6月最後の日曜日。
梅雨が明けて、夏直前である今日この日に、私は東京の方まで出てきていた。
「あ、瑠璃ちゃ~ん!!」
駅から出たところで、透ちゃんが全身を使ったすごく大きな動きでぶんぶんと手を振ってくれていた。
小走りで透ちゃんの近くまで駆け寄る。
「おまたせ……」
「全然待ってないよ!じゃあ行こっか!」
そう言って先導してくれる透ちゃんに、のんびりついていった。
今日は透ちゃんとの約束通り、勉強会をすることになっている。
場所は図書館や私の家、透ちゃんの家とか、色々意見を出し合って決めた。
出された意見の内、学校に近い図書館は爆豪くんと切島くんが勉強会をするらしいから却下。
絶対に騒ぎになるに決まっている。勉強できる環境じゃなくなると思う。
私の家はお姉ちゃんが勉強しているから、できれば邪魔したくないと遠慮させてもらった。
そうやって考えていった結果、少し遠いけど透ちゃんの家で勉強会をすることになった感じだった。
駅からしばらく歩いて住宅街に差し掛かって、さらに少し歩いたあたりで透ちゃんが足を止めた。
「じゃーん!ここが、私のお家です!」
「おー……」
アピールするように手をひらひらと振りながら示される。
私もそれに合わせるように小さく拍手した。
それで満足したらしい透ちゃんは、にっこり笑って私の手を掴んだ。
「じゃ、早速入ろ!遠慮とかいらないから!」
「ん……」
そのままされるがままに引っ張られて、玄関の中まで通される。
その音が聞こえたみたいで玄関からつながっている廊下のドアが開いて、透ちゃんのお母さんが出てきた。
授業参観の時にも会ったけど、透ちゃんのお母さんも透明人間だ。
肉眼だと服が浮いているようにしか見えない。
「いらっしゃい。今日は透のためにありがとね」
「いえ……気にしないでください……好きで教えに来てるので……あとこれ……皆で食べてください……」
そう言って手土産として持ってきたお茶菓子を手渡した。
透ちゃんのお母さんは「気にしなくてもいいのに」なんて遠慮気味ではあったけど、受け取ってはくれた。
私がそんなやり取りをしていると、透ちゃんが突然ハッと思い出したような表情をした。
「そうだった!瑠璃ちゃん!この前確認し忘れたけどお母さん見えてる!?それだけは確認しとかないと!」
「え……うん……透ちゃんと同じ感じでなら……見えてるよ……」
「だよね!ちょっと待ってて!!」
そこまで確認すると、透ちゃんは凄く慌てた様子で透ちゃんのお母さんが出てきたドアの方に走っていった。
「お父さーん!!」なんて声がここにいても聞こえてくる。
透ちゃんの『お父さんが全裸の可能性がある!!』なんていう思考に、なんとも言えない表情になっていると、透ちゃんのお母さんに話しかけられた。
「ええと、見えてるって本当?」
「ん……はい……私の個性……波動って言って……―――」
戦闘訓練の時に透ちゃんにしたのと同じ説明をする。
説明に対して透ちゃんのお母さんも『後で確認してみようかしら』なんて考えている。
透ちゃんもそうだけど、驚かせるのが好きなんだろうか。
正直私には意味がないんだけど……
そんなやり取りが終わったころに透ちゃんが戻ってきた。
「おまたせ!いや~お父さんたまに全裸になってるから!瑠璃ちゃんいる間は絶対に服着ててって釘刺してきた!」
「ん……ありがと……」
透ちゃんの説明によると、なんでも透ちゃんのお父さん、というか透ちゃん含めた葉隠一家は家の中では全裸でいることがあるらしい。
やっぱり見られないから羞恥心が薄いのだろうか。
まぁ透ちゃんは時折というよりも、寝る時にっていう感じみたいだけど。
「じゃあこっち!上がって上がって!」
そのままパタパタと駆け上っていく透ちゃんを追いかける。
透ちゃんの部屋は全体的にピンク色でまとめられているかわいらしい感じだった。
「どーだ!」
そう言って透ちゃんは部屋の中を披露するかのように手を広げた。
「可愛くて……良い部屋……ぬいぐるみも……ポイント高い……」
「えへへ!そーでしょ!」
そのまま中に通される。
透ちゃんは準備してあった勉強道具を広げ始めていた。
「さっ!座って!荷物は好きな所に置いていいからね!」
端の方に荷物を置かせてもらって、私も透ちゃんの対面に座る。
「じゃあお願いします!瑠璃ちゃん先生!」
「ん……任せて……」
そうして、勉強会は始まった。
「ここ聞いてもいい?」
「見せて……」
今透ちゃんが解いていたのは数学の問題だ。
どうやら2次関数の応用問題で躓いたらしい。
思考も見ていたから、どこから間違った考え方に移行したのかも把握している。
ひとまず問題を見せてもらって、理解する振りをしてから解説する。
透ちゃんが躓いていた部分を重点的に説明すると、すぐに理解できたようだ。
問題を解けた透ちゃんが満面の笑みで顔を上げる。
「解けたー!」
「ん……良かった……」
「瑠璃ちゃんの説明すごく分かりやすいよ!」
途中で一緒に軽食を食べて昼食も済ませている。
そんな感じでどんどん勉強を進めていると、透ちゃんのお母さんが階段を上がってきた。
「透ー?開けるわよー?」
そう言って入ってきた透ちゃんのお母さんは、お菓子と紅茶を入れてきてくれたようだった。
「ちょっとくらい休憩したら?ケーキと紅茶持ってきたから」
「わ!ありがとーお母さん!」
「ありがとう……ございます……」
机に置いてくれた美味しそうなキャラメルケーキっぽいケーキ。
透ちゃんの好物がキャラメルだったはずだし、キャラメルケーキで間違ってないはずだ。
おいしそう……
「透に聞いてたけど、本当に甘いものに目がないのね」
「瑠璃ちゃん、甘いもの前にするといつもこうだからねー」
「ふふ、じゃあ邪魔しないように私はもう戻るわね」
「うん、ありがとー!」
透ちゃんのお母さんはそう言って部屋から出ていった。
「じゃあ食べよっか!」
「ん……キャラメルケーキ……おいしそう……!」
勉強の手を止めて勧められるままに食べ始める。
キャラメルケーキは甘くてすごく美味しいし、紅茶はいい香りでスッキリしている。
私がケーキを粗方食べ終えて残りの紅茶をのんびり飲んでいると、透ちゃんに声を掛けられた。
「それにしても、瑠璃ちゃん勉強教えるの上手だねぇ」
「……そう……?」
「うん。瑠璃ちゃん口数少ないから、教えるのとかは苦手かと思ってた」
まあ確かに普段からそんなに喋らないし、発言してもそんなに長々と話したりしないから、透ちゃんにそう思われてても仕方ないのかもしれない。
「それに、苦手な所とか分かってないところを特に分かりやすく教えてくれてたし!瑠璃ちゃん、先生とか向いてるのかもね!」
「それは……どうかな……?私、話すの得意じゃないし……」
「いやいや、あんなにドンピシャで分からないところを理解してくれてる先生なんて、今まで見たことないよ!これはきっと才能だよ!」
透ちゃんは褒めてくれるけど、あれは個性に頼っていただけだ。
思考が読めなければあんなことはできないし、思考を読むのだっていい人じゃないと私がしたくない。
とても教師に向いているとは思えない。
「でも……やっぱり私には……向いてないと思う……」
「そっかー、まぁ私たちヒーロー志望だもんね。雄英の先生みたいに教師になる道もあるけど、まずはヒーローだ!」
私の素っ気ない答えを聞いても、透ちゃんは明るくそう言って気合を入れなおしていた。まあ、その目標のためにもまずは目の前のテストが大事だろう。
「ん……じゃあそのためにもまず……赤点回避だね……」
「うん!もうひと頑張り、がんばろー!!」
甘いものと休憩でリフレッシュした私たちは、その後も勉強を続けた。
目標は赤点回避、透ちゃんと一緒に楽しく林間合宿に行くことだ。先生の思考的に赤点でも連れていってくれるとは思うけど、あまりにも酷いとどうなるか分からないし。
今までの林間学校とか修学旅行では、全くと言っていい程楽しかった思い出がない。
むしろ苦痛でしかなかったほどだ。
でも、透ちゃんと、A組の皆となら、きっと楽しめる。
そう思えたのもあって、さらに力を入れて透ちゃんに勉強を教えていった。
すごく今更ですけど普通の人が見えないものが見えるのはルカリオの公式設定です。
以下図鑑説明文
波動を キャッチすることで 見えない 相手の 姿でも 見えると 言われている。