波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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授業参観(前)

授業参観当日。

 

「おはよ……透ちゃん……」

 

「おはよー瑠璃ちゃん!」

 

登校すると、透ちゃんがいつも通り弾けるような笑顔で迎えてくれた。

 

「ついに参観日当日だね!瑠璃ちゃんのところは誰が来るの?」

 

「ん……お母さんがくる……透ちゃんは……?」

 

「うちもお母さんが来るよ!私と同じで透明だから見たらすぐ分かると思う!」

 

そんな他愛もない話を続けていたら、今登校してきたらしい緑谷くんが教室の後ろを通って自分の席に向かってきた。

近くを通ったタイミングで軽く手を振って挨拶する。

透ちゃんも「おはよー!」なんて元気よく挨拶している。

緑谷くんもどもりながら挨拶を返してくれるけど、その顔は赤く染まっていた。

相変わらず女子に慣れていないらしい。

 

緑谷くんが近くに集まっていた男子に挨拶をすると、峰田くんが口を開いた。

 

「聞いてくれよ、緑谷!常闇、ロリコンだったんだよ……!」

 

「ええっ?」

 

「なっ……虚言を吐くな……!」

 

驚く緑谷くんに、常闇くんが怒りながら否定する。

というか、常闇くんの思考からして本当にそんなんじゃないし、結構酷い冗談だ。上鳴くんが訂正しようとしてるから特に口は挟まないけど。

 

「違う、違う、常闇が幼稚園児に告られたの」

 

「え、なんで?」

 

「まぁそれは話せば長くなるのだが、出会いはどこに転がっているか分からない。だが、とりあえず言えるのは、常闇くんはロリコンではないということだ」

 

しっかりと訂正する飯田くんに、峰田くんが興奮気味に捲し立てた。

 

「いいや、二十年後ならわかんねーだろ!いや、むしろ今から理想の女に育てあげる光源氏計画を発動するつもりなんじゃ……!」

 

そんなことを考えるのはブドウ頭くらいだと思う。

常闇くんは言動はちょっと独特だけど、恋する幼女の夢を打ち砕くようなことをするとは思えない。

案の定常闇くんは、峰田くんに軽蔑した眼差しを向けていた。

 

「それをやりたいのは峰田、お前だろう」

 

「あぁやれるもんならやりたいね!!犯罪にならないギリギリな感じで!」

 

「峰田はギリギリアウトだろ」

 

欲望剥き出しで吠えるブドウ頭に、百ちゃんのところで話していた響香ちゃんがイヤホンジャックのコードを手で弄りながら振り返って突っ込んだ。

 

「うるせぇっ、チッパイは黙ってろ」

 

「ハァ!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、響香ちゃんが鬼の形相に変わった。

あのブドウ頭、今までも散々身体的特徴を揶揄してきたけど、まさか罵倒の方向で揶揄してくるとは思わなかった。

いくらなんでもこれはない。

 

「……最低……」

 

「今のはいくら何でも酷いよ峰田くん!」

 

透ちゃんもバタバタとオーバーな動きを伴いつつ憤っている。まあ、あんなの聞いて軽蔑しない女子いないだろうし当然の流れでしかない。

 

「チッパイ?とはなんだ?」

 

「ちいせぇおっぱいのこと」

 

下劣な揶揄の言葉の意味が分からなかったらしい飯田くんが首を傾げながら尋ねて、上鳴くんが律儀にそれに答えた。

 

「上鳴っ、んな説明してんなよっ!飯田も聞くなってば!」

 

「それは失礼した。だが胸は胸だ。大きくても小さくても気にすることはないぞ」

 

飯田くんの返答は、相変わらずクソ真面目だった。本当に心の底からそう思ってるし。

 

「そうですわ、耳郎さん」

 

「ヤオモモに言われても……」

 

百ちゃんも響香ちゃんを慰めるように続いたけど、百ちゃんが言うのはやめた方がいい気がする。

私と透ちゃんもダメだし、この場で響香ちゃんを慰められる女子はいない。

その反応を見て話題を逸らすことにしたのか、百ちゃんが思い出したように話を切り出した。

 

「それより、チョコお餅……これが意外とイケましたの!」

 

「マジで~?」

 

「え、ヤオモモちゃんも食べたの……?」

 

「ん……おいしいから……透ちゃんと響香ちゃんも……食べてみるべき……」

 

昨日は百ちゃんも梅雨ちゃんも美味しそうに食べていた。

それに対して響香ちゃんと透ちゃんは半信半疑といった反応を返してくる。

透ちゃんには前に美味しかったと言ったはずなんだけど、信じていなかったらしい。遺憾の極みだ。

 

 

 

そんなこんなで話していると、そろそろホームルームの時間になった。

先生がここに来ることはないはずだけど、一応席についておく。

 

「相澤先生、来ないね?」

 

皆ももうすっかり習慣になっていて、時間でサッと席についている。

いつもならすぐ来るのにチャイムがなってもやってこない先生に、透ちゃんが疑問の声をあげた。

 

「遅刻かしら?」

 

「なっ、見本であるはずの教師が遅刻とは……!これは雄英高校を揺るがす、由々しき事態だぞ、みんな!!」

 

「オールマイトならともかく……相澤先生だし……それはない……」

 

梅雨ちゃんの言葉に反応した飯田くんが立ち上がって、腕を機関車のように回しながら叫んだ。

私の言葉も聞こえていないようだ。

飯田くんは皆に宥められてもどんどんヒートアップしていく。

 

「――何かあったのかな……?」

 

後ろで緑谷くんがボソっと呟く。

ショートホームルーム終了のチャイムが鳴っても現れない先生に、流石におかしいと教室がざわつき始めていた。

 

「そういえば、そろそろ保護者が来てもいい時間ではありません?」

 

「そだな。でもまぁ始まるまで時間はもう少しあるし……」

 

「でも、まだ一人も姿を見せないのは……」

 

「どこかで迷ってるとか?」

 

「雄英、広いからねー」

 

「よし、僕が委員長として職員室に行ってくる。みんなはそのまま待機していてくれ」

 

飯田くんがそういって職員室に向かおうとした瞬間、全員のスマホが一斉に鳴った。

確認すると、スマホには相澤先生からのメッセージが表示されていた。

 

『今すぐ模擬市街地に来い』

 

「市街地?なんで……」

 

「……あ、オレ分かった!相澤先生、あっちでまとめて授業……つーか手紙の朗読と施設案内するつもりなんじゃね!?合理的に!」

 

上鳴くんがハッとしたように言った。

まあ相澤先生ならそういうことをしてもおかしくない。それくらい合理主義だし。皆もそれは理解しているのもあって、渋々移動し始めた。

 

 

 

乗っていたバスが模擬市街地のバス停に到着した。

途中で先生や保護者が感知範囲に入った。

相澤先生は違う場所にいるけど、ヴィラン役として細いオールマイトが保護者と一緒にいるみたいだった。

オールマイト、あの姿でちゃんとヴィラン役を出来るんだろうか。

人質を取っているヴィランの対処とかが課題なのかな?

 

それはそれとしてちゃんと保護者にはこの件を伝えて、協力の同意を得ているようだった。

流石に無駄に怖がらせるようなことはしていなかったみたいで安心した。

 

「この中で待っているということなんだろう。さぁ、みんな行こう!」

 

飯田くんが腕を上げて皆を誘導しようとする。

 

「……なんか臭う」

 

障子くんが腕に鼻を出して臭いを嗅ぎながら言う。

ここで私が何も言わないのは流石に変かなと思って私も言葉を続ける。

 

「待って……この波動……」

 

私がそう言った直後、小さな悲鳴が聞こえた。

 

「なんだっ?」

 

その悲鳴がやまないうちに、別の人たちの叫び声も聞こえ始めた。

慌てて皆で声をする方に駆け出す。

 

ガソリンの臭いを強く感じる道を突き進んでいくと、本来あったはずのビルが無くなり空き地となっている場所に着いた。

 

「……なんだよ、あれ……」

 

切島くんが呆然とした様子で呟く。

私たちの視線の先には、本来ビルが建っていた所に大きな穴が開き、その中央にポツンと取り残された足場の上にそびえ立つ檻があった。

 

檻の中には保護者とオールマイトがいる。

私たちが来たことに気が付いたらしい皆の家族が、それぞれ声をかけてきていた。

皆も困惑と悲壮感に満ちた感じでその声に応えている。

ちなみに私のお母さんは端っこでこっちの様子をちらちら伺っている。

当然思考が読めることを知っているお母さんは、わざわざこっちに声をかけたりはしてない。

というよりも、私が思考を読んでこの状況がどういうものか分かっていることも理解しているみたいだ。

 

私が冷めた感じで眺めている一方で、皆は慌てて駆け寄ろうとして穴を覗き込んでいた。

 

「っ、くさ……ガソリン……!?」

 

お茶子ちゃんが顔をしかめる。

穴の底は臭いの元凶と思われる淀んだ液体で満たされていた。

 

「なんだよ、これっ?なんで親があんなとこ……」

 

「つーか、相澤先生は!?」

 

困惑する皆の声に応えたのは、冷たい機械的な声だった。

 

『相澤先生は、今頃眠っているよ。暗い土のなかで』

 

わざわざ変声機まで使っているオールマイトの言葉を受けて相澤先生の波動を見てみると、本当に地下で寝袋に入っていた。

モニターでこっちを見ているみたいだけど、間違ったことは言っていない。

 

緑谷くんが確認するようにこっちを見てくる。

一応、間違ったことは言っていないから小さく首を縦に振っておく。

私の返答を見た緑谷くんは、さらに絶望した表情になった。

 

「暗い土の中って……」

 

「相澤先生、やられちゃったってこと……?」

 

「ウソだよ!なんかの冗談だろ!?もうエイプリルフールは過ぎてんだぞ!つーかお前、誰だよ!?姿を見せろ!」

 

皆混乱しながらも身構え始めていた。

姿を見せろなんて言っているけど、既にオールマイトは見える位置にいる。

 

「……姿は、見えてるよ……檻の中……保護者の中に……紛れてる……」

 

私の言葉を受けて、また機械的な声が響いた。

 

『その通り。僕はここにいる』

 

保護者の人たちが恐れ慄いたように退くと、黒いフルマスクを付けて黒いマントを纏った背の高い男、細い方のオールマイトが姿を現した。

その隙を突いた飯田くんが、この異常事態を受けてこっそりスマホで連絡を取ろうとし始めた。

 

『おっと、人質がいることを忘れてくれるな。外部へも、学校への連絡もするな。あぁ、もちろん、そこの電気くんの個性でも無駄だ』

 

オールマイトが上鳴くんの方を向きながら言った。

それを聞いて、個性の詳細を知られていることを緑谷くんが訝しんでいる。

まぁ細かい個性の詳細まで知られていたら訝しまれて当然だ。

 

『逃げて外に助けを求めに行くのも禁止だ。逃げたら、その生徒の保護者をすぐに始末する』

 

黒尽くめのオールマイトがそこまで言ったところで、檻の中でがっしりとした体格の人の良さそうな人……お茶子ちゃんの父親らしき人が格子を掴んでガチャガチャと揺らして叫んだ。

 

「あかん!檻が頑丈でどうにもできひんわー!!」

 

「と、父ちゃん!!」

 

お茶子ちゃんが穴の淵に立っておろおろとしながら叫んでいるんだけど、私からするとお茶子ちゃんのお父さんの演技が気になってしまう。

 

「た、助けて、百さーん……!」

 

「お母様があんなに取り乱すなんて……気を確かにっ……!」

 

百ちゃんのお母さんも棒読みな感じで助けを求めてきてて、こっちからしたらバレバレな感じではあるんだけど、何も知らない百ちゃんは動揺しながら答えていた。

 

「ゲコッ、ゲコッ」

 

「危険音……ケロ……」

 

これは流石に分からないけど、不安そうな梅雨ちゃん曰く危険音らしい。

ここまでの保護者の人たちの助けを求める声で、皆本当にヴィランの襲撃だと思っている。

爆豪くんですら信じきっている。

一方で私は、保護者の演技とか相澤先生の様子で笑ってしまいそうになっていた。

温度差が凄い。

流石に皆の空気に水は差せないから、努めて無表情を維持して笑うのを堪える。

お母さんだけが、私が笑いそうになっていることに気がついてハラハラしている。

私たち親子だけが、ちょっとズレた空気になっていた。

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