「……とまあ、そんなことがあって、ヴィランの動きを警戒し例年使わせて頂いている合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった」
翌日のホームルームの時間に、相澤先生はそう切り出した。
最初に配布したしおりすらも引き裂いている。
これはもう仕方ない。USJに続いてまたヴィランと遭遇してしまっているのだ。
頻度がおかしいし、また何かあればそれこそ雄英の信頼に関わる。
高校側としても苦肉の策だろう。
「もう親に言っちゃったんですけど」
「故にですわね……話が誰にどう伝わっているのか学校が把握できていませんもの」
「合宿自体をキャンセルしねぇの英断すぎんだろ!」
皆が口々に感想を言っていく。
そんな中で爆豪くんはその苛立ちを緑谷くんにぶつけていた。
「クソナード……骨折してでも殺しとけよ……」
「ちょっと爆豪!緑谷がどんな状況だったか聞いてなかった!?そもそも公共の場で"個性"使用禁止だし!」
……透ちゃんが珍しく敬称を外すくらいにはプンプン怒ってるな。まあ、あの時の状況を知ってて爆豪くんの感想を聞いちゃったらそうなっても仕方ないんだけど。
「ん……あの状況で反撃に出たら……一般人に被害が出てた……緑谷くんは正しい……」
「知るかとりあえず骨折れろ」
「かっちゃん……」
私も緑谷くん擁護のために苦言を呈するけど、爆豪くんは知ったことではないと言わんばかりに同じ発言を繰り返している。
そんな感じで皆が話していると、先生の話はまだ途中だったみたいで、髪の毛をざわつかせて皆を黙らせた。
「それともう一件。夏休みの間は長期の外出はなるべく控えるように。最近のヴィランによる襲撃や接触を受けての措置だ」
「えー!?マジかよ!?」
上鳴くんが文句を言っているけど、正直これは仕方ないと思う。
これだけ執拗に狙われているのに、教師がいない時に狙われたら危険極まりない。
ホームルームが終わってから、私を含めた女子は全員、百ちゃんの席の周りに集まっていた。
「残念ですわ。両親と旅行でヴェネチアへ行く予定でしたのに……」
百ちゃんが胸に手を当てながら残念がっている。
「ブルジョワや……!!」
それを受けてお茶子ちゃんが結構な勢いで倒れた。
百ちゃんのあまりのリッチさに耐えきれなかったようだ。まあ、高校生でヴェネチア旅行なんてあんまり考えられないし、仕方ない気もする。
「あぁ~~せっかくおニューの水着買ったのにぃ~」
「仕方ないよ。ウチらは一度ヴィラン連合に襲われてるし」
「それに……この前も緑谷くん狙い撃ち……流石に危ない……」
三奈ちゃんのぼやきを、響香ちゃんと一緒に宥める。
だけどそれだけで三奈ちゃんの不満が解消されるはずもなかった。
「それでもあそびたーい!どっかいきたいー!!」
不満なものは不満らしい三奈ちゃんは、腕をバタバタと振りながらさらに不満をあらわにし始めている。そんな三奈ちゃんを見ながら、透ちゃんが口を開いた。
「じゃあさ!夏休み、学校のプールに集まらない!?」
透ちゃんは名案!とばかりに明るく提案してくる。皆も、その提案は満更でもないみたいだった。
「そうね!学校のプールだったら先生も許可してくれると思うわ!」
「いいね~!お金もかかんないし!」
「家に閉じこもってるよりましかー!」
「でしたら、私が学校側に許可をもらってきますわ!」
そんな感じで、その提案が拒否されることなんてあるはずもなく、皆で夏休みにプールで遊ぶ計画が始動した。
……今ブドウ頭がこちらの話を盗み聞きしているけど、学校だしあまり露骨な手段はとれないだろう。
妄想の中で私たちが色とりどりの水着を着ている気がしないでもないけど、学校のプールでそんなものを着れるはずがないのが分からないんだろうか。
もし要望が通って実現しても、当然スクール水着だ。
あの後すぐに申請に行った百ちゃんは、サクッと戻ってきた。
"日光浴"目的で申請してあっさり通してもらえたらしい。
やっぱり学校側としても、長期の外出自粛要請は負い目があったのかもしれない。
夏休み直前。
「はい……期末テスト……無事合格でした……ミルコさんのおかげです……」
『あー、はいはい。そのセリフもう散々聞いた』
今日は久々にミルコさんに電話をかけていた。
期末テストの演習試験の内容の報告と、ちょっと助言が欲しい部分があったからだ。
そのためにも、まずは試験であったこと、攻略の為にしたこと、その流れを順番に説明してしまう。
『おお!裏拳ってのはありだな!あのへっぴり腰でもそれなりの威力になるだろ!』
「ん……はい……それで……体術の練習は進めるんですけど……攻撃手段を他にも増やしたくて……」
『あー、そういうことか』
私の相談に、ミルコさんも考え込んでいた。
そして、考えがまとまったのか少し間をおいてから返答があった。
『……まあ、結局のところ体術を身に着けろっていうのは変わらねぇ。それ以外となると、裏拳出来たんならもう大体想像できてるだろ』
「はい……足首の辺りで……波動を噴出して……蹴ったりってことですよね……」
『ああ。あとは頭突き、膝蹴りとかか?まあでも、結局喧嘩慣れしてねぇお前のそんな攻撃に大差ないだろ』
「そうですよね……」
『……あんまり助言しすぎるのも良くねぇんだが……私だけからヒントを得ようとしてるのが間違いだな』
「え……?」
ミルコさんは怒っている様子とかは微塵もなく、淡々と話を続けた。
『まず、お前自分の個性をどういう物だと思ってるんだ?』
「えっと……波動が見えて……多少波動の操作が出来る……?」
『そこから間違ってるってことだよ』
電話での会話で読心が出来ないから、どういうことなのかすぐに理解が追い付かない。どういうことだ。
『例えばだが、気は万人の身体に宿っているもので、武術の達人とかになるとその気を利用してくるわけだ。だが、気はそいつにとっての個性なのか?』
「…………そういう……ことですか……?」
つまりミルコさんは、私の波動を利用した攻撃は個性じゃなくて、普通に波動の扱いがうまくなって自身の波動が扱えているだけの話ではないかと言っているのか。
波動も万人に宿っているものである。そんなの散々見てきた私が一番良く分かっている。
そして、武術を修めた人の波動が研ぎ澄まされていたり、パンチの時に波動がらせん状になっていたりするのは、気と同じように個性ではないということか。
私の波動の操作は個性じゃない。
自身の波動を、うまい具合に操作する術を知っているだけということだろうか。
そうなってくると、話が変わってくる。
『分かったみたいだな』
「はい……」
『そういうことだ。体術のことが聞きたければ私に聞けばいいが、適材適所があるだろ』
「……はいっ……!」
そうだ。
私以外で、私以上に波動の扱いがうまい人。
お姉ちゃんだ。
私が今までお姉ちゃんにアドバイスを貰わなかったのは、個性の根本が違うからアドバイスの貰いようがないと思い込んでしまっていたからだ。
お姉ちゃんの"波動"は、活力をエネルギーに変換して放出している。
私の"波動"はただ波動の感知が出来るだけの個性で、自身の波動を技術で攻撃に転用している。
なら、お姉ちゃんに波動のエネルギーに変換した後の操作方法を教えてもらうことが、できるかもしれない。
その方法が掴めれば、放出をうまくできるようになることが前提ではあるけど、お姉ちゃんのビームみたいな遠距離攻撃が出来るようになるかもしれない。
まさか口頭だけでここまでヒントを貰えるとは思ってなかった。
『んじゃ、とりあえずこれで十分だな……っと、聞き忘れるところだった』
「……?」
『お前、I・エキスポプレオープンの招待状いるか?私に送り付けられてきてな。いらねぇから欲しいならくれてやる。まあお前がいらねぇつったら捨てるだけなんだが』
I・エキスポ。
確かI・アイランドで行われている研究や開発の成果を展示した博覧会だったはずだ。
少し前にニュースか何かで見た記憶がある。
プレオープンは確か夏休み中で、林間合宿とも被っていなかったはずだ。
サポートアイテムの展示とかもしていたはずだし、勉強になるかもしれない。
「……じゃあ、もらってもいいですか……?勉強になると思うので……行ってみたいです……」
『おう。送っといてやるから好きに使え。同伴者がどうとか書いてあったから誰か誘って行けばいい』
「ありがとう……ございます……」
『ああ。また気分が乗れば相談に乗ってやる。じゃあな』
「はい……」
私がそこまで答えたところでぷつっと電話が切れた。
今日はお姉ちゃんも家にいる日だ。
今はリビングで本を読んでいる。
早速相談してみるか。
「お姉ちゃん……ちょっといい……?」
「んー?どうしたの?」
「ん……波動のコントロールについて……ちょっと聞きたい……」
「急だねー。今まで私には聞こうとしなかったのに、心境の変化とか?不思議!」
さっきミルコさんと話した内容をお姉ちゃんに伝えてみる。
気を例にした説明も含めて、私の個性に関してを包み隠さず伝える。
「おー、なるほどねー。確かに瑠璃ちゃんの波動の操作は自分の波動だけだし、個性っていうよりもそういう解釈の方が当てはまるのかな?」
「ん……それで……お姉ちゃんの……活力を波動のエネルギーに変えた後の……操作のコツとかを聞きたい……」
私のお願いに、お姉ちゃんは考え込み始めた。
まあ考え込むって言っても教えるかどうかを迷っているわけじゃなくて、いつ教えるかとかそっちの方向で悩んでいる感じみたいだ。
「教えるのは全然大丈夫だよ。ただねぇ……なんていうか、口で伝えるのはなかなかムズかしんだよね。結構感覚的な所が多いから。今度、演習場とかを借りれたときとかでも大丈夫?」
「ん……お姉ちゃんが大丈夫な日に合わせるから……今度予定教えて欲しい……」
「うん!あ、そうだ!あとね、具体的にこうしたいから助言が欲しいとかだったら、いつでも相談に乗るからね!」
お姉ちゃんはにっこり笑ってそう締めくくった。
まあお姉ちゃんは昔から「でっかいのはムズかしい」とか言ってたから、感覚的になってしまう自分の操作方法を教えるために、安全を確保しつつ披露しながら出来る状況を作ってからじゃないと駄目っていうのは納得できる。
具体的な指針の相談とかはいつでも乗るって言ってくれているし、思いついたら相談してみよう。
「あ……そういえば……もう一つ……」
「んー?」
お姉ちゃんは本に目を戻しつつではあるけど、まだ話をしっかり聞いてくれていた。
「お姉ちゃん……I・エキスポのプレオープンとか……興味ある……?」
「I・エキスポ?行きたいの?」
「えっと……ミルコさんが……招待状くれるって……言ってたから……一緒にどうかなって……」
「もらったの!?凄いね!不思議!」
お姉ちゃんが驚いた表情をこちらに向けてきた。
「でも、それって確か林間合宿の少し前だったよね?私はその辺りインターンがあるから多分無理かな」
「そっか……残念……」
お姉ちゃんと一緒に旅行に行けるかと思ったんだけど、残念だ。
私がしょんぼりしていると、お姉ちゃんはにっこり笑って話を続けた。
「瑠璃ちゃんもお友達出来たんだから!その子誘いなよ!ね!」
「……透ちゃんか……」
透ちゃんと一緒に旅行。
それも楽しいかもしれない。
今度誘ってみようかな。