波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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準備(前)

8月中旬。

青山くんと会わせてもらう日になった。

私とお姉ちゃんは引っ越しの準備のために、数日前からこっちに戻ってきている。

準備自体はもう終わっていて、大きな荷物はもう雄英の方に運んでもらえるように手配済みだ。

家に残っているのは持ち運べる荷物だけになっている。

お姉ちゃんとの2人暮らしが終わってしまうのは残念だけど、事情が事情だから仕方がない。ほんっとうに残念だけど。

 

 

 

相澤先生の指示通り、9時には学校に着けるように家を出た。

お姉ちゃんには先生に呼び出されているとだけ伝えておいた。

不思議そうにはしていたけど、普通に送り出してくれたし、思考的にも納得してくれてたし、多分大丈夫だろう。

どこに来いとは言われていなかったから、学校に着いてすぐに職員室に向かう。

職員室に入ると相澤先生が出てきた。

 

「来たか。とりあえず準備した部屋に行くぞ」

 

「はい……よろしくお願いします……」

 

そのまま相澤先生と一緒に廊下を歩く。

その途中で、先生が明らかに私に向けた思考をし始めていた。

 

『波動、今日この集まりの中で会う人物で、青山以外に内通行為が疑われる者がいればすぐに教えろ。そのようなことがあればこの集まりの前提が崩れる。もし他に内通者がいた場合、その場で拘束して後日予定を組み直す。そのつもりでいろ』

 

相澤先生のその思考に、私は小さく頷いて答えた。

 

相澤先生に連れていかれたのは、外から中を伺うことができなくなっている会議室のようなところだった。

たまに先生たちが集まっていた部屋と場所が一致しているから、職員会議とかをしている部屋なのだろうか。

わざわざここを使うあたり、盗聴対策とかもしてあるのかもしれない。

中にはマイク先生とブラドキング先生以外のプロヒーローの先生たちと、USJの時に見た刑事の人、それに知らないキャリアウーマン風の女性がいた。

当然のように包帯やギプスをしたオールマイトも座っている。

 

「来たね!待っていたよ!」

 

中央に座っていた根津校長が小さな手を振っていた。

 

「君が青山くんに会いたいと言っていたと聞いてね!相澤くん、オールマイトと協力してこの場をセッティングさせて貰ったよ!」

 

相澤先生だけじゃなくて、オールマイトまで協力してくれたのか。

その事実に驚いて視線を向けると、ガリガリの姿のオールマイトは真剣な表情で頷いた。

 

「私の正体を看破した波動少女の個性の精度には、私自身驚かされていたからね。その波動少女がすぐに拘束するのではなく、話を聞きたいと言ったんだ。青山少年の教師だった者の1人として、協力したくもなるよ」

 

「それは……ありがとうございます……」

 

オールマイトに頭を下げていると、隣に立っていた相澤先生にロの字に並んでいる机、その中の校長先生の正面の席に座るように促された。

拒否する理由がないし、促されるままに席に着く。

 

「青山と物間は赤点の補習の名目で赤点のやつら全員とともに呼び出してある。物間に関してはそろそろブラドキングが連れてくるはずだ。青山は補習が終わった後の夕方、ここの隣の部屋に誘導する手筈になっている」

 

どうやら青山くんと物間くんを違和感なく呼び出すために、赤点の補習という名目で呼び出したらしい。

姿が見えないマイク先生は赤点組の方にいるらしかった。

巻き込まれた三奈ちゃんたちの波動を見てみるとテンションが大分低くてちょっとかわいそうではあるけど、怪しまれないためには仕方なかったのかもしれない。

私がそんな風に納得していると、また校長先生が話し始めた。

 

「じゃあまずは紹介しようか!今回のために来てもらった、刑事の塚内直正警部とその妹の塚内真さんだ!」

 

校長先生の紹介に、まず警察と紹介された塚内直正さんが立ち上がった。

 

「塚内直正です。君とはUSJの時にも会ったね。今日は立ち合わせてもらうよ」

 

「波動瑠璃です……よろしくお願いします……」

 

「ああ、よろしく。ただ、場合によっては青山くんを即拘束する可能性もある。君の意図通りに行くかは分からないよ」

 

「いえ……機会を貰えるだけで十分です……」

 

私がそう言うと塚内警部は頷いた。

そして隣の女性、さっき校長先生に塚内警部の妹と紹介された女性も立ち上がる。

 

「こっちは確認のために来てもらった妹の「塚内真です!よろしくね!」

 

真さんは塚内警部の紹介を遮って、にこやかな笑顔で手を振ってきた。

塚内警部の思考を読んで分かった。

一見警察の人の妹なんていう無関係な立場だけど、この人は必要な人だ。

というよりも、この人の個性はこの場で最重要であると言っていい。

この人がいるだけで、一気に私の証言の信憑性が出てくる。

 

「真の個性は、"嘘発見器(ポリグラフ)"と言ってね。発言が嘘かどうかが分かるんだ。警察内の読心や嘘を判別できる人間は数人しかいない上に多忙でね。予定がつかなかったから、代わりに来てもらったんだ」

 

「そうそう!滅茶苦茶忙しいのに兄さんが緊急の要件だなんて珍しく頼ってくるから、どうにか予定を空けてアメリカから帰ってきたのよ」

 

そう言いながら、真さんは私の隣の空いていた席に移動してきた。

そしてそのまま私に握手を求めてくる。

どうやらこれが個性の発動条件のようだ。

 

「分かりました……これが発動条件ですね……ここではずっと手を握っていればいいですか……?」

 

「話が早くて助かるわ。読んでくれた通り、私の個性は身体的接触が必要なのよ。事前に聞いたあなたの個性からして、私の個性はあなたの個性の下位互換って所かしら」

 

真さんが笑顔で自虐する。

でも、なんでもかんでも無差別に読み取り続ける私の個性よりも、真さんの接触している人に限定できる個性の方が便利そうだし、嫌な思いもしなさそうだし羨ましい。

私も制御できるタイプが良かった。

そう思いながら、握手を求めて差し出された手を握り返す。

 

「下位互換なんてこと……ないです……私の個性……いいところばかりじゃ……ないですから……」

 

「……嘘じゃないのね。ごめんね、変なこと言って」

 

どうやら軽いジャブのつもりで軽口を叩いていたようだった。

なんとも言えない表情で謝られた。

 

そんな話をしていると、会議室に物間くんを連れたブラドキング先生が入ってきた。

 

「ブラキン先生、個人授業ってどこまで……なんですか、ここ。教師ほぼ全員に、波動……?何の集まりですか?これ」

 

「物間、お前に協力してもらいたいことがある。ちょうどこれから全ての確認を始めるタイミングのようだし、話を聞いていれば状況も分かる。物間も座って聞いておけ」

 

「は、はあ……」

 

物間くんはただただ困惑しているけど、とりあえず指示に従うことにしたようだ。

困惑した表情のまま席に着いた。

 

 

 

それから始まったのはブラドキング先生が言っていた通り、全ての確認だった。

真さんの嘘発見器(ポリグラフ)で嘘か判別されながらの、先生主導の私への質問が始まった。

 

「じゃあ質問していく。具体的な回答が求められているもの以外は、全てはいかいいえで答えろ。余計なことは言わなくていい」

 

「はい……」

 

相澤先生の指示は、おそらく余計なことを畳みかけるように言うことで嘘を分かりづらくするのを防ぐためだろう。

私としては特に問題がないから普通に了承しておく。

 

「まず……波動、お前はヴィラン連合とつながりがあるか?」

 

「いいえ……」

 

「この前オールマイトが確保した、ヴィラン連合のブレーンとのつながりはあるか?」

 

「いいえ……」

 

「お前は、内通者ではないんだな?」

 

「はい……」

 

「分かりきってると思うけど、全部本当よ」

 

真さんの言葉で、先生たちが若干安心したような雰囲気になる。

ないとは思っていても、私が内通者の可能性を否定出来て安心したようだ。

逆に物間くんは、内通者とかヴィラン連合とのつながりというワードを聞いてかなり混乱している。

 

「よし、次にいくぞ―――」

 

そんな感じでどんどん質問されていって、確認作業は進んだ。

内容としては私の個性の詳細から始まって、相澤先生とした読心能力の程度の確認を他の教師や塚内警部とも行った。

その後は青山くんに関してがほとんどだった。

 

「青山が内通者だと思っているのか?」

 

「はい……」

 

これは簡単だ。これ以外に答えがない。

 

「青山が怪しいと感じた理由は?」

 

これに関しては相澤先生と病院で話したのと同じ内容を順に言っていった。

物間くんの困惑具合が酷いことになってきている。

 

「他の生徒が内通者でないと感じた理由は?」

 

「ヴィランを認識した瞬間や……襲撃を知らされた時の……思考の内容から……内通者ではないと思いました……」

 

これは言葉の通り。皆純粋に驚いたり怖がったりしているだけで、内通者とは思えなかった。

青山くん以外の例外は爆豪くんだけど、彼は好戦的な思考だっただけだ。

 

「なぜ青山と話す機会が欲しいと考えた」

 

「以前相澤先生に言った通り……ごろつきやヴィランから感じる悪意を……狂人であっても感じ取れる悪意を……一切感じなかったからです……」

 

これも以前言った通り、悪意を感じないから事情があると考えて話をしたいと考えた。

 

「波動は、青山がどういう状況だと考えている?」

 

「……青山くんの怖がり方からして……殺害を仄めかした脅迫をされているのではないかと……考えています……」

 

私の言葉に先生たちが息を呑む。

だけどあの怖がり方はいくらなんでも異常だし、これ以外理由が思いつかない。

 

「この場に嘘を判別できる人間を呼んだことをどう思っている?」

 

「証言としての……信頼性が上がるので……とてもありがたいと思っています……」

 

こんなのは簡単だ。嘘を判別してくれるのは証言の信頼性が上がるから素直に嬉しい。

むしろ私から提案したことでもある。

 

などなど、とにかく根掘り葉掘り、本当に全ての発言の真偽を確認しながら質問された。

 

「最後だ。ここにいる人物で悪意を感じる者はいたか」

 

「いいえ……」

 

これは最初に思考で伝えられた内容の確認だろう。

プロヒーローや刑事とは言っても、内通者の可能性はゼロじゃない。

この前の私の口ぶりからして、自発的に内通行為を行うような人からは悪意を感じることは分かっているし、その可能性を真さんに触られている状態で確実に潰したんだろう。

 

「うん。大丈夫。瑠璃ちゃん、嘘は一切言ってないですよ。ちゃんと全部正直に話してくれてます。本人が誤認して真実だと思っていることはあり得ても、悪意を持って騙そうとしていることはないと言っていいと思いますよ」

 

「ありがとう、真。しかし、読心個性の持ち主の発言で発言内容にも嘘がなく、ここまでの証言があるとなると、青山くんが内通者であることはほぼ確定と言っていいな……」

 

真さんの私の発言の真実性の保障に、塚内警部が代表してお礼を言ってくる。

 

嘘を判別できる人からのお墨付きが付いたからか、他の先生たちも口を開きだした。

 

「それにしても波動さんの個性凄いわね……そこまで読み取れるなんて……」

 

「本当に。自分の周囲だけとはいってもその範囲は広大ですし、やっぱり救助活動に向いていますよね。サイドキックに欲しいくらいです」

 

「いや、これは救助活動だけが取り柄の個性ではないだろう。むしろ諜報活動でこそ真価を発揮すると言っていい。1kmも離れた位置から思考を盗み見られたら対処のしようがない」

 

「まぁ実際にこうして内通者を気付かれずに特定しているわけですし、諜報活動に向いているのは間違いないでしょうね」

 

そんな感じで先生たちが話していると、耐えきれなくなったのか物間くんが口を開いた。

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