銃声が鳴った。
「なぜ……!」
まぁ、予想通りというかなんというか、緑谷くんがその銃口を空に向けさせて外させたわけだけど。
緑谷くんはジュリオさんに怒りの形相を向けられている。
私も動こうかと思ったけど、身体の節々が痛くてすぐに動けなかった。
あの嘘つき女、絶対私にも過剰変容試したな……
それで不適合だったと。
身体の中を集中して見てみると、異物と思われる私のものじゃない個性因子が暴れまくって淘汰されていっている……気がする。
多分だけど。個性因子の波動を見るとか、因子が小さすぎて見えたもんじゃないから、あくまで感覚的に自分のものじゃない波動が体内にある気がするっていう感じだ。
つまり、これによる激痛と。すぐにどうこうできるものじゃないなこれ。
完全に因子が淘汰されきるのを待つしかない。
アンナさんを助けに行くとかできる状態でもないな。
……ジュリオさんへの対応は緑谷くんに任せるか。
アンナさんと嘘つき女は唐突に開いた扉に入って消えてしまった。
扉も、2人が通ってすぐに消えてしまっている。
そんな中、2人が消えてすぐに、ジュリオさんは緑谷くんの胸ぐらを掴んでいた。
「なぜ邪魔をした!?ヒーロー気取りの偽善者がっ!なにもわかってねーくせして、勝手に首突っ込みやがって!最後の……最後のチャンスかもしれなかったんだぞっ!」
「撃たせたくなかった!だって、あなたがつらそうな顔をしていた!本当は、アンナさんを救けたいと思っているんじゃないんですか……!?」
「救けてーよ!ああ、救けたいに決まってる!……でも、もうダメだ……殺すしかねーんだよ」
「どうして、そう言い切れるんですか」
「それが、あの子の願いだからだ……」
……緑谷くん、私が伝えた情報を直接言わずに本人の意思を確認しようとしてるのか。
協力関係を築きたいみたいだから、納得ではあるけど。
緑谷くんみたいな狂った思考してる狂人からしたら、救けようとしない方がおかしいだろうし。
そこからジュリオさんは、ゆっくりと事情を話し始めた。
過剰変容のメリットはもちろん、使用者の中でもその個性因子が増え続けて暴走してしまうことや、他人に触れることすら恐怖を抱いてしまうという本人にとっての極大のデメリットまで。
包み隠さずに。
自分が執事として仕えていた理由や、因子相殺のことまで含めて。
右腕で触れた相手の個性因子と自分の個性因子を対消滅させることができるらしい。
なるほど、これがさっきの空間でやっていたことの正体か。
これが出来なくなったから本人の願い通り殺そうとしたと。
「もう、個性は使えねぇ……救けたくても、できねぇんだよ……」
「でも……」
「彼女の個性が暴走したら、対象者の因子は無限に変容し続け、誰にも止められなくなる。だから、俺は……その前に……」
「さっきのヴィランの個性の中で見ました。ジュリオさんとアンナさんが微笑み合っているのを……あんな表情をしていたあなたが、アンナさんを殺せるとはとても思えません……」
「笑い方なんて忘れたよ、あの日からな……」
「……だったら、僕が笑わせます。アンナさんを救けて、あなたを笑わせます」
「どうやってだ!?救う方法なんかねぇ!」
……諦めるの、早くない??
いや、私が相澤先生のことを知ってるからっていうのもあるけど、個性を抑え込む方法なんて他にもあるし……なんなら、生きてさえいてくれれば、最悪エリちゃんに戻してもらうことだってできると思うんだけど。
痛みも引いてきたし、立ち上がってジュリオさんの方に近づいていく。
「……まだ諦める必要……ないと思いますけど……」
「っ、なんだと……」
「特定条件下で……対象の個性を消すヒーローもいます……他にも対処できる個性をいくつか知っています……アングラなものまで含めれば……個性を消す銃弾なんていうものもあるんです……対処できないと決めつけるのは……早いと思います……」
私がそこまでいうと、起きていたらしいお茶子ちゃんが通り抜けた。
その手にはさっきジュリオさんが落としたアンナさんの写真が握られている。
「アンナさんを救けよう」
ジュリオさんは写真も受け取らずに俯いている。
響いてるのは間違いない。
「すべての事情を知ったわけではありませんが……それでも俺は、アンナさんという女性を救けるべきだと思います」
「波動は暴走前提で話してたけど、その子、まだ暴走してないんでしょ?」
「解決法があるかもしんねーし」
……いつの間にか気絶していた皆も起きていた。
次々に彼に言葉を投げかけている。
この人の思考は、すごく純粋な思いでいっぱいだった。
見ているこっちが苦しくなるくらい、純粋にアンナさんを想って、自分を押し殺して、願いを叶えてあげようとしているのだ。
ある程度予想はしてたけど、ここまでだとは思ってなかった。
こんなにいい人に、協力しない理由がない。
……思考の口調はだいぶ荒いみたいだけど。
さっき思考で見えたガキ様ってなに?
様を付ければ丁寧になると思ってる人なの?
それが仕えていたシェルビーノ流の礼儀なの?
皆の説得を受けて、ジュリオさんは写真を受け取って救ける意志を固めてくれた。
ついでにオールマイト擬き……ダークマイト?って名乗っているらしいバルド・ゴリーニから逃げてきた爆豪くんたち1班も合流した。
それでダークマイトをどうにかする方針にはなったんだけど……今はひとまず避難民の人たちへの対応を優先していた。
「……百ちゃん……紙とペン出せる……?」
「もちろん。問題ありませんわ」
「ありがと……」
スッと渡してくれた紙に周囲の地形や情報をすらすらと書き込んでいく。
ちゃんと複数枚の紙を渡してくれてて助かる。
近くにある避難所の位置とそこまでの順路を真っ先に書き込んでいく。
「砂藤くん……パワー系の人たち集めて……ここに向かって……」
「パワー系?なんでだ?」
「ここに避難所が取り込まれてるから……食料とか取ってきて……」
「そういうことか!緑谷!常闇!切島!あとは……尾白!ちょっとこっち来てくれ!」
「じゃあ……あと任せる……」
「おう!任せてくれ!」
砂藤くんが力強く頷いてくれる。
私はもっと別方向、デボラ・ゴリーニが逃げた方向の感知に集中するべきだ。
一応、部屋の端の方まで移動して感知できるギリギリまで見た上で確認したけど、ここ自体が割と外郭寄りなのか、中心部は見えない。
だけど、さっきあいつらが消えた時に穴が出来た扉と、そこから接続された通路は分かる。
その通路がつながる先は、ほぼほぼダークマイトがいる場所だろう。
その通路までの地図を作るのだ。
一応、さっきから周囲を注意深く見てるけど、階層間の通路に関しては今のところ形を変えたりもしてなさそうだし。
サラサラ書いてると後ろから爆豪くんが近づいてくるのが感じ取れた。
「分かりそうか」
「ん……この後組み替えられなければだけど……」
「それはひとまず無視していい。どのみちそれで逃げられたらどうしようもねぇ」
「多分だけど……橋みたいなの作ってるから……」
「橋だぁ?」
怪訝な顔をしている爆豪くんにうんうんと頷いて書いている途中だった橋のイラストを、こういうのと見せつけるように示す。
「……つまり、招き入れようとしてるってか?」
「意図は分からないけど……逃げた方角と一致する……アンナさんの個性からして……バルド・ゴリーニ以外の場所と思えない……」
「……バルド・ゴリーニってのは誰だ」
「ダークマイトのこと……」
「その橋に繋がる通路は……ここか。おい、この通路に向けて風穴開けられそうな場所はどのへんだ」
「やるつもり……?いいけど……こっち」
さっきの広場から下方向に破壊すれば、あるいは繋げられるかもしれない。
そう思って案内した。
「いっぱいあるから慌てないで」
広場の方では、回収してきた物資を皆が配っているところだった。
「で」
「波動弾……!!」
波動弾を形成して大体の方角の壁あたりに叩きつけて印をつける。
あるにはあるけど、別のフロアに向かう穴と違って通路は本当に隔絶されている。
多分さっきの扉の個性みたいなので使う時だけ繋げてるんだろう。
アンナさんはその通路すら無視して恐らく中心地に向かって連れていかれてたからあくまで多分だけど。
「あそこ……見える……?あの先に……通路が伸びてる……ただ……少し壊さないと貫通しないよ……その後自動修復が入るかも不明……」
足元に急に穴をあけて落としたり、その穴を閉じたりできている以上、壁や地面も即塞げると考えるべきだ。
なんなら、通路を走ってる途中に通路が塞がれて内部で圧殺なんていう悪辣なことも不可能とは思えない。
「ここ……内部構造も自由自在に変えられるみたいだから……圧殺される可能性もある……注意して……」
「分かってるよんなもん。舐めんな。場所だけわかりゃこっちでなんとかする。デク!力——」
爆豪くんがそう叫ぼうとした瞬間、辺りに笑い声が響いた。
『FUFUFU……』
避難民の頭上あたりに、モニターのようなものが表示された。
『救助活動に精が出るね!』
「あいつは!」
緑谷くんが反射的に叫ぶ。
それを見たバルド・ゴリーニは上機嫌でわざとらしい身振り手振りをしながら語り始めた。
『一つ問おう。新時代を作るには、何が必要だと思うかね?そう、破壊だ。過去の栄光、しがらみ、旧態依然たる姿勢……それら全てを駆逐し、新たなる秩序を構築するのだ。もちろん、その中には、オールマイトの母校である雄英高校も入っている』
……最悪だ。
今雄英を破壊されるのは、対死柄木を考えると致命傷でしかない。
オールマイトに固執してそういう計画を立てたみたいだけど、仮にこれで私たちヒーロー側に勝ったとして、その先はどうするつもりなんだ。
絶対的な力による支配。
それを、AFOが許すはずがない。
AFOの下につくというなら可能性はあるかもしれないけど、さっき見たこいつの思考は、それを許容できるような人間のソレではなかった。
どう考えても抗争になる。
復活した死柄木に全てを破壊されて、こいつ自身の個性も、アンナさんの個性も、AFOに奪われるのがオチだろう。
こいつ、自分が死柄木やAFOよりも上だとでも思っているのか。
なんなら、私たちをどうにかするときにOFA継承者を殺してしまう可能性も考えてない。
AFOはOFAを欲しがっている。つまり、その個性が消えるような真似だけは絶対に許せない。
この情報を外から知るのは困難だから仕方ない。
とはいえ、私たちが敗北し、OFAが消えかねない状況になれば、なりふり構わずAFOが出てくる可能性が高い。
この状況に陥った以上、死柄木が完成したらどう足掻いても勝てないと思うし、バルド・ゴリーニの勝機はここしかないだろう。
だけど、その場合、私たちと戦って消耗した直後に、AFOとの全面抗争待ったなしだ。
そんなの、どうやって勝つというのか。
こいつの本当の勝機は、ヒーローと超常解放戦線の決戦後に漁夫の利を得る方法以外あり得なかった。
むしろ、それをされてしまったら、本当にこいつの天下があり得た。
『まさにスクラップ・アンド・ビルド!負の遺産を一掃し、新たな伝説が始まる……この俺の伝説がな!』
「雄英を狙うのだけは……本当におすすめしないよ……なんなら、私たちを攻撃するこの状況自体……失敗としか思えない……」
『FUFUFU……負け惜しみかな?新たな時代の到来が恐ろしいのだろう。それも仕方ない。絶対的な力には、恐怖してしまうものだ』
「根本的に間違ってる……本当に——」
『俺は寛大だ。力を畏怖する小娘の戯言として見逃してあげようじゃないか。HAHAHA!』
そこで通信が途切れた。
……結構ちゃんと忠告してあげたんだけどな。
「どっちにしろ、雄英は守らねぇといけねぇ。委員長ズ!!要救助者たちを連れて脱出経路を探せ!波動もだ!探しものはテメェの感知以上の効率はあり得ねぇ!」
「分かった」
「分かりましたわ」
「ん……了解……」
「芦戸、砂藤、溶解液とバカ力は脱出に使える!委員長につけ!切島、上鳴、障子、妨害が来たら排除だ!轟、常闇、デクは俺についてこい!」
……うん。指示自体は納得だ。
だいぶ省略してるけど、最後に呼んだ純戦闘系の実力者以外の全員は要救助者の護衛と脱出経路探しに回したってことだし。
荒々しく言っている割に、ちゃんと個々人を見た上で、最大限に避難民の安全を優先して少数で叩きに行く構成を指示してくれている。
反論する理由がなかった。
「パチモン野郎を……ぶっ潰す!!」
少し前から投稿している新作宣伝
※ユアネクスト編最新話にのみ表示されるようにつけ外ししているため連日見ている人には申し訳ありません
一次創作ハイファンタジー、箱入り巫女が幽霊となんやかんやしながら死に戻りする物語です。
今作と同様、最後までプロットを詰めに詰めてから書き始めているので、積み上げた伏線やそれまでの流れが中盤~終盤にかけて一気に意味を持つ構造になってます。
書き溜めもたっぷり94話分あり!
文章の雰囲気も今作とほぼ変わりはないはず。
もしよかったら読んでいただけると滅茶苦茶喜びます。
天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~