グラウンド・βは、入試の時の市街地のようなビルがたくさん並んでいる演習場だった。
入口で男子たちが集まって待ってくれていたようだ。
合流してから、皆でまとまってグラウンドに入った。
「さあ、始めようか有精卵ども!!!戦闘訓練のお時間だ!!!」
グラウンドに入るとオールマイトが出迎えてくれた。
それを他所に、なんか後ろの方で『ヒーロー科最高』とかいう思考と言動が完全に一致した妄言が聞こえるけど気にしない。
緑谷くんもお茶子ちゃんのパツパツスーツに目を奪われてるみたいだけど、彼のそれには別に不快感はない。
緑谷くんのはただの健全な青少年の反応だ。そこまで否定するつもりはない。
「いいじゃないか皆、カッコイイぜ!!」
オールマイトはコスチュームを褒めてから授業の説明を始めた。
質問を捌ききれずに震えたりルール説明にカンペを使い始めたりする、新米教師としてのNo.1ヒーローの姿にちょっとほっこりする。
つまり要約すると……
ヴィラン組とヒーロー組に分かれて行う2対2の屋内戦。
ヴィランは核兵器を所持していてヒーローはそれを処理しようとしているという状況設定。
ヒーロー組の勝利条件は、核兵器の確保か、ヴィラン役2人を確保テープを巻いて捕まえること。
ヴィラン組の勝利条件は、制限時間まで核兵器を守りきるか、ヒーロー役2人を確保テープを巻いて捕まえること。
チーム、対戦相手、役回りは全てくじで決めるらしい。
抽選の結果、私は透ちゃんとペアになった。
うん、すごい偶然だ。これは運命かもしれない。
きっと私たちは友達になるべくして出会ったんだ。
透ちゃんも大喜びではしゃいでいる。私も嬉しい。
お茶子ちゃんも緑谷くんとペアになったらしい。
緑谷くんに「縁があるね!」なんて無邪気に話しかけて喜んでいた。可愛い。
オールマイトがくじを引いて、1試合目の組み合わせが決まった。
その結果、1試合目はヒーロー:緑谷くん、お茶子ちゃん VS ヴィラン:爆豪くん、飯田くんになった。
モニタールームに移動して画面を見る。
やっぱりというべきか、画面越しだと波動は見えない。
そんな画面をぼんやり眺めていると、訓練がスタートした。
オールマイトは張り切って採点の準備をしている。
だけど思考では『緑谷少年!!ここではあくまで一生徒。成績はひいき目なしで厳しくつけるからな!!』とか緑谷くんを思いっきり意識してる。
この思考からしても、緑谷くんはオールマイトの弟子ということで間違いなさそうだ。
言うと面倒くさいことになりそうだから言わないけど。
「すげぇなあいつ!!"個性"使わずに渡り合ってるぞ、入試一位と!」
皆は歓声をあげながら訓練を見ている。
奇襲を仕掛けた爆豪くんをいなして、そのまま個性なしで爆豪くんと張り合い続ける緑谷くんの姿を見て盛り上がっているみたいだった。
ただ、これは見ていて気持ちのいいものじゃない。
爆豪くんの表情を見れば波動が見えなくても分かる。これはただの私怨だ。
しかも、本来なら機動力に優れた飯田くんが前衛に出るべきなのに爆豪くんだけ出てきているこの状況。
爆豪くんが私怨丸出しで暴走したってことだろう。
「なんかすっげーイラついてる、コワッ」
『爆豪少年は緑谷少年から聞いた感じ自尊心の塊なんだろうが、肥大化しすぎてるぞ……ムムム……!』
上鳴くんの言う通り。授業の、訓練でするような苛立ちじゃない。
オールマイトもムムムとか考えてる場合じゃない。早く止めるべきだと思う。
じゃないと取り返しつかないことになるかもしれない。
そんなことを考えていたら、案の定爆豪くんは訓練で人に向けて撃っていいような威力じゃない兵器を撃ちだした。
オールマイトが『みみっちいというかなんというか』なんて考えてるから一応は気を付けてる部分はあったんだろう。
だけど緑谷くんが不意に予想しない方向に動く可能性とか考えないんだろうか。
一歩間違えたら手とか足が吹き飛んでてもおかしくなかったと思うんだけど。
『止めるべき……!!だが……止めてあげたくない……!!』
止めるべきだと分かっているのに止めないのはどうなんだ。
『きっと君の見据える未来に、これは必須なんだろう!?』とか考えちゃうのもどうなんだろう。
弟子の緑谷くんを成長させたいのは分かるけど、授業では教師としての一線をちゃんと引くべきだと思う。
結局、緑谷くんが爆豪くんを出し抜いて、お茶子ちゃんが核を奪取。ヒーローチームの勝ちになった。
だけどこれ、正直あまりいい試合とは思えない。
私怨丸出しで作戦なんて関係なしの爆豪くんの暴走。
彼はヴィラン役だから建物の破壊に関しては目を瞑るにしても、暴走は擁護のしようがない。
彼と相対した緑谷くんも、勝つためとはいえ自分の腕と建物の破壊を敢行して最終的に保健室送りになっている。
最後の建物破壊は本当に危ない。
直前に上の階の状況確認をしてないから、知っていたお茶子ちゃんは大丈夫でも飯田くんには直撃する可能性だってあった。
核に当たっていた可能性すらあったのだ。
お茶子ちゃんも気の緩みで噴き出しちゃって見つかったり、核に向けて凄まじい速度で瓦礫を打ち出したりしていた。
訓練だからいいけど、これが現実の事件だったらどれも危険極まりない蛮行だ。
その後はモニタールームで講評に移った。1回1回こうやって講評をするつもりらしい。
「まぁつっても……今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」
「なな!!?」
「勝ったお茶子ちゃんか緑谷ちゃんじゃないの?」
「なんでだろうなぁ~~~~?分かる人!!?」
オールマイトが風を切る勢いで手を振り上げ意見を募る。
それに対して、八百万さんがすかさず挙手して意見を言い始めた。
「それは飯田さんが一番状況設定に順応していたから。爆豪さんの行動は戦闘を見た限り私怨丸出しの独断。そして先ほど先生も仰っていた通り屋内での大規模攻撃は愚策。緑谷さんも同様ですね。麗日さんは中盤の気の緩み。そして最後の攻撃が乱暴すぎたこと。ハリボテを核として扱っていたらあんな危険な行為はできませんわ。相手への対策をこなし且つ"核の争奪"をきちんと想定していたからこそ、飯田さんは最後対応に遅れた。ヒーローチームの勝ちは「訓練」だという甘えから生じた反則のようなものですわ」
私が言いたかったことも大体言ってくれた。
その完璧な回答にオールマイトが震えながら『思ってたより言われた!!!』とかびっくりしている。
カンペの件もそうだけど、ところどころで新米教師感が滲み出てるな。
「ま、まぁ……飯田少年も固すぎる節はあったりするわけだが……まぁ……正解だよ、くぅ……!」
「常に下学上達!一意専心に励まねばトップヒーローになどなれませんので!」
流石推薦入学者。意気込みもすごい。
ただ、その服装で胸を張るのはやめた方がいいのでは……
講評が終わって2試合目のくじ引きになった。
その結果……
ヒーローチーム:障子くん、轟くん VS ヴィランチーム:透ちゃん、私
さっき使ってたビルは壊れちゃったから、別のビルが訓練場所になった。
ビルの4階の広間まで移動して、作戦会議を始めてしまう。
「透ちゃんの個性は……透明人間だよね……?」
「うん!そう!今日は私本気出しちゃうよ!手袋もブーツも脱ぐ!だから奇襲なら私に任せて!」
透ちゃんが鼻息荒くうおー!!とか言いながら、手袋とブーツをぽいぽい脱いでいく。
私視点完全に全裸の人型が見える。身体のラインばっちり見えちゃってるよ……
「瑠璃ちゃんの個性って何?身体強化?」
「違う……私の個性は……波動……人とか……物が放つ波動を見ることができる……」
透ちゃんはきょとんとしながら不思議そうにしている。
多分あんまり分かってないな。思考からして疑問符が飛んでるし。
「波動?」
「そう……波動……人は……大なり小なり波動を宿してるんだよ……オーラみたいなの……それが見える……」
「えーと……つまり……私も見えてる?」
そう言ってから、透ちゃんは確認するためなのか音を立てないように私の後ろに移動した。
「うん……今私の後ろに回り込んだのも……ばっちり見えてる……」
ちゃんと分かっているのを示すために、今透ちゃんがいる方向に向き直る。
「おー!!本当に見えてる!!すごいね!感知系の個性ってことか!」
「ん……自分の身体の波動も見えるから……波動を一部に集中させて簡易的な身体強化もできるけど……本質はこっち……目を閉じてても波動を感じられるから……周囲の波動で状況を確認できる……壁越しに波動の透視もできるよ……大体、半径1kmは周囲を感知できる……」
「すごいすごい!高性能レーダーだ!入試の時はそれで私を見つけてくれたんだね!!」
「ん……そう……崩れる瓦礫の下の方に……人型の波動が見えたから……」
私が返答すると、少し間を置いてから透ちゃんが身体を隠し始めた。
「ね、ねぇ。その波動って、どうやって見えるの?人型って言ってたけど……」
「……その……人だと大体身体の形に沿って波動が見える……だから……今の透ちゃんだと……身体の形がばっちりと……」
流石に申し訳なくなって目を逸らしながらそう伝える。
形だけとはいえ、全裸を見られていたことに気が付いたのかいよいよ透ちゃんが大事なところを完全に隠した。
「う、うわー!?ごめんね変なの見せて!?私も見られる恥ずかしさ味わうの初めてだよ!!?」
「ん……透ちゃん……綺麗な身体だから……大丈夫……だけど……コスチュームは……やっぱり着た方がいい……」
「き、綺麗ってそんな……」
見えない透ちゃんだからこそ、身体とか容姿は褒められ慣れてないらしい。
パタパタと手を振ったりしてて、すごい恥ずかしがっているのがよく分かる。
「きれいだよ……顔もとっても可愛いし……髪も……見えないのにちゃんとお手入れしてる……すごい……」
「そ、そんなー!言いすぎだよぉ!」
やっぱり誰にも褒められたことがなかったんだろう。
全身から喜びが滲み出ていた。
「ん……で、作戦なんだけど……」
私が話を切り出すと、透ちゃんも真剣に話し合う姿勢に戻る。
私たち二人とも身体能力はほぼ普通の女の子だから、普通にやったら絶対勝てない。
勝ちの目があるとすれば、私が索敵して透ちゃんが奇襲を仕掛ける方法くらいか。
「やっぱり……奇襲しかないと思う……」
「やっぱりそれしかないよねぇ」
「私が来そうな部屋を伝えるから……透ちゃんが気配を消して……奇襲で確保テープを巻くのがいいと思う……」
透ちゃんも私の個性を聞いてそれが1番だと思っていたのか、しきりに頷いていた。
「じゃあ私の本領発揮だね!任せて!」
「ん……頼りにしてる……それで……注意なんだけど……」
対戦相手の障子くんは腕がいっぱい生えている人。
手の代わりに口を出しているのを見たことがあるから、腕から身体の一部を生やせるんだと思う。
轟くんは思考の端々からNo.2ヒーローエンデヴァーへの憎悪が滲んでくる。
エンデヴァーのことを『クソ親父』とか考えてるのも聞いたことがあるから、親子なんだろう。
個性把握テストでは氷ばっかり使ってたけど、多分炎も使えると思う。
ただ、思考とか感情が読めることは透ちゃんにも言いたくない。
だから、この中で教えても大丈夫な情報は……
「障子くん……いっぱい生えてる腕に……口生やしてた……耳とか目も……生やせると思う……物音とかにも敏感かもしれない……だから……奇襲するとき……注意した方がいい……」
「確かにそうかも!ありがとう!気を付けるね!」
一応言っておくと、相手の作戦会議中の思考を読むなんて卑怯な真似はしてない。
透ちゃんの思考を集中して読むことで、意図的に気にならないようにしていた。
代わりに透ちゃんの思考は深いところまで読んじゃったけど、本当に裏表がない素直ないい子だ。
お姉ちゃん以外では初めて見たくらい正直な子がこのクラスは多くて安心できる。
「私も一緒に当たれれば……おとりになるようにするから……がんばろ……」
「うん!一緒にがんばろー!」