I・アイランドから帰ってきて数日経った。
今日は林間合宿の前日。普通ならこのまま明日の準備をして一日を終えるところだ。
だけど今日はお姉ちゃんのインターンがないらしい。
一緒にお茶会でもどうかと思ったんだけど、お姉ちゃんがこの前約束していた波動の操作のコツを教えてくれると言ってくれたのだ。
お姉ちゃんも疲れてるだろうし、無理に早くしなくてもいいとは言ったんだけど、林間合宿の前までに教えておいた方が私の成長につながるからと固辞されてしまった。
「体育館γ……?」
「そう!トレーニングにはうってつけなんだよ!」
場所はお姉ちゃんがどうにかしてくれるって聞いていたけど、私が今まで使ったことがない場所を借りたらしい。
お姉ちゃんがこう言うからには何か凄い設備があるんだろうか。
体操服に着替えてから体育館γにやってきた。
入った体育館は、灰色の岩山のようなものがそびえ立っていた。
なんだこれ。
というか、体育館なのになぜ岩山があるんだろう。
私の思考が疑問に埋め尽くされていると、お姉ちゃんがはしゃぎながら話しかけてきた。
「ねぇねぇ知ってる?ここはねぇセメントス先生が岩山とかをババーンって出せるんだよ!知ってた!?言ったっけ!?」
「ん……知らなかった……凄い……」
高校生になってから昔のようにはしゃぎながら色々知りたがったり教えたがったり、お姉ちゃんの可愛さが天井知らずになっている。
天使と言っても過言ではない。この尊さを世界に知らしめるべきだ。
それはさておき、どうやらこの体育館はコンクリートで作られていて、セメントス先生が地形を弄れるようにしてあるらしい。
なるほど、確かにこれならお姉ちゃんの波動の的にぴったりかもしれない。
それに修理費とかもかからないだろうし経済的でもある。
セメントス先生ありきではあるけど、色々考えられているらしい。
「でしょ!?すごいんだよ!申請するときに出しといてもらえるようにお願いしといたの!」
「なるほど……ありがと……」
お姉ちゃんがわざわざお願いまでしてくれていたようだった。
可愛い上に優しくて気が利いているなんて、完璧超人すぎる。流石私のお姉ちゃんだ。
「じゃあ早速始めよっか!」
「お願いします……!」
「じゃあまず、今の瑠璃ちゃんが出来る放出、見せて!」
「ん……分かった……」
お姉ちゃんに言われた通りに、波動の圧縮、放出を披露する。
地面を蹴る瞬間に圧縮した波動を噴出して高速移動。
ジャンプの踏切りで使ってハイジャンプ。
ジャンプの途中で手から放出して2段ジャンプ。
期末試験で使った波動の噴出の勢いを使った裏拳。
練習中でまだあんまりうまくないけど、掌底突きをしながら掌底から圧縮した波動を噴出などなど、とにかく出来ることとか想定していることを見せていった。
「すごいすごい!瑠璃ちゃんがこの4か月とっても頑張ったのがよく分かるよ!」
「うん……がんばった……」
お姉ちゃんが頭を撫でてくれて思わず笑顔になってしまう。
「それで、瑠璃ちゃんが知りたいコツってどういう方向性なの?」
「近接攻撃は……ミルコさんに相談に乗ってもらってるんだけど……他にも……お姉ちゃんみたいな……遠距離攻撃が出来るようになりたくて……」
「なるほどねー。遠距離攻撃かー」
お姉ちゃんはそう言って考え込み始めた。
だけどすぐに考えるのをやめて、気合を入れなおして次の行動に移っていく。
「よし、じゃあ最初に一通り見せるからしっかり見ててね!」
笑顔でそう言ったお姉ちゃんは、足から波動を放出して浮かび上がった。
これもお姉ちゃんは普通にやってるけど、すごく繊細な操作をしているはずだ。
波動を足から噴出し続けたとしてもこの挙動にはならないはず。
どうやったらあんなに自然に飛べるんだろうか。
私は波動の量の問題であんな風に飛び続けることなんてできないけど、跳躍のヒントになるかもしれない。
「まずは普通にいくねー」
そう言うとお姉ちゃんは手からねじれる波動を放出し始めた。
渦を巻くようにゆっくりと放出される線状の波動は岩を貫いていった。
そのままお姉ちゃんはいくつもの技を惜し気もなく披露していった。
周囲に小さく細切れにされたような波動をばら撒く技。
岩の周りをねじれる波動で囲むように旋回させる技。
岩を鞭のようにした波動で掴んで投げ飛ばす技。
お姉ちゃんの必殺技でもある、
本当に色々な技を見せてくれた。
その技のどれもが、すごく繊細な操作を必要としていることが容易に想像できた。
「多分これが一番瑠璃ちゃんの参考になると思うから、よく見ておいてね!」
空を飛んでいるお姉ちゃんが大きな声で呼びかけてくる。
お姉ちゃんが両腕にらせん状のねじれる波動を纏わせている。
その両手の波動を練り上げるように合わせて、正面にビームのように打ち出した。
「
その波動のビームは、片手で放たれるものよりも遥かに大きなものだった。
片手ずつ同時に打っても、こうはならないと思う。
そんなことを考えていると、お姉ちゃんがふんわりと宙を浮きながら降りてきた。
「どうだった?分かった?」
「ん……ちょっとだけ……」
しばらく考えて、ようやく理解した。
お姉ちゃんは、波動の量が足りていない私が遠距離攻撃として波動を放出できる可能性がある方法を提示してくれたんだ。
私はそもそも波動の量が足りていないのが問題点だ。
だからお姉ちゃんは、少ない量の波動でも遠距離攻撃にできる可能性のある、両手から波動を重ね合わせて増幅させる技術を見せてくれた。
ただ、今まで片手から波動を噴出しても、それはただの衝撃波になるだけだった。
当然、その衝撃波を遠距離攻撃としての体を保つことができるビームなりなんなりに変える方法を考える必要がある。
ビームにする方法はお姉ちゃんの個性の領域になっちゃうから、教えてもらうのはちょっと難しそうではある。
だけどその方法を考えて、それに加えてさっきのお姉ちゃんの練り上げるような波動の増幅を出来るようになれば、いい感じの遠距離攻撃に出来るかもしれない。
「お姉ちゃん……さっきの……
「うん!いいよー!」
お姉ちゃんは何度も技を見せながら、丁寧にコツを教えてくれた。
感覚的とは言っていたけど、分かりやすい範囲だと思う。
むしろこんな力の調節の部分のコツを聞かれて、ちゃんと言語化して伝えてくれているお姉ちゃんは凄いと思う。
コツを聞きながら練習方法も相談させてもらった結果、お姉ちゃんに提案された両手から極少量の波動を放出して合わせる練習をすることになった。
試しに手から波動を放出してみるけど、すぐに霧散してしまってなかなかうまくいかない。
「……うまくいかない……」
「うーん……瑠璃ちゃん、どういうイメージで合わせようとしてるの?」
「えっと……普通に、手から出た波動を混ぜようとしてる感じ……」
「もっとしっかりと、どういう風に波動を動かすのか意識した方が良いと思うよ。ぼんやりした感じで混ぜるのはムズかしいよ」
「具体的に……」
お姉ちゃんの言うことももっともだと思った。
お姉ちゃんの
もう一度、極少量の波動を手から放出して、お姉ちゃんがやっていた波動の流れを意識して混ぜようとしてみる。
だけど、波動の量が少ないからか、なかなかうまくいかない。
何度も試してみるけど、成功の兆しすら見えない。
しばらく私が躍起になって波動を放出をしていると、お姉ちゃんに腕を掴まれた。
「そんなにムキになってもダメ。それに、昔みたいに倒れちゃうよ。休憩しよ?」
そう言ってお姉ちゃんはジャスミンティーを差し出してくる。
というかこれ、私がお姉ちゃんのために入れてきたジャスミンティーなんだけど……
そうは思ってもお姉ちゃんに勧められたものを拒否できるわけもなく、一緒にジャスミンティーを飲みながら休憩することになった。
「おいしー!」なんて言いながら嬉しそうに飲むお姉ちゃんに、私も嬉しくなってしまう。
ゆっくりジャスミンティーを飲んでいると、不意にお姉ちゃんに話しかけられた。
「ね、瑠璃ちゃん。無理に私の真似をする必要はないんじゃないかな」
「え……?」
「さっきの、私のやり方をそのまま真似しようとしてたでしょ。瑠璃ちゃんには瑠璃ちゃんにあった方法があるはずだから、真似じゃなくてちゃんと考えよ?ね?」
確かに、私はお姉ちゃんの真似しようと躍起になっていた。
言われてみれば、お姉ちゃんは活力を波動のエネルギーにして、大量の波動を練り上げているんだから、同じ方法でやってもダメか。
指摘されてようやく気が付いた。
「それに、瑠璃ちゃんの波動の圧縮、すごいと思うよ!私でもあそこまで細かい圧縮できないよ!どうやってるのか気になっちゃう!不思議!」
「ん……そうかな……」
「そうだよ!瑠璃ちゃんには瑠璃ちゃんの強みがあるんだから、そこを生かして行こ!ね!」
つまり、ただ混ぜるんじゃなくて、放出した波動を身体の外で圧縮してみたらどうかっていう提案だろうか。
身体の外での圧縮となると難易度はさらに跳ね上がりそうな気がするけど、何事も挑戦か。
ジャスミンティーを飲み終わったあたりで休憩も終わりにして、身体の外での波動の圧縮を試してみる。
今までと同じ要領で圧縮しようとすると、何かに詰め込むイメージが必要になる。
手の間でやることを考えると、球体に詰め込むイメージが良いかな。
そう思ってゆっくりと両手から波動を放出して、丸い玉に波動を詰め込むイメージで圧縮していく。
だけど集中が足りていなかったのか、圧縮の仕方が足りないのか分からないけど、波動はすぐに霧散してしまった。
その後も何度も挑戦していくけど、なかなかうまくいかない。
もうちょっと何かないかと考えて、さっきのお姉ちゃんが教えてくれた
ゆっくりと波動を放出する。
お姉ちゃんが両手の波動を合わせるために渦のように練り上げたイメージで、イメージしている球体の外側から内側に波動を循環させていく。
そのまま小さな球体に無理矢理詰め込むイメージでさらに圧縮を掛ける。
次の瞬間、私の両手の間に、すごく小さいけど、紫黒の外郭で中心が青白い光を放つ球体が出現した。
小指の先程度の大きさしかないその球体は、パチパチと波動を迸らせながら渦巻いている。
成功、した……?
「ね!ね!瑠璃ちゃん!打ってみて!それが飛んでる所見てみたい!不思議不思議!」
お姉ちゃんが大興奮で私の周りをぐるぐる回って波動の球体を観察している。
お姉ちゃんの期待に応えるためにも、私はその球体をそのまま前に押し出した。
波動の塊は意図したとおりにまっすぐ飛んで行く。
そのまま正面の岩山に飛んでいって、ぶつかった瞬間に弾けて、少しだけ岩肌を削り取って消えてしまった。
「すごいすごい!あれ波動の塊だよね!不思議ー!」
私を抱き上げてぐるぐる回って大興奮するお姉ちゃんに、私も嬉しさがこみあげてくる。
まだ威力は全然だけど、遠距離攻撃の可能性が見えた気がした。
波動の訓練に集中していたせいで気が付いていなかったけど、外はもうすっかり夕方になっていた。
訓練もここまでにして、先生に挨拶してから帰宅する。
私も明日の準備をして早々に寝ることにした。
明日はついに林間合宿。待ちに待った透ちゃんたちとの泊りがけの学校行事だ。