合宿2日目
AM5:30
「おはよう諸君」
A組は皆、眠気を隠しきれない様子で合宿所前に集合していた。
私もすごく眠くていつも以上にぼんやりしてしまっている気がする。
B組は早朝集合なんてことにはなっていないらしい。担任次第で変わるんだろうか。
相澤先生がそれだけ本気で私たちを育てようとしてくれてるってことなんだろうけど、今も眠っているB組がちょっと羨ましく感じてしまう。
「本日から本格的に強化合宿を始める。今合宿の目的は全員の強化。それによる"仮免"の取得。具体的になりつつある敵意に、立ち向かうための準備だ。心して臨むように」
相澤先生のその言葉に、皆ゴクリと息を飲む。そんな様子をサラッと流した相澤先生が言葉を続ける。
「というわけで爆豪、こいつを投げてみろ」
「これ……体力テストの……」
先生が爆豪くんに個性把握テストのソフトボール投げで使ったボールを投げ渡した。
「前回の……入学直後の記録は705.2m……どんだけ伸びてるかな」
相澤先生は記録が伸びてないのを分かった上で投げさせているらしい。
伸び率で言ったら私は凄そうだけど、先生の思惑からはズレてしまうから、伸びてない方を選んだのかな。
そんなこととは露とも知らず、爆豪くんは皆の声援を受けながら張り切って腕を振り回している。
「んじゃ、よっこら……くたばれ!!!」
爆豪くん、相変わらずである。
少ししてから相澤先生が持っている機械がピピッと音がなる。記録が出たようだ。
「709.6m」
「あれ……?思ったより……」
「ん……伸びてない……」
記録が伸びていないことに驚いた皆がざわつき出した。
それを一瞥し、先生は話を続けた。
「約三ヶ月間、様々な経験を経て確かに君らは成長している。だがそれはあくまでも精神面や技術面。あとは多少の体力的な成長がメインで、"個性"そのものは今見た通りでそこまで成長していない。だからーーー今日から君らの"個性"を伸ばす。死ぬほどキツイがくれぐれも……死なないようにーーー……」
そう言って相澤先生は話を締めくくった。
「個性を、伸ばす!?」
「急にそんなこと言われても、どうやって……」
「具体性に欠けますね。個性が一人一人違うのに、指導者が6人だけで管理できるのですか?」
皆が口々に感想を漏らす中、百ちゃんの質問に相澤先生が短く答えた。
「そのための彼女らだ」
その言葉に合わせて、隠れていたプッシーキャッツの4人が姿を現した。
「そうなのあちきら四位一体!煌めく眼でロックオン!!」
「猫の手手助けやってくる!!」
「どこからともなくやってくる……」
「キュートにキャットにスティンガー!!」
「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!」」」」
4人で颯爽とポーズを決めるプッシーキャッツ。
緑谷くんは『フルバージョンだ!!』なんて考えて感動しているけど、私としては見ているだけでちょっと恥ずかしくなってしまう。
「あちきの個性、"サーチ"!この目で見た人の情報丸わかり!居場所も弱点も!」
「私の"土流"で各々の鍛錬に見合う場を形成!」
「そして私の"テレパス"で、一度に複数の人間へアドバイス!」
「そこを我が殴る蹴るの暴行よ……!」
途中までは皆これでトレーニングを管理するのかと納得していたのに、最後の虎さんの発言で皆の思考は『色々ダメだろ』というもの一色に染まった。
「まず、単純な増強型の者は我の元へ来い!」
「は、はい!」
虎さんの言葉に緑谷くんがすかさず反応する。
「我ーズブートキャンプを始めるぞ」
……なんだ、我ーズブートキャンプって。
一昔前に流行ったアレのことなのだろうか。
そんなことを考えていると、許容上限のある発動型、異形型・その他複合型とどんどん呼ばれていく。
少ししてから、私はラグドールさんに呼ばれた。
「感知の子!あなたはこっちね!」
私はラグドールさんにそのまま連れていかれて、森の中に入っていく。
「どこまで……いくんですか……?」
「もう少しもう少し!」
結局、皆がトレーニングをしている辺りから大分離れたところの、土が盛り上がっている穴倉のようなところに入るように言われた。
「この中に入ってね!あなたはここであちきとトレーニング!」
「分かりました……私は……何をすれば……?」
疑問に思ったことを質問をすると、ラグドールさんが逆に質問を返してきた。
「逆に質問!あなたの個性、どうやってあの動きをしてるの?波動の感知と読心だけだとあの動きは無理よね?」
ラグドールさんはさっき言っていた言葉通り、私の個性の詳細は把握しているらしい。
ここに来るまで聞かれなかった辺り、私が思考を読めることを隠していることに気が付いて黙っていてくれたみたいだ。
「……分かっているみたいなので……全部教えます……ただ……このことは……他の人には……言わないで欲しいです……」
「あちきこれでも口は堅いのよ!任せなさい!」
「……はい……私の個性、"波動"は……―――」
まぁ、個性まるわかりのサーチなんて個性を持っていたら口も堅くなるか。
そう思って私はラグドールさんに個性の詳細を教えた。
私の個性は波動を見ることが出来るだけで間違いないこと。それによって感知や読心をしていること。
あの移動とかは個性じゃなくて、私が自身の波動を操作して出来ているだけのことであること。
体育祭とかでなっていたキャパオーバーは、個性のせいじゃなくてただの波動の枯渇による気絶だと考えられること。
このことを伝えると、ラグドールさんは少し考え込んだ。
トレーニングメニューを考えているみたいだ。
「その自分の波動って、使えば増えるの?」
「はい……使えば使う程……少しずつ増えてます……」
「……よし、決めた!」
どうやらトレーニングメニューを決めたらしい。
ラグドールさんが意気揚々と始める説明を静かに聞く。
「まず、波動を限界まで放出しなさい!気絶しない程度にね!それで倒れたら、そこからは個性のトレーニング!あちきと感知勝負よ!」
「感知勝負……?」
「そ!あなたの個性、広範囲を一気に感知できるけど特定の個人をすぐに特定できるわけじゃにゃいものよね!そこで精度を上げるためのトレーニング!マンダレイのテレパスで生徒か教師の誰かの名前を言ってもらうから、そのタイミングでどこに居るかをどっちが先に言えるか勝負よ!あちきに勝てるようにがんばりにゃさい!後はその繰り返し!」
「な、なるほど……」
つまり、波動を限界まで放出して動けなくなったら感知の訓練をする。
範囲内の特定の人の場所を感知して、狙った人を即座に特定する精度を上げていく。
そして動けるようになったらまた放出。
動けなくなったら感知する……その繰り返しか。すごく大変そうだ。
「じゃあまず放出からね!」
私が考え込んでいると、ラグドールさんは始めるように促してきた。
放出をしろとは言われたけど、具体的にどうしろなんていう指示は出されていない。
気絶ギリギリまで放出すればなんでもいいと言うなら、あの波動の塊を作る練習もしてしまうか。
穴倉の中に座り込んで両手から波動を放出し始める。
気絶しない程度にキャパオーバーになれなんて言われているから、この前みたいに手加減はしないでどんどん放出していく。
球体に詰め込むように圧縮をかけながら、外郭から内側に練り上げるように……
ある程度続けると、手の間にはあの時と同じ青白い光を放つ小さな球体が現れた。
それにさらに波動を練り込んでいくと少しずつ大きくなってくる。
だけど、それと同時に身体を脱力感も襲ってくる。
もう動けなくなってきてるし、これ以上やると確実に気絶するな。
そう思った私は波動の塊を地面に撃ち込んだ。
波動の塊は地面を少し抉って霧散した。
そのまま脱力して倒れ込んでしまう。
やっぱり波動を使いすぎるとすぐこうなってしまう。
放出で波動を完全に身体の外に出してしまうと特にそれが顕著だ。
ラグドールさんは通信で誰かと話していたみたいで、私が倒れ込んだのに気がつくと通信を切って近づいてきた。
「さっきの遠距離攻撃?体育祭の時に使ってにゃかったわよね?」
「ついこの間……出来るようになりました……すぐ動けなくなっちゃいますけど……」
「じゃあ個性じゃないとは言ってもキャパを増やすのが『麗日』
ラグドールさんと話しているタイミングで、急に頭に声が響く。
一瞬何のことだか分からなくて気がつくのに遅れてしまった。
私も気がついてすぐに感知に意識を向けるけど、その頃にはラグドールさんが答えを言ってしまっていた。
「遅い遅ーい!こんなんじゃダメダメね!」
「不意打ち……」
だけどいくらなんでも今のは不意打ちすぎではないだろうか。
ずるいと思う。
「不意打ちでもなんでも勝負は勝負にゃ!あちきもあなたが倒れたタイミングを伝えただけで名前を言われるタイミングまでは知らないのよ!条件は対等なの!」
確かにその通りと言えばその通りなんだけど、釈然としない。
こんな風に出題してくるというなら常に気を張っておくしかない。
あらかじめどの波動が誰かを確認してずっと見続けておくことも出来ないことはないけど、それじゃ訓練の意味がない。
「……分かりました……頑張ります……」
「にゃ、それでいいにゃ!」
にゃ?
さっきから何度か語尾に混ざったりしていたけど、今更だけど珍しい感じの口癖だ。
プッシーキャッツにかけているのだろうか。
「にゃ……?」
「にゃ」
「にゃ……」
にゃ、可愛いけどすごく独特。
そんな風に雑談しながら、出題される感知勝負に挑むけど、ラグドールさんには一度も勝てなかった。
というよりも、ラグドールさんの解答が早すぎる。
私が当たりを付ける頃にはもう答え終わっているのだ。
朝の説明通りならラグドールさんも100人までは同時に見えているはずなのに、個人の特定が早すぎる。
何かコツがあるのだろうか。
そんなことを考えながら私も必死で感知を続けた。
放出して動けなくなって感知勝負して放出して動けなくなって感知勝負して調整失敗して気絶して水を掛けられて叩き起こされて感知勝負して……そんな感じで時間まで訓練は続いた。
夕方になってようやく今日の訓練の終わりを告げられる頃には、私は精神的にも肉体的にも疲れ切っていた。