波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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襲撃(後)

ヴィランがいなくなった広場は、静まり返っていた。

気絶したムーンフィッシュはワイプシの2人が速やかに拘束してくれた。

どうやらムーンフィッシュは歯を伸ばして刃にしていたらしくて、ダークシャドウの攻撃で歯がボロボロになっていた。

この状況で個性が使えるのかは分からないけど、念には念をということみたいで口を開けないように拘束することで対策としたらしかった。

 

A組の皆は膝をついて荒い息を吐く常闇くんに声をかけていた。

そんな中で、そっちには加わらずに周囲の感知を続ける。

少なくとも近くにはヴィランの波動は感じない。スピナーもロン毛の男も森の中に身を隠したみたいだ。

森の中の波動も注意して確認していく。

肝試しコースの復路側は、虎さんがB組生徒を回収しきったみたいだ。

今は拳藤さんや鉄哲くんと一緒に毒ガスのヴィラン制圧に向かっている。

 

往路側。こっちが問題だ。

B組の男子の名前は自信がないけど、B組の誰かを背負った多分泡瀬くんと思われる生徒を、あの意思が薄弱なヴィランが追い回している。

虎さんはさっき感知した通り、毒ガスのヴィランの対処に向かっていて泡瀬くんにすぐに合流することはできない。

このままだと殺されてしまう可能性が高い。

 

「マンダレイさん……往路側でヴィランに襲われてる生徒がいます……!このままだと……!」

 

「っ!?往路側ってことは虎もまだそこまで行けてないのよね!?」

 

「はい……虎さんは今……折り返し地点の辺りで……毒ガスのヴィランの対処に動いています……!」

 

そこまで言うと、マンダレイさんは考え込んでしまった。

内容としては、救助に向かうのは確定として私たちをどうするかだ。

爆豪くんと私が狙われている関係上、私たちをプロから引き離すのは危険すぎる。

だけど、泡瀬くんたちが殺される前に合流しないといけないことを考えると、少なくとも私を連れていくか、連絡手段としてマンダレイさんと生徒全員を置いていくかとかの対応をとる必要がある。

ただマンダレイさんと私たちを置いていったとして、それでヴィランの襲撃を受けた時に守り切れるのかも問題だ。

これはマンダレイさんがプロとはいっても、個性が"テレパス"の女性でしかないからだ。

スピナーとロン毛の男がまた同時に襲い掛かってきたら、確実に拉致を防げるかというと不安が残る。

逆にピクシーボブさんを置いて行って、マンダレイさんに泡瀬くんたちの位置を通信機で教えたとしても、今度はあの意思が薄弱なヴィランをマンダレイさん単体でどうにか出来るのかという問題も出てきてしまう。

全員で視界が悪い森の中に入るのも危険すぎるから、私の感知で警戒をするとしても愚策と言わざるを得ない。

正直、マンダレイさんとピクシーボブさんの2人だけで、A組を守りつつB組の救助に向かうのは無理があった。

 

「……背に腹は代えられないか……皆の力も、貸してもらってもいい?」

 

マンダレイさんは、私たちにそう声をかけてきた。

結論としては、私たちの協力も得てどうにかB組の生徒を救助するというものだった。

ピクシーボブさんとマンダレイさんでA組を2つに割って守りつつ、マンダレイさんとターゲットになっていない一部の生徒たちで泡瀬くんたちの救出に向かうというものだった。

 

「じゃあ私と一緒に来てもらうのは……八百万さんに耳郎さん、飯田くん、尾白くん、砂藤くん、峰田くんの6人ね。時間がない!急ぐわよ!ピクシーボブ!こっちは任せた!」

 

「ええ!任せなさい!」

 

一緒に行くのは、なんでも作れて万能な百ちゃんと、ターゲットでもなくて怪我もしてない索敵が出来る響香ちゃん、狭い場所での肉弾戦に対応できる3人に、ヴィラン拘束能力が非常に高い峰田くん。無難な選択だった。

救助組の方が戦えそうだからだろうけど、爆豪くんがそっちに入りたそうにしている。だけど、行かせるわけがないだろう。

マンダレイさんの指示に、6人はすぐに応じた。

峰田くんも、怖がっているくせにちゃんとすぐに応じていた。彼も心の底はちゃんとヒーロー科の人間だったということだろう。

7人はそのまま往路の方に走っていった。

 

 

 

 

広場はしばらく静かなままだった。

ピクシーボブさんは土の魔獣を作り出して広場に徘徊させて私たちを警護させている。

私が適宜ピクシーボブさんに泡瀬くんの位置とマンダレイさんたちの位置を伝えて、最短距離で向かえるように助言していた。

 

そして、マンダレイさんが泡瀬くんを発見したくらいのタイミングで、また広場の周囲にスピナーとロン毛の男、それに仮面をつけたヴィランの波動が近づいてきた。

その中から、スピナーだけが姿を現した。

 

「あら、また来たの」

 

「目的をまだ達成してねぇからなぁ!」

 

ピクシーボブさんの問いかけに大剣を構えながら返答してくるスピナー。

そんなスピナーに対してピクシーボブさんはすぐに土の魔獣で迎撃を始めた。

 

「ピクシーボブさん……他にも……さっきのロン毛の男と……仮面のヴィランが……近くに隠れています……」

 

「なるほど、つまり正面のあいつは油断を誘う作戦ってわけね」

 

「……はい……まだ動き出してないですけど……」

 

スピナーが来た方向とは違う場所に、ロン毛の男と仮面のヴィランは隠れている。

今のところ動き出す様子はない。

思考からして、何かのタイミングを図っている感じがする。

……少しでも怪しい思考を感じたらすぐにピクシーボブさんに伝えるか。

 

周囲の警戒は障子くんもしてくれている。

私が隠れているヴィラン2人に集中していたら、障子くんが話しかけてきた。

 

「波動。広場の西の方、誰かが近づいてきているぞ」

 

「ん……確認する……」

 

私はヴィランを警戒しつつ近づいてくる波動を確認する。

確かに誰かが近づいてきている。

……この波動は、柳さん?

柳さんは、森の中から姿を見せると、茂みの近くで足を止めた。

 

「あ!A組だ!」

 

「柳さん!」

 

「よかったレイ子ちゃん、無事だったのね」

 

……姿かたちは柳さんそのものだ。服が食事の時のラフな格好とは違う普通の服装になってるけど。

そんな柳さんの姿に、女子会で親睦を深めたお茶子ちゃんと梅雨ちゃんが駆け寄っていく。

透ちゃんは私の様子を訝しんで、その場から動かないでいた。

私は、激しい違和感を覚えていた。というよりも、かすかにではあるけど悪意を感じるのだ。

他ならない柳さんから。

思考を読んでも、『麗日さん、蛙吹さん、波動さん』とか今の状況にそぐわないようなことばかりを考えていてよく分からない。

 

「待って……お茶子ちゃん……梅雨ちゃん……」

 

「え?」

 

「どうしたの?瑠璃ちゃん」

 

とりあえず2人を呼び止めて、B組の波動を感知する。

そして、すぐに分かった。

気絶しているけど、柳さんの波動は数人のB組生徒と同じ位置にある。

その上で目の前の柳さん擬きの波動を注視すると、違和感の正体が分かった。

柳さんの波動に、他の人の波動が微かに混ざっている。

昨日見た柳さんの波動とは、明らかに違う。

 

「あなた……誰……?」

 

「え?私は柳レイ子だけど……」

 

「違う……柳さんは……森の中で気絶してる……それに、あなたの波動……昨日見た柳さんの波動と……違う……!」

 

私がそこまで言うと、柳さん擬きがドロリと溶けた。

 

「へぇ……やっぱり分かるんだ。服着てきて正解でした」

 

溶けた柳さんが、頭の両サイドにお団子を作った金髪の女の子に変わった。

元の姿に戻った少女ヴィランは、近くの茂みの中に隠していた黒いマスクやバックパックといった装備を付けだした。

 

「ヴィラン!?」

 

「トガです!麗日さんに、蛙吹さんに、波動さん。3人共カァイイねぇ」

 

トガと名乗るヴィランは、ナイフで皆よりも近くにいる2人と私を指し示しながら順番に名前を言っていく。

その過程で、トガは緑谷くんの方にも熱い視線を向け始めた。

 

「名前バレとる……」

 

「体育祭かしら……何にせよ情報は割れてるってことね」

 

「2人とも下がれ」

 

「彼の言う通りよ!下がって!」

 

すかさず轟くんが走り出して、突出している2人に下がるように警告する。

ヴィランの増援に気が付いたピクシーボブさんも、スピナーの相手をしながら土の魔獣の何体かをこっちに向かわせてくれている。

それを受けて下がろうとする梅雨ちゃんに、トガが首元の機械を射出した。

 

「梅雨ちゃん!」

 

お茶子ちゃんが梅雨ちゃんの名前を叫んで注意を促す。

梅雨ちゃんは大きく飛びのくことでその攻撃を回避した。

 

「梅雨ちゃん、梅雨ちゃん……梅雨ちゃんっ!カァイイ呼び方。私もそう呼ぶね」

 

「やめて。そう呼んで欲しいのはお友達になりたい人だけなの」

 

マスクをずらして吸血鬼のように鋭い牙を見せながら笑うトガに、梅雨ちゃんが拒絶の言葉を投げる。

 

「や―――じゃあ私もお友達ね!やったぁ!」

 

トガは、梅雨ちゃんの意図を察せずに無邪気に喜びだした。本当に、心の底から喜んでいる。

そんなトガに対して轟くんは氷撃で攻撃した。

 

「そんな攻撃、当たりませんよ」

 

その氷撃を飛び込むようにして避けたトガは、素早くお茶子ちゃんたちに近寄っていく。

トガは、そのままの流れで手に持っているナイフでお茶子ちゃんに切りかかる。

それに対してお茶子ちゃんは、片足を軸に回転してナイフの直線上から身体をずらして、手首と首を掴んでトガを抑え込んだ。

期末試験の時に見たGMA(ガンヘッドマーシャルアーツ)だ。

 

「梅雨ちゃん、ベロで手!拘束!できる!?」

 

「凄いわお茶子ちゃん……!任せて」

 

舌を出して手首に回そうとする梅雨ちゃん。

そんな状況なのに、トガは恍惚としたような表情を浮かべながら話し出した。

 

「お茶子ちゃん……あなたも素敵。私と同じ匂いがする」

 

その発言に、お茶子ちゃんと梅雨ちゃんも困惑した表情を浮かべる。

 

「好きな人がいますよね。そして、その人みたくなりたいと思ってますよね。わかるんです。乙女だもん」

 

『何……この人……』

 

「好きな人と同じになりたいよね。当然だよね。同じもの身に着けちゃったりしちゃうよね。でもだんだん満足できなくなっちゃうよね。その人そのものになりたくなっちゃうよね。しょうがないよね。あなたの好みはどんな人?私はそこの彼みたいにボロボロで血の香りがする人大好きです。だから最後はいつも切り刻むの。ねぇお茶子ちゃん。楽しいねぇ。恋バナ、楽しいねぇ!」

 

トガは、頭がおかしいとしか思えない行き過ぎた理論を展開していた。

そのまま言いたいことを言い切ると、首元の装備から伸ばした何かをお茶子ちゃんの足に突き刺した。

トガは、痛みでお茶子ちゃんの拘束が緩んだ隙に拘束を抜け出して、流れるような動作で私の方にナイフを投げてきた。

慌てて身体を逸らして、何とかナイフを避ける。

 

でもそのナイフに注意を向けた瞬間、周囲のヴィランへの警戒が疎かになってしまった。

棒をこちらに向けているロン毛の男から、仮面のヴィランが凄まじい勢いで私と爆豪くんの方に射出された。

さっきまで、一切怪しい思考はしていなかったのに、急な行動に驚愕してしまう。

しかもナイフを避けた直後なせいで体勢が崩れていて、仮面のヴィランの突撃を避けられない……!?

 

「瑠璃ちゃん!!」

 

動けなくなっていた私を、透ちゃんが庇うように突き飛ばした。

仮面のヴィランが私たちの目の前を通り過ぎていくその瞬間、私と入れ替わりになった透ちゃんと、爆破で迎撃しようとしていた爆豪くんが、姿を消した。

 

 

 

「透ちゃん……?」

 

近くの木に着地した仮面のヴィランは、見せびらかすように持っている球体で手遊びを始めた。

 

「サブは失敗か。まぁ、サブは所詮サブ。メインさえ貰えればどうでも良い。こいつぁヒーロー(そちら)側にいるべき人材じゃあねぇ。もっと輝ける舞台へ俺たちが連れてくよ」

 

仮面のヴィランの恩着せがましいその言葉に、緑谷くんが反応した。

 

「返せっ!!」

 

「返せ?妙な話だぜ。爆豪くんは誰のモノでもねぇ。彼は彼自身のモノだぞ!!エゴイストめ!!」

 

「返せよ!!」

 

「このっ!」

 

轟くんが仮面のヴィランを立っている木諸共凍らせようとする。

だけど、ヴィランは軽い身のこなしでさらに高い位置の別の木に飛び移った。

 

「"それだけじゃないよ"と道を示したいだけだ。今の子らは価値観に道を選ばされている。本意じゃなかったが、この透明人間もヴィラン向きの良い個性だ。ついでに貰っていくよ」

 

「ふざけんじゃないわよ!」

 

「舐めやがってっ……!」

 

ピクシーボブさんがスピナーを取り押さえながら叫ぶ。

轟くんは今度は手加減なしの大氷撃を放った。

 

「悪いね俺ァ、逃げ足と欺くことだけが取り柄でよ。ヒーローなんかと戦ってたまるか。開闢行動隊!目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!!予定通りこの通信後5分以内に"回収地点"へ向かえ!」

 

「幕引き……だと」

 

「ダメだ……!!」

 

こっちの攻撃を一切意に介さない仮面のヴィランは、そのまま氷から木へ飛び移って逃走を始めた。

スピナーとトガはピクシーボブさんの魔獣が押さえ込んでいるけど、ロン毛のヴィランも逃走を始めていた。

 

「させねぇ!!絶対逃がすな!!」

 

轟くんがそう叫んだ瞬間、私以外の皆が一斉に仮面のヴィランを追い始めた。

 

 

 

そんな状況なのに、私だけは、すぐに動き出せずにいた。

 

「透ちゃん……私を……庇って……」

 

透ちゃんの、私を庇うような行動に、呆然としてしまっていた。

でも、少しずつ状況を理解して、私の頭の浮かんでいたのは、怒りだけだった。

 

「返してよ……透ちゃんを……私の大切な友達を……返してよ!!」

 

波動が今まで感じたことが無いほど膨れ上がっていた。

膨れ上がった波動を足に集中させて、圧縮できるだけ圧縮して、一気に吹き飛んだ。

後先なんて考えないで波動の圧縮と噴出を続けて、ヴィランたちの思考から向かっているであろう地点に向けて、高速で走り続けた。

足に集中して高密度になった波動が、青黒いモヤのようになって私の足に纏わりつくように漏れ出している。

途中で追い抜いたはずの緑谷くんたちが私を飛び越えてヴィランの方に飛んで行ったけど、気にしている余裕はない。

無我夢中で、ヴィランたちがいる場所へ向かって走り続けた。

 

 

 

小さくそこが見えたタイミングで、黒いモヤのヴィランが姿を現していた。

ヴィランが次々とモヤに飛び込んでいく。

でも、あの仮面のヴィランはまだそこにいる。

搾り出せる限りの全身の波動を両手から放出して、波動の塊を作る。

合宿で訓練して多少大きくなっていても、親指程度の大きさにしか出来ていなかったその塊は、今は人の顔くらいの大きさになっていた。

 

「マジックで見せびらかす時ってのは……見せたくないモノがある時だぜ?」

 

そう言うと同時に、ヤツの仮面の下の口から見せびらかすように出された舌の上に、2つの丸い球体が見えた。

 

「氷結攻撃の際に"ダミー"を用意し、右ポケットに入れておいた。右手に持ってたモンが右ポケットに入ってんの発見したらそりゃー嬉しくて走り出すさ」

 

透ちゃんは、そこか―――

 

「そんじゃーお後がよろしいようで「透ちゃんを……かえせえええええええ!!」

 

バチバチと波動を迸らせる塊を、ヤツの顔に向けて射出する。

前の小さい塊だった時よりも遥かに高速で射出されたその塊は、ヤツの顔の側面にぶつかって弾き飛ばした。

弾き飛ばされた勢いで、2つの球体が口から放り出される。

それを取りに行きたかったけど、全身が脱力してそのまま倒れ込んでしまった。

でも、緑谷くん、障子くん、轟くんの3人が球体に飛びついた。

障子くんがすぐに1つをキャッチしてくれた。

もう1つは轟くんが取ろうとしたけど、黒いモヤの中から伸びてきた手に、取られてしまった。

 

「哀しいなぁ、轟焦凍。確認だ。"解除"しろ」

 

「っだよ、今の攻撃……俺のショウが台無しだ!」

 

仮面のヴィランがパチンと指を鳴らすと、球体が弾けた。

障子くんの方に透ちゃんが、黒いモヤの中に爆豪くんが姿を現した。

 

「問題なし」

 

「かっちゃん!!」

 

「来んな、デク」

 

爆豪くんのその言葉を最後に、黒いモヤは消えた。

透ちゃんは取り返せたけど、爆豪くんは連れていかれてしまった。

私の目の前は、そこで真っ暗になった。

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