波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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合宿地到着

午後4時過ぎ。

 

あれから約6時間。森を歩き続けてようやく建物が見えてきた。

もう夕方になりかけている。

やっぱり昼食を出すつもりは初めからなかったらしい。

 

「やーっと来たにゃん」

 

「とりあえずお昼は抜くまでもなかったねぇ」

 

最低限の戦闘に抑えたとは言っても数十回は魔獣と遭遇していて、皆ボロボロだしキャパオーバーギリギリの子も多い。

私も魔獣の少ないルート選択のために波動に集中しすぎて、精神的に疲れた。

 

「何が3時間……うそつき……」

 

「波動たち索敵班に感知してもらってこれは最初から無理だって分かりきってただろぉ!!」

 

「そうだそうだ!嘘つき―!!」

 

「悪いね。私たちならって意味。アレ」

 

私が文句を言うと、皆も続くようにして文句を言い始めた。

それに対してマンダレイが、さっきの思考を正直に開示する。

そんなことは思考を読んで知っている。だけど倍もかかるとは思っていなかった。

 

「実力差自慢の為か……やらしいな……」

 

「ねこねこねこ……でも正直もっとかかると思ってた」

 

砂藤くんも文句を言うけど、ピクシーボブに流された。

というか、もっとかかると思われてたのか。

 

「私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ、君ら……特に、そこ4人に感知の子。躊躇のなさは経験値によるものかしらん?」

 

そう言って彼女は爆豪くん、轟くん、緑谷くん、飯田くん、私を順番に指さす。

 

「三年後が楽しみ!ツバつけとこー!!!」

 

そしておかしなことを言い出しながら、男子4人に比喩ではなく唾をかけ始めた。

普通に汚い。流石にドン引きである。

 

「マンダレイ……あの人あんなでしたっけ」

 

「彼女焦ってるの。適齢期的なアレで」

 

どうやらピクシーボブは結婚適齢期で悩んでいるらしい。

というか、そうだとしても高校1年生に唾をかけるのはどうなんだろう。

15歳差くらいだと思うんだけど。犯罪臭がすごい。

 

その単語に緑谷くんも反応して口を開いた。

 

「適齢期と言えば「と言えばて!!!」

 

緑谷くんは、ピクシーボブに顔を正面からはたかれた。

そんなに年齢を気にしているのだろうか。

まあでも適齢期を気にしていると言われたのにそれに反応しちゃうあたり、緑谷くんも悪いか。

 

「ずっと気になってたんですが、その子はどなたのお子さんですか?」

 

「ああ違う。この子は私の従甥だよ。洸汰!ホラ挨拶しな。一週間一緒に過ごすんだから……」

 

従甥、確かいとこの息子だっただろうか。

つまりマンダレイの親族らしい。

彼から結構な負の感情が伝わってくる。というか、プッシーキャッツ含めて私たちに対して負の感情を向けてきている。

何かあったんだろうか。

 

緑谷くんが彼に近寄って頭を撫でようとする。

彼の思考的にやめた方がいいと思うけど……

 

「あ、えと僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷。よろしくね」

 

洸汰くんは差し出された緑谷くんの手を完全に無視して、緑谷くんの股間に鋭いパンチを放った。

緑谷くんは「きゅう」という切なそうな声を出して倒れた。

本人の思考を見ている限り凄まじい激痛みたいだし、他の男子の思考が同情と心配一色になっている。

男の人はアソコを叩かれるとそんなに痛いんだろうか。

自分が味わったりはしたくないけど、少し気になる。

 

「……アレ、そんなに痛いの……?」

 

「あぁ……女子には分かんねぇよ……あの痛みはな……」

 

私のつぶやきに、上鳴くんが顔を青くしながら答えてくれた。

他の男子もぶんぶんと凄い勢いで首を縦に振っている。

やはり相当痛いらしい。

 

「デ、デクくん!?大丈夫!?」

 

お茶子ちゃんが顔を真っ赤にしながらも心配そうに駆け寄っていく。

飯田くんも慌てて緑谷くんに駆け寄って洸汰くんに食って掛かっていた。

 

「緑谷くん!おのれ従甥!!何故緑谷くんの陰嚢を!!」

 

「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねぇよ」

 

「つるむ!!?いくつだ君!!」

 

洸汰くんはそのままスタスタと去って行ってしまった。

洸汰くんからは嫌悪感の感情がとても強く読み取れる。

ヒーローが嫌いみたいだけど、プロヒーローに預けられていて大丈夫なんだろうか。

 

爆豪くんがマセガキとか鼻で笑っているけど、爆豪くんは人のことを言えないだろう。

 

「部屋に荷物運べ。18時から食堂にて夕食。その後入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ」

 

相澤先生はそう言って建物の中を親指で指さして、早く入るように促してきた。

私たちは合宿所に到着していたバスの中から自分の荷物を出して、早々に部屋に向かった。

 

 

 

女子部屋として案内された部屋は普通の旅館の部屋といった感じの部屋だ。

7人が寝ても狭くはなさそうなくらいの広さはある。

男子は男子で、全員同じ大部屋に通されているみたいだ。

 

「おーなかなか広いじゃん!」

 

まずはとりあえず荷ほどきをしてしまう。

三奈ちゃんと透ちゃんなんかは早々に荷ほどきを終わらせて、ぐでーっと畳に横になってしまっている。

疲れ切っていたらしい。正直私も同じ感じでだらけたい。

だけどやらなければいけないことがある。

とりあえず私はやることをやっておかないと。

そう思って部屋の波動を入念に確認し始める。

 

「んぅ?波動?」

 

「瑠璃ちゃん、何やってるの?」

 

だらけていた組が私の挙動に気がついて質問してくる。

2人の質問で他の皆も私の行動に気が付いたらしくて、こっちを見てきた。

 

「穴とか隙間とかないか……確認してる……」

 

「あぁ……そういう……」

 

私が返答すると皆一様に納得したような萎えたような顔になった。

そう、私は更衣室での反省を生かして、覗きが出来る場所がないかを洗い出していたのだ。

あのブドウ頭、暗視ゴーグルとかまで準備して覗きをするつもり満々だった。

妄想はほぼ全裸の妄想だったから入浴中の覗き目的なんだろうけど、着替えを覗こうとした前科があるから、部屋を覗かれないとは言い切れない。

 

そんな私の様子を見ていた響香ちゃんも、休む体勢に入っていたのをやめて立ち上がった。

 

「ごめん、ウチも協力する」

 

「ん……ありがと……」

 

私と響香ちゃんの協力で、部屋の中はほぼ完全に洗い出した。

響香ちゃんは盗聴が出来そうな場所がないかとか、音の響き具合から穴がないかとかを確認してくれて、すごく助かった。

私は波動で周囲の地形の確認とか、新たに穴を作り出すことが出来てしまいそうなスポットの確認を行った。

盗撮も今の状態のままだと無理だと思う。戸締まりやカーテンを忘れないようにすればきっと大丈夫。

隣の部屋から穴を作るとかされたら流石に防ぎようがないけど。

そのことを皆に伝えると、百ちゃんが口を開いた。

 

「では、隣の部屋にトラップでも作っておきますか?」

 

「ん~、でもそれ、事故で他の人が引っかかってしまうかもしれんしなぁ」

 

「ん……起きてる間は……私が気にしとくから……大丈夫……」

 

トラップなんて誰が引っかかるか分からないものを仕掛けるより、私が警戒しておくのが一番な気がした。

寝ている間に何かをしてくるようなら、それはその時考えよう。本当にそんなことをしたら、心の底から軽蔑して存在を無視する領域に入ってくると思うけど。

 

結局私の意見が採用されて、私が隣の部屋を警戒しておくことになった。

これでひとまずの方針は決まった。

入浴の時のことはその時考えよう。

 

「これで安心……」

 

「なんでウチらがこんなことまで警戒しなきゃいけないの……」

 

私は満足したけど、響香ちゃんは疲れていたところにこんな確認をしなければいけなくなってブドウ頭への不満を募らせている。

私が勝手にやり出したこととはいっても、根本の原因はブドウ頭にあるから仕方ないか。

 

「ケロ。ありがとね、瑠璃ちゃん、響香ちゃん」

 

「うんうん、これで安心だね!」

 

そう言ってお茶子ちゃんたちが私たち用に入れてくれていたお茶を渡してくれた。

あとは夕飯の時間まで皆でのんびりお茶を飲みながら過ごした。

 

 

 

そして夕食。

目の前には山のように積まれたご飯が置かれていた。

酢豚にとんかつ、唐揚げに餃子にローストビーフにサラダなど。

肉比率が凄まじい食事だ。だけど今はそれが嬉しいかもしれない。

凄い運動したのにお昼を抜いて、さっきの休憩中にお茶を飲んだだけだから、お腹はすごく空いてる。

 

「「「いただきます!」」」

 

その掛け声で、男子たちが一斉にご飯をかきこみ始めた。

私もいつも以上の速度でご飯を口の中に詰めている。

 

「おいしい!飛び上がる暇がないくらいおいしい!!」

 

「ん……おいしい……いつも以上に……」

 

透ちゃんもどんどん口に詰めていて、すごい速さでご飯が虚空に消えていく。

相変わらずの不思議な光景だし相変わらず変なことを言ってるけど、今はそんなことを気にする余裕はない。

とにかくご飯だ。私だってお腹が空いていたんだ。

私と透ちゃんが夢中になってご飯を食べていると、向かい辺りに座っていた三奈ちゃんたちが部屋の話をし始めていた。

 

「へぇ。女子部屋は普通の広さなんだなじゃあ」

 

「男子の大部屋見たい!ねぇねぇ後で見に行ってもいい!?」

 

「おー来い来い」

 

男子の部屋とかそんなに気になるだろうか。

波動の感じからして、普通に私たちの部屋を大きくしただけって感じみたいだけど。

 

「美味しい!!米美味しい!!」

 

「五臓六腑に染みわたる!!ランチラッシュに匹敵する粒立ち!!いつまででも噛んでいたい!……土鍋……!?」

 

「土鍋ですか!?」

 

「うん。つーか、腹減りすぎて妙なテンションになってんね」

 

ピクシーボブの言う通り、皆のテンションがおかしなことになっている。

だけどこれは昼食抜きなんてことをしてきた側に原因があるだろう。

 

「まー色々世話焼くのは今日だけだし、食べられるだけ食べな」

 

配膳をしてくれているピクシーボブの言葉に一瞬止まってしまう。

明日から自分たちで作らないといけないのが分かって、なんとも言えない気分になる。

というかこれ、実家暮らし組は料理できる人そんなにいないだろうし、実質的に私と他数人が主体的に作ることになるのでは……

今日みたいに疲れ切っている所を自分たちで作らないといけないのかという感情と、皆で作るのも楽しそうだなと思う感情のどちらもある。

まあせっかくの林間合宿だし、楽しんだ方が得かと思って考えないことにした。

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