波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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病院での密談

透ちゃんはあの後両親から鬼のように電話がかかってきて、早く帰ってこいって叱られていた。

病院にいるとは言っても、あれだけの事件があった後だ。流石に心配だったんだろう。

そしてその翌日、私は検査をして問題ないことを確認した上で退院の方針になった。

午後にはお母さんとお姉ちゃんが迎えに来てくれることになっている。

どうやらこのまま一度実家に連れて帰るつもりらしい。

 

退院の直前、午前中に相澤先生がお見舞いに来た。

先生は看護師に言い含めて出入りを制限した上で、本題に入った。

昨日からずっといた護衛のヒーローを一時的に下がらせて、ブラドキング先生を見張りに立たせる徹底ぶりだ。

雄英のヒーロー科にすらも内通者を潜り込ませていたんだから、これも仕方ない気もする。

どこに内通者がいるのか分からない。

これから話す内容的にも、警戒するのは当然と言えた。

私自身も波動の感知に意識を割いて警戒しておく。

 

「一度実家に帰るのは問題ない。他の一人暮らしの生徒もほぼ実家に帰ってるしな。問題は……」

 

「はい……青山くんのこと……ですよね……なんでも聞いてください……」

 

言葉を切った先生に私がそう返すと、先生は渋い顔で頷いた。

 

「ああ。だがその前に……すまなかった」

 

相澤先生はそう言って頭を下げた。

この謝罪は、危険に晒したこととかそんなことに対する謝罪じゃない。

思考からしてこれは、読心がバレるような行為を指示したことに対する謝罪だった。

 

「緊急事態とはいえ、読心を隠していたのを察しながらお前の事情を考えずに指示を出した。読心がバレるであろう行為を強要してしまった。本当にすまなかった」

 

心の底からの謝罪だった。

あの時は隠していた理由なんてどうでもいいなんて流してたけど、今はその行為を強要したことに対する苦悩が浮かんでいた。

 

「緊急事態でしたし……仕方ないです……私は私の判断で……伝言を伝えました……気にしないでください……」

 

「……そうか」

 

私がそう返すと、相澤先生はゆっくりと頭を上げで話を続けた。

 

「……謝罪の後ですまんが、時間がない。本題に入る。読心が出来ることは伝言が伝わったことから分かっているが、どの程度の精度なのかが分からん。個性の詳細は話せるか?」

 

相澤先生の質問は、当然のものだった。

どの程度読めるのか分かっていなければ、情報の信憑性は皆無に等しい。

もう相澤先生に隠す意味がないし、全部正直に答えよう。

 

「はい……私の個性は……波動を読み取ることで……人の感情と思考を読み取ることが出来ます……集中して読もうとしなければ……感情と強く考えていることまで……集中すると……その人が考えていることを……ほぼ読み取ることが出来ます……感知範囲は……波動の感知と同じ……半径1kmくらいです……」

 

「そうか……一応確認しておく。俺が考えたことをそのまま言葉にしてみろ」

 

その後、相澤先生が考えたことをそのまま言葉にするというやり取りを何度か繰り返した。

口で別の話を振りつつ軽く考えるみたいな感じのやり方までされて、相澤先生の徹底ぶりが読み取れた。

 

 

 

「よく分かった。そのうえで確認する。お前は青山が内通者だと確信しているのか?」

 

……一応、完全に確信したかというと疑問が残る部分はあるけど、状況的にその可能性が非常に高いって感じだ。そう思ってひとまず首を横に振った。

 

「いいえ……確信できてはいないです……ただ、襲撃直後の思考とか……合宿前の思考から……最も怪しいのが青山くんだと思っています……」

 

「怪しいと思った理由を全て言ってみろ」

 

「はい……」

 

私は、促されるままに青山くんが怪しいと思う要素を全て上げていった。

 

・USJの時にワープで飛ばされた後、彼は隠れていたこと。その時の感情が恐怖と後悔で埋め尽くされ、『僕はなんてことを……』と考えていたこと。

・期末試験で赤点になり合宿に行けなくなる可能性があった時に、彼の思考は『まずいまずいまずいまずい』と鬼気迫ったものになっていたこと。

・合宿に向かうバスの中で曲がる回数や方角をやけに気にしていたこと。

・合宿で襲撃直後にまた恐怖と後悔の感情で埋め尽くされ、『また僕は』と考えていたこと。

・襲撃された時に私が思考を読めることを知っていたのは透ちゃんしかいなかったが、襲撃が発覚した直後の思考は青山くん以外に内通者が疑われる内容の人物がいなかったこと。

・合宿中私が起きている間は、峰田くんの覗き関連を除いて極端に離れたりコソコソしたりしている人はいなかったが、補習組なら遅い時間に隠れて連絡を取っていても違和感を持たれないのではないかと考えていること。

 

そこまで言うと、相澤先生は溜め息を吐いた。

 

「そこまで情報があれば、ほぼ確信していると言っていいだろう」

 

「はい……私も……青山くんが内通者だと……思ってます……ただ……」

 

「ただ、なんだ」

 

私が言い淀むと、相澤先生が急かすように確認してくる。

 

「青山くんから……悪意を感じなかったんです……」

 

「悪意?」

 

悪意なんていう曖昧な表現に、相澤先生は訝しむ。

 

「はい……ヴィランやごろつきからは……大なり小なり……悪意を感じます……気持ち悪い……生理的な嫌悪感を感じてしまう……そんな感情を……」

 

「それが、青山にはなかったと?」

 

「今まで一緒に居て……一切感じませんでした……本当に……恐怖と後悔だけなんです……だから……彼が内通者だと……すぐに疑えませんでした……」

 

私の返答を聞いて、相澤先生が考え込み始めた。

悪意のない犯罪者。愉快犯や性格が捻じ曲がっている人物だったり、狂人の可能性とかを考えているようだ。

でも、その思考は間違っている。

私は狂人や性格が捻じ曲がった人物であっても、他人への害意だったり、殺意のようなものを抱いているだけでも悪意として感じ取ることが出来る。

 

「……狂人とかでも……悪意は読み取れます……あの刃のヴィラン……ムーンフィッシュなんかは……その典型です……」

 

そこまで言うと、相澤先生も私と同じ結論になったみたいだった。

悪意のない犯罪者。異常な程の恐怖と後悔に支配される犯罪者。

そんな犯罪者が、どんな存在かということに。

……それに、彼のヒーローを目指す心に、嘘はなかった。

 

「それに……青山くんがヒーローを目指しているということに……嘘はありませんでした……悪人が……悪意なしでヒーローに憧れたり……するでしょうか……」

 

「つまり、青山が脅迫を受けて仕方なく情報を漏らしたと……情報を漏らさざるを得ない状況に陥っていたと、そう言いたいのか?」

 

「そうでもないと……合宿前の鬼気迫った思考の……説明ができません……」

 

相澤先生は再び考え込んでしまった。

確かに、こんな問題を提示されたら考えざるを得ないだろう。

だけど、もし青山くんが脅迫を受けていたとしたら、内容にもよるだろうけど、無罪とはいかなくても情状酌量の余地が出てくると思う。

だから、私は問答無用で青山くんを捕まえたりはしたくない。

捕まえるにしても、その真意を確認してからにしたかった。

この数ヶ月一緒のクラスで勉強した、クラスメイトとして。

 

「相澤先生……ひとつ……提案してもいいですか……?」

 

「……言ってみろ」

 

「私に……青山くんと話す機会を貰えませんか……?彼が……望んで内通者になったとは……今でも思えないんです……」

 

「……条件がある」

 

しばらく考え込んだ後に、先生はそう言って条件を述べ始めた。

 

「こちらがセッティングした日時で、監視下でもいいなら話す機会を作ろう。内容が内容だ。警察にも監視してもらう可能性があるが、それでもいいのか?」

 

「はい……当然のことだと……思います……」

 

「青山は、本人に気付かれないように秘密裏に監視下に置かれている。こちらの指定した日以外で会おうなんて思うなよ。怪しい行動が見られた場合、即刻確保する手筈になっているはずだ」

 

先生たちは、私も内通者である可能性とかも考えているんだろう。

私の読心だけが理由で青山くんを内通者の容疑者にしている以上、それが大きなリスクなのは間違いない。

だから、私にも考えがあった。

私からの提案だと、その提案も信憑性が下がってしまうかもしれない。

それでも、少しでも情報としての信頼度を上げるための方法だ。

 

「先生は……私も内通者だった場合のリスクを……考えていると思います……」

 

「……ああ、読心からの情報だけで動いている関係上、それは警戒せざるを得ない」

 

「はい……仕方ないと思います……なので……少しでも情報や証拠としての信頼度を……上げるための方法を提案します……」

 

「なに……?」

 

相澤先生が、少し驚いたような表情をした。

そんな先生を尻目に、話を続ける。

 

「読心能力を持つプロヒーローや警察も……その場に呼んでもらって構いません……もしいないなら……物間くんに協力してもらいたいです……」

 

そこまで伝えると、相澤先生はすべてを理解したようだ。

物間くんの個性、コピーで私の個性をコピーさせる。

ラグドールさんの思考から知った物間くんの個性の弱点の一つは、何かを蓄積して使うタイプの個性だとスカになってしまって使うことが出来ないことだったはずだ。

だけど、私の個性は何かを蓄積するようなものではない。

読心は個性が目覚めた時から、ずっと使えてしまっていた。

物間くんの個性でスカになるとは思えなかった。

物間くんは嫌な思いをしちゃうかもしれないけど、背に腹は変えられない。

 

「……確かに、2人からの読心の情報なら証拠としての信頼度が上がるな。分かった。検討しておこう」

 

「ありがとう……ございます……」

 

「話はこれだけだ。波動からはもう何もないか?」

 

今はこれ以上言いたいことはない。そう思って、先生のその言葉に、頷いて返答する。

 

「今後の予定に関してはまた追って伝える」

 

先生はそう言ってお見舞いの品を置いてそそくさと去っていってしまった。

昨日の事件のことや拉致のこともあって、やることが山積みみたいだ。

ブラドキング先生も、私と言葉を交わすことなくその後に続いていった。

 

 

 

しばらくして、お母さんとお姉ちゃんが私を迎えに来てくれた。

会った途端2人に抱きしめられた。よっぽど心配していたらしい。

私はそのまま実家に連行された。

ひとまず何も考えずに今回の疲れを癒せって感じのことをお母さんに言われて、私も甘えることにした。

だから新幹線の中で眠ってしまった私は悪くないはずだ。

目が覚めたらお姉ちゃんの肩を枕にしていて、もっと眠っていれば良かったと少し後悔してしまった。

私は新幹線の中でお姉ちゃんと話したり、透ちゃんとメッセージでやり取りをしたり、また眠ったりして過ごした。

そんな移動の時間はあっという間に終わって、数か月帰ってこなかっただけで懐かしく感じる実家に帰ってきた。




青山がまだ拘束されていない理由
・密談前
瑠璃は青山の動向に注意しろと言ったきり、一切その話に触れずに気絶していた
・密談後
瑠璃の読心からの情報しかなく客観的証拠がない
流石に今まで隠していて個性の詳細も把握できていない、本当かどうかも分からない潔白の証明が済んでいない一学生の個性しか証拠がない状況で、嘘かどうかの判断もつかないのに逮捕、拘束する理由にはなり得ない
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