で、どこまでも身勝手で、どこまでも、醜悪だった。

オールマイトとは似ても似つかない。

心の奥底まで悪意で染まった醜悪なヴィラン。

それがこの、バルド・ゴリーニという男だった。

強い吐き気を感じて、思わず口を押えてしまう。

顔だけじゃない。言葉まで、立ち振る舞いまで、オールマイトをなぞろうとしている。

なのに、その全部が正反対の意味に塗り替えられている。

憧れを真似しているんじゃない。

象徴という名前だけを奪って、自分の支配を正当化する道具にしようとしている。

 

「俺が正義だ!俺が象徴だ!」

 

「何が正義だ!」

 

緑谷くんが飛び上がったのが見えた。

 

「ダメ……!緑谷くん……!こいつは……!!」

 

私が叫んで止める暇もなく、男の目の前までいってしまっていた。

 

「自分勝手に暴力を振るい……関係ない人たちを巻き込むなんてこと……オールマイトは絶対にしない!」

 

緑谷くんのその言葉には、人を理不尽に傷つけることへの怒りと、大切な人……今なお憧れである師を侮辱された怒りが浮かんでいた。

 

「お前はオールマイトなんかじゃない!」

 

その言葉を聞いたオールマイト擬きは、にやりと笑って緑谷くんを指で差し返すと、サムズダウンして高らかに言葉を続けた。

 

「ならば、君の否定を俺の力でねじ伏せようじゃないか!」

 

そこまで言うと、男はクルーザーの方にジャンプした。

男はクルーザーに乗ると、大量のコインをばらまき始めた。

 

「これが……象徴となる者の力……俺の力だ!」

 

大量のコインが地上に落ち、そこから莫大な光が広がっていく。

一枚一枚が地面へ触れるたび、光の筋が生き物みたいに走っていく。

舗装も瓦礫も、周囲の構造物も区別なく呑み込みながら、光はさらに枝分かれして広がっていた。

眩しさに目を細めても、視界の端から端まで白く染まっていくのが分かる。

謎の光は、男たちを乗せたクルーザーごと瞬く間に大きくなっていく。

……これが、思考で見えたクルーザーの要塞化か。

辺りに一気に光が広がっていく。

大丈夫。思考を見た限りでは、この光に飲み込まれても死ぬわけじゃない。

お茶子ちゃんたちが必死で避難民を助けようとしてるけど、間に合うわけがない。

周囲に無造作に広がった莫大な光の筋は、辺り一帯を全て呑み込んでいった。

 

それは、私も例外ではなかった。

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