波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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魔獣の森

「さっさと降りろよ」

 

相澤先生にそう言われて、バスから降りる。

そこは休憩所とかはなにもないただのパーキングスペースだった。

周囲は見渡す限りの山ばかりだ。

 

相澤先生や隠れている人たちの思考を読んで、私はこの後何が起こるかもう大体察してしまったけど、もう流れに身を任せるしかなさそうだ。

そんなことを知らない皆は伸びをしたりしている。

峰田くんなんかは、トイレを探して走り回ってしまっている始末だ。

 

青山くんもケロっとした表情でバスから降りてきた。

酔いも収まったらしい。

 

相澤先生が最後までバスの中に残っていた梅雨ちゃんとお茶子ちゃんに声をかけて、バスから全員を下ろした。

 

「休憩だ―――……」

 

「つか何ここ。パーキングじゃなくね」

 

「ねぇアレ?B組は?」

 

「お……おしっこ……トトト、トイレは……」

 

皆もようやくこの異常な状態に気が付いたみたいだった。

 

「何の目的もなく、では意味が薄いからな」

 

先生がそこまで言ったところで、隠れていた2人の女性が先生の前に飛び出してきた。

 

「よー--うイレイザー!!」

 

「ご無沙汰してます」

 

先生が頭を下げると、2人はそのまま颯爽と動き出した。

 

「煌めく眼でロックオン!」

 

「キュートにキャットにスティンガー!」

 

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

猫耳と猫の手と尻尾を付けた二人の女性がビシッとポーズを決める。

脇にいる少年のことが気になるけど、どちらかのお子さんか何かなんだろうか。

というか、ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツって私に指名をくれていたところじゃなかっただろうか。

 

「今回お世話になるプッシーキャッツの皆さんだ」

 

ポーズを見ていた時から震えだしていた緑谷くんが、相澤先生の言葉に我慢できなくなったのかいつものヤツを始めそうな感じになっていた。

 

「ワイプシ!!連名事務所を構える4名一チームのヒーロー集団!山岳救助等を得意とするベテランチームだよ!キャリアは今年でもう12年にもなる「心は18!!」へぶっ」

 

緑谷くんの解説でぐらつき始めていたワイプシの二人だったけど、金髪の人の方がキャリアの話になったあたりで耐えきれなくなったようで緑谷くんに張り手を繰り出した。

心は18とか叫んでいたし、気にしているんだろうか。

しかもその後は緑谷くんに掴みかかって18なんて復唱させてるし。

 

「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね」

 

若干赤みがかった茶髪の方の女性が、山の方を見ながら話し始めた。

 

「あんたらの宿泊施設はあの山のふもとね」

 

「遠っ!!」

 

ピッと猫の手の爪を立てて指さされる山に、驚愕の声が上がる。

皆が俄かにざわめき出していた。

透ちゃんも不安そうにしながら私の方を見てきた。

 

「ね、ねぇ瑠璃ちゃん……これって、もしかしなくても……」

 

私が黙って目を閉じているのを見て、透ちゃんも察して諦めたらしい。

逃げようがないのに、足掻いても意味がない。

逃げたところで、相澤先生に怒られるだけだ。

 

「今はAM9:30。早ければぁ……12時前後かしらん」

 

心の中で『私たちなら』とかいう注釈をつけないで欲しい。

つまりその時間に着くことすら難しいということじゃないか。

 

「ダメだ……おい……」

 

「戻ろう!」

 

「バスに戻れ!!早く!!」

 

「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

 

さっきの思考と合わせてまさかのお昼抜き宣告に愕然とする。

今から夕食までご飯抜きなのか……

 

そして、地面がゴゴゴゴゴと地鳴りのような音を鳴らし始めた。

どうやら金髪の女性の個性のようだ。

 

「わるいね諸君。合宿はもう、始まっている」

 

地面から盛り上がってくる土石流に、皆一斉に流されてしまう。

流されている最中に赤みがかった茶髪の方の女性が叫んだ。

 

「私有地につき"個性"の使用は自由だよ!今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!この……"魔獣の森"を抜けて!!」

 

土石流を操作していい感じにクッションになるようにしていたみたいで、1人も怪我をした様子はなく起き上がった。

 

魔獣の森とは言い得て妙だ。

確かに周囲には生き物じゃないけど動き回っている何かがいる。

感情や思考を感じないから感知しづらいけど、土で出来た魔獣っぽい何かみたいな形をしているものが、森の中にうじゃうじゃいる。

 

「"魔獣の森"……!?」

 

「なんだそのドラクエめいた名称は……」

 

「雄英こういうの多すぎだろ……」

 

「文句言ってもしゃあねぇよ。行くっきゃねぇ」

 

文句を言いながらではあるけど、皆立ち上がって動き出そうとする。

 

「耐えた……オイラ耐えたぞ!!」

 

その一方でさっきからトイレを我慢していた峰田くんが、木陰に向かって走り出した。

トイレのためなんだろうけど、そっちには土の魔獣っぽいのがいる。

 

「そっちはだめ……!戻って峰田くん……!」

 

私の注意も聞く余裕がないのか、爆走する峰田くんは正面から魔獣と鉢合わせた。

 

「マジュウだー--!!?」

 

上鳴くんが、そのまんますぎる感想を叫ぶ。

ブドウ頭と言えども流石にこれで怪我をするのはかわいそうだ。

助けようと思って私が足に波動を圧縮し始める。

 

「静まりなさい獣よ、下がるのです!」

 

「口田!!」

 

「ダメ……あれ、生き物じゃない……!」

 

意外にも一番に動き出したのは口田くんだった。

引っ込み思案の彼がすごく頑張っているとは思うんだけど、あれは生き物じゃない。

口田くんの個性は効かないと思う。

緑谷くんも全く止まる様子がない魔獣を見て気が付いたみたいだ。

 

私が波動を噴出して魔獣に向かって吹き飛んだのとほぼ同時に、緑谷くん、飯田くん、轟くん、爆豪くんも魔獣に攻撃を仕掛けていた。

私のタックルも含めた5人の攻撃を一斉に受けた魔獣は、跡形もなく砕け散ってただの土くれに戻った。

 

「これ、ピクシーボブの個性だと思う」

 

緑谷くんがそう切り出して皆に情報を伝え始めた。

私も感知範囲内で分かることを伝える。

 

「ん……この魔獣、土だけで出来てると思う……生き物じゃない……こういうのが……森の中にすごい数放たれてる……」

 

「す、すごい数ってどのくらい?」

 

「ちょっと待って……」

 

冷や汗を流しながら聞いてくる透ちゃんに正確な数を伝えるために、感知範囲内を精査してみる。

正直ただの動く土の塊を正確に感知するのは、その辺に転がっている石ころを探しているようなものだから、判別するのが大変なのだ。

動いている個体はいいけど、動いていない個体とかは探すのに苦労してしまう。

とりあえずざっと感知してみたけど、正直数えきれない程いるとしか言えない。

少なくとも100とかじゃすまない数が放たれている。

 

皆私の感知の結果を待ってくれている。

爆豪くんまで素直に待ってくれているのが少し意外だった。

 

「……全方位、ランダムに……魔獣がいる……数は……方角によって変わるけど……半径1km周囲には……100なんか軽く超えるくらいの数の魔獣がいる……正直、数えきれない……」

 

「波動でも数えきれないの!?」

 

私が数えきれないと言うと響香ちゃんにすごく驚かれる。

違う方向性とはいえ感知が出来る個性を持っている響香ちゃんなら理解してくれると思ったんだけど、感知だと万能だとでも思われているんだろうか。

感情や思考を読める生き物以外だと、細かく感知するのは割と難しいのに。

 

「私の個性……生き物とか以外……その辺の石ころも、草も、木も……全部感知しちゃうから……ただの土の塊だと紛れて感知しづらい……大体の数は分かるし……近くだけなら正確に感知できるけど……広範囲になると……皆が公園で歩いてる蟻を数えろとか言われてるのと……変わらない感覚だと思ってくれていい……」

 

「チッ……つかえねぇ」

 

「ちょっ!?瑠璃ちゃん頑張って数えてくれてたのになんてこと言うの爆豪!?」

 

爆豪くんが私につかえねぇ宣言してきて、透ちゃんがそれに対してプンプン怒る。

まぁ期待されていた完全感知とはいかなかったから使えない扱いも仕方ない気がしないでもない。

 

「あと……目的地は私の感知範囲外……流石に遠すぎて感知できない……」

 

私がそこまで言うと、皆が悩み始めてしまった。

爆豪くんもイライラしているけど一人で行こうとはしていない。

まあ私の個性を完璧に使えない状況にしてきたあたり、先生はわざと持久戦になるように仕組んでいそうだ。

持久戦であの魔獣を相手にし続けるとなると連携せざるを得ないし、爆豪くんも1人で行っても無理だというのは理解できているんだろう。

 

少しすると考えがまとまったのか、百ちゃんが声を上げた。

 

「全員で一塊となって動きましょう。距離も、敵の数も正確に把握できない現状で、バラバラに動くのは愚策と言わざるを得ません」

 

何人かが頷くのを確認しつつ、百ちゃんが話を続ける。

 

「そのうえで、班を二つに分けるべきです。感知を行い周囲の状況把握、最短ルートの模索に努める索敵班と、索敵班を守りつつ接触を避けられない魔獣の露払いをする戦闘班の二つに。ここまでで皆さん異論はありませんか?」

 

百ちゃんが確認するように周囲を見渡した。

だけど、百ちゃんの意見には今のところ否定する要素なんかない。

 

「索敵班は波動さん、耳郎さん、障子さん、口田さんにお願いし、後は戦闘班と索敵班の連携を図る指揮官を一人置く。残りは全員戦闘班とするのがよいのではないでしょうか」

 

「……うん。僕も色々考えたけど、八百万さんの言った作戦が一番だと思う。戦闘班でローテーションを組んで、体力を温存してコンディションの維持をしつつ索敵班を守る。それで最短ルートを突き進むのが一番だ」

 

視野が広く博識な百ちゃんの意見に、普段からピンチで光る作戦立案をする緑谷くんが同意する。

拒否する人は誰もいなかった。

 

この状況で指揮官にするべき人は、百ちゃん以外いないと思う。

他に可能性があるのは緑谷くんと爆豪くんだけど、緑谷くんはピンチ以外での女子相手のコミュニケーションに難がある。

爆豪くんも頭もいいし能力的にはできなくはないんだろうけど、喧嘩腰な上に戦闘狂でコミュニケーションや指示に問題が出る可能性がある。それに彼の戦闘能力を指揮官として遊ばせておくこと自体がもったいない。

爆豪くん自身もそれが分かっているのか、指示をされている現状に相変わらずイライラしている様子はあるけど、特に反論なく受け入れている。

 

「指揮官は……百ちゃんが良いと思う……」

 

「ああ、俺もそう思う」

 

私の意見にまず轟くんが同意して、皆も口々に賛同した。

 

「では、私が指揮官を勤めさせていただきますわ。まず戦闘班は爆豪さん、轟さん、緑谷さん、飯田さんを中心にそれぞれ小グループを作りローテーションの順番を組んでください」

 

百ちゃんは、最低限の指揮が出来て、単体でも魔獣を撃破出来る人を小グループのリーダーに指名した。

指名を受けた人を中心に、戦闘班の面々がグループを組み始めている。

それを見つつ、百ちゃんは私たち索敵班にも指示を出し始めた。

 

「索敵班は、索敵範囲の一番大きい波動さんを中心に動いてください。その上で役割分担を指定させていただきたいです。よろしいですか?」

 

「うん。ヤオモモの指示に従うよ」

 

「ん……異論ない……」

 

「ああ。問題ない」

 

響香ちゃんと障子くんと私が口頭で同意して、口田くんも首を縦に振って同意の意を示している。

 

「ありがとうございます。では、まず波動さん。波動さんには広範囲の感知のみに集中していただきたいです。漠然とした感覚でも構いません。魔獣が最も少ないと感じられるルートを波動さんに指示してもらいたいのです」

 

「ん……大丈夫……私もそれがいいと思う……」

 

その指示に一切の異論はない。私がルートの指示を出すのが一番合理的だ。

ルートを選ぶための感知に集中するために、周囲の索敵は誰かにお願いしたいけど、百ちゃんの役割指示はそのためだろうし何も問題ない。

 

「次に、耳郎さんと障子さん。二人には周囲の警戒に集中していただきたいです。波動さんに広範囲の感知に集中していただくために、お二人には周囲の感知を徹底していただき危険を払いたいと思います」

 

「……重要な役割だね。頑張るよ」

 

「全力を尽くさせてもらおう」

 

2人も異論はないようですぐに同意した。

 

「最後に口田さん。一番重要な役割です。口田さんには波動さんのサポートをしていただきたいです。目的地の方角や進行方向で、波動さんの感知範囲外の場所に危険がないかなどを感知して、波動さんに伝えてください。波動さんの感知に目的地が入ったところで、耳郎さん、障子さんとともに周囲の索敵を行ってもらい、警戒をさらに強固にしたいと思います」

 

口田くんも再び頷いて同意する。

 

確かに感知範囲外の施設を私の指示で目指してしまうと大体の方角に進んでいくしかない。

最悪遠回りになってしまうこともあるだろう。

そこを口田くんにサポートしてもらうということらしい。

うん、いい作戦だと思う。

 

私たちが同意したのを確認して、百ちゃんは戦闘班の方の確認に向かった。

 

「よろしくね……口田くん……」

 

私の挨拶に、口田くんは頷きで返答してくれる。

彼も早速鳥たちに指示を出しているし、私も広範囲の感知に意識を向け始める。

 

少ししてから、百ちゃんが皆の中央に立った。

戦闘班の方も決まったらしい。

百ちゃんが皆に号令をかける。

 

「それでは皆さん、参りましょう!!」

 

「「「おー!!」」」

 

その掛け声に皆で腕を上げつつ答える。

魔獣の森の攻略が始まった。

 

出発直前に、そう言えば峰田くんはさっき漏らして汚したズボンはどうしたんだろうと思って確認してみたら、新しいズボンを履いていた。

百ちゃんが作ってあげたみたいだ。流石百ちゃん、気が利いている。

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