時間はあっという間に過ぎ去って、演習試験当日。
筆記試験は皆上々の結果だったみたいだ。
透ちゃんも私にお礼を言いながら抱き着いてきてたくらいだし、三奈ちゃんと上鳴くんもテストが終わって早々に百ちゃんに嬉しそうに報告していた。
そして演習試験。
私たちは演習場とかの雄英敷地内の連絡網になっているバス乗り場の前で集合していた。
集まるまでの段階で三奈ちゃんと上鳴くんが『ロボなら楽勝』とか考えていたけど、表情が緩んでいない辺り油断しきっているわけではないようだ。
「それじゃあ演習試験を始めていく。この試験でももちろん赤点はある。林間合宿行きたきゃみっともねぇヘマはするな」
そう言う相澤先生の周りには、校長先生含めて他に8人の先生がいる。
私はもう試験内容が分かっちゃったけど、これは難しいなんてものじゃない。
本当に赤点になる生徒がでる可能性がある。
というか、校長先生が特に意識してるのが三奈ちゃんと上鳴くんなんだけど、これは本当に厳しいかもしれない。
私も人のことは言えないけど……
「先生多いな……?」
「……5……6……8人?」
響香ちゃんが疑問を呈し、透ちゃんが先生の数を数えている。
だけどここにいる先生以外にもオールマイトが隠れている。
多分ムキムキの姿の時間を浪費しないための措置だと思う。
「諸君なら事前に情報仕入れて何するか薄々分かってるとは思うが……」
その言葉を聞いた瞬間、三奈ちゃんと上鳴くんの表情がパッと明るくなる。
「あ、そういうってことは入試みてぇなロボ無双で間違いないのか!?」
「花火!カレー!肝試ーーー!!」
喜ぶのはいいけど、話はちゃんと最後まで聞かないと……
「残念!!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」
案の定2人のテンションが一気に落ちた。
「変更って……」
「それはね……これからは対人戦闘・活動を見据えたより実践的な教えを重視するのさ!というわけで……諸君らにはこれから、
校長先生のその言葉で、皆に緊張が走った。
皆もどれだけ難しい試験かを理解できたらしい。
「尚、ペアの組と対戦する教師は既に決定済み。動きの傾向や成績、親密度……諸々を踏まえて独断で組ませてもらったから発表していくぞ」
やっぱりあの相澤先生の行動は、この試験のためのものだったみたいだ。
「まず轟と八百万がチームで、俺とだ」
そう言って先生は首に巻いている布を手に持ってニヤリと笑った。
「そして緑谷と、爆豪がチーム」
「デ……!?」
「かっ……!?」
2人はお互いに顔を見合わせて、驚愕の感情に包まれている。
「で……相手は「私が、する!協力して勝ちに来いよ。お二人さん!!」
そのタイミングで、ムキムキの姿になったオールマイトがようやく姿を現した。
その後も、先生は組み合わせをどんどん発表していく。
組み合わせは―――
轟・八百万 VS イレイザーヘッド
爆豪・緑谷 VS オールマイト
芦戸・上鳴 VS 校長
麗日・波動 VS 13号
口田・耳郎 VS プレゼント・マイク
蛙吹・常闇 VS エクトプラズム
青山・峰田 VS ミッドナイト
障子・葉隠 VS スナイプ
切島・砂藤 VS セメントス
飯田・尾白 VS パワーローダー
私はお茶子ちゃんとペアで13号先生が相手だった。
「それぞれステージを用意してある。10組一斉スタートだ。試験の概要については各々の対戦相手から説明される。移動は学内バスだ。時間がもったいない。速やかに乗れ」
先生のその言葉を受けて、皆ペアのところに向かったりバスに向かったりと行動を始めた。
まあペアのところに向かわずにバスに向かい始めたのは爆豪くんくらいなんだけど。
私もペアのお茶子ちゃんの方へ行く。
「お茶子ちゃん……よろしく……」
「うん!頑張ろうね!瑠璃ちゃん!」
お茶子ちゃんが満面の笑みで手を握ってくれた。
そんな感じで挨拶を済ませて2人でバスを探していると、13号先生がバスの前で手を振っていた。
「麗日さん、波動さん。こちらのバスですよ」
「ありがとうございます!13号先生!」
「ありがとう……ございます……」
「いえいえ。さ、乗ってください」
そのままささっと紳士的にバスに乗るように促される。
13号先生のファンのお茶子ちゃんには堪らない仕草だったみたいで、13号先生をキラキラした目で見ていた。
促されるままにバスに乗り込んで、バスの中程で向かい合わせになっている席に座る。
お茶子ちゃんは私の隣、13号先生は私たちの対面の席に座った。
そのまま軽く談笑しながらバスは進んでいった。
談笑とはいっても、心の底から楽しめていたかと言われると何とも言えない。
お茶子ちゃんなんかは不安を紛らわせるために、無理して笑ってるっぽい所もあったくらいだ。
それにしても、このバスの向かっている方向は、もしかしなくてもUSJじゃないだろうか。先生の思考もそんな感じな気がするし。
「このバスが……向かってるの……」
「ああ、やっぱり気が付きますよね。そうです。僕たちが向かっているのはUSJです」
やっぱりUSJだったらしい。
あそこは広いけど、何度か授業で行ってるからある程度構造を把握しているだけマシだと考えた方がいいか。
他のペアが乗っていたバス的に、救助訓練レースで使った演習場とかのペアもありそうだったし、複雑すぎないUSJは外れではないはずだ。
そんなことを考えていると、バスは目的地に着いた。
バスを降りて先導してくれる13号先生についていく。
USJの中央広場に着いたところで先生は立ち止まった。
「ではルールを説明します。制限時間は30分。君たち2人の目的は、"このハンドカフスを僕に掛ける"か、"どちらか一人がこのUSJから脱出すること"です」
「逃げてもいいんですか?」
手錠のようなハンドカフスをこちらに見せながら説明する13号先生に、お茶子ちゃんが質問する。
13号先生はそれに頷くような仕草をして、答えを交えつつ話を続けた。
「はい。なにしろ戦闘訓練とは訳が違いますから。いつもの戦闘訓練では生徒同士、個性の相性や多少の力量差はあってもそんなに実力に差があるわけではありません。でも今日は違う。格上の教師が相手になります」
そう、相手はプロヒーロー。
ましてや私たちの相手は絶対的な吸引力と破壊力がある個性を持つ13号先生だ。
先生がさっき考えていた『勝ち筋を残す手加減』というものをしてくれるにしても、困難なことに変わりはない。
「僕らをヴィランそのものだと考えてください。会敵したと仮定して、そこで戦って勝てるならそれで良いでしょう。ですが実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を呼んだ方が賢明なのです。以前この場所で一緒に飯田くんを逃がしたお二人なら、そのことは良く分かっているはずです」
これはその通りだ。
実際にあの時はヴィランへの対処法がなくて、救援を呼ぶために飯田くんを逃がしたのだ。
相手が強敵なら、助けを呼ぶために逃げるのも手ということを頭に入れさせるためのルールだろう。
「つまり、君たちの判断力が試されるということです。ですが、こんなルールでは逃げの一択になってしまうのでは?とお思いでしょう」
そこで言葉を区切り、先生はごそごそと何かを漁り出す。
漁っているのは、リストバンドのようなものだ。
それを取り出した先生は、私たちに見えるように小さく掲げた。
「そこで僕たちはサポート科にこんなものを作ってもらいました。超圧縮おもりです。僕たち教師は体重の約半分の重量を装着します。まあ、ハンデですね。動きづらくなりますし、体力も削られます」
そう言いながら、13号先生はリストバンドを手足に着ける。
「うわ、結構重いなぁ」とか素が出ている感じで呟いてるけど……
13号先生は凄く長身の女性だし、ヒーローとして鍛えていることを考えると、重りも30~40kgくらいはあるんじゃないだろうか。
そう考えると、そんなものを付けて動かなければいけないのは、確かに結構なハンデになるはずだ。
まあ正直13号先生の個性だと動かなくても強力だから、欠片もハンデにならない可能性もあるわけだけど。
「スタート地点はこの場所。制限時間は30分。今から15分後に開始の合図が放送で入りますので、それをもって試験開始となります。説明は以上です。何か質問はありますか?」
先生の言葉に、私たちは顔を見合わせる。
私は特に質問はない。お茶子ちゃんも質問はないようだ。
「特にない……です……」
「私も大丈夫です」
私たちの返答を見た13号先生は、頷いてから話を続けた。
「では、僕も試験の準備のために離れます。開始の合図まで作戦会議をするも良し、心を落ち着けて待つも良しです。相手をする僕が言うのもなんですが、頑張ってください!」
そこまで言って13号先生は去っていった。
言葉通り試験の準備、というよりも自分が待機したい位置取りに向かったようだ。
先生が離れたのを確認してお茶子ちゃんに話しかける。
「作戦……どうする……?」
「確保か逃走かだよね。でも私たちで13号先生相手だと、確保ってむっちゃ難しいやんな」
まあ、実際お茶子ちゃんの言う通りだ。
お茶子ちゃんの"
仮に発動できたとしても、浮いた状態でもブラックホールは使えるからその後が続かない。
戦闘訓練の時の彗星ホームランみたいに瓦礫を打つっていう手もないではないけど、ブラックホールを使われたらそこまでだ。
私の"波動"は感知は得意だけど、それ以外は早く動ける、空中で方向転換や再加速が出来る、それらを利用した突撃や当たる保証が全然ないパンチやキックからの波動の圧縮放出が出来る程度。つまりは近距離攻撃しかないのだ。
結局ブラックホール相手に近づかなければいけないことに変わりはない。
「ん……二人とも……近づかないと……まともな攻撃手段ない……」
「じゃあやっぱりやるとしたら逃走だよね。でも、私たちが考えることなんて先生も分かってるだろうし……」
「先生、今ゲートの前に陣取った……私の感知でバレるから……隠れても意味ないし……ゲートでガン待ちってことだと思う……」
「だよねぇ」
言った通り、先生はゲートの前に立っている。
まあUSJ全域を感知できる個性なんかいたら、どこにいるか読まれて囮でも使われたらもう1人が逃走成功しちゃうから当然の判断か。
そうなるとどう逃走するかということになるけど……
「どうにか先生を出し抜いて逃げないといけないってことだよね……」
「ん……そういうこと……」
出し抜く方法がないでもないけど、成功するかは正直分からない。
ゲートの付近は階段もあって、周囲よりも高くなっている。
1人が正面の階段から突破を試みて囮になって、もう1人が脇から強引によじ登って一気にゲートを抜けるとかならありかもしれない。
13号先生が本命の脇の方に気を取られるなら、囮だった方が先生を飛び越えてゲートを抜けてもいい。
タイミングさえ合わせれば何とかなるかもしれない。
そのことをお茶子ちゃんに伝えてみる。
「おぉ!それはいけるかもしれないね!」
「13号先生が気が付いて……ゲートにぴったりくっついたりしたら……無理だけど……それをされたら勝ち目ないから……そこまではしないと思う……」
「じゃあどっちがどっちやる?私たちなら、お互いにどっちでも出来るもんね」
どっちがどっちの役割をやるかは結構重要な気がする。
お茶子ちゃんの言う通り、2人ともどっちの役割もできる。
お茶子ちゃんの場合、囮役なら普通に突破を試みつつ、気がそれたら超秘で飛び越えることが出来る。
本命役なら脇から無重力で浮かんでこっそり抜けてしまえばそれでいい。
私の場合、囮役は普通に突破を試みつつ、気が逸れるなら波動の圧縮で一気に距離を詰めて正面突破。
本命役なら、波動の圧縮で2段ジャンプしてよじ登る。万全を期すならお茶子ちゃんの無重力で浮かせてもらっておくべきだ。
この作戦の問題点は、2人ともキャパオーバーになる可能性があることか。
お茶子ちゃんは自分を浮かせるとすぐキャパオーバーになっちゃうし、私は波動の圧縮でちょっと調整を間違えるとすぐにキャパオーバーだ。
というか、先生たちもしかしなくてもこれが理由で私たちをペアにしたりしたんだろうか。
何かしらの課題とか不仲とかが理由でペアを作っていたみたいだし。
まあそれは置いておくにしても、どちらの役割をやるか。
この作戦の要はタイミングだ。
囮役に先生が気を取られたタイミングで、本命役がこっそり脱出する。
このタイミングがすごく大事。
そう考えると私が本命役をした方が確実か。
「……瑠璃ちゃん、脇から飛ぶ方……お願いできる?」
「ん……私もそう思ってた……タイミング合わせるのは……私の方が得意だし……そっちの方が確実……」
「じゃあ私は囮役やるね!……頑張ろうね、瑠璃ちゃん!」
「ん……頑張ろうっ……!」
お茶子ちゃんと顔を見合わせて、お互いの手をグーで軽くぶつけ合う。
試験開始の時間が、迫っていた。
一人称視点であり、本編に書くつもりがないためここに書いちゃいますが、この2人がペアの理由はキャパオーバーだけではなく『格上相手にキャパを考えずに破れかぶれで無茶な作戦を取りがち』なことです。
瑠璃:轟戦×2
麗日:
戦闘訓練 緑谷の無茶な作戦容認+失敗してたらキャパオーバー待ったなしの超秘の使用(成功しているから結果オーライ)
黒霧戦 飯田を逃がすためとはいえ、確証がない策を行うために黒霧に突撃する(成功しているから結果オーライ)
爆豪戦 他に手がないとはいえやるだけやってキャパオーバーに
他でペアが変わっているのは青山・峰田ペアだけになります。
ここは元の瀬呂・峰田が『拘束しかできない』が理由だと思うので、瀬呂がいなくなった結果、遠距離攻撃しかない青山を代わりに入れています。
なのでペアの理由としては、『個性がワンパターン』とかですね。