夏休みであっても必殺技訓練とヒーロー基礎学の授業を行っている日々の合間の休日。
午前中はお菓子作りをしていた。砂藤くんのお菓子に触発されて、私もお菓子作りに力を入れてみたのだ。
今日はフィナンシェを作ってみた。もう焼成も終わって常温で置いてある。
透ちゃんが味見と称して1個早々に食べていたけど、反応も悪くなかったからきっと大丈夫だろう。
午後になってから私は響香ちゃんの部屋で百ちゃん、お茶子ちゃん、透ちゃんと一緒に楽器を触らせてもらっていた。
「うおおおお、鳴ったぁ!」
お茶子ちゃんがギターの弦を弾くとギューン!と大きな音がする。
その横では百ちゃんもギターを持って悪戦苦闘していた。
「耳郎さん、ピックの持ち方はこうですか?」
「そうそう、で、肘と手首で弾く感じでやってみて」
そんな様子を眺めつつ、透ちゃんが唐突にエアギターを始める。
「あたしの魂の音を聴けー!!」
「魂の音は……よく分からないけど……エアギター……上手……すごい……」
「それエアギターなんだ……」
透ちゃんの言っていることはよく分からないけど、エアギターは結構様になっていた。
今にも音が聞こえそうなくらい真に迫っていた。
他の人からは服が動いているようにしか見えないからエアギターには見えないだろうけど。
透ちゃんはこういう見えないよって突っ込まれそうなボケをよくしている。きっと透ちゃんの持ちネタなんだろう。
私もギターを触らせてもらっているけど、本当に音が鳴るだけだ。
確かコードとかそういうのがあるんだったかな。当然そんなものは知らないし、響香ちゃんの思考からコツとかを読んでもさっぱり弾けそうにない。
とにかく演奏するなんてとてもではないけど無理な感じだった。
「……難しい……」
「まあ最初はそんなもんだよ」
「仕方ない……けど……ちゃんとした演奏も……聞きたい……」
ちょっと期待しながらちらりと響香ちゃんを見る。
他の皆もその意見に同調してくれた。
「確かに!響香ちゃんの演奏聞いてみたい!」
「確かにお手本を見てみたいですね」
「うんうん!響香ちゃん!お手本お手本!」
「えー?……それじゃあちょっとだけね」
皆のリクエストに、響香ちゃんは恥ずかしそうにしながらギターを弾き始める。
私たちが出す拙い単発の音と違って、ちゃんとした曲をギュギューンと華麗な指捌きで弾いていく。
私は詳しくないけど、素人目にはプロレベルに見える。
「すごいカッコイイ!」
「プロみたいだったよ!」
「カッコイイ……上手……!」
「アンコールですわ、耳郎さん!」
「ええ~っ、ちょっとヤメて!」
私たちの称賛の声とアンコールの要求に、響香ちゃんは顔を真っ赤に染める。
この後響香ちゃんの部屋が即席のライブ会場になったのは言うまでもない。
そんな感じでライブをしてくれていた響香ちゃんの演奏にも区切りがついて、休憩しながらワイワイ雑談をしていた。
部屋の前で複数人の波動が止まったと思ったら玄関の呼び鈴がなる。
「三奈ちゃん……梅雨ちゃんと……男子数人……」
「結構な人数だねぇ」
「ちょっと待ってて」
扉の前にいるのは三奈ちゃん、梅雨ちゃん、障子くん、上鳴くん、峰田くんの5人だ。
私が誰が来たか教えると響香ちゃんがパタパタと扉の方に向かった。
響香ちゃんが扉を開くと三奈ちゃんが元気よく覗き込んでくる。
「いたいた!ここに集まってたんだ!」
「何か用事?」
「いやぁ実はちょっとやりたいことがあって……」
勿体ぶるようにタメを作る三奈ちゃん。
何が提案されるかは分かった。そしてこの後の響香ちゃんの反応も大体想像がつく。
三奈ちゃんも合宿の時の響香ちゃんの反応は見てるはずだし、明らかにわざとだ。
「怖い話大会しませんか!?」
「ヤダ!!」
響香ちゃんが一気に顔色を悪くして、まだ掴んでいた扉を勢いよく閉じて鍵をかけた。
三奈ちゃんも懲りずにまたチャイムを押してくる。
流石に私たちもこのまま無下にして終わるのもどうかと思って響香ちゃんを宥めつつ扉を開けた。
「いいじゃんやろうよ~。夏ももう終わっちゃうよ~?」
「ヤダ!ウチヤダ!」
拒絶する機械になった響香ちゃんは置いておいて、とりあえず詳細を聞いてみる。
「怖い話大会って……?」
「いやぁ、夏と言えば怪談でしょ?皆で順番に怖い話したいなぁって思ってメンバー集めてたの」
「なるほど……?」
「私も含めてそこそこメンバーが集まって来たのだけど、もう少し人数が欲しいってことで勧誘に来たのよ」
三奈ちゃんの話を梅雨ちゃんが引き継いだ。
まぁ言いたいことは分かる。私自身が参加するのはやぶさかでもない。
ただし響香ちゃんは絶対に参加しようとしないだろうってことだけは確信を持って言える。
実際に今もヤダって言い続けてて百ちゃんに宥められてるし。
あと問題点があるとしたら、ブドウ頭がいることくらいかな。
ブドウ頭の思考は基本的には怖い話を楽しもうとしている。
だけど恐怖に震えた女子に抱き着かれたい、あわよくば抱き着きたいという思考があるのも事実だ。
正直警戒していないといけない。
私はブドウ頭に視線を向ける。
「邪なこと……考えてない……?」
「考えてねぇよ!流石に今回は言いがかりだ!」
「でも……あわよくばって……思ってるでしょ……」
「そういうのを期待するのは男の性だろうが!!そこにまで文句言われる筋合いはねぇぞ!!」
「そうだぞ波動!!流石にそこまで口出すのはダメだろ!!」
「私も……普通の男子なら……何も言わないけど……」
ブドウ頭に同調する上鳴くん。
私も妄想だけにとどめてくれる健全な男子ならこんなことに口を出したりはしないけど、相手はブドウ頭だ。一切楽観視できない。
梅雨ちゃんがいるからやらかしたら率先して制裁してくれるとは思うけど、それでもちょっとどうかと思う思考をしている。
女子側の思考からして追加で参加するのは透ちゃんくらいかな。
透ちゃんが行くなら私も行こう。透ちゃんは私が守らないと。
「峰田くんは、まぁきっと大丈夫でしょ!私も参加するー!!」
「……じゃあ……私も……」
「ウチヤダ!!」
「耳郎さん、落ち着いてください。強制参加ではないですから、大丈夫ですから……私がお紅茶を淹れますから、ティータイムにしましょう?」
「っ!?ヤオモモ~っ!!」
「私も百ちゃんの紅茶飲みたいなぁ」
「もちろん大丈夫ですわ。一緒に行きましょう」
皆で順番に返事をするけど、やっぱり思考通りの結果になった。
響香ちゃんはもう百ちゃんを救いの女神かのように縋り付いている。
お茶子ちゃんは百ちゃんの紅茶とお茶菓子を期待してお茶会の方に参加することにしたみたいだ。
「百ちゃん……」
「波動さん?どうかしましたか?」
「ん……お菓子……砂藤くんには劣るけど……午前中に……フィナンシェ……作ったのがあるから……お茶菓子にどうぞ……」
「あら、よろしいんですか?」
「ん……後で……感想だけ……教えて欲しいな……」
「もちろんですわ!ありがとうございます!」
味見もしたし透ちゃんもおいしいって言ってたから最低限の味は保証できる。百ちゃんの感想を聞いて今後ブラッシュアップしていきたい。
私もお茶会はしたいけど、透ちゃんと怖い話も面白そうだし透ちゃんをブドウ頭から守りたい。
そのまま怖い話の方に参加するつもりだ。
「じゃあ葉隠と波動が参加ね!」
「よーし!!涼しくなっちゃうよ!!」
「ん……よろしく……」
「メンバーはもうこのくらいでいいかな?あと1人増えるし。それじゃ、会場に行こっか!」
私たちはそのまま三奈ちゃんを先頭に会場と言っていた場所に向けて出発する。
というか、会場って言って考えてたのが常闇くんの部屋なんだけど……
確かに常闇くんの部屋は真っ暗で雰囲気があるとは言っても流石に怒らないかな。
「常闇くんに……了承……取った……?」
「取ってないけど、今から取れば大丈夫でしょ!」
「……そっか」
常闇くんは優しいから説得すれば受け入れてくれるとは思うけど、流石三奈ちゃんと言わざるを得ない感じだった。
私だったら無許可で会場にしようなんて絶対思えない。
梅雨ちゃんと透ちゃんも無許可なことにびっくりはしているけど、三奈ちゃんに任せることにしたみたいだった。
常闇くんの部屋の前に着いて、さっそく三奈ちゃんがチャイムを押す。
「……なんだ、こんなにぞろぞろと。何かあったか?」
「常闇!ちょっと部屋貸して!」
「は?」
「常闇の部屋、怪談を話すのにうってつけだと思うの!昼でも真っ暗だし!だから、常闇も参加で怖い話大会しようよ!常闇の部屋で!!」
その言葉に常闇くんが顔を顰める。
「……電気を消せば、他の部屋でもいいだろう」
「えぇ~ここがいいんだよぉ!いいでしょ常闇~!おねが~い!」
ガツガツとゴリ押しでお願いしていく三奈ちゃん。
しばらく常闇くんと三奈ちゃんがそんな感じのやり取りを繰り返し、諦めた常闇くんが受け入れてくれた。
「……あぁ、もういい……好きにすればいいだろう……」
「やった~!!ありがとう常闇!!」
「ありがとう常闇くん!!」
三奈ちゃんと透ちゃんが嬉しそうに常闇くんの部屋に入っていく。
峰田くんと上鳴くんもそれに続いていった。
「ごめんなさいね、常闇ちゃん」
「ん……ごめんね……」
「すまん、常闇」
「もういい。さっさと終わらせよう」
梅雨ちゃん、障子くん、私も常闇くんに謝罪しながら後に続く。
常闇くんも少し怒ってはいるけど、受け入れてくれていた。
だいぶごり押しされたのにすごく優しい。
常闇くんが部屋の扉を閉めると、部屋の中は蝋燭の明かりだけになった。
部屋の中には骸骨とかもあって、すごく雰囲気があった。
三奈ちゃんが怖い話をする部屋に選ぶのも納得の雰囲気だった。
蝋燭を1個床に置いて皆で囲む。
常闇くんは輪から外れて自分の椅子に座った。
とりあえず私は峰田くんを警戒することに全力を注ぐことにする。
さっき自分たちで言っていた通り、妄想に留めるなら見逃す。
もし女子に抱きつこうとしたらその時は……制裁まったなしだ。