波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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寮の夜(前)

透ちゃんと一緒にシャワーを浴びた後、のんびり着替えて脱衣所を出る。

今日は峰田くんもこのタイミングでお風呂に入っていたから、覗きの心配をしなくてよくて楽だった。

透ちゃんと並んで歩いていると、窓の方を見た透ちゃんの叫び声が寮の1階に響き渡った。

 

「キャー!覗き魔がいるー!!」

 

透ちゃんが見ていた窓の方には物間くんの波動を感じる。

物間くん、どうやらA組の寮の視察に来たらしい。

私の個性の詳細を知っているのにわざわざ隠れる辺り謎の行動を取っているなぁとは思うけど、物間くんはいつも通りでしかない。

 

透ちゃんのその悲鳴を聞いて談話スペースで談笑していた上鳴くん、尾白くん、砂藤くんが駆けつけてきた。

 

「えっ、峰田は風呂だぞ!?」

 

男子からもそういう認識をされているブドウ頭に少し笑ってしまう。

私の様子を見たからか、3人もお風呂を覗かれた訳ではないとすぐに分かったらしい。

 

「峰田くんじゃなかったよ!一瞬だったんだけど、なんかニヤけた顔があそこの窓から覗いてたんだ……!瑠璃ちゃん、誰か分かった!?」

 

「皆の言う通り……峰田くんは男子のお風呂……今のは物間くん……」

 

透ちゃんが指さす玄関側の窓の近くに感じるのは変わらず物間くんだ。

私の返答を聞いた瞬間、透ちゃん含めた皆がすごく拍子抜けしたような顔で安心しだした。

 

「なぁんだ、物間くんかー」

 

「物間って、また何かしにきたのか?あいつ」

 

「どうせまた煽りに来たんだろ?」

 

そんな感じで話していると、透ちゃんが悲鳴を上げた時に離れた所にいた他の人たちも少しずつ集まってきた。

 

「なんだどうした?」

 

「どうしたの?」

 

お風呂に行こうとしていた切島くんが第二陣として来て、その後に緑谷くん、飯田くん、轟くんがなにごとかと駆け寄ってきた。

 

「あ、ごめんね!さっきそこから覗いてた人がいてびっくりしちゃって!瑠璃ちゃんが言うには物間くんらしいんだけど……」

 

透ちゃんがそう返答した時、ドアがドンドンドンッ!と激しく叩かれた。

物間くん、今日は大分乱暴な感じだなぁなんて思っていると、飯田くんがこれは物間くんなのか確認するように私をちらりと見てきた。

私が肯定の意味を込めて頷くと、飯田くんはドアの方にツカツカと歩いて行って扉を開けた。

 

「オイオイオイ!客人が来ているのに随分と待たせるじゃないか!?さっすがA組、随分とでかい態度だね!!」

 

開けた瞬間からHAHAHAHAと響き渡る物間くんの高笑い。

一昨日聞いたときはこの高笑いももう少し印象が違ったんだけどなぁと思って少し残念な感じがしてしまう。

 

「客人って、覗きしてたじゃん……」

 

透ちゃんが寮の中を見渡していた物間くんにげんなりした感じで声をかける。

 

「人聞きが悪いことを言わないでくれよ。誰かいるかなって見ただけだよ」

 

「それを覗いていたと言うのでは?」

 

飯田くんの指摘も、物間くんは素知らぬ顔でスルーする。

埒が明かないと判断したのか、緑谷くんが物間くんに声をかけた。

 

「それで……何の用があって来たの?」

 

「用がなくっちゃ来ちゃいけないって?」

 

「いやっ、そういう意味じゃなくてっ」

 

物間くんはこちらを弄って大分満足したのか、ようやく本題を話し出した。

 

「視察に来たんだよ。A組とB組の寮に差があるかもしれないだろう?」

 

物間くんのその言葉に、集まっている皆がきょとんしている。

 

「差とか……ないよ……?全部同じ間取り……」

 

実際、寮に違いなんかない。そのことを私が伝えるけど、物間くんは一蹴してきた。

 

「ハッ!君は他のクラスの寮に行ったのかい?」

 

「……行っては……ないけど……」

 

「じゃあ違いなんて分からないじゃないか。明るさや置かれている調度品とかが違う可能性もある」

 

物間くんの指摘に、飯田くんが再度確認するようにこちらを見てきた。

 

「……その辺りの違いは分からないのかい?」

 

「ん……色は……濃淡が少し分かるくらい……明るさも……ほぼ分からない……」

 

「なら一理あるのか……」

 

飯田くんは納得しているけど、私の個性で分からないことを把握している物間くんに対して、透ちゃんを筆頭に疑惑の視線を向け始めている。

 

「なんで物間くんが瑠璃ちゃんの分からないこと知ってるの?」

 

「君は争う相手の個性を研究しないのかい?憎きA組の脅威の1人である感知個性を、研究していないわけがないだろう!?自然と僕たちを下に見るその態度!!これだからA組は!!」

 

物間くんがどう言い訳するのかと思ったけど、当たり障りなくA組を煽りながら煙に巻いていた。

律義ではある。律義ではあるんだけど……性格が捻じ曲がっているせいで釈然としない。

 

「じゃあ納得したね!なら確かめさせてもらってもいいよね!?ね!!ね!!!」

 

結局、そうやって物間くんはA組の寮の視察許可を無理矢理もぎ取っていった。

 

 

 

さっき集まっていた砂藤くんを除いた男子たちは、物間くんの視察についていった。

砂藤くんはシフォンケーキを仕上げるために残っている。

私と透ちゃんもそこまで興味がなかったから普通に共有スペースに残っている。

私はもともと砂藤くんのお菓子作りを見学したかったし、予定通りだ。

この前のシフォンケーキにレモンまで足したらきっともっと美味しいだろう。

味を想像して顔が緩んでしまう。

 

「んじゃ俺はシフォンケーキ仕上げるからキッチン行ってるぜ」

 

「私も行く……レモンシフォンケーキだよね……楽しみ……」

 

「お、おお。そうだけど、匂いだけで分かるのか。すげぇな」

 

「瑠璃ちゃんは相変わらずだねぇ」

 

ちょっと引き気味に言う砂藤くんに、透ちゃんが慣れたような感じで言ってくる。

結局3人でキッチンに行くことになった。

透ちゃんは完全に見学でしかないけど、私はジャスミンティーの作り置きを作っておいて冷蔵庫に入れておこうと思ったのだ。

まだ暑いし、いつお姉ちゃんが来ても冷やしたジャスミンティーで歓迎できるように準備をしておかないと。

 

以前まとめて香りづけしておいた茶葉を使ってお茶を入れていく。

今回の茶葉はベーシックに緑茶に香りづけしたやつだ。

予めガラス製のポットにお湯を入れて温めておいたり、色々工夫するところはある。

淹れながら透ちゃんにその説明をしているとはぇ~みたいな反応を返されて少しドヤ顔をしてしまう。

 

蒸らしの段階に入ったところで砂藤くんが作っているシフォンケーキを覗き込む。

相変わらず凄い完成度。

私もお菓子は作れるけど、砂藤くんほどの出来にはまだできない。

 

「…………味見、するか?」

 

「いいの!?」

 

「私もいい!?」

 

凝視するレベルで見ていた私に根負けしたのか、砂藤くんが声をかけてくれた。

私は即答で返事をした。透ちゃんも私に続いて味見を要求する。

甘味の魔力には抗えないから仕方ない。

本当に味見サイズだけどカットの時に薄く切ったのを渡してくれた。

昨日の好評を受けて今日は多めに作ったみたいだった。

一口食べただけで口の中に幸せが広がる。

味見サイズだったのもあってすぐになくなってしまった。

 

そんな感じで色々やっていたらキッチンに百ちゃんが来た。

どうやら紅茶を淹れに来たらしい。

 

「波動さんに葉隠さんに砂藤さん。奇遇ですわね」

 

「ん……砂藤くんが……シフォンケーキ作ってるから……作り置きの茶葉でジャスミンティー淹れてた……ついでにアイス用に大量生産中……」

 

「シフォンケーキ、美味しかったですものね。もしかして、皆さんの分も?」

 

「おう。昨日のシフォンケーキが評判よかったからな。今日はレモンシフォンケーキ作ってみたんだよ」

 

「私はその見学!!」

 

私の言葉を受けて、百ちゃんが少し困った感じの反応をした。

紅茶を作ったら過剰になってしまわないか心配しているみたいだ。

 

「……私も紅茶を淹れようかと思ったのですが、波動さんがもう淹れているなら余ってしまいますかね?」

 

「……多分……そろそろB組の子が……物間くんを回収しに来るから……百ちゃんも……淹れよ……?」

 

「まあ!お客様ということですね!そういうことなら、気合を入れて淹れさせていただきますわ!」

 

張り切った百ちゃんが手際よく紅茶を淹れていく。

やっぱり百ちゃん、茶葉に凄いこだわりがある。色んな種類の茶葉を用意してあった。

今日はレモンシフォンケーキってことで、それにあう紅茶を淹れているみたいだ。

 

「そういえば……百ちゃんに……聞きたいことがあって……」

 

「あら、なんでしょうか?」

 

「ん……ジャスミンティーで……ミルクティーを作ろうと思ってるんだけど……ジャスミンティーだけだと……味を諦めて……香りを強くするくらいしか……方法がなくて……味の補強のために……紅茶も少し混ぜてみたい……香り弱めの……コクが強い紅茶とか……ない……?」

 

「香りが弱くてコクのある紅茶ですか……」

 

私はジャスミンティーに変化をつけるために、香りづけをする茶葉の種類を緑茶から変えてみたり、工芸茶を作ってみたり色々な方法に手を出している。

その中の1つで、ミルクを混ぜてミルクティーにしてみる方法を考えているんだけど、どうにもうまくいかないのだ。

どうしてもミルクの味が強くて負けてしまう。

香りが弱めの茶葉を使うと、香りすら負けてしまうのだ。

そこで私が考えた対策が、もう味を度外視して香りの強いジャスミンティーを作ってミルクを混ぜる方法だった。

これ自体は悪くなかったんだけど、どうしても香りを楽しむミルクティーでしかなくなって味気ない感じになるのだ。

それを受けてさらに考えたのが、他のお茶とブレンドする方法だ。香りはもう十分あるんだから、香り以外の要素。コクがあるお茶を探していたのだ。

そこで紅茶に詳しい百ちゃんに聞いてみた感じだ。

百ちゃんがまた少し考え込んでいる。

その思考には、色んな紅茶の名前が浮かんでは沈んでいっている。

 

「それなら、アッサムなどはいかがでしょうか?配合率で個性が消えてしまうので近場で買おうとすると注意が必要ですが……アッサム茶葉100%ならコクのある濃厚な味わいの紅茶になりますわ。もともとミルクティーに向いている紅茶でもありますし、きっと合うと思います」

 

「なるほど……アッサム茶葉100%……覚えた……ありがと……」

 

「お気になさらず。それに、アッサムなら私のストックがありますし、お分けしましょうか?」

 

「いいの……?」

 

「ええ。遠慮せずにお使いください」

 

「じゃあ……ちょっと分けて欲しいな……」

 

百ちゃんは教えてくれるだけじゃなくて、にこやかに使っていいと言ってくれた。

百ちゃんがすごく優しい。いい感じのジャスミンミルクティーが出来たら1番に飲んでもらおう。

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