波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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寮の夜(後)

百ちゃんの紅茶も後は仕上げの段階になって、私も新しくストック分以外のジャスミンティーの仕上げ以外終わった頃、寮の呼び鈴がなった。

波動からして拳藤さん、角取さん、鉄哲くんの3人が寮の前に来ていた。

ドアを開けると、案の定申し訳なさそうな顔の拳藤さんが立っていた。

 

「毎度ごめんな。物間来てるよね?回収しに来たんだけど」

 

「待ってた……入って……物間くんの所……案内するね……」

 

寮の中に3人を通す。

そのまま物間くんがいる切島くんの部屋まで案内した。

 

 

 

部屋に着くと、ちょうど物間くんがいつものようにA組を罵っている所だった。

 

「B組はねぇ、陰でそういう努力をしてるわけ!調子乗っちゃってるA組はどうせ部屋で寛ぐことしか考えてないんじゃないのぉ!?そういうとこだよ、そういうとこ!やっぱりA組の寮を見にきてよかったよ!遠慮なく自堕落な生活をして僕らB組の足元に跪いて「跪くのはお前だ」

 

拳藤さんがいつも通り物間くんの首に素早く手刀を繰り出した。

物間くんは「あうっ」なんて情けない声を出して崩れ落ちていく。

拳藤さんはそんな物間くんを速やかに拾い上げた。

 

「何やってんだよ、物間!」

 

「物間クン、A組行ッテくるッテ出テ行キマシタノ、ビックリしィマシタ」

 

どうやら角取さんの発案で、拳藤さんを連れて物間くんの回収に来てくれたらしい。

鉄哲くんは、近いとはいえ夜道を女子だけでは危ないということで付いてきたボディガードみたいだった。

 

 

 

その後、大人しくなった物間くんを拳藤さんが運んで皆で談話スペースに戻った。

私と百ちゃんと砂藤くんは一度キッチンに引っ込む。

砂藤くんがシフォンケーキを切り分けて、私と百ちゃんはお湯をポットに注いで紅茶とジャスミンティーを完成させていく。

そんな感じでお茶とお菓子の準備をしていても、談話スペースの方の声は普通に聞こえてきていた。

 

「本当に毎度、物間がごめんな」

 

拳藤さんが物間くんの代わりに謝っている。そんな拳藤さんに無理矢理頭を下げさせられている物間くんが、不満そうに異議を唱えた。

 

「……ちょっと拳藤、邪魔しないでよ。せっかくどこかボロを出さないか偵察してたのに」

 

「おい、さっき視察って言っただろ」

 

私たちが準備した物を持ってキッチンを出ると、ちょうど物間くんが拳藤さんの手を退けて頭を上げたところだった。

 

「フン、せっかくB組代表として遊びに来たのにお茶も出ないのかなぁ!?全くこれだからA組……は…………」

 

お茶が出ないことを罵倒した後で、私たちがお茶とお菓子を持って出てきていたことに気がついたらしい。

物間くんも流石にタイミングが悪くて言い淀んだ。

そんな物間くんを上鳴くんがニヤニヤとしながら見ていた。

 

「お茶が、なんだって?」

 

物間くんも言い返せないみたいだった。

だけど、上鳴くんも罵倒されてイライラしていたとはいっても、人の褌で相撲を取るような言動は慎んだ方がいい。後で自分に返ってくることもあるし。

談話スペースの机の上に来客用のティーセットに淹れた紅茶と私の私物のガラス製のポットに淹れたジャスミンティー、砂藤くんのシフォンケーキを置く。

A組はもう分かるだろうけど、B組は分からないだろうから百ちゃんが説明を入れる。

 

「砂藤さんのケーキと波動さんが淹れたジャスミンティー、私がブレンドしたお紅茶ですわ。お口に合うといいのですけど」

 

「ん……ジャスミンティー……茶葉の香り付けからしてる自信作……飲んでみて……」

 

「今日のケーキはレモンシフォンケーキだぜ。ホイップクリームは蜂蜜入れてみたんだ。みんな、授業で疲れてるかと思ってよぉ」

 

紅茶とジャスミンティーはどっちでも選べるようにしてある。

まあ多分ジャスミンティーの方が余るだろうけど、そしたらストックのアイスの方にまわせばいいだけだ。

花の香りを楽しむお茶だし、人を選ぶ味なのは分かってるからこの辺は仕方ない。

 

「これ本当に砂藤が作ったのかよ!?」

 

「とってもオイシソウデース!」

 

「実際……砂藤くんのケーキはおいしい……最近食べた中でもトップランク……ランチラッシュのデザートと……いい勝負してる……」

 

砂藤くんのお菓子に、角取さんと鉄哲くんは目を丸くして驚いている。

そんな2人に対して、拳藤さんは申し訳なさそうにしていた。

 

「なんかごめんな、気を遣わせて……」

 

「いえ、本当に初めてのお客様ですもの。当然ですわ。さ、どうぞ遠慮なさらず」

 

「そう?それじゃあ……いただきます」

 

百ちゃんが食べるように勧めて、拳藤さんたちはケーキを食べた。

私も一緒にケーキを食べ始める。

砂藤くんのシフォンケーキは相変わらず美味しい。

昨日砂藤くんが言っていた通り、ホイップが乗っていてさらに美味しい。

なんだこれ。食べるのが止まらない。

 

「……うまっ!……このお茶もすごい香りいいしっ!」

 

「甘いもんそんなに食わねぇけど、これはうめぇわ!」

 

「この紅茶もピッタリデス!」

 

拳藤さんたちがケーキを堪能しながら食べ進める中、物間くんは苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

 

「……ちゃんとしたおもてなししないでくれる……」

 

嫌味を言う物間くんも、ケーキを憎々し気に睨みつけながらではあるけど、しっかりと食べ進めていた。

そんな物間くんに対して、上鳴くんが相変わらず虎の威を借る狐みたいな感じで食って掛かる。

 

「砂藤のケーキの前じゃ、お前も完敗だな!」

 

「フン、あんな部屋のキミに言われても何も悔しくないね」

 

案の定言い返される上鳴くんだけど、正直あの部屋は取っ散らかった感じだから言われてもしょうがないんじゃないかな。

昨日の皆の反応が全てだと思うんだけど。

 

「そんなに言うくらいだから、お前の部屋はさぞかしセンスがいいんだろうな!?これでだっせぇ部屋だったら大笑いしてやる!」

 

「ダサくなかったら何してくれる?」

 

物間くんはダサいと言われるなんて全く思っていないみたいで、自信満々だった。

そんな物間くんの様子に一切気が付かずに、上鳴くんは売り言葉に買い言葉で言い返していく。

 

「電気で茶を沸かしてやる……いいや、B組の風呂を沸かしてやるよ!!」

 

そんな上鳴くんの発言に満足したのか、物間くんはスッとスマホを上鳴くんに見せた。……写真撮ってあるのか。

 

「これ、僕の部屋」

 

画面を見た上鳴くんは、絶句して何も言えなくなってしまった。

私と透ちゃんも気になって、物間くんのスマホを覗き込んでみる。

 

「なにこれ、超おしゃれ!!」

 

それを見た瞬間、透ちゃんが驚きの声を上げた。

それも納得のお洒落な部屋の写真がスマホには映っていた。

パステルカラーの壁紙に調和した白いアンティーク調の家具類、さらには絶妙な配置とカラーコディネート。

窓の外にエッフェル塔が映っていてもおかしくない程完璧なフレンチスタイルの部屋だった。

 

「ん……センスの塊……凄い……」

 

「可愛い!」

 

「かわいい……?」

 

「まぁ、こういう部屋もステキですわね」

 

透ちゃんの感想はよく分からなかったけど、お嬢様思考でセンスが飛び抜けている百ちゃんにすら言われるくらいだし、文句のつけようがないだろう。

つまり、上鳴くんはB組のお風呂を沸かす必要があるってことだ。

 

「上鳴くん……人間湯沸かし器、頑張ってね……」

 

「ぅぐっ……!波動……死体蹴りはやめてくれ……」

 

私が上鳴くんを弄っていると、物間くんも鼻息荒く近づいてきた。

 

「で、いつ沸かしてくれるのかなぁ!?でも勢い余って感電なんかさせないでよ!?あぁ怖い怖い!!」

 

「いい加減にしろ」

 

調子に乗り始めた物間くんを拳藤さんが早々に制裁して黙らせた。

 

その後はお部屋披露の流れで、拳藤さんと角取さんの部屋も見せてもらった。

拳藤さんの部屋が下手な男の子よりもかっこいい部屋。バイクの写真とかもあって男っぽいって言う方がいいのかもしれない。

角取さんはアニメのポスターやフィギュアが所狭しと飾られているオタク部屋だった。

透ちゃんがその中の"美少女忍者シノビちゃん"っていうアニメにすごくいい反応を示していた。

昔好きだったアニメらしい。角取さんと一緒に「ニンニン」って言ったりするくらいには好きだったようだ。

だから透ちゃんのコスチュームが少しずつ忍者に寄っていっているんだろうか。

昔の憧れをコスチュームに反映していってるのかな。

緑谷くんも角取さんの部屋の写真に映っている日本未発売の限定オールマイトフィギュアに驚愕して、今度実物の写真を撮らせてもらえるようにお願いしていた。

 

そんな感じでA組とB組でほのぼのと交流していると、ケーキを食べ終わった物間くんが立ち上がった。

 

「ほらもう帰ろうよ。こんなとこに長居は無用」

 

「ちょっと待てよ。勝手に来て、部屋けなして、ケーキ食って帰る……?随分やりたい放題じゃねーか。このまますんなり帰れると思うなよ……?なぁ尾白」

 

「うん。言われっぱなしなのはちょっとね……」

 

上鳴くんだけじゃなく、普通呼ばわりされた尾白くんも不満だったらしい。

物間くんも普段はA組からからまれることなんてほぼないから、この状況を認識した途端すぐにいつもの状態に戻った。

 

「えええ!?それじゃあどうするの!?帰さないって言ったからには、何かあるんだろうねぇ!?勝負!?勝負する!?どっちが上かはっきり決めちゃう!?」

 

「物間くん……楽しそう……」

 

思ったことを口に出すけど、私の声には誰も反応せずに流されてしまった。

物間くんは止めに入ろうとする拳藤さんすらも無視して飯田くんを言い包め、最終的に轟くんが発目さんに貰ったゲームで決着をつけることになった。

 

 

 

轟くんが持ってきたのは海賊危機一髪みたいなゲームだった。

まぁ作ったのが発目さんみたいだから、要警戒のゲームだとしか思わないんだけど。

皆にはまだ発目さん作だと伝わっていなくて、ただの大きな海賊危機一髪だと思われている。

ここで水を差すのもあれだし、透視した感じでも爆発とかそういう危ないのはなさそうだからもう傍観しようかな。

B組の人数に合わせて、各クラス男女2人ずつでメンバーを選出することになった。

こっちの男子は部屋を貶された上鳴くんと尾白くん。あとは女子を決める必要がある感じだ。

 

「はいはい!面白そうだから私もやりたーい!」

 

透ちゃんが元気よく挙手して立候補する。ここまではいい。

ただ、透ちゃんが私を誘おうとしているけど、私は参加しない方がいい。

どれが飛ぶ装置に繋がっているか見えているから意味がない。

 

「瑠璃ちゃんもやろーよ!!」

 

「私は……ダメ……」

 

「え?なんで?」

 

「なんでもなにも……飛ばす機構に繋がってる穴……波動で見えてる……答えを知ってるのに……参加しちゃダメ……」

 

「えー、残念」

 

「なんか面白そうなことしてるね!女子の参加者必要なら私もいい!?」

 

「ん……どうぞ……」

 

今ちょうどお風呂を上がったらしい三奈ちゃんが参加希望してきて参加メンバーが決まった。

 

 

 

始まった海賊危機一髪はカオスでしかなかった。

海賊が飛ばない穴は、剣を刺すと電流とかの罰ゲームが行われる仕様になっていたのだ。

轟くんから発目さん作だと伝えられた時に一時は中止にすべきだなんて意見も出たけど、物間くんの煽りでゲーム続行になっていた。

罰ゲームが電流で最初は余裕ぶっていた上鳴くんだったけど、凄い多種多様な罰ゲームがあることが発覚してからあからさまにビクビクして私に声をかけてきた。

 

「な、なぁ波動……?罰ゲームがない穴とかないか……?」

 

「……それ、言っていいの……?ズルじゃない……?」

 

「そんなこと言わずにさぁ……!」

 

「ハハハハ!!さっきまでの威勢はどこにいったんだい!?随分と弱腰じゃないかA組!!」

 

案の定弱気になった上鳴くんが物間くんに煽られる。

まぁ私が言ったところで何も変わらない。だって罰ゲームと思われる装置に繋がってないの、海賊を飛ばす穴だけだと思う。

なら余計なことは言わずに黙っているだけだ。

透ちゃんが心配ではあるけど、続行も自分の意思で決めたんだから私が邪魔しない方がいい。

 

そんな混沌としたゲームはしばらく続いて、ついに最後の2つの穴になった。さらに三奈ちゃんが剣を刺して罰ゲームを当てて、残りは海賊が飛ぶ穴だけになる。

物間くんが負け確定なんだからと渋っていたけど、結局剣を刺すことになった。

海賊は案の定刺した瞬間に飛んでいく。そして、飛んだ瞬間に「おめでとうございます!」という発目さんの声が響き渡った。

どうやら発目さんは、ゲーム発売当初の飛ばした方が勝ちのルールで作っていたらしい。だから飛ばない穴が軒並み罰ゲームなのか。

そのせいもあって最初に決めた飛ばした方が負けか、発目さんが決めていた飛ばした方が勝ちかで喧嘩が始まってしまいそうになっていた。

だけど、拳藤さんの「っていうかさ、延々罰ゲーム受けただけじゃん……」という一言で、全員我に返った。

 

「……今日はこれで帰るよ」

 

皆疲労感まで思い出していて、物間くんのよろめきながらのその一言に反論する人はもういなかった。

 

 

 

「……ご近所付き合いって大変なんだな」

 

「いや、物間が大変なだけじゃない?」

 

「物間くん以外……皆良い人……物間くんも……性格さえ無視すれば良い人……」

 

「いや、あの性格は無視できないでしょ……」

 

嵐のように去っていった物間くんたち。

今後も幾度となく繰り返されるだろうやり取りを想像して、皆苦笑いを浮かべていた。

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