私は、病院のベッドの上で目を覚ました。
点滴もされているみたいで、腕に管がつながっていた。
外は真っ暗だ。
近くの時計で時間を確認すると、午後6時だった。
この状況、小さい頃に波動を放出しすぎて気絶した時に似てる気がする。
あの時は放出できたことが嬉しくて加減なんか考えずに放出していたから、今回も同じ状況になったんだろう。
……前は目を覚ました段階で数日経っていた。
今日は何日だろう。
まだ脱力している身体に無理矢理力を入れて、ベッドから降りようとする。
そのタイミングで、病室の扉が開いた。
「瑠璃ちゃん!?目が覚めたの!?」
波動で見てたから分かってはいたけど、透ちゃんだった。
透ちゃんはこっちに駆け寄ってきて、そのままの勢いで抱き着いてきた。
ベッドに押し倒されるような形になってしまった。
「よかったよ~!!瑠璃ちゃん、なんか身体が透けたり揺らいだりしてたし……!全然目ぇ覚まさないから、もう起きないんじゃないかって心配で……!」
「ん……心配……かけたみたい……ごめんね……」
身体が透けたり揺らいだりっていうのはよく分からないけど、どうやら心配をかけてしまったみたいだ。
痛いくらい抱きしめてくる透ちゃんを抱きしめ返す。
「透ちゃんも……無事でよかった……」
「うん!瑠璃ちゃんのおかげだよ!」
透ちゃんはにっこり笑ってそう言ってくれる。
でも、そもそも透ちゃんが攫われそうになったのは私が原因だ。
「そんなことない……そもそも……透ちゃんが攫われそうになったの……私のせい……」
「瑠璃ちゃんのせいじゃないよ!全部ヴィランが悪いんだから!それに、瑠璃ちゃんだって私を庇ってくれたでしょ!お互い様だよ!」
窘めるように言ってくる透ちゃんに、何も言えなくなってしまう。
そのまま少しの間抱き合って、満足したらしい透ちゃんが私から離れてベッドの脇の椅子に座った。
私も起き上がろうとしたら透ちゃんに押し留められてベッドに戻されてしまった。
「ね……透ちゃん……あれから、何日経ったの……?」
「えっと、ヴィランの襲撃があったのは一昨日だよ。だから、今は2日目ってことになるのかな」
「そっか……」
やっぱり1日以上気絶してしまっていたらしい。
「でも本当に心配したんだよ!お医者さんは大丈夫だって言ってたけど、全然目を覚ます気配なかったし!」
「これ……加減を知らなかった……小さい時にも……同じことになった……波動の放出のしすぎが原因だと思う……」
「……なるほど?つまり、キャパのせいだったんだ」
私の説明に、透ちゃんが腕を組むような仕草をして考え込んだ。
「ん……それで、私が気絶してる間……何があったか聞きたい……」
「そうだよね。う~ん……とりあえず、順番に話すね」
透ちゃんは、そのまま順を追って説明してくれた。
爆豪くんが攫われてヴィラン連合がいなくなった後、先生が通報していたらしい警察と消防が15分くらいで到着したらしい。
A組の被害は重症の緑谷くんと意識不明と判断された私の2人。
中、軽傷者は障子くんとお茶子ちゃんを含めた数人だけ。
B組の方は、シャレにならない被害だったみたいだ。
毒ガスによる意識不明の重傷者が13人。軽症者まで含めると物間くんを除いた全員が該当したらしい。
そして、行方不明者は、私たちの目の前で攫われた爆豪くんと、ラグドールさんの2人だった。
ラグドールさんは大量の血痕を残して姿を消してしまっていたらしい。
こんな感じで被害を確認しているタイミングで、気絶した私の身体が透けたり妙な光の粒子のようなものが出たりしているのに気が付いたようだった。
ヴィラン側は、複製を考えなければ襲撃者10人に対して逮捕者は3人。
いずれも凶悪な犯罪歴があるネームドヴィランだったみたいだ。
私たちはその後すぐに近くの病院に運ばれたらしい。
A組で入院になったのは私と緑谷くんの2人だけ。
透ちゃんが無理に医者に聞いた話だと、私は身体は問題ないのに何故か揺らいでいるとかいう意味不明な状態だったみたいで、個性の影響を疑って入院になったとのことだった。
私に聞かれても何がなんなのかさっぱり分からない。なんだその現象。
それはそれとして、さっきまで皆緑谷くんの所で話していたらしい。
その内容が、爆豪くんの救出に行くべきだという話。
百ちゃんが逃げるヴィランの1人に発信機を付けていたらしい。
泡瀬くんの個性を用いて溶接したそれは、今もヴィラン連合が潜伏しているかもしれない場所を受信デバイスに表示しているようだ。
百ちゃんは事件の直後、それを先生と警察に渡したみたいだけど、その様子を切島くんと轟くんに見られていた。
切島くんと轟くんが緑谷くんを説得するような形で行われたその話は、他の皆の大反対にあったらしい。
それでもその気になってしまっていた2人は、作戦を強硬した。
結局、切島くんと轟くん、緑谷くんに、暴走する3人のストッパーになれるようにと、百ちゃんと飯田くんも含めた5人で行ってしまったらしい。
「私、何も言えなくなっちゃって……さっきも、病院の前で、5人が話してるの見たのに、止められなくて……」
震えながら涙を滲ませる透ちゃんに、私も何も言えなくなってしまう。
そんな沈黙が数分続いたところで、透ちゃんが気を取り直すかのように首を振った。
「そうだった!皆も心配してたから瑠璃ちゃんが目を覚ましたよって連絡しちゃうね!」
「ん……ありがと……皆にも……心配かけたこと謝らないと……」
透ちゃんがスマホを弄って皆に連絡してくれているのをぼんやりと眺める。
少しすると、透ちゃんが急にテレビをつけた。
「どうしたの……?」
「えっと、なんかテレビ見てみろって言われて……」
『では先程行われた、雄英高校謝罪会見の一部をご覧下さい』
テレビに映っていたのは、スーツを着た相澤先生とブラドキング先生、校長先生の3人だった。
『この度―――我々の不備から、ヒーロー科1年生27名に被害が及んでしまった事、ヒーロー育成の場でありながら敵意への防衛を怠り、社会に不安を与えた事、謹んでお詫び申し上げます。まことに申し訳ございませんでした』
相澤先生のその言葉で始まった謝罪会見は、終始学校側を悪者扱いする流れになっていた。
「なにこれ……学校を、悪者扱い……?」
透ちゃんが漏らしたその言葉は、きっと私たち1年生皆が思っていることだった。
いくらなんでも、この会見は酷い。
内通者がいる状態で、ワープの個性を持っているヴィランがいて、どうやって襲撃を防げというのか。
こんなの、林間合宿をしていなくても同じだ。
どこかの演習や、それこそ通学中を狙われていた可能性すらある。
でも、それを全て防ぐなんて不可能じゃないか。
学校側も出来る対策はしていた。
完全に防ぐには、内通者を締め出すために生徒に尋問をしたり読心能力で頭の中を丸裸にでもしない限り不可能だ。
でもそんなことをしたら、それはそれでマスコミは嬉々として学校のスキャンダルを叩くだろう。
それに早期に察知出来たとしても、襲撃してくるヴィランの人数、個性の内容、目的……何も分からないのだ。
そんな状態で、こっちのことは内通者を通して筒抜けで、どうやって被害をゼロにするというのか。
よくマスメディアもヒーローたちやその卵である学生を集めている番組を撮ってるけど、自分達はこれ以上の対策をしているのだろうか。
もしも番組の収録現場を襲撃された場合、被害をゼロになんて出来るのだろうか。
絶対に不可能だろう。
ただ1番有名なヒーロー科だから狙われた。それだけのはずだ。
こうまで執拗に雄英を狙うのは、信用の失墜という意図があるとしか思えない。
マスコミも、ヴィランの掌の上で踊らされているだけじゃないか。
私と透ちゃんが何も言えないでいると、映像が切り替わった。
そこには崩壊した街の中で戦うオールマイトと、ヴィランの姿が映っていた。
『悪夢のような光景!突如として神野区が半壊滅状態となってしまいました!現在オールマイト氏が元凶と思われるヴィランと交戦中です!信じられません!ヴィランはたった1人!街を壊し!平和の象徴と互角以上に渡り合って―――……』
「なにこれ、神野?ここって、もしかしなくても……」
「ん……百ちゃんたちが行ったところだと思う……」
映像は、ヴィランが衝撃波を放つ瞬間も鮮明に映していた。
そして、市民を守るために避けることが出来なかった、オールマイトの姿も。
煙が晴れたその場所には、ガリガリの姿のオールマイトが、しっかりと映ってしまっていた。
「……え?この人って……保健室で会った……」
『えっと……何が、え……?皆さん、見えていますでしょうか?オールマイトが……萎んでしまっています……』
透ちゃんと同じように困惑した様子のアナウンサーの声が流れる。
オールマイトの秘密が、晒されてしまった。
私は何も言わずに、黙っていることしか出来なかった。
そんな私の様子を見た透ちゃんが、私に問いかけてくる。
「えっと、もしかして瑠璃ちゃん、知ってたの?あの保健室の人が、オールマイトだったって……」
「ん……保健室で会った時に……オールマイトと同じ波動してたから……すぐに分かった……」
「じゃあ、あの時リカバリーガールと話があるなんて言ってたのも……」
「オールマイト……隠してるみたいだったから……確認するにしても……人は少ない方がいいと思った……」
私とのやり取りで、透ちゃんもあの骸骨のようなガリガリの姿をしているのがオールマイトだと確信したみたいだった。
オールマイトは、本当の姿を晒されても戦い続けた。
片腕だけムキムキの姿になるような、不恰好な戦い方でも必死で抗い続けていた。
オールマイトと互角以上に戦っているこのヴィランが、きっとヴィラン連合のブレーンのAFOなんだろう。
しばらく2人の攻防戦が続いて、オールマイトの渾身の一撃が、AFOを直撃した。
それでAFOは動かなくなった。
アナウンサーが感動したような感じで実況を続けている。
そしてAFOを
『次は、君だ』
透ちゃんは流石オールマイトなんていう風にはしゃいでるけど、事情を聞いていた私には分かってしまった。
オールマイトは全てを出し切ってしまった。
オールマイトは、もう戦うことが出来ないということが。
このオールマイトのメッセージは、普通の人はまだ見ぬヴィランへの警鐘として受け取ると思う。
でも、緑谷くんや私のように、事情を知っている側からしたら全く違うメッセージになっていた。
もう戦うことが出来なくなってしまったオールマイトから、次代を担う者たちに託す言葉以外の、なにものでもなかった。
私は、オールマイトが、平和の象徴がいなくなる今後のことを考えて、憂鬱になってしまっていた。