『皆位置についたね。それじゃあ今から雄英高1年期末テストを始めるよ。レディイイ―――……ゴォ!!!』
USJに開始の合図が響き渡った。
13号先生は相変わらずゲートの前だ。
今のところ動こうとする様子はない。
「先生……ゲート前から動いてない……行こう……」
「うん!」
お茶子ちゃんともはや見慣れたUSJを駆け抜ける。
真っ直ぐ行ってしまうと高い位置にいる先生からは丸見えになるから、大きく膨らみながら向かう方針だ。
というか、そもそも先生が覗こうと思えば今いる中央広場も見えてしまう。
一度姿を隠さないと作戦を立てた意味がない。
まずは倒壊ゾーンに紛れ込む。
ここなら崩れたビルとかで視認性は最悪だ。
少なくともゲート近辺からはこちらは見えないはず。
ここでお茶子ちゃんとは別れる予定だ。
私はここから植え込みの方に紛れてゲート脇へ。
お茶子ちゃんには土砂ゾーンの方を経由してもらって、正面から階段を上ってゲートへ向かう予定になっている。
離れてしまうとお互いに合図は出せない。
私が一方的に把握することなら出来るけど、お茶子ちゃんに伝える術がない。
だから、時間で管理することにした。
突入は別れてから10分以上経過後にするように頼んである。
私はお茶子ちゃんが良い感じに気を引いてくれたら一気に突入できるように準備しておく感じだ。
「じゃあ瑠璃ちゃん、よろしくね!」
「ん……お茶子ちゃんも……気を付けて……」
ある程度倒壊ゾーンに入り込んだところで、お茶子ちゃんに触ってもらって無重力にしてもらう。
私が浮いたのを確認して、お茶子ちゃんとは別れた。
私は浮いたまま瓦礫や建物を伝って移動する。
13号先生はゲート付近をうろうろしている。
私たちが最初にこっち側に走っていったのを見たからか、若干こっちを警戒している気がしないでもない。
行き過ぎないように、かつ13号先生の視界に入るような位置に出てしまわないように気を付けつつ進んでいく。
植え込みの方までは簡単に移動出来た。
後はこの植え込みの中を進んでいく。
植え込みの中は葉っぱや枝がちくちくするけど、コスチュームのボディスーツが全身を覆っているから大分マシだ。
そして私が植え込みを抜けてゲートの直下あたりに着いた頃、それは響いた。
『報告だよ。条件達成最初のチームは、轟・八百万チーム』
「こんな放送……あるんだ……」
こんな放送があるとは思っていなかった。
しかもまだ開始10分経つか経たないかといったところなのに。
流石百ちゃんと轟くんだ。
こんなに早く相澤先生を攻略したらしい。
凄すぎる。
あの二人なら作戦立案は百ちゃんだろうか。試験の後でちょっと話を聞いてみたい。
そんなことを考えていたら、お茶子ちゃんが動き出した。
それに合わせて、私もいつでも動き出せるように四肢に少量の波動を圧縮し始める。
噴水の影に飛び出たお茶子ちゃんは一気に階段を駆け上っている所だ。
13号先生は結構待ちくたびれていたようだ。
私がいないことを疑問に思って周囲への警戒をしつつではあるけど、お茶子ちゃんをしっかり見据えている。
おもりの影響からか先生の動作は緩慢だけど、割としっかりと動くことが出来ていた。
お茶子ちゃんもどうにか抜け出せないかと13号先生と言葉を交わしながら隙を探っているみたいだけど、それ以上踏み込めてない。
お茶子ちゃんがこれ以上行動しないのを確認した先生は、右手をお茶子ちゃんにかざした。
それを確認したお茶子ちゃんは大急ぎで階段の手すりを掴んだけど、それ以上動けなくなってしまった。
13号先生がじわじわとお茶子ちゃんに近づいていく。
……行くなら今かな。
そう思った私は、両足に圧縮していた波動を放出して一気に跳ね上がった。
ゲートの高さまで飛んだ時点で右手を背中側に向けて放出して、ゲートの方に進路を強引に変える。
もう少しでゲートに飛び込める位置になるから、左手を左側に向けてすぐにゲートの方に飛べるようにする。
でも、先生もそんなに甘くはなかった。
「おっと、どこから来るのかと思っていたら、そんなところから来ましたか」
そう言った先生は、お茶子ちゃんに向けていた手をすぐに私の方に向けた。
流石にそのまま飲み込まれるわけにもいかないから、ゲートに飛び込むために左手に残しておいた波動を噴射して、一瞬だけ吸われる速度を緩めてゲート脇の手すりを右手で掴む。
「危ない危ない。まさかここまでこっそり来るとは思っていませんでしたよ」
先生はそんなことを言いながら左手で汗を拭うような動きをしている。
その隙にフリーになったお茶子ちゃんが、自分を無重力にする動作をした。
どうやら超秘で隙を突くつもりのようだ。
だけどこの位置関係で自分を無重力にして飛び越えようとすると、私の方に向いているブラックホールの吸引力の影響を受けてしまうはずだ。
どうするつもりなのかと思っていたら、お茶子ちゃんの思考からは『先生の左側から回り込む』というものが読み取れた。
お茶子ちゃんもそれだけだとブラックホールに吸い込まれるのは分かっている。
ゲートに向かっても、それは私と同じ状況になるだけ。
先に自分を無重力にしていることを考えると、今まで掴んでいた手すりを蹴って先生の左側に回り込んで、さらにその先の柵を蹴ることで先生に突撃を強行するつもりなのだろうか。
今ブラックホールを使っていない左側から先生を強襲して、私が脱出できる隙を作るつもりなのかな……うん、思考からしてもそうみたいだ。
私もその期待に応えられるようにもう一度四肢に波動を圧縮していく。
先生はこっちをブラックホールで吸い込みつつお茶子ちゃんも気にかけてはいるけど、タイミングさえうまくいけば成功するかもしれない。
そのタイミングで、また放送が入った。
『爆豪・緑谷チーム条件達成!』
その瞬間、お茶子ちゃんの思考が緑谷くん突破報告による安堵に染まった。
『私も、デクくんみたいに!』なんて感じで気合を入れなおしている。
そして、お茶子ちゃんは手すりを乗り越えて蹴り飛ばすことで一気に飛び上がった。
先生は柵を蹴る音に反応して、すぐにお茶子ちゃんの方を向いた。
お茶子ちゃんはそのまま先生から見て9時方向に着いて、すぐに再び柵を蹴って先生の方に切り返そうとしている。
だけど、その行動に対する先生の対応は、すごく冷静だった。
一瞬私の方のブラックホールを消して、左手の指のキャップを開けて、両手でブラックホールを使ったのだ。
「なっ!?」
「……早すぎるっ……!?」
「これでもプロだからね!戦闘は苦手でも捕り物には一家言あるんだ!」
結果は最悪と言っていい。
結局、私とお茶子ちゃんは先生の0時方向と9時方向で吸い込まれないように必死で柵にしがみついている状態になってしまった。
2人同時に逃げられないようにしている関係上、近づいてくるなんてことはできない。
だけどこのままだと時間切れは必至だ。
どうにかこの状況を打破できる方法を考えないといけない。
『あかん……!考えろ考えろ!!考えろ!このピンチ、こういう時……デクくんなら……』
お茶子ちゃんも、必死でどうにかする方法を考えている。
だけど、もうこの状況だと逃走は不可能だ。
やるとしたら確保一択。
じゃあ確保役に相応しいのは私とお茶子ちゃん、どっちかというと……
間違いなく、お茶子ちゃんだ。
お茶子ちゃんは職場体験で
お茶子ちゃんの個性も確保に向いてるし、先生の個性をどうにかすれば、確保できる可能性がある。
確保をお茶子ちゃんにお願いするからには、私が先生の個性をどうにかする役割を担わなければならない。
必死で考えていると、一つの方法を思いついた。
でもこれは、先生に内容を知られずにお茶子ちゃんにも先生に飛び込んでもらう必要がある。
秘密の情報共有なんてできない状況で、最低限の言葉でお茶子ちゃんに発破をかけて、飛び込むだけの勇気ときっかけを与える必要がある。
そんなことを出来る要素というと……これしかないか。
あんまりこういう状況で触れたい内容じゃないけど、仕方ないかもしれない。
失敗すれば、というよりも失敗した上で先生が加減を失敗すると死ぬかもれない作戦とも言えない特攻だけど、これしか手段がない。
覚悟を決めよう。
「お茶子ちゃん!」
「な、なに!?」
「私はお茶子ちゃんを信じるから!お茶子ちゃんも私を信じて!」
「え!?なに!?」
急な要求に、お茶子ちゃんはただただ困惑してしまっている。
そこでこれを突く。さっきお茶子ちゃんが考えた、"デクくんみたいな方法"を。
「やってみよう!お茶子ちゃんが考えたみたいに!"デクくんみたいに"!」
お茶子ちゃんの感情が驚愕に包まれる。
お茶子ちゃんの視線がこっちに来ているこの瞬間に、私は柵から手を離した。
私の身体が13号先生の方に吸い込まれる。
お茶子ちゃんがぎょっとしているのが分かる。
だけど、私は真剣だ。私の表情を見て、お茶子ちゃんも私が手を離した理由を考えている。
吸い込まれながら膝を180度曲げて、足から波動を放出することで加速する。
お茶子ちゃんも、ここまで来て何をするつもりなのか大体察してくれたようだ。
私からワンテンポ遅れて、お茶子ちゃんも柵から手を離した。
「解除!!」
手が空いたお茶子ちゃんが無重力を解除する。
それと同時に先生が慌て始めている。
これは虚を突かれたというよりも私たちを崩壊させないようにするために慌てている感じだ。
私なんか加速までしたからすごい速さで吸い込まれてるし、余計に気を遣うんだろう。
だけど、これだけでは終わらない。
私は右手を頭側に向けて、圧縮していた波動を噴出する。
先生のブラックホールの吸引力に、波動の噴出で抗うことはできない。
だけど、吸い込まれながら、その方向に流されながらなら、多少流される向きを変える程度の加速はできる。
変える向きは、真っ直ぐ流されていたのを先生の左手の側に着地するように変える程度でいい。
つまり、先生の身体1つ分横に流れるように噴出すればいいんだ。
波動を噴出すると、予想通り、右手に吸われながらではあるけど、先生の左手側に流れることが出来た。
絶対に先生が加減した影響はあるだろうけど、それも含めて試験だと思う。
もう先生の右手のブラックホールは止まっている。やっぱり手加減してくれている。
そのまま先生の懐、お茶子ちゃんの方に向けている先生の左腕付近に着地した。
このままカフスを付けるのは流石に難しい。
抵抗されるだけだし、右手のブラックホールをどう使われるか分からない。
だから、あとはお茶子ちゃんの協力を得られる状況を作らないといけない。
私はパンチやキックは苦手だ。
というよりも、喧嘩なんてしたことないし、今までしたことがなかったんだから、ミルコさんにへっぴり腰なんて言われるのも仕方がない。
だけど、掌から噴出する波動の勢いだけで繰り出す裏拳に、腰が入っているとか、型とか、そんなものは関係ない。
自分の左手が波動の噴出で吹き飛ぶ射線上に、先生の左腕が来るように位置を調整する。
調整してすぐに、私は左手の波動を噴出した。
予想通り、裏拳はミルコさん曰く腰の入っていないパンチなんかよりも、よっぽど鋭く打ち出された。
先生の左腕に当たったそれは、コスチュームに付いている棘で先生の腕を抉りつつ、弾くことに成功した。
これで先生が体勢を立て直すまでは、ブラックホールは使わないはず。
もうお茶子ちゃんも、先生の目の前に迫っていた。
「お茶子ちゃん!!」
「うん!!」
今お茶子ちゃんが思い浮かべているのは、ガンヘッドさんから教わった心得なんだろう。
『敵の"フィールド"でなく己の"フィールド"で戦うべし!』という言葉を思い浮かべている。
お茶子ちゃんは吸引されていた勢いと個性を利用して、あっという間に先生を押し倒して、カフスを装着した。
『麗日・波動チーム……条件達成!!』
「やったー!!」
「成功した……良かった……」
お茶子ちゃんが両手を上げて喜んで、私は安堵に胸を撫でおろす。
先生もすぐに起き上がって話し始めた。
「いやぁ、二人とも職場体験の成果をいかんなく発揮してくれましたね。文句なしのクリアです!お見事でした!」
「ありがとうございます!」
「ありがとう……ございます……」
先生の称賛の言葉を素直に受け取る。
正直賭けだったから、成功して良かったということしかできない。
その後は先生に言われるままにバスに乗った。
このまま校舎の方に戻るらしい。
バスの中では、行きの時と同じ位置に座っていた。
「そういえばさ、瑠璃ちゃん」
「なに……?」
「さっき、私が考えたみたいに、デクくんみたいにって言ってたけど、なんで分かったの?デクくんのこと考えてたって」
その質問、墓穴を掘ってるけどいいんだろうか。
……まだ自覚してないのかもしれない。
まあでも本人に聞かれてることだし、素直に答えてあげるか。
「お茶子ちゃん……緑谷くんのこと考えてるとき……表情違う……恋する乙女みたい……すぐ分かる……」
「んなっ!?なに言って……!?そんなんじゃないよ!?ちがうよ!?ちがうちがう!?」
お茶子ちゃんが顔を真っ赤にしてワタワタしだした。可愛い。
13号先生までニヤニヤしてるし。
うん、恋バナ、今まで実際にはしたことなかったけど、楽しいかもしれない。
自分がいじられる側になると楽しくはないんだろうけど、いじっている側は凄く楽しい。
その後はお茶子ちゃんをいじったり、雑談をしたりして過ごした。
校舎に着くころには日が暮れ始めていた。