波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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バスの旅(後)

「眩しいわ、青山ちゃん」

 

「ウィ……」

 

そんな話をしていると、青山くんの鏡の光が目に入ったらしい梅雨ちゃんが、青山くんに声をかけた。

それに答えるように後ろから元気のない青山くんの声が聞こえる。

振り返ると、そこには青い顔でぐったりとして窓に頭を寄せている青山くんがいた。

透ちゃんも気になったのか青山くんを心配そうに見ている。

 

「……大丈夫……?」

 

「どうしたん?青山くん」

 

私たちの声を聞いて、今まで通路を挟んだ隣の席の緑谷くんと飯田くんの話を聞いていた轟くんも初めて青山くんの変化に気が付いたようだ。

 

「どうした」

 

轟くんの声で緑谷くんと飯田くんも気が付いたらしい。

 

「多分、乗り物酔いね。ずっと鏡を見てたんでしょう」

 

「……美しい僕を見ていて、気持ち悪くなるはずないだろう……?☆」

 

指摘する梅雨ちゃんに青山くんが反論する。

死にそうな顔をしながらウィンクする青山くんに、梅雨ちゃんが心配そうな表情で言葉を続けた。

 

「変わらない態度は立派だと思うけど、無理しなくていいのよ?」

 

「ノンノン……無理なんか……無理……うっぷ」

 

明らかに吐きそうな青山くんに、お茶子ちゃんが慌てだす。

 

「吐く!?袋、袋!」

 

「……美しい僕が美しくないものを吐くわけない……たとえ吐いたとしてもキラキラしたものしか吐かない……おっぷ」

 

ここまできて、騒いでいた他の皆も流石に気が付いたらしい。

 

「え?なに、青山酔ったの?」

 

「まぁそれは大変ですわ!」

 

「大丈夫ー?」

 

「……自業自得……」

 

常闇くんや百ちゃんを含めた何人かが思い思いに感想を言っているのを他所に、梅雨ちゃんが冷静にアドバイスをし始めた。

 

「とりあえず窓を少し開けましょう。それから衣服を緩めて横になると少しは楽になるはずよ」

 

「分かった」

 

青山くんの隣の轟くんが窓を開けて、横になるスペースを確保するために自分は立ち上がって席と席の間の肘置きをしまった。

轟くん、文句一つ抱かずに粛々と対応してあげている。

席まで移動しなきゃいけなくなったのに、すごく優しい。

青山くんも轟くんの厚意を受け取って、「メルシィ……☆」なんて言いながら襟首を緩めて横になった。

 

だけど青山くん、方角を気にしたり曲がる回数を数えたりしているし、そんなことをしているから酔うんじゃないだろうか。

 

「轟くん、席……あっ、僕、代わるよ!」

 

「大丈夫だ」

 

緑谷くんの席を変わる提案を遠慮した轟くんは、そのまま元の席の隣の補助イスを下ろした。

轟くんはそのまま補助イスに座る。

 

「轟、補助イス似合わないねー!」

 

「確かに!」

 

ちょこんと座っている轟くんを見て思うところがあったのか、三奈ちゃんがケラケラと笑って、透ちゃんもそれに同意した。

 

「……補助イスに似合う似合わないなんてあんのか?」

 

「……よく分からない……」

 

轟くんが疑問を呈するけど、私もよく分からない。似合うとかそういう問題なんだろうか。

そんなやり取りをしていると緑谷くんが立ち上がった。

 

「と、轟くんっ、やっぱり僕が代わるよ!僕のほうが小さいし!」

 

「いや、ここは委員長として俺が!」

 

そうこうしてるうちに、なぜか緑谷くんと飯田くんがどっちが交代するかで揉め始めた。

そんなことをしている場合じゃないと思うんだけど。

 

「大丈夫だ。椅子なんて座れりゃなんでもいいだろ」

 

「そうよ、それにとりあえず今は青山ちゃんの具合の方が大事だわ」

 

「ん……梅雨ちゃんの言う通り……」

 

梅雨ちゃんの指摘でようやく落ち着いたらしい緑谷くんと飯田くんが、しゅんとしながら席に着いた。

 

そんな中、三奈ちゃんの隣から切島くんがスマホを見ながら口を開いた。

 

「乗り物酔いに効くツボがあるらしいぜ!手首から指二本分下んとこを押すといいらしい」

 

「分かった」

 

切島くんの提案に、青山くんの一番近くに座っている轟くんがその役目を請け負うために、青山くんの手を持とうとする。

だけど持つ直前で、轟くんはハッとして顔を強張らせた。

 

「……俺じゃダメだ……」

 

「どうしたの、轟くん」

 

深刻そうに呟く轟くんに、緑谷くんが確認する。

轟くんの思考は以前言っていた『ハンドクラッシャー』というものになっていて、本当によく分からない。

 

「俺が関わると、手がダメになっちまうかもしれねぇ……」

 

「は?」

 

「ハンドクラッシャー……」

 

「それ……この前の電話でも……言ってたよね……」

 

三奈ちゃんや透ちゃんがきょとんとする中、緑谷くんと飯田くんが噴き出している。この2人は知ってるのか。

 

「俺にはお前のツボは押せねぇ……誰か代わりにやってくれ」

 

「……いや、僕自分で出来るから……ていうかほっといてくれていいから……」

 

轟くんと青山くんがやり取りをしているなか、さっきの私の発言に気が付いたらしい透ちゃんと三奈ちゃんの視線が私に集中していた。

というか、この三奈ちゃんのキラキラした目は大分まずいかもしれない。

 

「ねぇねぇ波動!なに!?普段から轟と電話してんの!?詳しく教えて!!」

 

「ここは大人しく吐くべきだと思うよ瑠璃ちゃん!」

 

本当に余計なことを言ったかもしれない。

これ、緑谷くんたち3人が黙っていることを私が言うわけにもいかないし、説明ができない。

 

「……そういうのじゃ……ないから……今は……そんなことより……青山くんのことを……」

 

「そんなこと言わずにさぁ」

 

「そうだよ!喋った方が楽になるよ!」

 

鼻息荒い三奈ちゃんと透ちゃんに詰め寄られて困っていると、切島くんの声が聞こえてきた。

 

「あとは……気を紛らわすといいらしいぜ!」

 

「……!じゃあ、皆で順番に……しりとり、しよう……!」

 

私が苦し紛れに切島くんの言葉に反応すると、緑谷くんがいつものブツブツを始めた。

 

「それは確かにいいかもしれないな……一見単純だけど、単純だからこそ気軽に、様々なワードを思い浮かべることで集中できるぞ。しかも言葉尻の一文字から始まるワードは思った以上に限られる。そのうえ、熟考する時間はない。あまり時間をかけると周りから急かされる。そのプレッシャーの中で考えなければいけない。考えるって行為自体が脳細胞を活性化させるし、精神面も鍛えられる……一挙両得じゃないか」

 

「おお、デクくんのブツブツ、久しぶりって感じ!」

 

苦し紛れにさっき透ちゃんに振られた遊びを提案しただけで、そこまでの意図はなかったんだけど……とりあえず緑谷くんのおかげで話の流れが変わった。

初めてあのブツブツに心から感謝したかもしれない。

三奈ちゃんと透ちゃんも残念そうにしてるけど、ひとまず諦めてくれたみたいだ。

『夜に聞けばいっか』なんて考えられているあたり、問題の先送りでしかない気もするけど、この場での危機は脱したと思う。

 

そんなことを考えていたら、飯田くんが立ち上がって声を張り上げた。

 

「ということで、みんな!乗り物酔いで苦しんでいる青山くんのためにしりとりをしよう!」

 

「しりとりぃ?」

 

「小学生じゃねーんだからさー」

 

峰田くんと上鳴くんが不満げな声を漏らす。

それに対して、三奈ちゃんが声を張り上げて反論してくれた。

 

「いーじゃん、しりとり!暇つぶしといえばしりとりじゃん!」

 

「暇つぶしかよ」

 

「青山くんのためだぞ、芦戸くん!それに、せっかくの合宿だ。こうしてみんなで共同作業をすることも協調性を育むのではないか!?」

 

飯田くんの説得で乗り気じゃなかった人たちも承諾して、皆でしりとりをすることになった。

しりとり自体は順調に進んだ。

緑谷くんがヒーローの名前を出したり、百ちゃんが難しい四字熟語を出したり、砂藤くんが料理知識を披露したり、上鳴くんが爆豪くんを起こしてしりとりに巻き込んだり、ブドウ頭がMt.レディのところで得たトラウマで黒いオーラを出したり色々あった。

だけど、ブドウ頭に関しては、邪な妄想をした上で勝手な期待をしながらMt.レディの所に行ったら、全く興味を持たれずに体よく扱き使われたってだけの話なのに、何をそんなに負の感情を背負っているんだろう。

完全に自業自得でしかない。

 

しりとりは轟くんがさっきの透ちゃんのような他意ははなく「氷点」と言って終わらせてしまった。

透ちゃんとのその差にちょっとくすっと笑ってしまったけど、その様子を見ていた透ちゃんがすごくキラキラした目で見てきた。

ただちょっと面白くて笑っちゃっただけなのに、なんでも変なことにつなげるのはやめてもらいたい。

 

次に始まったのはクイズ大会だ。

緑谷くんによるヒーローにまつわるすごく細かい問題が出されて、皆混乱してしまっていた。

私は緑谷くんの思考を読んで答えが分かっていたけど、流石にズルだし緑谷くんに同じレベルのヒーローオタクだと思われても困るから黙っておいた。

 

 

 

「どいつもこいつも、まったくわかってねーなぁ」

 

皆で盛り上がっていたら、ブドウ頭が最後列から口を挟んできた。

 

「男の気がまぎれるって言えば、1つしかねーだろうが。オイラがとっておきの話をしてやるぜ」

 

そんな話を許容するとでも思っているんだろうか。

今のブドウ頭はいつもよりは思考がピンク色ではないけど、ブドウ頭というだけで信用できない。

他の女子もそう思ったのか、皆口々に文句を言い始めた。

 

「ちょっと、エロ話なんかすんなよ」

 

「そうですわ、下品な話はおよしになって」

 

「オイラは男の気がまぎれる話って言っただけですけどぉ?」

 

「信用ないから……黙ってて……」

 

「アンタの口から出てくるのは、エロだけでしょーが!」

 

「そうだ、そうだー!」

 

私たち女子がブーイングをするけど、ブドウ頭はイラっとする小馬鹿にしたような顔で聞き流している。

悪くなってきた空気に流石にまずいと思ったのか、飯田くんが背筋を伸ばしてブドウ頭の方を振り返った。

 

「そうだぞ、峰田くん!ここはバスの中だ!聞きたくない者がいる以上、ムリヤリ話すことは反対する!」

 

流石飯田くん、真っ当な意見だと思っていたら、ブドウ頭が反論を始めた。

 

「委員長……オイラだってTPОをわきまえる男だぜ。それともなにか?恐怖政治でクラスを抑えるのが委員長なのか?」

 

「いいや!そんなことは決してない!俺はみんなの意見を平等に尊重するつもりだ!」

 

駄目だ、飯田くんが丸め込まれそうになっている。

こんなところでクソ真面目を発動しないで欲しい。

 

「なら、話してもねえのに止めるっていうのはおかしかないか?」

 

「ム……それもそうだな。ならば、とりあえず聞いてみようではないか」

 

案の定飯田くんはやすやすと丸め込まれてしまった。

私たちが話させまいと再びブーイングをするけど、ブドウ頭は一切気にしなかった。

そして私たちのブーイングの陰で密かに期待している上鳴くん他数名。

私の中での彼らへの好感度は駄々下がりである。

 

「あれは、オイラが小学生の頃。レンタルビデオ屋の18禁コーナーのカーテンを潜るのを止められた、ちょうど100回目の帰りのことだった」

 

「しょっぱなからエロじゃん!」

 

「こんなに嫌がってるのに……変態……最低……」

 

「こんなんでエロなんて片腹痛いわ!!」

 

続く私たちのブーイングを、ブドウ頭は鼻で笑った。

やっぱりあのブドウ頭、最低だ。

 

そしてブドウ頭は話を続けた。

河川敷で拾った官能小説の内容を赤裸々に語り出したのだ。

直接的な描写がないだけで、ブドウ頭は普通にR18の内容を話している。

私はブドウ頭の妄想込みでそれが伝わってきてしまって、正直苦痛でしかない。

だけど官能小説の内容で『真実の愛』という単語が出たあたりで、他の女子が絆され始めてしまった。

皆どれだけ恋バナが好きなんだ。

私も恋バナ自体は嫌いじゃないと思うけど、ブドウ頭の妄想込みの官能小説の恋バナは流石に無理だ。

ある程度のところまで話し終わったところで、ブドウ頭は話を切った。

 

「つーかエロ話じゃなかったよな……?」

 

「なんていうか……微妙にいい話みたいな……そうじゃないような……」

 

切島くんのその声に、緑谷くんが同意するように首を傾げ始めた。

一部の男子は消化不良のような感情を抱いてなんとも言えない表情をしている。

 

「……皆、絆されすぎ……直接的な描写がないだけで……普通にR18の内容だから……」

 

「ねぇねぇ!その小説の続きはどうなったの?」

 

透ちゃんまで絆されてしまったようで、しきりに続きを気にしている。

だけど、その返答はやはりブドウ頭だった。

透ちゃんが声をかけた途端、さっきまでの普通の表情の仮面を脱いで性欲にまみれた顔を晒した。

目を血走らせてだらしなく開いた口から涎を垂らしながら、ニヤリと笑った。

 

「……へっ、知りたけりゃ、オイラの家に来いよ。おっさんのサイン本見せてやるぜ」

 

「うわ、サイッテー!」

 

それで皆はようやく目を覚ましたらしい。

あからさまで最低な誘いに再び女子皆のブーイングが上がった。

 

その後は梅雨ちゃんがほのぼの系の話かと思いきや怪談展開の話をして、響香ちゃんと何人かが悲鳴を上げる一幕があったくらいだ。

それで目が覚めたらしい相澤先生が、皆に声をかけた。

 

「……お前ら、うるさい。もうすぐバス止まるぞ」

 

不機嫌そうな先生の声に、車内は一瞬で静まり返った。

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