波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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準備(後)

「っ……待ってください!!内通者!?読心!?どういうことですか!?あのヴィランの襲撃が、青山によって齎されたものだと!?」

 

「物間、落ち着け。それをこれから確かめるという話だ。そのためにお前を呼んでいる」

 

混乱の極致に至った物間くんを、ブラドキング先生が宥める。

まあ、何も知らない状態で補習に呼ばれたと思ったらこんな話を聞かされたんだ。

混乱してしまうのも仕方ない。

そんな物間くんに説明するように、相澤先生が話し始めた。

 

「そういうことだ。波動から青山の真意を確かめたいと提案があったからな。そのための場を整えたのもあるが、同時に青山が内通者か否かを確定させるためにこれだけの人員を集めている。教師が緊急事態に備えている間に波動が青山と話し、青山が内通行為を行った事実があるのか、あるならばその真意と状況を確認する。必要があればその場で逮捕もする。そのために刑事も呼んでいるからな」

 

相澤先生の話を引き継ぐようにブラドキング先生が話し始めた。

 

「その場において、物間……お前に協力してもらいたいことがある」

 

「協力……?」

 

「お前ももう想像はついているだろう。現状、青山の容疑は波動の証言からのみで成り立っている。今まで読心能力を隠していた人間の証言のみでは、証拠としての信頼度が低いのだ。その証拠としての信頼度を上げるために、嘘を判別できる人間と、お前をここに呼んでいる。お前には波動の個性をコピーしてもらい、波動が青山と話している間、青山の読心をし続けて欲しいのだ」

 

物間くんが静かに唾を飲み込む。

冷静さを取り戻したみたいだ。

いつもの人を小馬鹿にした感じはなくて、無表情で先生を見据えている。

自分が任されようとしていることの重大性に気が付いたらしい。

私もこの個性を物間くんにコピーさせるのは正直心苦しいけど、仕方ない。

警察の読心個性の持ち主が来れないなら、物間くんに協力してもらうのが一番確実で効率的なのだ。

 

「僕が波動の"個性"をコピーしたとして、スカの可能性もありますよ?」

 

「波動の幼少期の話から、その可能性は薄いというのが我々の見解だ」

 

「……今日、この後会わせるつもりなんですよね?まさか、数時間で波動の"個性"をコピーで使いこなせるように……なんて、冗談言ってます?」

 

「これ以外に怪しまれずに呼び出す方法がなかった。すまないが、出来るようになってもらうしかない」

 

物間くんは少し悩んだ後、諦めたように首を振った。

 

「分かりました。協力します」

 

「よくぞ言ってくれた!流石は我が教え子だ!」

 

ブラドキング先生が嬉しそうに物間くんに笑いかける。

物間くんも満更でもなさそうな様子だ。

B組とブラドキング先生は確固たる信頼関係を築けているようだった。

 

 

 

「説明と確認はここまででいいんですよね?この後は、全て僕の練習時間だと思っても?」

 

「ああ。夕方、補習終了後にマイクが青山を連れてくる手筈になっている。それまで存分に練習してくれて構わん」

 

それを聞いた物間くんが、こっちに近づいてくる。

目の前に来たところで再び口を開いた。

 

「じゃあよろしく頼むよ、波動。憎きA組の思惑に協力するのは癪だけど、そうも言ってられる状況じゃないみたいだしね」

 

「ん……よろしく……」

 

「じゃあ、まずは個性の詳細を、さっきの説明の時よりも詳しくしてもらおうか。短時間で使いこなせるようになるには必要不可欠だ」

 

物間くんの言う通り、この数時間で少なくとも特定の相手の思考を深く読み続けることが出来るようになってもらう必要がある。

私もそのための協力は惜しまないつもりだ。

 

「問題ない……私の個性、"波動"は……自分の周囲、半径1kmくらいの波動を感知できる……普段してる感知は……これで人の位置とかを見てる……でも波動は……人だけじゃなくて……動物も、木も、石も……全部に宿ってる……だから地形の感知もできる……意識すれば……波動を透視して見ることもできる……」

 

「へぇ、すごいじゃないか。それでいつも僕たちの行動を監視していたわけだ」

 

「……ここからが大事……人の波動を感じれば……思考と感情が分かる……これは……最初から出来たから……多分物間くんも……感覚で分かると思う……」

 

「……波動を見れば自然と読み取れるってことかい?」

 

そうだけどそうじゃない。

読み取ろうと思わなくても認識した時点で強く考えていることと感情が垂れ流しで聞こえてきてしまうのだ。

深いところを読むのは集中してもらわなきゃいけないけど、それよりもまず慣れてもらわないといけない。

 

「正直……ここからは試してくれた方が早い……」

 

私がそう言って手を差し出すと、物間くんも何も言わずに手を握り返してきた。

 

 

 

それからしばらく、物間くんは無言だった。

少しずつ顔色が悪くなって、汗をだらだら流し始めている。

私が言った意味が理解できたんだろう。

 

「……おい……なんだよ……これ……」

 

物間くんはそのまま手を離して後退っていく。

 

「ちょっと、物間くん!?大丈夫!?」

 

「物間!?どうした!?」

 

流石におかしいと考えた先生たちが物間くんに駆け寄る。

でも、これは先生たちがどうにか出来る問題じゃない。

先生たちの波動に不快感はないけど、範囲内には大分不快感を感じる波動がいくつもある。

今日は夏休み中で人が少ないからマシな方ではある。

普段はヒーロー科以外の生徒の負の感情が結構多いからもっと酷い。

それでも、慣れてない物間くんからしたら、酷い状態としか感じないだろう。

物間くんが絞り出すように声をだす。

 

「これ……どうやったら聞こえなくなる……こんな……」

 

「……無理……それの制御、できないから……ずっと垂れ流し……」

 

「き、君は……ずっとこんな状態で生活しているのか……?」

 

「ん……小さいころから……ずっとそう……」

 

「……狂ってる……」

 

私の返答に、物間くんは顔色をさらに悪くする。

狂ってるとまで言われるのは流石に私もムッとしてしまう。個性なんだから仕方ないじゃないか。

真さんはさっきの私とのやり取りもあって、もう察しが付いたみたいだった。

でも先生たちはまだ飲み込めないみたいで、物間くんに質問を続けた。

 

「なんだ?どういうことだ、物間?」

 

「……感知範囲内にいる全ての人間の思考と感情が、頭に、無理矢理……目を逸らしても、何も変わらない……ずっと、ずっと聞こえ続けて……怒りや、妬みみたいな、嫌悪感を感じる感情も……読み取り続けて……吐き気が……」

 

物間くんの説明で、先生たちも理解できたらしい。

真さんが確認するように私に聞いてくる。

 

「つまり、あなたの読心能力は、感知した波動から思考と感情を読み取ってしまう能力であって、制御はできないっていう認識でいい?その感情っていうのも漠然としたものじゃなくて、どういう感情なのかまで読み取れて、しかも悪感情は読み取ると嫌悪感を感じてしまうものってことよね」

 

「はい……その通りです……」

 

真さんは納得がいったというように頷いている。

だけど、物間くんと先生たちの顔色は悪くなるばかりだ。

特に相澤先生とオールマイトの顔色がすごいことになっている。

相澤先生は緊急事態のギリギリまで隠していたという事実が、オールマイトは打ち明けた時の様子が合わさって、中学までがどういう状況だったか察しがついたんだろう。

私からは何も言うつもりもないし、あとは先生たちが内心で納得できるかどうかの問題だ。

少なくとも、雄英のプロヒーローは皆人が良すぎるくらいだし、少し引きずりそうな気もするけど。

 

「おい……君、いくら慣れているとは言っても気にしなさすぎだろう……」

 

「そうは言っても……私はずっとそういう状況で……生きてきたから……」

 

「読心をオフにはできなくても、何か気を逸らすコツくらいないのか……?あるならそれを教えてくれ……」

 

「ん……分かった……」

 

物間くんがこっちを見ながら縋るような感じで言ってくる。

確かにあるにはある。

この後深く読むように指示するのは変わらないし、早々に教えてしまおう。

 

「耳とかと一緒……音が……特定の人の声に集中すると……他の音はあんまり気にならなくなるのと同じ……そんな感じで……1人の思考を集中して深く読むと……周りの思考はあんまり気にならなくなる……」

 

「1人の思考を深くだな……」

 

「ん……私でもいいし……他の人でもいい……おすすめはここにいるプロヒーローの誰か……誰でもいいから……波動を注視してみて……」

 

どうやら物間くんはブラドキング先生を深く読心することにしたらしい。

ブラドキング先生の物間くん含めたB組への期待と信頼は本物だし、負の感情も抱いていない。

読んで不快になることはないだろう。

結局1回目は深く読めないまま時間切れになった。

物間くんは凄く疲れた感じでこっちを見てくる。

そんな目でこっちを見られても私からはどうすることもできない。

協力してもらうからには回数を重ねて深く読めるようになってもらうしかない。

私と同じレベルでとは言わなくても、青山くんの思考を深く読めるようになってくれないと困るのだ。

 

それから休憩を挟みつつ何度も何度も物間くんにコピーして練習してもらった。

正直、物間くんの憔悴具合が酷いことになっていてすごく心配だったけど、物間くんなりに頑張ってくれていた。

というよりも、私が普段からその状況で生活出来ているんだから負けたくないみたいな負けん気で頑張ってた。

物間くん、性格は捻じ曲がってるけどこういうところは素直にすごいと思う。

 

 

 

練習に付き合いながら、物間くんの休憩中に真さんや先生たちと話しながら過ごす。

真さんが結構な頻度でどこかに電話していたから何をしているのかと思ったら、仕事の電話だったらしい。

真さんはアメリカのトップランクヒーロー、キャプテンセレブリティのマネジメントをしているらしい。

見た目からしてキャリアウーマンだと思ってたけど、その実力もトップクラスだったようだ。すごい。

 

そんな感じで話したり助言したりして午後3時を過ぎた頃。

ついに物間くんが1人の思考を集中して読めるようになった。

まだ拙いところはあるけど、私が読み取ったのと同じレベルの思考をしっかりと読めていた。これなら私からも文句はない。

物間くんは焦燥しきっていて疲れ果てたと言わんばかりに突っ伏して休憩し始めていて、ブラドキング先生が物間くんを労っている。

 

「うーん……正直この様子を見ていたら、波動さんの読心の精度は信頼していいと思うんだけど……」

 

「……まあ、それは信用するにしても、波動が青山に絆される可能性がゼロじゃない」

 

「……私……絆されたりしません……」

 

ミッドナイト先生の発言に、相澤先生が微妙な表情をして答える。

だけど、相澤先生のその返答には不満がある。

私は絆されたりしない。情状酌量の余地が一切なければ私自身が拘束するつもりですらいる。

 

「現にこうやって会話する機会を作ってくれと言ってるだろう。物間は辛いだろうが、物間がいて損はない」

 

……それを言われてしまうと確かにとも思ってしまう。

悪意がないからと言って問答無用で拘束にかからない辺り既に少し絆されてるか。

そんな感じで先生たちと話しながら、時間を待つ。

物間くんも少ししたら復活した。

 

一応予定としては、隣の部屋で私が青山くんと話して、万が一青山くんが暴走した場合に備えてスナイプ先生と相澤先生を含めた数人の教師と塚内警部も隠れて待機。

そして物間くんはこの部屋で青山くんの読心をし続けて、真さんがその内容に嘘がないかを判定して、読心結果の全てを記録に残すことになっている。

残りの先生たちは物間くんの読んだ内容を精査しつつ監視カメラの映像で成り行きを見守るとともに、不測の事態に備える計画だ。

 

A組赤点組の補習が終わる時間が、迫っていた。

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