マンダレイさんのテレパスが響き渡った。
「波動、今のって……」
「……今は……説明してる時間……ない……また今度……」
響香ちゃんが投げかけてくる質問に、その場しのぎの答えを返す。
一応、ヴィランに襲われている今の状況的にもおかしな返答じゃないはず。
皆も私の返答に一応は納得してくれて、それ以上聞いてくることはなかった。
「あぁもう!ほんっとうにうざったいわねぇ!」
「ヴィランにウザがられるなんて誉め言葉以外の何物でもないわよ!」
そんなやりとりをしている間も、ピクシーボブさんがスピナーとロンゲの男に対処し続けていた。
「許可出たってことは、もう我慢しなくてもいいってことだよなぁ?」
ピクシーボブさんの戦闘を見ながら、爆豪くんはそう言って掌で小規模の爆発を起こした。
戦闘許可が出たことで、我慢が出来なくなったらしい。
でも爆豪くんが戦うのはダメだ。
私はメインターゲットが爆豪くんであることを伝えようと口を開いた。
「……駄目……爆豪くんは……っ!?」
『肉……いない……肉……にくめええええええん!!!』
「あ!?この期に及んでまだ手ぇ出すなとか言うつもりかクソチビ!?」
爆豪くんがキレてくるけど、それどころじゃない。
次の瞬間、さっきまで森の中をゆっくり進んでいた拘束具を付けたヴィランが、口から何かを伸ばして凄まじい勢いで上昇し始めた。
そのヴィランは森の上空で静止すると、そこから真っ直ぐにスタート地点の広場の方を見てきた。
「いた……肉……にくぅうううううう!!」
そう叫んだヴィランの口から、鋭利な無数の何かが伸びてきた。
「上っ!!皆避けてっ!!」
ヴィランから勢いよく伸びてくる鋭利な何か。
皆も上空に浮かぶヴィランに気が付いて、各々で警戒し始めた。
「全員下がってろ」
そのタイミングで轟くんだけはスッと前に出た。
すぐに氷壁を展開して、皆を覆うように氷の壁を作ってくれる。
ヴィランから伸びてきた鋭利な何かは、次々と氷に突き刺っていく。
私たちの方は轟くんが問題なく防いでくれたけど、ピクシーボブさんは自分でどうにかしたみたいだ。
土魔獣が悉くやられてしまったけど、ピクシーボブさん自身は土流を使って避けた。
その隙に、土魔獣に押され続けていた2人が、動き出していた。
「ふふ、ムーンフィッシュ、やるじゃない」
「今のうちに厄介なヒーロー擬きを潰すぞ!」
2人が一気にピクシーボブさんに襲い掛かる。
流石にまずいと思ったのか、マンダレイさんも私たちの側から離れてピクシーボブさんの方に向かった。
マンダレイさんは、さっきから怒涛の勢いで襲いかかってくるムーンフィッシュとかいうヴィランの鋭い何かを避けながら突撃していった。
マンダレイさんは、ちょうどピクシーボブさんに切りかかろうとしていたスピナーが近づいたところで、テレパスを使った。
『スピナー、ヴィランながらかっこいいじゃない♡ 好みの顔してる』
「え?」
マンダレイさんのそのテレパスに、スピナーは動きを一瞬止めた。
「なに照れてんの、ウブね!」
「でぇ!!?」
その隙を見逃さず、マンダレイさんがスピナーを手に着けている猫の爪で切り裂いていく。というか、こんな手に引っ掛かるのか。
「なんて……っ、不潔な手を!尻軽めが!!」
「その程度の誘惑でこっちの警戒をしなくなるなんて、いくら何でも舐めすぎじゃない!?」
スピナーが振り返って反撃に出ようとしたけど、ピクシーボブさんが土流を巻き起こしてスピナーを押し流していく。
それで危機は脱したように見えたけど、その瞬間、マンダレイさんの身体が浮かんだ。
ロン毛の男の個性で、引き寄せられ始めていた。
「おいで飼い猫ちゃん」
ピクシーボブさんに最初にやろうとしたその手。
私たち生徒は皆ムーンフィッシュの攻撃で轟くんの氷の影から出られないし、ピクシーボブさんはスピナーに反撃したばかり。
マンダレイさんが危ないと思ったそのタイミングで、相澤先生の所からこっちに向けて全力疾走していた緑谷くんが、ロン毛の男を蹴り飛ばした。
「マンダレイ!!洸汰くん無事です!!今は相澤先生のところに!!」
「ありがと!あなたもすぐにそっちの皆の方に行って!その怪我尋常じゃない!」
マンダレイさんの言う通り、緑谷くんの怪我は尋常じゃない。
顔に殴られた後もあるし、両手は個性の自爆でボロボロ。特に右腕は直視したくないような状態だ。
「すいません!もう一つ……ヴィランの狙い、少なくともその一つ―――……かっちゃんが狙われてる!」
「かっちゃ……誰!?」
その声は、氷の陰で攻撃を凌いでいた私たちにもはっきり聞こえた。
「バクゴーくん……!?」
「爆豪が狙われてる!?」
私たちのその様子で、マンダレイさんも誰のことか分かったらしい。そのままこっちに向かって叫んできた。
「少なくとも爆豪くんと波動さんが拉致の対象ってことでしょう!?そのまま皆で固まってて!!戦闘はしないで!!バラバラに動かれると守りにくくなる!!」
マンダレイさんはそのままテレパスを始めた。先生たちに誰の拉致が目的かを伝えているみたいだ。
そのタイミングで、ムーンフィッシュの攻撃がさらに激しくなって氷を貫かれ始めた。
爆豪くんは狙われているなんて知ったことじゃないって感じで、貫き始めた刃に対して爆発で攻撃し始めていた。
「不用意に突っ込むんじゃねぇ。聞こえてたか!?おまえ狙われてるってよ」
「うるっせんだよ……戦えっつったり戦うなつったりよぉ~~~ああ!?クッソどうでもいィんだよ!!」
だけど、爆豪くんの攻撃が当たる直前で、刃がさらに分岐して伸び始めた。
地面に刃を突き刺して浮かんでいたムーンフィッシュは、刃を伸ばしながらこっちの方に飛んでき始めている。
「"個性"の使い方がうめぇ」
「見るからにザコのひょろガリのくせしやがってんのヤロウ……!!」
「まずいですわよ。あれに真上に来られると回避のしようが……!!」
私たちが必死でムーンフィッシュの対処を考えていると、緑谷くんがこっちに合流しようと動き出した。
『さっきの地鳴りのような音……!!派手なパワーバトルが出来るのは私らの中じゃ二人……情報漏らしたってことは……血狂いマスキュラーをこの小さい子が……!?あれがパワー負けしたってこと――――!?』
「やだ……この子、本ト殺しといた方がイイ!」
吹き飛ばされて倒れていたロン毛の男が、緑谷くんの様子から考察して、弾かれたように殴りかかった。
「手を出すなマグ姉!!」
そんな緑谷くんへの攻撃に対して行動を起こしたのは、まさかのスピナーだった。
持っていた刃物を投げてロン毛の男の行動を妨害している。
その隙に緑谷くんはこっちに合流して轟くんの氷の影に隠れた。
「ちょっと、何やってんの!?優先殺害リストにあった子よ!?スピナーなにしに来たのよあんた!」
「そりゃ死柄木個人の意思。あのガキはステインがお救いした人間!つまり英雄を背負うに足る人物なのだ!!俺はその意思にシタガッ!?」
状況も考えずに仲間割れしだしたヴィラン2人に、マンダレイさんがスピナーを殴って、ピクシーボブさんがロン毛の男を土流で埋めてすかさず取り押さえた。
ヴィラン2人は取り押さえたけど、そのタイミングでムーンフィッシュは広場の真上に到達した。
「肉、見せて」
そう言ってムーンフィッシュは、さっきまでの遠距離からの刃での攻撃とは比較にならない勢いで、生徒が固まっている所に刃を伸ばしてきた。
轟くんがすかさず氷を展開するけど、ムーンフィッシュの刃を少し足止めするだけですぐに貫かれてしまう。
それを見て、皆各々でかばい合いながら回避した。
私も当たりそうになっていた透ちゃんに飛びついて、刃が届かない所に一緒に飛び込んだ。
「瑠璃ちゃん!?ご、ごめんねっ!大丈夫!?」
「ん……大した傷じゃない……平気……」
避ける瞬間に肩を刃が掠めたけど、少し血が滲む程度の切り傷だ。大した傷じゃない。
だけど、やっぱりこれだけまとまっている所を攻撃されて、全員が回避しきれるわけがなかった。
「常闇!!」
障子くんが常闇くんを庇っていた。
だけど、その障子くんの複製腕を、刃が切り落としてしまった。
「障子!?」
それを認識した瞬間、常闇くんの思考が変わった。
その思考は、ヴィランに対する怒り一色で染まっている。
少しして焦りながら我に返ったみたいだけど、手遅れだったらしい。
常闇くんの"個性"、ダークシャドウが、今まで見たことがない程巨大化し始めた。
「ぐっ……このっ……静まれっ……!!ダークシャドウっ……!!」
障子くんも、何が原因でこうなったのかを、すぐに察していた。
「常闇!!これは複製腕が切られただけだ!!また複製できる!!傷はあるが失ったわけじゃない!!」
「もうっ……抑えられないっ……!!俺からっ……!!離れろ!!死ぬぞ!!」
障子くんの説得も空しく、ダークシャドウは暴走し始めて無差別に攻撃を繰り出している。
ムーンフィッシュの刃に対しての牽制もしてるけど、それ以上に私たちがいるところへの攻撃が多すぎる。
皆散り散りになってダークシャドウの攻撃を避けていく。
「なっ、なに!?どうしたの!?」
「なに!?暴走!?」
マンダレイさんも困惑しながらダークシャドウの攻撃を避けている。
当然スピナーからも離れてしまって、スピナーの拘束は簡単な拘束具だけになってしまった。
ピクシーボブさんも土の魔獣を出して私たちをダークシャドウの攻撃から庇ってくれているけど、攻撃の規模が違いすぎる。防御としては明らかに足りてない。
そんな状況で、緑谷くんが叫んだ。
「ダークシャドウの弱点は光だ!かっちゃんと轟くんならっ!!」
その緑谷くんの言葉に、轟くんは静かに火を出そうとしてくれる。
「ああ。今、炎を「待てアホ」
そんな轟くんを、爆豪くんが止めた。すごく、身勝手な理由で。
「見てぇ」
爆豪くんはそのままダークシャドウを傍観し始めた。
それと同時に、空中に浮かんでいるムーンフィッシュが、声を上げた。
「肉ぅううう駄目だぁああ!!肉ぅうううにくめんんん!!駄目だ、駄目だ、許せない!!その子たちの断面を見るのは僕だぁあ!!!横取りするなぁああああ!!!」
ムーンフィッシュは、再び大量の刃を降り注がせてきた。
その対処を咄嗟に考え始めたけど、次の瞬間、ダークシャドウが動き出した。
「強請ルナ!!三下!!」
巨大化したダークシャドウは、その刃を全てへし折りながら、周囲の木々諸共ムーンフィッシュを薙ぎ払った。
ムーンフィッシュは空中で気絶して、そのまま地面に落下していく。
「っ……何よこいつ!?流石に分が悪いわっ……!一度引くわよ、スピナー!」
「あ、あぁ!クソッ!なんなんだよっ!!」
暴走のどさくさに紛れて土流から脱したロン毛の男と、拘束具を破壊したスピナーは森の中に姿を消していった。
それで周囲のヴィランはいなくなったのに、暴走したダークシャドウは止まろうとしなかった。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛暴レ足リンゾォオ゛オ゛オ゛オ゛!!!」
ダークシャドウが私たちにも襲い掛かろうとした瞬間、爆豪くんと轟くんが常闇くんの懐に近づいて、爆破と炎で光を発した。ようやく身勝手な観察をやめたらしい。
「ひゃん!」
その光によって、ダークシャドウは情けない悲鳴を上げて泣きながら小さくなった。
「てめぇと俺の相性が残念だぜ……」
常闇くんは、そのまま膝から崩れ落ちた。