I・アイランドの中にある湖の側のテラス。
そこに私たちは集まっていた。
オールマイトが企画してくれたバーベキューに参加するためだ。
山のように準備された高そうなお肉と野菜。
それをオールマイトが、グリルで手ずから焼いてくれている。
美味しそうな匂いを漂わせながらじゅうじゅうと焼けてきているお肉は、もうそろそろ食べごろな気がする。
「さぁ食べなさい!!」
「「「いっただきまーす!!」」」
ムキムキの姿のオールマイトに勧められて、見守っていた皆は一斉に声を上げた。
だけど、流石オールマイト。
エキスポが中止になって皆落ち込んでいたとはいっても、こんな企画をしてくれるなんてすごい太っ腹である。
「やったー!!肉だ肉だー!!」
「たくさんあるから、お腹いっぱい食べなさい!少年少女たち!」
切島くんと上鳴くんが大はしゃぎしている。
その横でオールマイトが、すごい勢いで消えていくお肉を補充していく。
No.1ヒーローにこんなことをさせているなんて、すごい贅沢だ。
「……美味しい……」
「お肉うまー!思わず飛び上がっちゃうよ!」
「……飛び上がる……?」
無くなる前に第一陣のお肉を取って食べる。
透ちゃんも美味しそうにお肉にかぶりついている。
だけど透ちゃんのその表現はよく分からない。どういうことなんだ。
「うんまー!」
「串、気を付けなよー」
串付きのお肉にかぶりつく三奈ちゃんに、響香ちゃんが笑って注意を促す。
その近くでは口田くんが別の鉄板で焼いたお肉を頬張っていた。
彼も無口な割にすごく美味しそうに食べている。表情豊かだ。
「うう~ん!美味しいね、梅雨ちゃん!」
「ええ、青空を見ながらだと、余計美味しくなる気がするわね」
お茶子ちゃんと梅雨ちゃんは楽しそうに「あーん」と食べさせあっている。
その横では、百ちゃんが凄まじい勢いでお皿と串を量産していっていた。
「バーベキューなんて初めてですけれど、なかなかいいものですわね。お肉もお野菜も、とても美味しいですわ。今度家の庭でやってみようかしら。あら、このラムもイケますわ!あっ、このソーセージもいただかないと!」
「無限……」
近くにいた常闇くんが唖然としながらお皿の山を眺めている。
だけど、本当に百ちゃんの身体のどこにあれだけの量が入っていくんだろう。
不思議だ。
「ワイルドな肉汁が俺を獣にさせるぜー!」
百ちゃんの向かいで何やら砂藤くんが叫んでいる。
尾白くんにアピールしてる?よく分からない。
そんな様子を眺めていたら、ソーセージのお皿を持ちながら百ちゃんが話しかけてきた。
「それにしても波動さん、昨日のあれはそういうことでしたのね。戻ってこなくて皆心配していたのですよ?」
どうやら昨日、適当な言い訳で抜け出してオールマイトのところへ行ったことを言っているらしい。
「ん……ヴィランの波動を感じたから……オールマイトに伝えに行った……オールマイトがいるのは知ってたから……」
「でも、私たちくらいには教えてくれてもよろしかったのに」
百ちゃんは隠していたことを若干不満そうにしている。
まあ百ちゃんたちだけだったら教えていたと思うけど、あの場にはメリッサさんもいた。
「あの時……メリッサさんもいたし……ヴィランは潜伏中とは言っても……騒ぎになったら何するか分からなかったから……」
「それはそうですけれど……いえ、ですが葉隠さんは波動さんの変化に気が付いて確認したんですものね……これも己の未熟さ故ですわね……」
結局自己完結したみたいだ。
自分の未熟さを悔いているみたいだけど、あれは透ちゃんがおかしいだけだと思う。
「あれは……透ちゃんがおかしい……」
「ん?私がどうかした?」
自分の名前が出たことに気が付いたらしい透ちゃんが話しかけてきた。
「透ちゃんの観察力……最近おかしい……」
「え?そうかな?……まあ、口数少ない瑠璃ちゃんを観察してると、何考えてるか多少予想できるようになるよね!」
「つまり、鍛錬あるのみということですわね!」
「……あんまり見られると……恥ずかしい……」
透ちゃんが恥ずかしいことを言っているし、百ちゃんまで同調している。
あんまりじっくり見ないで欲しい。
「ここら辺、もういいぞ」
「ひゃっほー!肉祭りじゃー!」
また別の鉄板では障子くんが複製腕も使って焼いたお肉を振舞っていた。
それを峰田くんが大量にとって、何本もの串に幸せそうにかぶりついている。
「峰田くん!そんなにたくさん何本も一人で取ってしまっては、他の人が食べられなくなるだろう!それに一度に全部食べられないから、肉が冷めてしまうぞ。それでは君も残念ではないか!」
「ま、まぁまぁ落ち着いて飯田くん!」
委員長として張り切っている飯田くんが峰田くんに注意する。
それを緑谷くんが困ったような顔をしながら抑えていた。
「両手いっぱいの肉祭りくらいやらせろよ~、オイラの美女との出会いが無くなっちまったんだから!」
何か嘆いているけど、何を考えているんだこのブドウ頭。
バイト中にナンパして出会いなんてあると思っているんだろうか。
というか、このブドウ頭に靡く美女がいるとは思えない。
響香ちゃんも呆れた表情を浮かべている。
「なんで出会える前提なの」
「ね……しかもバイト中に……」
私たちの言葉を受けて、ブドウ頭は何かを堪えるように呻き始めた。
「っ、こーなったら食いまくってやらぁー!!」
「峰田くん!さっきから肉しか食べてないじゃないか!野菜も食べねば立派なヒーローにはなれないぞ!」
「肉祭りに野菜はおよびじゃねーんだよぉ!」
飯田くんの指摘にブドウ頭が叫ぶ。
やけ食いか。まぁこっちに被害が来ないだけマシな気がする。
そんなことを考えていたら、一通り肉を焼いて鉄板の管理を交代したらしいオールマイトが近づいてきた。
「波動少女、少しいいかな」
「……?はい……」
「よし、少しあっちで話そう」
何をしに行くのか聞いてくる皆に対して、オールマイトが昨日のことを聞くだけだと言って暗に着いてこないように言い含めていた。
オールマイトに先導されてテラス近くの公園の方へ移動した。
木陰に隠れたところで足を止める。
「もう……大丈夫ですよ……周りに誰もいません……」
「ああ、すまない。ありがとう」
そう言うとオールマイトは身体から煙を出しながら、がりがりの姿に戻った。
「話というのは他でもない。今まで君の前で、あまり他言できないことを何度も考えていたことを思い出してね。波動少女がどこまで知ってしまっているのかを把握したい」
「……全部言っても……?」
「ああ、頼む」
「分かりました……周囲の警戒をしながら……話しますね……」
そして私は周囲の波動を警戒して誰も近づいてこないことを確認しつつ、一つずつ今まで知り得たことをオールマイトに伝えた。
・個性を奪う個性"オールフォーワン"の存在
・それに対抗するために受け継がれてきた個性"ワンフォーオール"の存在
・オールマイトの個性はОFAだったが、既に次代に引き継いでしまっていること
・後遺症と衰えと継承のせいでオールマイトはもう1時間も戦うことができないこと
・それらのこともあり、オールマイトが次代を育成するために雄英に赴任したこと
・ОFAの継承先は緑谷くんであること
・緑谷くんの職場体験先のプロヒーローグラントリノはオールマイトの恩師であり、オールマイトの前の代のОFA継承者と縁がある人であること
・爆豪くんは真に受けていないが、緑谷くんが爆豪くんに人からもらった個性であることを暴露したこと
・ヴィラン連合のブレーンがAFОであること
・オールマイトの寿命がもう長くないということ
話している途中からオールマイトの顔色はどんどん悪くなっていって、今はもう汗をだらだら流してしまっている。
「シット!!ほぼ全て知っているじゃないか!?そのこと、誰かに話したりしてないだろうね!?」
「はい……誰にも……話してないです……」
「そ、そうか」
内心で『波動少女の口が堅くて助かった』とか考えているけど、そこまで読まれていることを分かっているのだろうか。
そんなこと毛ほども気にしていないのか、オールマイトは話を続ける。
「波動少女には申し訳ないが、このことは誰にも口外しないでくれ。もちろん、緑谷少年にもだ。必要なことは、私が折を見て彼に伝えていきたい」
「それは……大丈夫ですけど……」
「ありがとう」
オールマイトの要望を聞くのは全然問題ない。
むしろこれは進んで広めたい内容ではないし。
……オールマイトの話はここまでっぽいし、私からもオールマイトに言いたいことがある。
「じゃあ……私からもいくつかいいですか……?」
「ん?ああ、なにかな?」
「デビット博士のことです……」
「デイブのこと?」
オールマイトが訝しげに問いかけてきた。
「彼は……こんな犯罪に手を染めてしまうほど……心の底からオールマイトのことを……案じていました……彼にくらいは……伝えてもいいんじゃないですか……?」
「……」
オールマイトは真剣な表情で考え込み始めた。
ここから先は私が易々と踏み込んでいい話じゃない。結局、どうするかはオールマイト次第だ。
「それと……なんで死期が近いことを……緑谷くんにも隠してるんですか……?」
「……彼は、私のファンだからね。悲しませるだけだ。それに緑谷少年はきっとその未来を変えようとして、無茶をするだろう。ナイトアイの予知で定められた未来が変えられたことはない。未来を変えられない絶望なんて、味わって欲しくないんだ」
「……大切な弟子でも……ですか……?」
「あぁ。その方が、緑谷少年のためだ」
もうオールマイトが考えていることは大体分かった。
サー・ナイトアイの未来予知が外れたことがないから、そこをゴールと定めて全力で走り続けてきたみたいだけど、いくらなんでもこれは酷いだろう。
そんなことが、本当に緑谷くんのためになるだろうか。
私だったら、信頼している師匠に、死期が分かってるのにそれを隠されたまま死なれたら……ミルコさんに同じことをされたら、私は信頼されていなかったんだと絶望してしまうと思う。
「本当に……そう思いますか……?私がミルコさんに……同じことをされたら……私は……頼ってもらうことすら出来なかったんだって……絶望して……ずっと自分を責め続けると……思います……緑谷くんも……きっと……」
「……それは、そうかもしれないが……」
私が言うことにも、理解は示してくれている。
でも、全然思考の根本が変わってない。どれだけ頑固なんだ。
「私が言ったところで……変わらないとは思いますけど……私は……打ち明けた方が……いいと思います……」
「……波動少女の言うことも、もっともだ。もし、打ち明けた方がいいと私自身が判断できたなら、その時は打ち明けようと思う」
つまり、今は言うつもりがないと言うことか。
私が本心を見抜いている前提で言っているのか、もうこれ以上この件について答えるつもりはないみたいだ。
それなら、もうこの件について私から言えることはない。酷い師匠だとは思うけど。
……そうだ、あともう一つ言っておかないと。
「あともう一つ……」
「……ああ、なんだい?」
「オールマイト……緑谷くんもですけど……2人とも……表情と態度に出すぎです……」
「ど、どういうことだい?」
あまりの落差に拍子抜けしたのか、オールマイトが困惑している。
でもどういうことも何も言葉通りの意味だ。
ちょっと確信に近い質問をされるだけで焦ってワタワタしだすし、逆に真顔になったり冷や汗を流したりもしている。
今も冷や汗を流しているし、分かりやすすぎる。
No.1ヒーローとしてはそういう姿はチャームポイントになるんだろうけど、隠さなければいけない秘密を持つ者の姿としてはどうなんだと思う。
「言葉通りの意味です……隠すつもりがあるなら……もっとどしっと構えててください……保健室で姿のことを言ったときも……そうでしたけど……分かりやすすぎです……」
「そ、そんなに分かりやすかったかな?」
「はい……思考を読まなくても……何かあると思えるくらいには……」
「そ、そうか……」
オールマイトがズーンと暗い雰囲気を纏って落ち込んでしまった。
だけどすぐに気を取り直したのか元の感じに戻って、ついでのようにムキムキの姿に戻った。
「いや、すまない。今後気を付けるよ。波動少女からはそれだけかい?」
「はい……これだけです……」
「そうかい。じゃあ皆のところにお戻り!楽しいバーベキューはまだこれからだからね!」
「はい……ありがとう……ございます……」
そこで話は終わって、オールマイトの言葉に従ってバーベキュー会場に戻った。
オールマイトはしばらく戻ってこなかったけど、皆でワイワイしながらするバーベキューは凄く楽しかった。
エキスポはヴィランのせいであまり楽しめなかったけど、これはこれでありかもしれない。
林間合宿でも似たようなことが出来るかもしれないし、すごく楽しみだ。