この中では、間違いなく今の私は戦える側だ。
そう自分に言い聞かせる。
いや、言い聞かせる必要もなく、事実ではあるんだけど……まだそれを受け入れがたい自分がいる。
それでも、デボラ・ゴリーニの飯田くんや轟くんへの所業を思い出すだけで腸が煮えくり返る。
ジュリオさんとアンナさんの事情を知ってしまえば、それはさらに怒りとして湧き出してくる。
だけど、それだけにするわけにはいかない。
私は、勇者みたいな力を持っているんだ。
魔王の力なんかじゃない。
爆豪くんはそう言ってくれた。
怒りのままに戦うのは、勇者なんかじゃない。
透ちゃんたちや、避難民の人たちのことを思い出す。
私の後ろにいる、守るべき人たち。
それ以外にも、雄英を壊されてはならないという強い使命感。
これは、その守るための戦いでもあるんだから。
そう強く意識すると、身体から湧き上がる波動がさらに強くなるのを感じる。
……飛べる。
直感でそう思った。
目前に迫る大群に、皆はもう駆け出している。
少しでも皆を助けるために、少しでも皆が楽に戦えるようにするために。
やろう。
地面を強く蹴って飛び上がる。
思った通り、身体は簡単に浮かび上がった。
手に波動を集めて一気に波動弾も形成する。
それだけで、いつもの数倍は大きいものが形成された。
——やっぱり、この状態はすごい。
敵のど真ん中に向けて、一気に飛び込む。
着地すると同時に、周囲の大量の怪物の顔をこっちを向いた。
「波動弾っ!!」
両手の巨大な波動弾を、別方向に飛ばす。
その直後に、足に圧縮した波動で正面の怪物の目の前に高速で跳んだ。
「発勁っ!!」
直撃すると同時に、怪物は吹き飛んだ。
戦える。大丈夫。
そう確信する。
皆が戦っている声も後ろから聞こえる。
……聞こえるんだけど、百ちゃんのあれは何と言いたくなる殲滅兵器が、すごく気になる。
え、本当になにあれは。
レーザー砲?
上鳴くんが持っているコードから一気に充電しているのが感じ取れる。
百ちゃんは、私が後ろに漏らしちゃってる大群に向けて、レーザー砲を照射した。
右から左にレーザービームが流れて、地面がめくれ上がるほどの大爆発が起きる。
……連携技とはいえ怖すぎる。
他にも響香ちゃんのハートビートファズや峰田くんのもぎもぎが飛び交っている。
「うおおおおおお!」
そんな飛び道具が途切れたタイミングで、飯田くんや切島くんたち前衛組が走りこんできた。
私以外にも前衛が増えて、一気に乱戦に移っていった。
戦況は変わらない。
物量で押し切られそうになるけど、皆必死で戦っている。
近づいてくる怪物を波動で吹き飛ばす。
後ろに通しすぎた分には波動弾を投げつける。
皆も同じだ。
今のところ最終防衛ラインになっている市街地入り口辺りに百ちゃんがレーザー砲を増設し始めているくらいで、それすらも数の暴力でどんどん削られていっている。
分かってはいたけど、無限に湧き出し続けるっていうのが厄介すぎる。
だけど、ちょうど、この市街地の直下辺りが盛大に破壊されたのを感じた。
お茶子ちゃんたちの思考を見る限り、脱出成功なのは間違いない。
空中落下した結果どうなったかまでは確認できないけど、それだけは朗報だ。
『皆……!!避難民脱出成功……!!』
「おお!!」
「よっしゃあ!!」
「じゃあ俺らもこいつらどうにかして緑谷たちの方助けてやらねぇとなぁ!!」
そうだ。
敵はここだけじゃない。
雄英はまだ狙われたままだ。
ここをどうにかして、緑谷くんたちを助けに行くべきだ。
それは皆同じ考えだったみたいで、気合を入れなおして周囲の殲滅を続けている。
私だってそうだ。
発勁、波動蹴、真空波、波動弾を駆使して手当たり次第に殲滅を続けていった。
だけど、それでも、状況は何も変わらなかった。
敵の数が多すぎるのだ。
死すら厭わずに攻めてくる無尽蔵の怪物軍団。
こんなのをどうにかして助けに行くなんて、至難の業でしかなかった。
そんな時に、変化が訪れた。
急に怪物たちが動きを止め、次々と地面に溶けるようにして消えていく。
いや、消えていくというか、間違いなく消えている。
元の素材に戻されている。
素材の使い道は、嫌でも理解できた。
怪物たちは、草原の少し離れたところに再生成されていた。
その怪物たちは積み重なるようにして一塊になっていく。
「なんですの、あれ……」
「分からない……でも……」
距離の問題もあって、皆も呆然としながらその変化を見守ることしかできていなかった。
怪物たちは形を変え、変形し、そして……
「なん、だ!?ありゃあ!?」
「……正直……気持ち悪いんだけど……なにあれ……」
なんか生理的に受け付けない見た目をしている。
完成した怪物は、大きな木のように伸びていき、巨大な珊瑚と植物が混ざったような……
……は?
っ……おいブドウ頭今何考えたこいつ。
あの怪物の頭に大量の触手のようなものが蠢いているのは間違いない。
だけど、私にまで伝わってきたブドウ頭の頭に過ったその卑猥な思考はあまりにもあんまりなもので、こんな時に何考えてるんだと言わざるを得ない。
え、なに、そっち系のゲームとか雑誌ってこんなの出てくるの。
そういうのやってる男の人を直視しないようにしてるからあんまり把握してなかったんだけどそんな世界があるの。
なにそれ怖い。
「くっ……!皆諦めるな!」
飯田くんのその声掛けに意識を一気に引き戻された。
よかった、峰田くんもちゃんと普通の思考に戻ってくれた。
これで集中できる。
ただ、さっきからそうだったけどこいつには思考というものがない。
人型だった時から思考が読めなかった。
生き物みたいに動いてるけど、生物じゃない。
錬金で作られたロボットみたいな印象だ。
「全員散開!!」
飯田くんの声が響く。
その直後、怪物の全身が膨れ上がった。
嫌な予感。
『下!!』
考えるより先に皆へ飛ばす。
「地面から来る!!」
何人かが反射的に跳んだ直後。
地面を突き破って、何本もの触手が飛び出した。
「うおっ!?」
「きゃっ!」
「刺した触手がそのまま根っこみたいに広がってる……!どこから攻撃がくるか分からない……!注意して……!」
やっぱり!
「なら大本を潰すぞ!」
切島くんが走り出す。
その横を飯田くんが一気に追い抜いた。
「レシプロ——バースト!」
二人が正面から注意を引きつける。
怪物の触手が2人に集中する。
今がチャンスかな。
私は地面を蹴った。
一気に上空へ。
両手に波動を集める。
「波動弾っ!!」
巨大な二つの塊を怪物の胴体へ叩き込む。
轟音が鳴って、珊瑚みたいな外殻が大きく吹き飛んだ。
でも止まらない。
吹き飛ばされた断面がうねり、その中からまた触手が生えてくる。
「うっわ、本当に気持ち悪い!」
「言ってる場合かよ!」
上鳴くんの叫びと同時に、後方で轟音が響いた。
百ちゃんのレーザー砲が一直線の光が怪物の側面を貫く。
一瞬遅れて大爆発が起きて、巨体が大きく傾いた。
「押し切りますわよ!!」
百ちゃんの声。
「上鳴さん、もう一度!」
「充電中だっての!」
「耳郎さん!」
「任せて!」
響香ちゃんのハートビートファズが叩き込まれる。
巨体が震える。
そこへ飯田くんたち前衛組が一斉に飛び込んだ。
切島くんが触手を受け止める。
飯田くんが根元を蹴り飛ばす。
障子くんたちも倒れそうになった皆を引き離している。
峰田くんのもぎもぎが飛んで、何本もの触手が互いにくっついた。
『っ!グレープジュース……!!そのまま押さえて……!!』
「言われなくてもやってらぁ!」
いい判断、いい動き。
さっきのことは一旦忘れてあげよう。
ピンチでは我が身を顧みずに身体を張る、腐ってもヒーローだった。
大量に投げつけられたもぎもぎで、触手同士でくっついて雁字搦めになり始めていた。
それを見ながら、私はさらに高度を上げた。
怪物の中心。
さっきのレーザーで外側が大きく削れている。
そこなら。
両手を合わせて、身体から溢れる波動を収束させていく。
『皆、離れて!!』
皆が一斉に距離を取った。
あの時ほどの規模じゃない。
それでも、やれる。
不思議とその確信があった。
使えることを前提として、密かに考えていた技名もある。
「……くらえっ!!波動の嵐っ!!」
収束させた波動を、そのまま正面に押し出す。
それだけで、波動は光線になって射出された。
青白い閃光が怪物の中心に直撃する。
凄まじい衝撃波が周囲へ広がり、怪物の巨体が内側から弾け飛ぶ。
巨大な珊瑚みたいな身体が砕ける。
触手が千切れる。
根が地面から引き剥がされる。
そして最後には、原型も残らないほどの残骸だけが周囲へ散らばった。
「……倒した?」
誰かがそう言った。
私も息を吐く。
やった。
そう思った高揚感は、次の瞬間に感じ取ってしまった感覚で、一瞬で叩き落された。
「え?」
私はゆっくり顔を上げる。
新しい波動が次々と現れていた。
1つ、2つ、3つ。
「……嘘でしょ」
5つ、8つ……10……まだ、増え続けてる。
『皆!!不意打ちに備えて!!今のやつが大量に来るよ!!』
声が震えた。
「なんだよ、これっ!?」
草原を見る。
少し離れた場所で地面が隆起していた。
一ヶ所だけじゃない。
1体1体の形成過程は最初と変わらない。
さっきと同じように、小型の怪物たちが地面から次々と生まれ、互いに折り重なっていく。
一つの山になる。
それが変形する。
それが、無数に増え続けている。
「洒落に……なりませんわね」
百ちゃんの声が僅かに掠れた。
見える範囲だけでも、数えきれないほどの怪物が次々と立ち上がっていく。
「何体いるんだよ……」
分からない。
私の感知範囲だけでも30体以上。
それどころか
「……うそでしょ」
もっと嫌なものを感じた。
さっき倒した怪物の残骸。
それが、動いている。
「まさか……」
砕け散った肉のような塊が、ゆっくりと地面に沈んでいく。
溶けるように。
吸い込まれるように。
その波動が消える。
代わりに、少し離れた場所で新しい反応が生まれた。
「再利用してる……」
理解した瞬間、背筋が寒くなった。
「こいつら……倒したやつまで材料に戻してる……!」
「はぁ!?」
「じゃあ今の全部無駄だったってこと!?」
完全に無駄ではない。
時間は稼げた。
でも、倒し続ければいつか終わる戦いじゃないってことを、嫌でも理解させられた。
倒したものまで素材に戻されるなら、こっちだけが消耗していく。
私は自分の手を見る。
まだ波動は溢れている。
まだ戦えはする。
波動の嵐をあと何回使えるかは、分からないけど。
でも——あと何発撃てばいい?
「いけませんわ!」
百ちゃんの声が飛んできた。
「え?」
「これ以上、殲滅を目的に戦うべきではありません!」
百ちゃんは怪物たちを睨みながら、それでも冷静だった。
「相手の総数が把握できません!それどころか、撃破した個体すら再び材料へ戻されています!」
「でも、このままじゃ――」
「避難民の方々は既に脱出しております!」
その言葉で止まった。
そうだ。
もう守るべき人たちは、背後にはいない。
「我々がここに留まり続ける必要はありませんわ!本来の目的を思い出してくださいませ!」
緑谷くんたちは、まだ戦っている。
「八百万くんの言う通りだ!」
飯田くんもすぐに声を上げた。
「我々の目的はこの敵を全滅させることではない! 避難民の安全が確保された以上、ここで消耗戦を続ける理由はない!」
「じゃあ……」
「突破しますわ」
百ちゃんが断言した。
「この敵を倒しきる必要はありません。緑谷さんたちのいる場所への道さえ作れればよろしいのです!」
皆の思考も変わっていく。
どう倒すかじゃない。
どうきり抜けるか。
そう切り替えて、消耗戦を避けながらの戦いが始まった。
あれから、どれくらい戦い続けただろう。
波動弾。
発勁。
波動蹴。
それに波動の嵐。
それも普段より遥かに高い出力で使い続けている。
波動そのものはまだ湧いてくる。
だけど、感情に引っ張られて、かろうじて、という感じでしかない。
身体の方が追いついてない。
腕が重い。足も少し痺れてる。
呼吸も荒い。
……まずい。
まだかろうじて戦えはするけど、皆も同じだった。
「はぁ……はぁ……!」
飯田くんのエンジン音が、少し変だ。
熱が溜まってる。
切島くんの硬化にも細かい亀裂みたいなものが見える。
響香ちゃんも耳を押さえている。
上鳴くんは——
「ヤオモモぉ……まだ充電すんの……?」
かなりやばそう。
既にあの顔になりかけてる。
「もう少しです!もう少しだけお願いしますわ!」
「その台詞さっきも聞いた気がすんだけどぉ……」
百ちゃん自身も汗だくだ。
あんな巨大なレーザー砲を何門作った分からないほどだろうし。
本当にまずい。
数えきれないくらい倒したはず。
それなのに、向こうは全く減っていない。
『また来る……!』
背後。
さっき通った場所。
崩した怪物がもう地面へ溶け始めている。
その少し先で、新しい個体が立ち上がる。
「キリがねぇ……!」
切島くんが呻く。
私たちが1体倒す間に、向こうは道を2体再生してくる。
むしろ増えているような状況だった。
「もう一発……!」
両手に波動を集める。
まだ撃てる。
撃たなきゃだめだ。
正面に3体。
身体の奥から波動を引っ張り出す。
「っ……!」
頭が痛い。
視界も一瞬揺れた。
その瞬間。
地面が爆発した。
「うわあああっ!?」
「きゃああっ!」
何十本もの触手が一斉に飛び出す。
皆が散る。
違う、散らされた。
影響を受けてないのは、飛んでる私くらいだ。
まずい。まずいまずいまずい。
セーブなんてしてる余裕はない。
この状況で散らされた皆は、各個撃破されかねない。
やるしかない。
波動を絞り出してでも。
「え……?」
そう言い聞かせて波動を絞りだす様に集め始めたタイミングで、私の感知範囲の端に、見覚えのある波動が見えた。
それも一つじゃない。
何人も、見覚えしかない波動が、さっき避難民を逃がした下層部辺りに乗り込んでくる。
しかも、その中でも、一つだけ、異常な速さで跳んでくる波動が感じ取れた。
それから1分も経たずに、空から白い影が落ちてきた。
「
轟音が響いて、巨大怪物の頭部が消えた。
上から叩き込まれた一撃で、巨大な身体が地面へ叩き伏せられる。
「よく耐えたじゃねぇかっ!あたしの獲物は残ってんだろうな!」
「ミルコさん……!」
残骸のすぐ近くに、楽しそうなくらい獰猛な笑顔を浮かべたミルコさんが立っていた。
少し前から投稿している新作宣伝
※ユアネクスト編最新話にのみ表示されるようにつけ外ししているため連日見ている人には申し訳ありません
一次創作ハイファンタジー、箱入り巫女が幽霊となんやかんやしながら死に戻りする物語です。
今作と同様、最後までプロットを詰めに詰めてから書き始めているので、積み上げた伏線やそれまでの流れが中盤~終盤にかけて一気に意味を持つ構造になってます。
書き溜めもたっぷり94話分あり!
文章の雰囲気も今作とほぼ変わりはないはず。
もしよかったら読んでいただけると滅茶苦茶喜びます。
天青の巫女 ~箱入り少女とおちゃらけ幽霊の死に戻り救済譚~