雄英入試から1週間が経った。
あの日、結局保健室で目を覚ました私はその後特になにもなく帰路に就いた。
今まで我慢していた筆記試験の自己採点をした結果は、余裕で合格ライン。
ただ実技はおそらくギリギリ。どちらかというと不合格よりだと思う。
だけど今更慌てても仕方ないし、あの行動に後悔はない。
お父さんとお母さんには言っていないけど、お姉ちゃんにはギリギリダメかもしれないという弱音を吐いてしまった。
理由を聞かれたから、正直に試験での行動はお姉ちゃんに伝えてある。
そしたらお姉ちゃんは
「なんでダメかもしれないの?まだわかんないよ。それにいいことしたんだから、笑顔で胸張らないと!ね!」
なんて言ってニコニコしながら頭を撫でてくれた。
私も慰めてもらって少し前向きになったのもあって、もうなるようにしかならないと思っていた。
だから実家に戻ってからは、普段通りの生活をしながら結果を待っていた。
私よりも、むしろお父さんとお母さんの方がソワソワと落ち着かない様子で、何度も何度もポストを覗きに行ったりしているくらいだ。
私がポストに投函されるタイミングで声をかけようかと聞いてみたけど、遠慮されてしまった。
なんでも、こういうのを待つのは心配でもあるけど、楽しみの一つでもあるらしい。
今も、お母さんが今日10回目くらいのポスト確認に行っているところだった。
ついさっき『雄英か…』なんて考えながら投函した配達員がいたから、多分今回は入っているはずだ。
お母さんは封筒を手に、慌てた様子で戻ってきた。
「る、瑠璃!結果来たわよ!」
「ん……ありがと……」
間違いなく雄英からの封筒だ。
貰ったその場で丁寧に封を開けていく。
隣で見守るお母さんの『自分の部屋で一人で開けてもいいのに』なんていう思考が伝わってくる。
「ここで開けても……一人で開けても……結果……変わらないから……」
「そ、そっか。瑠璃がいいならいいんだけど」
お母さんもそれ以上は言ってこなかった。
どちらかというと結果をすぐに知りたいって感じっぽいけど。
封筒の中には、数枚の紙と丸い機械が入っていた。
機械が何かは分かる。投影装置だ。
受験生一人一人にこんなものを送ってくるなんてお金がかかってるなぁなんて思いつつ、机の中央に装置を置く。
すると、起動音と共に空中に映像が浮かび上がった。
『私が投影された!!!』
「オールマイト!?」
画面いっぱいに写ったのは、トレードマークの前髪がピンと反り立つ筋骨隆々の大男だった。
画風が違う不動のNo.1ヒーローオールマイトだ。
それに対してお母さんが驚愕の声をあげつつ、『だ、大事な結果発表なんだから静かに聞かないと』とか考えている。
私もなんでオールマイトが?なんて思わなくもないけど、隣から聞こえてくる疑問の思考を聞き流しながら映像を見続けた。
『初めまして波動少女!この一週間、元気にしていたかな?それと、なぜ私が投影されたかって?それは!私が雄英に勤めることになったからさ!』
なるほど。つまり、オールマイトがお姉ちゃんの先生になるということか。
これはお姉ちゃんにも箔が付く。
私は"オールマイトの教え子"というお姉ちゃんのアピールポイントの増加に内心で何度も頷いていた。
その後も続いたオールマイトの語りに撮影していた人は痺れを切らしたらしくて、画面の端で巻きでというジェスチャーして、オールマイトも慣れた様子で頷いていた。
この感じ、このやり取りを何回もしてるな。
『あぁ、大丈夫。分かってるよ!さぁ、さっそく合否を伝えよう!筆記は十分に取れているが、実技は25ポイント。残念ながら一歩及ばず不合格だ』
覚悟はしていた。私の夢はお姉ちゃんのサイドキック。ヒーローになれれば他のヒーロー科の高校だってよかった。
でも、できることならお姉ちゃんと一緒に同じ高校に通いたかった。ただそれだけだった。
覚悟していた結果だったはずなのに、思わず俯いてしまう。
お母さんは言葉にはしなかったけど、心配する感情とともに手を握られた。
もうこれで終わりだろうと思って空いている手で装置を回収しようとしたところで、悪戯が成功したかのようなニヤリとした表情を浮かべたオールマイトがまた話し出した。
『それだけならね!』
その言葉に、装置を回収しようとしていた手を止める。
『私もまたエンターテイナーー!先の入試!!!見ていたのはヴィランポイントだけにあらず!!!』
オールマイトが笑顔でリモコンのボタンを押すと、後ろの画面に0ポイントヴィランが動き出したときの私の映像が映しだされた。
『表情を見ていれば分かるさ!君はこの時、このままのポイントでは合格できないと理解していたんだろう!!それにも関わらず、合格と人命を天秤にかけて迷わずに駆け出した!!』
葉隠さんを助け出して私が倒れるところまで見届けたオールマイトが、笑みをさらに深めた。
『正しいことをした人間を排斥しちまうヒーロー科など、あってたまるかって話だよ!!!きれい事!?上等さ!!命を賭してきれい事実践するお仕事だ!!レスキューポイント!!しかも審査制!!我々雄英が見ていたもう一つの基礎能力!!波動瑠璃50ポイント!!』
畳みかけるように告げられる試験の裏側に、ただただ呆然とするしかなかった。
そんなの、プレゼントマイクの思考からも読み取れていなかった。
周囲の思考がうるさすぎて、雑音を気にしないように1人の思考に集中していたせいかなんて、とりとめもなく考えてしまう。
『トータル75ポイント!!次席で合格さ!!』
オールマイトは未だに受け止めきれずに呆然としている私の様子を察しているかのように、ゆっくりと片手を差し出してきた。
『来いよ波動少女!ここが、君のヒーローアカデミアだ!』
その言葉とともに映像は終わった。
私は放心したままだったけど、いつの間にか涙が頬を伝っていた。
「おめでとう瑠璃!!次席なんて、本当にすごいわ!!」
「……うん……うんっ!」
「ねじれには瑠璃から伝えるでしょ?私はお父さんに連絡しないと!」
私もようやく実感がわいてきて自然と頬が緩んでしまう。
お母さんはそのままお父さんに連絡するために廊下に出ていった。
廊下から「瑠璃、合格よ!しかも次席だって!!」なんて報告する声が聞こえる。
その一方で、私は喜びの余韻に浸りつつ、同封されていた書類の確認をしていた。
「瑠璃!今日はお祝いよ!お父さん、この前瑠璃が食べたいって言ってたケーキ買ってきてくれるって!」
お母さんの言葉を聞きながら、私はお祝いの夕食とケーキや、お姉ちゃんとの新生活に思いを馳せる。
これから始まるお姉ちゃんとの2人暮らしという新生活への期待を胸に、お姉ちゃんに合格を伝えるためにスマホを手に取った。