波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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授業参観のお知らせ

救助訓練レースから数日後。

オールマイトの余命のことは、今はどうしようもないからこれ以上考えないことにした。

 

今日のヒーロー基礎学は内容がなかなか濃かった。

倒壊した廃墟での救助袋の使用といった実践的訓練から、ヘリコプターを使用した雪山、水辺での救助訓練という内容だったからだ。

救助袋の使用を爆豪くんが拒否して相澤先生からお説教が入ったり、雪山で梅雨ちゃんが寝ちゃったりと色々あった。

救助訓練は私の独壇場であったことは言うまでもない。

水辺は私と梅雨ちゃんの連携で速攻で救助できたりもした。

そんなUSJでのヒーロー基礎学の後、私たちは教室に戻って来ていた。

 

「オイラ、海で溺れたら人工呼吸は女子にしてもらうんだ……思わず息の根、止まっちまうようなディープなやつを……!」

 

「その前に、もう止まってんじゃねぇ?」

 

「煩悩の塊……」

 

上鳴くんと話しながら、ブドウ頭が気持ち悪い妄想を垂れ流していた。

それに対して常闇くんがボソッと苦言を呈するように呟く。

ブドウ頭が溺れていても、彼の本性を知っている女子は演技を疑って人工呼吸なんてしたがらないと思う。

それに、仮に本当に溺れて心肺停止に陥っていたとしても、通常通り心肺蘇生を行うのがセオリーのはずだ。

心臓マッサージをされている状況でそんな悠長な感想を抱けるなら、逆に尊敬してしまう。

 

そんなくだらない話の中、相澤先生が教室に入ってきた。

いつも通り、皆は先生が入ってきた瞬間に即座に反応して席に戻っている。

 

「はい、おつかれ。早速だが、再来週授業参観を行います」

 

「「「授業参観ー!?」」」

 

先生の言葉に、皆は声を揃えてびっくりしている。相変わらず仲がいい。

そんな感じでざわついている間に、相澤先生はプリントを配り始めた。

 

「プリントは必ず保護者に渡すように。で、授業の内容だが保護者への感謝の手紙だ。書いてくるように」

 

伝えられた内容に、一度教室は静まり返った後ドッと笑い声が響いた。

 

「まっさかー、小学生じゃあるまいし」

 

ありえないでしょと言わんばかりの調子で上鳴くんが先生に言う。

だけど、先生はその言葉を即座に切って捨てた。

 

「俺が冗談を言うと思うか?」

 

その静かな声に、教室は静まり返った。

 

「いつもお世話になっている保護者への感謝の手紙を朗読してもらう」

 

相澤先生がそこまで言って、皆はようやくこの現実を受け入れ始めたようだった。

 

「マジでー!?冗談だろ!」

 

「流石に恥ずいよねぇ……」

 

皆口々に嫌そうな感想を漏らしている。

私は何とも思っていないし、文句も言わない。

私は相澤先生は冗談は言わないけど、普通に嘘を吐く人だということを知っている。

実際に相澤先生は今も嘘をついている。

悪意とかは感じないから悪質な嘘ではない。

授業の内容として言っていた保護者への手紙も、私たちに保護者のことを意識させることが目的みたいだし。

この感じだと、当然今言っていたような授業内容ではないだろうし、普通の授業でもないと思う。

 

私がそんなことを考えて込んでいると、飯田くんの声によって現実に引き戻された。

 

「静かにするんだ、皆!静かに!静かにー!!」

 

「飯田くん……声……おっきい……」

 

「飯田ちゃんの声が一番大きいわ」

 

私と梅雨ちゃんの指摘に、飯田くんは謝罪してから話を続けた。

 

「しかし先生、皆の動揺ももっともです。授業参観といえば、いつも受けている授業を保護者に観てもらうもの。それを感謝の手紙の朗読とは、納得がいきません!もっとヒーロー科らしい授業を観てもらうのが本来の目的ではないのでしょうか!?」

 

そんな感じで鼻息荒く言い切った飯田くんに、相澤先生が反論した。

 

「ヒーロー科だからだよ」

 

先生はその回答に困惑する皆を見回してから、さらに話を続けた。

 

「お前たちが目指しているヒーローは、救けてもらった人から感謝されることが多い。だからこそ、誰かに感謝するという気持ちを改めて考えろってことだ。ま、プロになれるかどうかはまだ分からないけどな」

 

「……なるほど!ヒーローとしての心構えを再確認する、そしてヒーローたる者、常に感謝の気持ちを忘れず謙虚であれ、ということを考える授業だったのですね!納得しました!!」

 

「納得はやっ」

 

飯田くんの180度反転した変わり身の早さに、お茶子ちゃんが噴き出す。

皆もこの説明を受けて諦めて受け入れることにしたようだ。

これ以上の反論はなかった。

 

「ま、その前に施設案内で軽く演習は披露してもらう予定だが」

 

「むしろそっちが本命じゃねえ!?」

 

上鳴くんの言う通り、こっちが本命だ。

ここで何かを起こすつもりのようだ。

というかこれ、わざわざ保護者を意識させる課題を出している辺りオールマイトの酷いサプライズの再来な気が……

 

 

 

「感謝の手紙、どうしようかなぁ」

 

透ちゃんがぼやいているけど、困っている様子はあまり感じられない。

 

「ん……私も……何書こうかな……」

 

保護者への手紙が仕込みのためだとしても、何も書かなかったら相澤先生のことだから何かしらの罰則とかしてきそうだ。

とりあえず書くとしても、内容をどうするか迷ってしまう。

お姉ちゃんへの感謝の手紙なら何枚でも書けるんだけど……

 

「改まって書くとなると内容迷っちゃうよね」

 

「そうだね……お姉ちゃんになら……いくらでも書けるんだけど……」

 

「あはは……瑠璃ちゃんは相変わらずだね……」

 

透ちゃんはなんとも言えない笑みを浮かべながら答えてきた。

さらに話を逸らすように言葉を続けようとしている。

お姉ちゃんへの感謝の手紙を書いた場合の内容を語ろうと思ったのに、残念。

 

「そういえば、瑠璃ちゃんってお姉さんと2人暮らしだったよね。実家ってどの辺なの?」

 

「実家は……秋田だよ……」

 

「じゃあ結構遠いねぇ。結構急なお知らせだけど、お父さんとお母さん、来れそう?」

 

「ん……お父さんは……分からないけど……お母さんは来れると思う……」

 

「そっか!じゃあ安心だね!」

 

透ちゃんがにっこりと笑顔を浮かべる。

見えないのに本当に表情豊かで可愛い。

 

「透ちゃんは……?」

 

「私?私は東京だから、その辺は心配ないと思うよ!」

 

「そっか……」

 

嬉しそうな透ちゃんに私も笑顔になってしまう。

発表されている授業参観の内容だと、親が来れない方がいいなんて人もいるだろうにそんな感情は微塵も感じない。

透ちゃん、本当にいい子だ。

 

 

 

そんな風に透ちゃんと話していたら、一度教室を出ていったはずの相澤先生が戻ってきた。

相澤先生が一度教室を出てから戻ってくるなんていう非合理的なことをするのも珍しい。

 

「波動、話がある。帰る前に職員室に来い」

 

それだけ言うと、先生はさっさと教室を出て行ってしまった。

 

「瑠璃ちゃん、何か呼び出されるようなことしちゃったの?」

 

「心当たり……ない……」

 

2人でひとしきり不思議がった後、遅くなると怒られそうだからということで透ちゃんと別れて職員室に向かった。

 

職員室の中は、相変わらず資料やプリントの束で雑然としている席が多い。

相澤先生のところまで進んでいくけど、なぜか今日は視線を多く向けられている気がする。

思考からして、さっきまで授業参観の内容で盛り上がっていたせいだと思われる。

やっぱり生徒には伝えていない内容があるみたいだ。一応深く読心すれば分かるだろうけど、相澤先生の今の思考からして必要なさそうだ。

チラチラと見られながら相澤先生の席までたどり着いて、先生に声をかける。

 

「先生……来ました……」

 

「来たか……お前を呼んだのは他でもない、授業参観についてだ」

 

先生はそう言って話を切り出した。

 

「お前に隠しておいても意味なさそうだし、単刀直入に言う。授業参観で――――」

 

そうして相澤先生から話されたのは授業参観の内容についてだった。

授業参観では保護者を人質にしてヴィラン役が暴れまわるといったシチュエーションで救助訓練を行うつもりだったらしい。

感謝の手紙は思考で読んだ通り、保護者を意識させて本気度を上げるための合理的虚偽みたいだった。

 

「お前の感知範囲外ですべての準備をするのがそもそも面倒だし、人質役の保護者の方たちに完璧な演技は求められん。途中で暴露されるくらいなら、お前にだけは伝えておくっていう判断だ」

 

「……話は分かりました……じゃあ……今回も私は……人質役とかの方がいいですか……?」

 

先生の話を聞いて、私がオールマイトのサプライズの時のように人質役になった方がいいかを質問してみる。

 

「いや、そこまではしなくていい。それに、毎度お前が人質役をしていると、お前が人質=仕込みと判断するやつが出てきそうだ」

 

それは確かに先生の言う通りだ。

いくら感知能力に優れているからといって、毎回人質になっていたらおかしすぎる。

絶対邪推する人が出てくる。

 

「今の話を口外したり、途中で暴露したりしなければそれでいい」

 

「それでいいなら……」

 

私が了承すると、相澤先生は目を閉じて静かに頷いた。

 

「ああ、そうだ。授業参観の内容を教えたからと言って、別に感謝の手紙を書く課題が無くなるわけじゃないからな。お前だけ書いてなかったら流石に不自然だ」

 

「はい……分かりました……」

 

そういうことらしい。

私も別に免除されるとは思っていなかったから、特に反論もせずに受け入れる。

 

「話はそれだけだ。もう帰っていいぞ」

 

これで話は終わりみたいだった。

思考もこれ以上の内容は読み取れないし、本当にこれですべてみたいだ。

私は相澤先生に一礼してから職員室を後にした。

 

 

 

教室に戻ると、透ちゃんが待ってくれていた。

 

「おかえり瑠璃ちゃん!なんの呼び出しだったの?」

 

当然のように呼び出しの目的を聞かれる。

まあ、透ちゃんが教室で待っていてくれたのは分かりきっていたから、あらかじめ言い訳は用意してある。

 

「ん……授業参観……3年生も同じ日にやるみたいで……親がどっちに来るのかとか……そのあたりを色々と……」

 

「あー、そっか。お姉さんも同じ日に授業参観じゃ、授業の内容によっては片方しか見られなくなっちゃうもんね」

 

私の言い訳であっさり納得してくれたらしい透ちゃんの様子に、心の中で安堵のため息を吐く。

いきなりバレましたなんてなったら、相澤先生に何をされるか分かった物じゃない。




半径1kmの探知範囲から出そうとすると面倒くさいことになるのでこの采配です。
ちなみに、この半径1kmがどの程度の距離かというと……
東京ドームが大体縦横それぞれ200m程度。
某ネズミの国が縦横それぞれ600m程度です。(地図から算出。間違ってたらすみません)

この1kmを自分を中心に360度感知できるわけなので、瑠璃に授業参観の内容を完全に隠蔽するためにはこの範囲の外で全ての準備をしないといけません。
そう考えると、瑠璃にだけ内容を明かすというのは合理的判断と言えるはずです。
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