目を開いたら、自分の部屋にいた。
その部屋の壁には、お姉ちゃんのポスターがびっしりと貼られている。
棚にも様々なお姉ちゃんグッズが飾られている。
精巧性を重視し、お姉ちゃんの笑い方に研究に研究を重ねて自作した1/4スケールお姉ちゃんフィギュア!
お姉ちゃんの可愛さを余すことなく詰め込んだ、天使と言っても過言ではないお姉ちゃんをデフォルメしたぬいぐるみ!
お姉ちゃんからおさがりでもらったけど着ないでそのまま家宝として丁重に保管している洋服!
本はもちろん全部私作の珠玉の逸品を厳選した神々しさすら放つ写真たちをまとめたお姉ちゃんアルバムだ!
コルクボードにもお姉ちゃんと一緒に行きたかったいろんなところで撮った私とのツーショットでいっぱい!
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!お姉ちゃんでいっぱい!!」
お姉ちゃんで満たされたこの部屋は天国だろうか。
私が密かに作ろうかと悩んだ上で、お姉ちゃんに嫌われたくないからと必死で自分を抑え込んで却下したポスターやフィギュアなどなどのお姉ちゃんグッズまで揃っているとか、ここはまさに天国。
「はぁ~……お姉ちゃん……かわいい……」
思わず置いてあるものを隅々まで確認しながら部屋の中を駆け回ってしまう。
このお姉ちゃんルームに透ちゃんを連れてきたらもっとお姉ちゃんの良さを理解してもらえるだろうか。
皆にもお姉ちゃんの良さを理解してもらいたい。もっともっと知ってもらいたい。
皆をここに連れてこないと。
ここでお姉ちゃんが如何に天使かを、如何に女神のごとき存在かを切々と語ればきっと皆も……
あ、このフィギュアすっごい。
コスチューム姿のお姉ちゃんのフィギュアを作るとなるとお姉ちゃんの絶世の美を表現すると同時に、その神のごときバランスのスタイルを再現しないといけないわけだけど、これはあまりにも完璧だ。
私でも息を呑んでしまうほど完璧なバランス。
……まさか私がここまで納得してしまう逸品があるとは。
このフィギュアは私の構想にはなかったやつだな……ここまで再現できるとなると……甲矢さんかな?
あの人ならあり得る。
いや、私以外だとあの人以外ありえない。
甲矢さんもきっとこういうフィギュアを作りたかったんだろうな。
今度語り合わないと。
「そんな幸せいっぱいの瑠璃ちゃんに、私が会いに来たよー!」
聞き覚えのある頭が蕩けてしまうような天上の声が聞こえた。
期待を胸に振り返ると、そこには期待通り私の大好きなお姉ちゃんが——
「………………は?」
……………………なんだここ。
幻じゃないか。
あり得ない。あり得ないあり得ないあり得ない。
「瑠璃ちゃん?どうしたの?おーい!」
「……偽物が……お姉ちゃんの真似をするなぁ!!」
あり得ない。
誰だこんな非道な作戦を考えたゴミクズは。
私がお姉ちゃんを間違えるわけないじゃないか。
波動まで再現するとは驚いたけど、私が見間違うはずがない。
「お前はお姉ちゃんじゃない。お姉ちゃんの真似をして騙そうとするなんて万死に値する」
目の前の偽物の身長は164.0㎝だ。
首を傾げたり前かがみになっていても、私が見間違えるはずがない。
お姉ちゃんの身長を完璧にトレースしている。そこは褒めてやる。
波動も、身長も、スタイルも、何もかも完璧にトレースしている。
だけど、それは、”今のお姉ちゃん”だ。
舐めるなよ偽物で騙そうとしたゴミクズ。
「私の記憶から再現したのかもしれないけど、その身長は、164cmのお姉ちゃんは、”今”のお姉ちゃんなんだよ!!それなのに私が見上げる角度があわない!!こんなの、見分けられないわけないでしょ!!!」
今私がお姉ちゃんの顔を見上げている角度からして、その身長差はおよそ18.2㎝。
この身長差になったことは、過去に、一度たりともない。
少なくとも、お姉ちゃんが164.0cmの時には。
今の私の身長だったら、147.4cmの私と164.0cmのお姉ちゃんの身長差は16.6cmだ。
つまりこれは、私の身長が下がっている。子供の頃の身長に戻っていないとあり得ない。
私がお姉ちゃんを見上げる角度を間違えるはずがない。
だって、大好きなお姉ちゃんを沢山沢山見上げてきたんだから。
それなのに、私が、間違えるはずが、ないんだから!!
そう強く認識した瞬間、周囲の風景が部屋から住宅街に変わった。
「……ここは……」
『なんなのこいつ……こわ!?』
……これ、私の精神はこいつの個性で作られた空間の中にいるのに、身体からの感知だけは精神に正常に伝わってきてるのか。
「……お姉ちゃんの名を騙った罪は重い……地の果てまで追いかけて消し炭にしてやる……デボラ・ゴリーニ……」
『ひぃっ!?なんでこいつこっちのこと分かってんのよ!?』
伝えたいことは伝えた。
脱出方法を考えないと。
デボラ・ゴリーニの思考から方法自体は分かってる。
あの嘘つき女に痛い目を見せて個性を解除してしまえばいい。
だけど、ここに囚われている精神の私だと対処する方法が分からない。
身体本体の動かし方が分からないのだ。
状況を把握するためにあたりを見渡す。
身体の波動の感知だけ頭に伝わってきてるせいで、視覚で確認しなきゃいけないのが面倒だな……
「……は?」
視覚で見て、様子のおかしいA組の皆を確認して、現実で感じ取っている周囲の波動から何を見せられているのかを把握した。
……こいつ本当にクズだな。
擁護のしようがない。
なんで、飯田くんや轟くんに、こんな残酷な夢を見せてるんだ、こいつ。
轟くんは両親に見守られながら兄弟4人で遊んでいるのが思考だけで伝わってくる。
飯田くんは、『Wインゲニウムだね!兄さん!』なんてあまりにも直接的な思考が聞こえてきた。
ふざけるなよヴィラン。
こんな人の傷を抉るような真似をして、何が楽しい夢だ。
あまりにも非道なその行いに怒りが抑えきれない。
そんなタイミングで、また人が増えたのが見えた。
……あの部屋にいるの、緑谷くんか。
さっきの私のお姉ちゃんルームのオールマイト版だな。
子供緑谷くんはすごく楽しそうに部屋を駆け回っている。
どうしよう、これが現実じゃないって気付かせれば多分私と同じ状態になって協力できるよね……どうすれば……
『違う。今、君が求めるものはそれじゃないだろう』
「ん……?」
知らない声がこの空間で聞こえたと思ってそっちに目を向けたら、今の姿の緑谷くんと、その後ろに白い髪の男性、さらには黒髪の……オールマイトの師匠の志村奈々さんの姿が見えた。
というか、それ以外にもたくさんの影が……これ、OFAの継承者たちの影か。
『言うなれば、精神的幻想空間と言ったところか』
『ヴィランの個性を受けた者たちの精神が、この空間に集まっている』
『意識を戻しても、ここから抜け出せないさ』
『そっちの少女ならある程度情報を持っているかもしれない。協力して脱出する方法を探すんだ』
「そっちの少女って……波動さん!?」
「ん……緑谷くん……さっきぶり……」
私が声をかけるころには、継承者の影はかき消えていた。
初めてみたけど、見た目も体格も性格も全く違いそうな人たちの寄せ集めだった。
緑谷くん自体も結構独特なタイプ……って思ったけど、オールマイトと似たような狂った思考してる似た者師弟だったなこの2人。
8代目と9代目は似たようなもんと。
「波動さん、どうしてここに?」
「緑谷くんを追いかけて穴を降りたら……山についた途端に地面に穴が空いて……フリーフォール……」
「そ、それは……すごいね……」
「ん……事情は概ね把握してるけど……脱出方法……私にも正確には分からない……外の世界の個性使用者を攻撃しないとダメそうだけど……方法がなくて……」
「……?波動さん、外の情報認識できてるの?」
「体が波動で読み取った情報だけなら……でもそれだけ……何ができるわけでもない……こっちで明確な思考してないと身体側の思考も読めないし……」
「そっかぁ……そうなると、どうにかこっちから現実世界に干渉しなきゃってことだよね」
「ん……そういうこと……」
「そうなると、どうやって——」
そこまで言って、振り返った緑谷くんが固まった。
「緑谷くん……?」
「あの人は……」
「……サイボーグの人……」
「あはは……ジュリオ・ガンディーニさんだよ」
あの赤髪眼帯サイボーグさんそういう名前なのか。
「あの人に協力してもらえたり……しないかな……?生身は動かさなくても……機械だけでも動かせたりとか……」
「う、うーん……どうかなぁ……さっき協力してくれたけど、あくまで利用できるからって感じだったし……」
ふむ……ここにいるってことは本体側も近くにいるってことだよね。
思考は……特に見るべきところはなさそうか。
見た目通り、お嬢様のアンナさんに執事としてお茶を出してるだけな思考だ。
目の前で繰り広げられているその様子も、執事に構いたいお嬢様と一線を守ろうとする執事の微笑ましいお茶風景でしかない。
とても殺してくれなんて頼むような関係性には見えなかった。
しばらく緑谷くんと一緒に眺めていたら、急に様子が変わった。
アンナさんが苦しみだしたのだ。
外の本体の思考的にアンナさんの個性の暴走っぽい。
それを……ジュリオさんの個性で抑え込むのか。
発動条件は……右腕で触れること?
……だから殺してくれなんてことになるのか。
お嬢様としては暴走して戻れなくなってしまうなら、自我を保っているうちに殺して欲しい。
執事としては殺したくはないけど、右腕を何らかの事情で失ってしまった以上暴走も止められない。
ならせめてお嬢様の頼みだけでも……ってことか。
発作が収まったお嬢様はそれからも少しの間穏やかにお茶を続けた。
そんなタイミングで、外の悪意を感じる波動から嫌な思考を感じた。
『なるほど、そういうこと……あなたの目的はわかったわ。なら、楽しい時間はこれでおしまい』
「え……それはずるくない……?」
「どうしたの?」
「……洗脳ヴィラン、デボラ・ゴリーニが……現実側の洗脳済み避難民を使って……ジュリオさんを絞め殺そうとしてる……」
「え!?」
現実側で男が精神がここに囚われているジュリオさんの首を絞め始める。
それと同時に、何故かこっちのお嬢様がジュリオさんの首を絞め始めた。
……それなのに、ジュリオさんは反撃しようとすらしなかった。
こっち側での反撃しようとは出来るはず。
それをようとすらしない。
それどころか、現実側の思考が『アンナは守るべき主。自分の存在意義。大切な、大切なお嬢様』というようなものになっていた。
……つまり、お嬢様は守るべき存在だから攻撃するなんて以ての外ってこと?
この洗脳ヴィラン、それを読んでこの悪辣な方法を選んだのか。
どうしたものか……声をかければ気付いてくれるだろうか……
私がそう悩んでいたら、隣から大声が響き渡った。
「ジュリオさん!」
緑谷くんはそのままジュリオさんの方に走っていこうとする。
だけど、この空間は幻だと認識した者同士しか近づけないのか、一向に彼に近づけていなかった。
それでも、訴えかけるように叫び続けていた。
「これは幻想です!現実じゃない!!意識をしっかりと持って!!」
「幻想……——なぜ、腕が……」
『そうか、これは……現実じゃない!』
しばらく続いた緑谷くんの言葉を聞いたジュリオさんがそう思考すると同時に、現実側で動きがあった。
ジュリオさんの眼帯が勝手に外れ、右目の義眼がギョロギョロと周囲を見渡す。
……え、これ、ジュリオさん機械の目が見えたものこっちでも見えてるの?
凄い……
こっちで何もない場所に向けて右腕を向けている。
波動で現実世界を感じ取れる私からしても、驚異の一言だった。
剥き出しになった右腕の機械の義手が銃に変化して、デボラ・ゴリーニに発砲したのだ。
次の瞬間、周囲の視界が切り替わった。
「そんな……私の個性から……逃れるなんて……」
よし、お姉ちゃんを騙ったクズヴィランを潰そう。
そう意気込んで足に波動を圧縮していると、アンナさんも洗脳が溶けて動き出しているのが見えた。
「ジュリオ……」
「お嬢様……」
「ジュリオ……!」
アンナさんが駆け寄ってくる。
だけどジュリオさんは、そのアンナさんに銃口を向けた。
少し前から投稿している新作宣伝
※ユアネクスト編最新話にのみ表示されるようにつけ外ししているため連日見ている人には申し訳ありません
一次創作ハイファンタジー、箱入り巫女が幽霊となんやかんやしながら死に戻りする物語です。
今作と同様、最後までプロットを詰めに詰めてから書き始めているので、積み上げた伏線やそれまでの流れが中盤~終盤にかけて一気に意味を持つ構造になってます。
書き溜めもたっぷり94話分あり!
文章の雰囲気も今作とほぼ変わりはないはず。
もしよかったら読んでいただけると滅茶苦茶喜びます。
天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~