波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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襲撃(前)

内通者がいる。

相澤先生のその思考に、すぐに納得してしまっている自分がいた。

生徒と引率の教師、あとはワイプシとバスの運転手くらいしか知らなかったはずの合宿先。

対策をしていたのに、情報を漏らすような人間にバスの運転手を任せるとは思えない。

今回の襲撃は、生徒か教師、ワイプシの誰かがヴィランと内通したせいだと考えた方が現実的だ。

プロヒーローがヴィランに通じているなんてことも考えられない。

なら、生徒の中に内通者がいるということになる。

 

それを認識した上で、青山くんのあの思考はなんだ?

彼は、またって考えていた。

彼の今の感情は、強い恐怖と後悔と罪悪感。

少なくとも、青山くんに悪意は一切感じない。本当に、恐怖と後悔で感情が埋め尽くされている。

……この感情、USJの時と同じ……?またって、そういうこと……?

内通者の存在と今の皆の思考を考えると、彼以外に当てはまる人間はいない。

USJの時も、今回も、彼がヴィランを手引きしていた……?

 

でも、どうやって……?

皆の近くから離れたりもしていなかったし、内通者だとしても誰かの近くでメールや電話なんて方法も取っていたとは思えない。

初日は彼も普通に皆と就寝していた。感情が読めなくなったから間違いないはずだ。

じゃあ、と考えたところで、気が付く。

2日目は、私が寝た後も彼は起きている。補習組だから2時まで起きていて、その後少し出歩いていても傍からみて不思議はない。

先に寝ている男子たちも、補習組の彼がいなくても不思議には思わないはずだ。

 

思えば、青山くんは林間合宿前からおかしかった。

合宿に行けなくなる可能性があるだけでおかしいくらい追い詰められていたり、バスの中で曲がる回数とかをやけに気にしていたりしていた。

あの思考は、合宿所でスマホの電波が入らなかった時のための備えだとすれば、納得がいってしまう。

直接的な内通者としての思考は浅い思考からは読めてはいなかったけど、なんで気が付かなかったんだ私は。

ヴィランのような悪意を感じなかったから?

どんな理由にしても、少し浮かれすぎていたのかもしれない。

 

でも、今はもうそんなことを気にしている余裕はない。

彼が内通者ではないかというのは、その時々の思考から読み取れた状況証拠から考えられる物でしかない。

少なくとも、すぐに何かをしようと考えている訳じゃないし、これからの動向に注意をしておけば、きっとこの場は大丈夫だと思いたい。

青山くんの近くにいるのは、ブラドキング先生だ。

相澤先生も宿舎の近くにいるようではある。

 

「マンダレイさん……相澤先生と、ブラドキング先生に……テレパスをお願いできますか……?」

 

「いいけど、内容は!?」

 

マンダレイさんが周囲を警戒しながら聞いてくる。

私は皆には聞こえないように声を抑えて言葉を続けた。

 

「内容は……青山くんの動向に注意しろ……今は……それだけでいいです……」

 

「……!?分かったわ、それだけでいいのね!?」

 

「はい……!」

 

そのままマンダレイさんは個性を使用しているのか集中し始めた。

 

 

 

そのタイミングで、近くの2人のヴィランが行動を起こした。

ヴィランの一人がピクシーボブさんを引き寄せて行動不能にしようとしている思考が読み取れる。

それを認識してすぐに、急いで足に波動を圧縮して、ピクシーボブさんに向かって飛びついた。

 

「ピクシーボブさん……!」

 

「ひゃっ!?」

 

ちょうどそのタイミングで吸い寄せられ始めていたピクシーボブさんは、私に押し倒された。

吸い寄せられたという事実で、ピクシーボブさんは私の行動の意図を読み取ってくれた。

すぐに土を操って、自分の身体を一時的に地面に縛り付けることで吸い寄せられないように対策してくれた。

 

そのタイミングで、大柄なロン毛の男と、蜥蜴人間が姿を現した。

 

「あらまぁ、防がれちゃったじゃない」

 

ロン毛の男が軽い感じで話しながら近づいてくる。

それに続くように、蜥蜴人間が下卑た笑いを響かせながら口を開いた。

 

「ご機嫌よろしゅう雄英高校!!我らヴィラン連合開闢行動隊!!」

 

「ヴィラン連合……!?何でここに……!?」

 

そんな尾白くんのつぶやきも、ヴィラン連合は反応しない。2人で相談するように話し始めた。

 

「はっ、ここが当たりか。メインターゲットにサブターゲットまで居やがる」

 

「ふふ、サブの方はもう確保したもう一人のメインで十分だもの。余裕があったらでいいわよ。メインの方に集中しましょ」

 

蜥蜴人間のその呟きに、ロン毛の男が答える。

メインターゲットは皆の方を見ながら言っていたから分からなかったけど、サブターゲットと言ったところで明らかに私を見て言っていた。

 

「メイン!?サブ!?確保!?どういうことだ!?まさか、俺たちの中の誰かを拉致するために来たとでも言うのか!?」

 

明らかにおかしなことを話す2人に、飯田くんが大声で問いかける。

 

「ふふ、メインはともかく、サブは勢い余って殺しちゃうかもしれないけどねぇ。その子、察しが良すぎてすごく邪魔だし」

 

そう言ってロン毛の男は、棒を私に向けてきた。

 

「待て待て、マグ姉!早まるな!生殺与奪は全て、ステインの仰る主張に沿うか否か!!」

 

「ステイン……!あてられた連中か―――……!」

 

「そして、アァそう!俺は、そうおまえ君だよメガネ君!保須市にてステインの終焉を招いた人物。申し遅れた、俺はスピナー。彼の夢を紡ぐ者だ」

 

そう言ってスピナーは、刃物の寄せ集めのような大剣を取り出した。

それに合わせて、爆豪くん、轟くんの戦闘力が突出した2人と緑谷くん以外の皆が、私の方に駆け寄ってきた。

 

「瑠璃ちゃん!」

 

「波動!お前は狙われてるんだろ!俺たちの中に紛れろ!囲んでおけば狙いにくくなるだろ!」

 

「メインが誰かは分からねぇけど、それでもまとまってれば多少マシだろ!」

 

「その方がいいわ。あなたはそっちに紛れてて。ありがとね、助かったわ!」

 

起き上がったピクシーボブさんにも背中を押されて、皆の中に紛れ込まされる。

ピクシーボブさんはそのまま1歩前に出ると、大量の土の魔獣を作り出し始めた。

切りかかってくるスピナーと、棒を向けて吸い寄せようとしてくるロン毛の男。

それに対して、ピクシーボブさんは土の魔獣で迎撃を開始した。

 

「虎!ここは私に任せてあなたはB組の救助を!」

 

「おう!!」

 

「それに、ラグドールから応答がない!いつもならすぐ連絡をよこすのに!」

 

「ラグドールも探す!任せろ!波動!往路と復路、どちらが生徒の被害が大きい!?」

 

被害が大きいのは圧倒的に復路だ。

どうやらもともと復路側に多めに隠れていた上に、奥の方に毒ガスを出すヴィランがいるみたいだ。

この毒ガスを吸って気絶している生徒が何人かいる。

 

「被害が多いのは……復路の方です……!毒ガスを出すヴィランがいるみたいで……気絶している人が多いです……!百ちゃん……!!」

 

このまま虎さんが救助に行っても、最悪の場合B組の生徒と同じ状況に陥ってしまう。

その対策が必要だ。

対策は、百ちゃんに防毒マスクか何かを作ってもらうのが一番だろう。

色んな武器も作り出せる百ちゃんなら、きっと作れるはずだ。

 

「承知しましたわ!!」

 

声掛けの意図をすぐに読み取った百ちゃんは、返事をしながら速やかに21個の防毒マスクを作ってくれた。

百ちゃんは、作ったマスクをそのまま袋に入れて、虎さんに素早く手渡した。

 

「虎さん!防毒マスクです!お使いください!」

 

「感謝する!」

 

虎さんはそのまま森の中に突入していった。

 

そんな中、マンダレイさんが『まずい』とか考えている。これはヴィランにというよりも、洸汰くんがどこにいるのか分からないことに対する焦りみたいだ。

洸汰くんは崖の方にいる。そして、そこにはヴィランが一人向かっている。

緑谷くんも、マンダレイさんの表情を見て洸汰くんのことに気が付いたらしい。

 

「マンダレイ!!僕、知ってます!!」

 

緑谷くんが大声でそれだけ伝えた。

その声に反応したマンダレイさんが、慌てた様子で振り向く。

 

「デクくん!?」

 

その頃には、緑谷くんは個性を使いながら、崖の方に向かって森の中に凄い勢いで飛び出していた。

正直心配ではあるけど、メインターゲットとしか考えてくれないから誰が拉致対象か分からない。

そのせいで迂闊に緑谷くんに増援を出せない。

今緑谷くんが飛び出したのに追いかけなかったあたり、緑谷くんはメインターゲットではないのだろう。

あとは緑谷くんのオールマイトの後継者としての力を信じるしかないか……

 

 

 

ピクシーボブさんの魔獣は、物量作戦でロン毛の男とスピナーを圧倒していた。

大剣を振り回すスピナーと、手に持っている大きな棒を振り回したり肉弾戦をしたりしているロン毛の男では、物量作戦に対する相性が悪かったんだろう。

 

「このっ、うざってぇ!!」

 

「流石にこの数は面倒ねぇっ!」

 

「吐きなさい!誰の拉致が目的!?」

 

「はっ!もう十分ヒントはやったんだ!これ以上教えてやる義理はねぇ!」

 

スピナーは周囲の魔獣を横薙ぎで一掃する。

だけど、そんなスピナーに対して、ピクシーボブさんは即座に魔獣を補充して対応していく。

 

そんないたちごっこを見ながら周囲を警戒していると、嫌な波動を感じ取った。

ヴィランが、ゆっくりとではあるけど、こっちに向かってきている。

 

『肉……肉面……仕事……仕事しないと……肉……』

 

頭のおかしいヴィランは、思考からはなんの情報も得られない。

このヴィランもその類だ。肉、肉面、仕事以外碌な思考がない。

だけど、このヴィランの危険度は相当高そうだ。ステインかぶれで蜥蜴が個性であろうスピナーとは比べ物にならないほど狂気的な思考をしている。

もし攻撃の意思を見せたり、こちらを認識するほど近づいてくるようなら、マンダレイさんたちにすぐに警告しよう。

そうでもなければ、まとめて伝えれば十分だ。

そう思ってさらに周囲の感知を続けた。

 

 

 

崖の方から地鳴りのような音が響いている。緑谷くんがやったみたいだ。

宿舎の方でも、相澤先生が違和感のある変な波動のヴィランを倒したようだ。

文字通り倒した状態で、確保でも、殺害でもない。どうやらあのヴィラン、個性の産物だったらしい。相澤先生が物理的にダメージを与えたら泥のように崩れていった。

 

それから少しすると、森の奥の方にいるヴィランから、さっきの違和感のある波動のヴィランがまた現れた。

波動の形を注意して確認していくと、近くのヴィランと似たような形をしていることに気がついた。

まさか、思考して動く複製?

実際に『もう一回俺を増やす』なんて考えている。複製が個性で間違いなさそうだ。

 

その複製は、また宿舎の方に向かい始めた。

それを感じ取った私は、急いでマンダレイさんに声をかける。

 

「マンダレイさん……現時点で接敵する可能性があるヴィラン2人の情報提供です……1人目……拘束具を身につけた男……こちらにゆっくりと向かってきています……接敵までは時間がかかりそう……2人目……相澤先生が倒した波動のおかしいヴィラン……あれは、他のヴィランが個性で作った複製です……今、同じ複製を作られて……また、宿舎の方に向かってます……」

 

「ありがとう。あなたは警戒を続けて。私は2人目の方をブラドキングとイレイザーヘッドに伝えるから」

 

報告を受けたマンダレイさんは、すぐに先生たちにテレパスを使い始めてくれた。

そして、テレパスが終わってすぐに、相澤先生が考え込み始めた。

……どうしたんだろう。不思議に思って、先生の思考を深く読んでいく。

 

『波動は今、マンダレイと共にいる。波動の体育祭を含めた今までの挙動……ヴィランを感知した際の錯乱状態……USJでの脅威度を含めた詳細な感知……ラグドールがわざわざ1km離れたところで肝試しの説明をした理由……青山の動向に注意しろという、波動からの警告……これらから考えられる最も可能性の高い合理的な結論は……読心』

 

相澤先生のその思考に思わず後退りそうになってしまう。

気付かれた……?でも、相澤先生がわざわざ今そんなことを考える理由が分からない。

私は周囲を警戒しながら、相澤先生の波動を注視し続けた。

 

『波動……この考えが読めているなら、今すぐに、俺からの伝言としてマンダレイに伝えろ。「A組B組総員―――プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!!」お前が何を思って隠していたかは、今はどうでもいい。だが、やむを得ん。生存率の話だ。卵たちに自衛の術を……こんな訳もわからんまま、やられてくれるなよ!』

 

相澤先生の私に向けた思考は、そこで終わった。

ちょうど緑谷くんが相澤先生に合流して、洸汰くんを先生に託したからだ。

緑谷くんはボロボロになってるけど、ヴィランは倒せたらしい。

そして、緑谷くんの思考を読んで分かった。

メインターゲットは、爆豪くんだ。

相澤先生は私に伝えようとした思考を、緑谷くんにも伝えている。

このまま私が言わなくても、緑谷くんが伝えてくれる。言わなければ、まだ思考が読めることは、皆には気付かれないかもしれない。

……だけど、本当にそれでいいの?もしかしたら、私が言うことを躊躇ったこの時間の影響で、誰かが死ぬかもしれない。

本当に、それで……

考えた結果、私は―――

 

「マンダレイさん……相澤先生から……伝言です……今すぐに、私が言った通りに……生徒と教師全員にテレパスをしてください……」

 

「る、瑠璃ちゃん!?ダメだよ!!まだ言いたくないんでしょ!?」

 

「イレイザーヘッドから!?あなた、イレイザーヘッドと宿舎で別れてから会ってないでしょ!?どうやって!?」

 

透ちゃんが、どうやってその伝言を知ったのかを理解して止めようとしてくる。

でも、これで誰かが死んだりしたら、私はずっと後悔すると思う。

だから……

 

「A組B組総員―――プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!!……以上です……早く、テレパスを……」

 

「あなた……分かったわ」

 

マンダレイさんは一瞬私が嘘を言った可能性を考えたけど、私の表情を見てすぐにテレパスを始めてくれた。

皆のギョッとしたような視線が、私に集中していた。

 

『A組B組総員―――プロヒーローイレイザーヘッドの名に於いて、戦闘を許可する!!』

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