翌日。
教室の中は、4人が放つ暗い空気に支配されていた。
「皆……土産話っひぐ……楽しみに……うう、してるっ……がら!」
暗い空気を出している1人である三奈ちゃんが、涙ながらにお土産を希望してくる。
「まっまだ分かんないよ。どんでん返しがあるかもしれないよ……!」
「試験で赤点取ったら林間合宿に行けずに補習地獄!そして俺らは実技クリアならず!これでまだ分からんのなら貴様らの偏差値は猿以下だ!!」
慰める緑谷くんに、上鳴くんが目つぶしを繰り出した。
だけど、それを言ったら青山くんも怪しいと思う。
クリア自体はしたらしいけど、ミッドナイト先生の初撃で眠っちゃって、峰田くんが一人でクリアするまで爆睡し続けていたらしいし。
自覚はあるみたいで、青山くんは冷や汗を流して震えている。
というか、それ以上に恐怖の感情に支配されている。
思考も『まずいまずいまずい』なんて鬼気迫ったものになっていた。
林間合宿にいけない可能性があるだけでここまで焦るのもよく分からないけど、深刻に考えているのは確かだろう。
でも、そこまで心配しなくてもいいと思う。
相澤先生が全員で林間合宿に行くことを考えていたのを、少し前に確認している。
いつもの合理的虚偽ってやつだったんだろう。
そんな感じの流れが少し続いた所で予鈴がなった。
その瞬間、カァン!と凄い音を立てながら、いつも通り時間ぴったりに相澤先生が教室に入ってきた。
「予鈴がなったら席につけ」
皆予鈴がなった瞬間には席に座って、先生が教卓に辿り着くころには教室は静まり返っている。もう慣れたものだ。
「おはよう。今回の期末テストだが……残念ながら赤点が出た。したがって……林間合宿は全員行きます!」
「「「「どんでんがえしだぁ!」」」」
実技試験未クリア組が涙ながらに叫んだ。
青山くんも言葉には出していないけど、内心がすごい安堵に包まれている。
「筆記の方はゼロ。実技で切島・上鳴・芦戸・砂藤、あと青山が赤点だ」
「行っていいんスか俺らぁ!!」
先生の赤点宣告に、青山くんが「はうっ」なんて言ってダメージを受けている。
まぁ、試験中ほぼ寝ていたのなら赤点もやむなしだろう。
「今回の試験、我々ヴィラン側は生徒に勝ち筋を残しつつどう課題に向き合うかを見るように動いていた。でなければ課題云々の前に詰むやつばかりだったろうからな」
「本気で叩きつぶすと仰っていたのは?」
尾白くんが、説明の時の先生の発言との違いを、確かめるように質問する。
「追い込む為さ。そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点取った奴こそここで力を付けてもらわなきゃならん。合理的虚偽ってやつさ」
「「「ゴーリテキキョギィイー!!」」」
相澤先生がカッと朗らかな表情で言ってのけた。
それに対して赤点組のテンションがおかしいくらい上がっている。
だけど、先生があれだけ圧をかけていたんだから、ペナルティが無いわけないのは分かっているんだろうか……
「またしてもやられた……!流石雄英だ!しかし!何度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!!」
「わあ、水差す飯田くん」
飯田くんが勢いよく立ち上がって、異議を唱える。
うん、お茶子ちゃんの言う通りこっちもこっちですごい水差し具合だ。飯田くんらしいけど。
いい加減、現実を見せておくか。
「……先生、赤点のペナルティがないとは……言ってない……」
私の言葉で赤点組がピタリと止まった。
「確かにな、省みるよ。で、波動の言う通り全部が嘘ってわけじゃない。赤点は赤点だ。おまえらには別途補習時間を設けてる。ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツイからな。じゃあ合宿のしおり配るから後ろに回してけ」
その宣告を受けた途端、赤点組のテンションは地に落ちた。
ホームルームは終わって放課後になった。
「まぁ何はともあれ全員で行けて良かったね」
尾白くんがカバンを背負いながら皆の方を振り返ってそう言った。
「一週間の強化合宿か!」
「結構な大荷物になるね」
「水着とか持ってねーや。色々買わねぇとなぁ」
「暗視ゴーグル」
……またブドウ頭が妄言を吐いている。
今ブドウ頭が考えているのは私たちの全裸だ。完全にそんな感じのことを考えてるし、間違ってないだろう。
どう考えても覗きに使うつもりだ。
というか、私がいる時点で暗闇に紛れて覗きをしても意味がないことを分かっているんだろうか。
私がイライラしながらそんなことを考えていると、透ちゃんが閃いたと言わんばかりの明るい表情になった。
「あ!じゃあさ!明日休みだしテスト明けだし……ってことで、A組みんなで買い物行こうよ!」
ニコッとすごく魅力的な笑顔を浮かべながら、そんな提案がされる。
その提案を聞いて皆一気に盛り上がっている。
透ちゃんの提案はいい提案だ。授業参観前の4人での買い物も楽しかったし、皆で行けばきっと楽しいものになるだろう。
「皆で買い物……いいね……」
「おお良い!!何気にそういうの初じゃね!?」
「おい爆豪お前も来い!」
「行ってたまるかかったりぃ」
「轟くんも行かない?」
「休日は見舞いだ」
「ノリが悪いよ空気読めよKY男共ぉ!!」
轟くんは仕方ないにしても、爆豪くんも来ないらしい。
まあ彼が皆と一緒にお買い物なんて言うのはあまり想像できないけど、あの爆豪くんを誘ってくれるような友達なんて中々いないんだから、爆豪くんは切島くんを大切にした方がいいと思う。
翌日。
「ってな感じでやってきました!県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端!木椰区ショッピングモール!」
休日のショッピングモールは人でごった返していた。
その中で、私たちは周囲の人の視線を集めている。
どうやら、まだ体育祭のことを覚えている人が多いらしい。
緑谷くんなんかいつものブツブツをやってるけど、この状況でそれをやったら絶対に奇異の目で見られると思うんだけど……
「お!アレ雄英生じゃん!?1年!?体育祭うぇー-い!!」
そんな感じで陽気な人たちがテンション爆上げで声をかけてくる。
お茶子ちゃんも「まだ覚えてる人いるんだぁ」なんて困惑してしまっている。
周囲の目はもう無視するしかなさそうだ。
そんな中、皆どうするかを近くの人と話し始めていた。
「俺アウトドア系の靴ねぇから買いてぇんだけど」
「あー私も私もー!」
透ちゃんは靴を買いに行くらしい。
結構な山中にいくらしいし、私もそれ用のやつを買おうかな。
「ね……私もいい……?」
「おぉ!もちろんだぜ!」
「靴は履きなれた物としおりに書いて……あ、いや……しかしなるほど。用途に合ったものを選ぶべきなのか……!?」
私たちの会話を聞いて、注意をしようとした飯田くんが相変わらずのクソ真面目で暴走し始めていた。とりあえず靴擦れになったりするようなものじゃなきゃいいと思うんだけど……
「ピッキング用品と小型ドリルってどこに売ってんだ?」
ブドウ頭がどう考えても覗き用のツールと思われるものを探してるけど、無視だ。
ここで阻止しても意味がない。
阻止するなら実行する直前か直後のどちらかだ。
「目的バラけてっし、時間決めて自由行動すっか!」
切島くんが皆に呼びかける。
結局、3時にこの場所で再集合ということで一時解散となった。
透ちゃんや上鳴くんと靴を物色している途中で、それは起こった。
「……は?」
「どうしたの?瑠璃ちゃん。」
今、集合場所にいる緑谷くんの近くに、あの手のヴィランと同じ悪意を感じた。
人が多すぎて見落としていた?
確認の意味も込めて緑谷くんの近くの波動をじっくり見てみると、間違いなくあの時のヴィランがいた。
「……透ちゃん……上鳴くん……ちょっと来て」
「え?え?」
「おいおいどうしたんだよ波動」
困惑している2人の手を無理矢理引っ張る。
この場でヴィランが居るなんて声高に言うわけにはいけない。
一般人が混乱して騒ぎになってしまえば、今は緑谷くんと話しているだけのあのヴィランが何をするか分からない。
少なくとも、今彼の思考から一般人や緑谷くんを殺そうとするようなものは読み取れない。
他の人に聞こえないように、耳元に口を寄せて囁く。
「1階の……さっきの場所に……あの、手のヴィランが居る……緑谷くんが捕まって、話をさせられてる……」
「はぁっ!?」
「なっ、それ本当!?」
「ん……今のところ誰かを殺そうとかは考えてなさそうだけど……いつ心変わりするか分からない……刺激しないように隠れつつ……助けに行こう……」
2人はしっかりと頷いてくれた。
まずスマホで警察に通報する。
すぐ向かってくれるみたいだった。
後は緑谷くんを助けに向かうだけと思った瞬間、ヴィランの悪意が膨れ上がった。
すごく濃い悪意にも関わらず、一方で彼の感情は歓喜で満たされている。
純粋な悪意、気分が悪くなるような狂人の波動。
緑谷くんが危ない。
そう思った私は、走ってヴィランがいる所へ向かった。
私が現場に着くよりも先に、お茶子ちゃんが戻って来ていた。
お茶子ちゃんに気が付いたヴィランは、すぐに平静を装って去っていった。
私が着いたのは、その場から手のヴィランがいなくなった後だった。
結局、私がした通報で警察が来たのはその5分後。
その時には既に手のヴィラン、死柄木弔は転移で完全に消えてしまった後だった。
ショッピングモールは一時的に閉鎖。
既にヴィランは転移で逃走した後であるということも伝えたけど、念のため区内のヒーローと警察が警戒と緊急捜査をしてくれた。
やっぱり何も見つかったりはしなかったみたいだけど。
私と緑谷くん、お茶子ちゃんはその日のうちに警察署へ連れていかれて、事情聴取を受けた。
まあ、メインは緑谷くんで私とお茶子ちゃんは経緯の確認のための簡易的な事情聴取だ。
警察の人からは、個性を使って急接近なんて行動や、周囲に大々的に知らせるような行動を取らなかったのは英断だと褒められた。
やっぱりあの状況でヴィランを刺激しようものなら何をするか分からないっていうのは、警察としても感じたようだった。
結局、私とお茶子ちゃんは夕方には解放された。
緑谷くんはもうしばらくかかるから、先に帰っているようにと厳命されてしまって、そのまま2人で緑谷くんの心配をしながら帰路に就いた。
青山は演習試験では最初に峰田をレーザーで吹き飛ばして爆睡していました。青山は咄嗟の判断は優れているのでこれくらいはやってのけるでしょう。しかし原作瀬呂と同じく赤点です。
その後は峰田単体でどうにかしてくれています。あの役割は別に瀬呂である必要がないので、最後のテープでの窒息まがいをマント口に巻いて我慢に変えたくらいでしょうか。