春。
それはお姉ちゃんとの新生活の始まり。
私は春休みに入って早々に、お姉ちゃんの家に引っ越した。
お父さんとお母さんには新しい環境に慣れるなんて伝えてはいたけど、早くお姉ちゃんと同棲したいだけなのは見透かされていた。
恥ずかしかったから、余計なことは言わないでおいたけど。
中学校に友達なんていないし心残りはない。
雄英のヒーロー科に受かったのを先生が漏らしたせいか、話しかけてきた人もいたけど無視を貫いた。
雄英ヒーロー科に友達がいるなんていうステータス欲しさの欲望丸出しで話しかけて来るやつなんて、まともに相手をするわけがない。
先生もわざわざ職員室に呼んでまで褒めてきたけど、最低限以外は話してない。
私だけじゃなくて、お姉ちゃんがあんな状態になるまで放置していた中学校への好感度なんて、0どころかマイナスになっている。
都合よく宣伝に利用しようとしてくる思考を読み取っても無視してあげたのが、せめてもの慈悲だと思って欲しい。
まあそんなどうでもいい話は置いておいて……
お姉ちゃんとの同棲が始まった。
基本的に家事は分担だ。
日帰りであってもお姉ちゃんにインターンがある日は、私がその日の家事をやることで合意している。
お姉ちゃんには自分が一方的に得しちゃうルールだなんて遠慮されはした。
だけど私の夢自体がお姉ちゃんのサポートなのだ。むしろ全部任せて欲しいくらいだ。
それを言ったら大反対されて、議論に議論を重ねて今の形に落ち着いた。
それでも「本当にこれでいいの?変なのっ」って納得してない感じで苦言を呈されたけど。
春休みは楽しかった。
もちろん、お姉ちゃんはインターンとかがあるから、家にいない日も多かった。
だから帰ってくる日にはお姉ちゃんの好きな料理を作っておいたり、お休みの日にはジャスミンティーを入れておいしいって褒めてもらったり……
とにかく充実した日々だった。
そんな楽しい日々はあっという間に過ぎて、ついに入学式の日になった。
中学校とは比べ物にならないほどの大きさで、全面ガラス張りの校舎に圧倒されてしまう。
そんな校舎についたから、名残惜しいけどお姉ちゃんとは昇降口のところで別れることになった。
「じゃあ瑠璃ちゃん、学校楽しむんだよ!お友達、できるといいね!」
「ん……私も……できたらいいなって思ってる……頑張るっ……!」
別れ際に、私に友達がいないことを心配していたらしいお姉ちゃんに、応援までされてしまった。
お姉ちゃんに心配をかけないために、何が何でも友達を作らないと……
読心に関しては隠しておくつもりだけど、葉隠さんも合格してると話が早いんだけどななんて思いながら、廊下を歩いていった。
「1-A……ここか……扉……おっきい……」
辿り着いた教室のドアは、バリアフリーを意識しているのか見上げなければいけないほど巨大だった。
私の力で開けられるのかな、なんて思いながらゆっくり開けてみる。
だけど、見た目に反して重さは普通のドア程度しかなかったらしい。
呆気ない程簡単に開けることができた。
そして、校舎に入ってから気付いた教室の中にいる波動の持ち主に期待しながら、教室に入った。
入った瞬間好奇の視線を向けられて、気にしないようにしながら進もうとしていたら、クソ真面目な感じの思考をした男子に声をかけられた。
「おはよう!!俺は私立聡明中学出身、飯田天哉だ!!」
声の方向に顔を向けると、背の高い眼鏡をかけた男子生徒がいた。
見た目も真面目そうなら聞こえてくる思考もクソ真面目と言っても過言ではないくらいのお堅い感じだ。
「ん……私……波動瑠璃……よろしく……」
「ああ!よろしく頼む!席は出席番号順になっているようだ。君の席は……」
親切に教えてくれる飯田くんと一緒に教室の方に目を向ける。
その瞬間、飯田くんの思考が怒りに染まった。
「君!」
飯田くんの視線の先には、机に脚を乗せている態度の悪い不良っぽい生徒がいた。
飯田くんは怒りを滲ませながら不良くんの方にツカツカと歩いていく。
そういうことかー真面目だなーと心の中で現実逃避をしながら、成り行きを見守るしかなかった。
「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」
「思わねーよてめーどこ中だ端役が!」
案の定喧嘩が始まってしまった。
というか、出席番号順だと私の席はもしかしなくてもあの喧嘩している不良くんの後ろではないだろうか……
流石に喧嘩真っ只中の自分の席に向かうのは巻き込まれちゃいそうだし、関わりたくない。
ぶっ殺し甲斐とか物騒な言葉が聞こえてくるけど私は知らない。
心の中まで『死ね』とか『雑魚』とか『端役』とかの罵声で満ちてる不良くんはある意味すごいと思う。
やっぱり関わるべきじゃない……
そう考えた私は、自分の席に着くことを諦めて教室を見渡してみる。
『小さいのにでけぇ』とかいう失礼極まりない不埒な思考を垂れ流している何かはスルーだ。
きょろきょろと教室を見ていると見覚えのある制服が浮いている人型の波動が、期待に満ちた感情をこちらに向けていた。
後ろから『怖い人たち……クラス違うとありがた……2トップ!!』なんて悲壮感に満ちた嘆きが聞こえてくるけど無視。
今はとにかく葉隠さんだ。
私が葉隠さんの方に向かい始めると、葉隠さんも喜びの感情を溢れさせながらが駆け寄ってきた。
「波動ちゃん!やっぱり受かってたんだね!まあレスキューポイントなんてあったら波動ちゃんが落ちるわけないよね!」
「ん……葉隠さんも……合格してたみたいでよかった……」
葉隠さんも最後の方はポイント稼げなかっただろうし、私と同じくほぼ素の身体能力しかなさそうな個性だったから、不合格かもしれないと思っていたのだ。
だけど、杞憂だったようで安心した。
「透でいいよー!私たちもう友達でしょ!」
「ん……じゃあ私も……瑠璃で大丈夫……」
「やったぜ!雄英でのお友達第1号だよ!」
やっぱり、彼女は信頼できそうだ。
少しじっくり波動を見てみたけど、基本的に明るく活発な性格で思考と言動にズレもない。
雄英のヒーロー科に入れるだけあって、悪意なんて微塵も感じない。
葉隠さん……透ちゃんなら友達になっても大丈夫だと思う。
安心して友達になれそうな子がいて、私の口角は自然と上がってきていた。
「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け」
その声が聞こえて、今が8時25分、HRの時間であることに気が付いた。
「ここは……ヒーロー科だぞ」
教室の入口には、寝袋に入ったままジュッと音を立てながらゼリー飲料を一気飲みする不審者っぽい人がいた。
その姿を見たクラスメイト達の心の声が『なんか!!いるぅぅ!!』とかいうどうしようもないものに統一されている。
だけど、みすぼらしいというか、清潔感にかける姿からは想像できないけど、彼は先生だ。
「ハイ、静かになるまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くね……担任の相澤消太だ。よろしくね」
皆の『先生!!?担任!!?』なんて思考が響き渡ってくる。
私も波動で思考が読めなきゃ信じられなかったと思う。
それくらい見た目が先生っぽくない。
「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ」
それだけ言い残して相澤先生はさっさと出ていってしまった。
クラスメイト達が困惑しているのが伝わってくるけど、早く指示に従った方が良さそうだ。
理由は先生から『見込みがなかったら除籍』という物騒な思考が感じ取れたから。
私は、理由は特に言わずに、透ちゃんに早く指示に従った方が良さそうだってことだけ伝えて更衣室に向かうことにした。