中央のブロックに移ったあたりで、オールマイトが感知範囲に入った。
それとともに、オールマイトと一緒に居る人の思考も読み取ってしまう。
この人が、今回の犯人?
主犯っぽい思考はしているけど、あのヴィランたちをただのごろつきだと思っているみたいだし、何かがおかしい。
他にも内通者がいないかを感知し続ける。
その一方で、私は考えていた。
ヴィランに関しては、簡単にオールマイトに伝えられる。
警備員に危害を加えているから、これだけでもオールマイトは対応に当たってくれると思う。
だけど、内通者のことはどう説明するのか。
オールマイトと内通者の人は今も一緒にいる。
少なくとも彼自身が現時点の潔白を証明する証人のようなものになっているのだ。
確証を得た情報が、思考を読んだことを伝えないと伝えられない。
でも、ここで内通者をどうにかしないといずれ同じことが起きるかもしれない。
……オールマイトには、明かさないと駄目かな。
考え込んでいると、透ちゃんが私の顔を覗き込んできた。
「大丈夫?顔色悪いよ?」
「ん……大丈夫……」
どうやら顔色にも影響が出ていたらしい。
透ちゃんも言葉自体は信じてくれているけど、心配が拭えていない。
思考が読めることを伝えたくなくて、気分が悪くなっているのは間違いじゃない。
ただ、不安だった。
知られたら、今まで仲良くしてくれていた人の態度が変わるかもしれない。
友達じゃなくなってしまうかもしれない。
そう考えると不安で仕方なくなってしまう。
不安のせいでおかしくなったのか、それとも優しく聞いてくれている透ちゃんに絆されたのかは分からない。
だけど私は、なぜか透ちゃんに確かめたくなってしまっていた。
「……ねぇ、透ちゃん」
「どうしたの?」
「……透ちゃんは……心を読まれたりするの……どう思う……?」
なんで、私はこんなことを透ちゃんに聞いているんだろう。
こんな、臭わせるようなことを聞いても、墓穴を掘るだけなのは分かりきってるのに。
「心を読む?それって、考えてることを読まれたりってこと?」
「……うん……」
「うーん、それが悪事の為だったらダメだ!って思うけど……そうじゃないなら、特になにも!」
「……え……?」
「だって、その人は特に悪いことはしてないんでしょ?なら思うことなんて何もないよ!凄い個性だなぁとは思うけどね!」
なんで、そんな感想になるんだろう。
だって、今までの友達だった子は皆それを知った途端私を毛嫌いしたのに、皆、私を無視したのに……
「……怖くないの……?」
「怖い?なんで?」
「なんでって……」
「何も悪いことしてない人を怖いなんて思ったりしないよ!それが友達だったりしたら猶更かな!」
「……そっか……」
透ちゃんが嘘を言ってないのが、分かってしまった。
もうそれ以上、言葉を続けられなかった。
明らかに変なところで話が切れたのに、透ちゃんはそれ以上何も聞いてこなかった。
そのまま無言で走ってセントラルタワーに着いた。
もうすっかり夕方になってしまっている。
今、オールマイトはちょうどセントラルタワーから出てこようとしている。
ここで待ち伏せするのが一番だ。
少しして、ムキムキの姿のオールマイトが正面玄関から出てきた。
「オールマイト……!」
「おぉ!波動少女に葉隠少女!こんな所で奇遇じゃないか!どうかしたのかい?」
「ちょっと……お話があります……どこか……個室でお話ししたいです……」
「個室?そりゃまたどうして……いや、分かった。着いてきなさい」
私のお願いに、オールマイトは疑問符を浮かべていたけど、表情を見てからすぐに了承してくれた。
流石オールマイト。
助けを求めている人の気配に敏感だ。
そのままオールマイトに連れられて、セントラルタワーの一室に入った。
どうやったのか分からないけど、この一室を借りたらしい。
本来なら、ここで透ちゃんに外に出てもらうべきだ。
でも私は、さっきの透ちゃんの言葉を、信じてみたくなってしまっていた。
「それで、話ってのはなんだい?」
「I・アイランドに……ヴィランが潜り込んでいます……」
「なっ!?」
私の言葉を聞いた途端、オールマイトがアメコミ風の顔のまま驚愕で固まった。
「本当かい?ここはタルタロス並みのセキュリティがあるっていうのは知っているだろう?」
「はい……もちろんです……場所は、エキスポのメイン通りから外れた……埠頭にある倉庫です……中に結構な人数のヴィランが潜伏中……警備員も二人気絶させられてます……」
「おいおいマジかよ……!その情報、他の人には?」
「私と……私の様子で気が付いた透ちゃんだけ……他の人には話してないです……」
「よし!今すぐ私が行く!」
オールマイトは、すぐにでも立ち上がって出ていこうとし始めた。
「待ってください……まだあります……」
「あぁ、すまない。早まった。なんだい?」
「そのヴィランを手引きした……内通者がいます……」
「内通者!?確かにそれならヴィランも潜り込めるか?」
オールマイトは潜入の方法を考えて、納得したみたいだった。
「それで聞きたいんですけど……オールマイト……さっきまで一緒に居た人……誰ですか……?」
「さっきまで私といたのは、親友のデビット・シールドだけど……おい、おいおい待ってくれ。まさか、デイブが内通者だっていうのか?彼がそんなことをするはずがない!」
私の言葉を、オールマイトは早々に否定してくる。
善良で真面目な人だからありえないと考えているみたいだ。
でも彼が親友だというのなら、善良で、真面目で、オールマイトを想う親友だからこそ、この犯行を行ったんだと思う。
私は確証を持っている理由を伝えるために、一度深呼吸をする。
手が震えている気がする。
もう一度深呼吸して話し始めようとすると、透ちゃんが手を握ってくれた。
思わず透ちゃんの方を見ると、静かに頷いてくれていた。
……透ちゃん、もしかして気が付いている……のかな?
私は、そのままオールマイトに向き直って話を続けた。
「私は、確証を持って言っています……理由は、彼が考えていたことから、です……」
「考えていたこと?」
オールマイトが不思議そうに聞き返してくる。
「私の個性……"波動"は……人の波動から……その人の感情と、思考を読むことが出来ます……さっき……ここに来る途中で読んだんです……オールマイトと一緒に居た彼が……"ヴィランを装った者に盗ませる"……"君を失うのが怖い"……"築き上げた平和が崩れてしまう"……"現状維持の産物でしかなくても"って……考えていたんです……」
「そ、それは……!!その話に、嘘偽りは一切ないんだね?」
オールマイトが確認してくる。
私を信じられないというよりも、親友の犯行を信じたくないって感じだと思うけど。
透ちゃんは、変わらずに私の手を握ってくれている。不思議と、手の震えが止まっている気がした。
「はい……誓って、嘘はないです……」
「……そうか」
「あと一つ……ヴィランは、装った者なんかじゃない……あれだけの悪意を持っているのは……本物のヴィランだけです……デビット博士がヴィランを装った者と考えていたのを考えると……デビット博士を騙して……本物のヴィランを手引きした人がいると思います……」
私の言葉を受けて、オールマイトがさらに考え込んだ。
「……私から可能性があると言えるのは、助手のサムくらいだ。彼なら、いつもデイブと一緒に居たはずだ。もし本当にヴィランの手引きをする相談をするとしたら、彼以上の存在はいない」
「助手のサム……分かりました……私が……ここで2人の監視をしておきます……なので……」
「ああ。私は、まずヴィランを制圧してくる。デイブのことは、申し訳ないがその後だ」
そこまで言うと、オールマイトは凄まじい速さで姿を消した。
助手のサムという人の波動をセントラルタワーの中から探す。
今、デビット博士に会っている人がそうだろうか。
思考を注視して、すぐに確信した。この人だ。
やっぱりこの人が故意に悪質なヴィランを手引きしている。
私は2人の監視に努めた。
そうしていると、透ちゃんが明るい声で話しかけてきた。
「いやぁ!何かあるなぁって思ってたけど、やっぱりそういうことだったかー!」
「……怖くないの……?」
「さっきも言ったでしょ!怖くなんてない!瑠璃ちゃんは私の一番の友達なんだから!こんなことで嫌いになったりしないよ!」
本当に、嘘が一つもない。心の底から言ってくれている。
そう確信できた途端、自然と涙が流れてきていた。
透ちゃんは私の手をぎゅっと握りながら話し続けてくれる。
「でも考えてることが分かるのかー。あ、もしかしなくてもこの前の勉強の時、これ使って私に教えてくれてた?」
「……ん……考えてる途中の……間違ってるところを……指摘したり……重点的に説明したりした……」
「やっぱりか!他には……―――」
透ちゃんはその後も読まれていたかもしれない時をどんどん挙げていく。
明るく茶化すような感じではあったけど、いつもと変わらない感じで話し続けてくれている透ちゃんに救われた気がした。
少し話してから、透ちゃんが切り出してきた。
「よし!瑠璃ちゃん!内通者の2人がいる場所、教えて?」
「……なんで……?」
「瑠璃ちゃん、今も監視してるんだよね?でも、いくら考えてることが分かるからって、会話とか、電話とかまでは分からないでしょ?前に響香ちゃんにそんな感じのこと言ってたし!だから私が隠れて会話とかを見張ってるよ。その方が確実でしょ?」
透ちゃんの言うことも分かるけど、それは危険な気がする。
デビット博士の方は大丈夫だと思うけど、サムの方は見つかった場合何をしてくるか分からない。
「あ、今危ないとか考えてるでしょ。大丈夫!これでも隠密系ヒーローのところで職場体験したんだよ!任せて!何かあったら連絡するからさ!」
確かに、透ちゃん1人なら見つかることはそうそうないだろうけど……
私が一緒に行くと隠密行動の邪魔になるし、行くとしたら1人で行ってもらうことになる。それは心配でしかない。
だけど、透ちゃんもヒーロー志望で、隠密行動に特化しているのもまた事実ではある。
私は離れていても透ちゃんの様子が分かるし、危なくなったらすぐに助けに行けばいいかな。
「……少しでもおかしいと感じたら……戻ってくるって約束してくれるなら……いいよ……」
「もちろん!守らないと瑠璃ちゃん突撃して来そうだし、ちゃんと守るよ!あ、それと、瑠璃ちゃんはここで待っててね!オールマイトが戻ってくるの、ここだろうし!もし内通者が逃げ出したら瑠璃ちゃんがオールマイトに伝えないとダメでしょ!」
図星を突かれた上に、こっそり着いていくなんていう可能性すら潰してくる。
結局私は、透ちゃんに2人がいる場所を教えることにした。
透ちゃんは手袋とブーツを私に預けて気配を消しながら2人の所に向かっていった。
透ちゃんが部屋の中に潜り込んで会話を、私がこの場で思考を監視し続けたけど、ヴィランがオールマイトに襲われた時に通信が来たくらいしか動きがなかった。
オールマイトにバレたことでサムは慌てふためいていたけど、その状況で出来ることはなかったみたいだ。
逆にデビット博士は悟ったような思考をしていた。『流石だな、トシ』なんて寂しそうな感じで考えている。一方で、オールマイトの個性の衰えを心から心配して憂いてもいる。本当に大切な親友なんだと言うことが、分かってしまった。
それとは対照的に、サムは好きになれない小物感漂う負の感情を垂れ流している。
サムは動かなくなったデビット博士を放って逃走し始めた。透ちゃんもサムを追い始めている。
だけど、そのタイミングでオールマイトが戻ってきた。
結局、事件はオールマイトがあっという間に解決した。
オールマイトの説得でデビット博士も自首して、素直に応じようとしなかった助手のサムもオールマイトが何とかした。
唆してヴィランの手引きをしたサムの方は投獄は免れないらしいけど、デビット博士の方はまだ保留。今後の裁判で決まるらしい。
私と透ちゃんも軽い事情聴取を受けたけど、オールマイトに知らせたことを褒められてすぐに終わった。
私の個性のことに関しては、オールマイトと透ちゃんに他言しないようにお願いした。
まだ皆に教えるだけの踏ん切りはつかない。2人とも快く了承してくれた。
全てが終わる頃には、外はもう真っ暗になっていた。
その段階でスマホを見たら、私と透ちゃん、どちらも着信履歴と通知が凄いことになっている。
心配をかけてしまったみたいだ。
まあ、あんな言い訳で抜け出して戻ってこない上に、ヴィランが出たなんて騒動になれば当然か。
私と透ちゃんは皆に平謝りすることしか出来なかった。
皆楽しみにしていたレセプションパーティーは中止になってしまった。
明日予定されていたI・エキスポの一般公開も延期になった。
三奈ちゃんのテンションが地に落ちる勢いで落ちてしまっている。
上鳴くんと峰田くんは喜んでいるような落ち込んでいるような、複雑な感情をしていてよく分からなかった。
そんなにバイトが嫌だったんだろうか。
でも、なんとオールマイトが落ち込むみんなのために、イベントの代わりにバーベキューを企画してくれることになったのだ。
皆でバーベキュー、楽しみだ。
事件解決RTA
オールマイトに丸投げする
以上!!
でもまぁこの状況に陥ってオールマイトと親交がある雄英生がオールマイトに相談しないわけがないし、さもありなんって感じですね。
瑠璃が早期に発見したことによって起きた変化は以下の通り
・ヴィランが装置を使用していないため強化されていない
・オールマイトがパーティーや人質で拘束されている時間がなかったため制限時間があまり減っていない
・人質がいない、ヴィランは一応警備員を人質にできるがそれだけ
・プロが動ける状況なので学生が動くことはできない
・既に内通者は補足済み
・セントラルタワー内に瑠璃がいるため内通者の行動は常に感知され続けている
・オールマイトによるヴィラン襲撃時内通者はセントラルタワーでパーティーの準備をしている
・上記から、ヴィランから発覚を知らされたとしてもセキュリティの乗っ取りなどを出来るはずもないし、ヴィランが確保された後に乗っ取ったって意味がない
・たとえ逃走しようとしても位置と思考を読んでる瑠璃とその場で監視し続けている葉隠の監視網で逃げるのは困難