波動使いのヒーローアカデミア   作:あじのふらい

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夏の怪談(前)

怖い話大会をした日の夜。

私はすやすや眠っていたけど、峰田くんの恐慌状態になった思考がうるさくて目を覚ました。

 

なんか『気のせい!何もかも気のせい!!』とか『近づいてきてないか!?』とか『ひぎゃあああああああ!!』とかとにかくうるさい。

いくら怖い話大会で怖い思いをしてトイレに行けそうにないかもとか言っていたとしても、これはいくらなんでもうるさすぎだろう。

なんか峰田くんの部屋の近くにすごく小さな波動が飛んでいるから、虫か何かを幽霊と思って騒いているんだろうか。

虫は本能で動いていることが多いせいなのか、感情とか思考が読めないことがほとんどだ。

今回の小さな羽虫みたいなのもその類なんだろう。

騒がしい原因も分かったし私はもう一度眠ることにした。

 

 

 

そして日中。今日も今日とて必殺技訓練とヒーロー基礎学だ。

午前中の必殺技訓練はいい感じに感覚が掴めそうだった。

腕を強化した状態で肘から波動を圧縮噴出すると凄い勢いでパンチが出来るだけじゃなくて、前方に衝撃波が飛んだのだ。

その衝撃波が飛ぶタイミングで拳からも波動を圧縮噴出してみたら、衝撃波がさらに大きなものになって岩肌を削った。

エクトプラズム先生も「モノニシタカ」なんて褒めてくれた。

私も実戦で使えそうな技が覚えられたことに大喜びして、休み時間に技の名前を考えていた所だったのだ。

 

そんなことを考えていたら、昨日怪談をしていたメンバーが騒ぎ出した。

なんでも夜に変な音が聞こえたらしい。

 

「ちょっ、なんでオイラだけ名前呼ばれたんだよ!?誰か嘘だって言ってくれえ!」

 

皆との違いに気がついてしまったらしい峰田くんが、錯乱状態で皆に詰め寄っている。

 

「緑谷っ、本当に何も聞こえなかったのかよぉ!?」

 

「ごめん、昨日は特訓で疲れてぐっすりで……」

 

そんな感じで騒いでいる通り、峰田くんが昨日の夜に大騒ぎしているタイミングで何かに名前を呼ばれたらしい。

他のメンバーは名前は呼ばれなかったけど、ヴィィィという振動音のようななんとも言えない音が廊下から聞こえて震え上がっていたらしい。

透ちゃんもその震え上がっていたメンバーの一人で、涙目になりながら私の方を見てきた。

 

「瑠璃ちゃんは何も聞こえなかったの!?」

 

「私……寝てたから……うるさくて目を覚ました時も……峰田くんがうるさすぎて……何も分からなかった……」

 

「オイ波動!!それが分かるってことはオイラが名前呼ばれたタイミングで起きてたってことだよな!?オイラの部屋の前、本当に誰もいなかったのか!?」

 

峰田くんが必死の形相で縋り付いてくる。

いつもだったらこのタイミングで胸とかお尻を触ろうとしてくるのにそれをしない辺り、本当に必死なんだろう。

 

「人は……いなかったよ……」

 

「人"は"ってどういうことだよ!?他に何かいたのか!?」

 

「ん……すごく小さい波動が……飛んでた……私……虫が飛んでるなとしか思わなかったから……無視してたけど……声、したの……?」

 

「そ、それってやっぱり……お、おわりだああああ!!オイラ金髪の女に殺されるんだあああああ!!」

 

峰田くんが絶望したような感じで叫び出した。

砂藤くんと緑谷くんがなんとか宥めようとしている。

私の返答を聞いて、上鳴くんが事情を説明していた怪談メンバー以外の人も含めて、皆顔色を悪くしていた。

爆豪くんだけは上鳴くんが話し始めた段階で、ビクッて反応してからキレながら教室から出ていったからこの場にはいない。

表に出さないだけで怖いのは少し苦手みたいだった。

皆と同様に顔色を悪くした透ちゃんが、確かめるように聞いてくる。

 

「ね、ねぇ……それ、本当に幽霊だったの?名前は呼ばれなかったけど、私も音聞いちゃったよ?」

 

「分からない……少なくとも……読心は出来なかった……虫みたいな動きで……ふらふら廊下を飛んでたから……全然気にしてなかった……」

 

「ふらふら飛ぶ小さな何かで、名前まで呼ぶって、それ人魂なんじゃ……」

 

いよいよ透ちゃんまで泣きそうな感じになっている。

形を目視できないぐらい小さくてそれの周りの波動が見えていた感じなんだけど、人魂を見たことがあるわけでも無いから否定したところで気休めでしか無い。

適当なことを言って安心させてあげることも難しいだろう。

怖いのが苦手な響香ちゃんも、顔色を悪くして震えながら言葉を続けた。

 

「ウ、ウチも聞こえてた……変なヴィーンっていう音……朝方まで続いてたよ」

 

「姿は波動が見てて?音は耳郎が聞いてる?や、やっぱり本当にいるんじゃ……」

 

感知と音のスペシャリストがそれぞれの分野で何かの存在を示しているせいもあって、皆の中で何かがいることはもはや見て見ぬ振りをできないくらい確定的になってしまっている。

教室にいた全員が恐怖に震え出す中、飯田くんが皆の顔を見渡して力強く言い放った。

 

「しかし、呪いかどうかは置いておいて、複数人が謎の音を聞いたとなるとこれは由々しき事態だぞ。波動くんが見たのは本当に虫で、その音が寮の欠陥を示すモノである可能性もある。音の正体を確かめねばなるまい。ここは委員長である俺が、今日、責任を持って起きていることにしよう!」

 

飯田くんがすごく頼もしい。私も部屋で注視はするけど、飯田くんに任せよう。

コーヒーか何かを差し入れはしようかな。

飯田くん、規則正しい生活してるだろうから夜更かしも慣れてないだろうし。

 

 

 

寮に戻って普段通りに過ごす。

とは言っても皆結構気が気じゃない状態で、怯えながら過ごしているというのが実情だ。

響香ちゃんなんて自分で音を確認しながら、私に何回も昨日のがいないかを確認してきていた。

特に変な音がしたりもしないし、昨日見たような小さな波動も見当たらない。

今のところは大丈夫だろうと思えた。

そろそろ就寝しようという辺りで、私が飯田くんにコーヒーを持っていこうと思っていると伝えたら他の女子も賛同してくれて、皆で作って女子からの差し入れとして飯田くんに渡した。

 

そして夜中。私はベッドの中で寮の中の波動を見ていた。

飯田くんはやっぱり眠いみたいだけど、気合いで起きている。コーヒーを飲んでなんとか意識を保っている感じだ。

 

私がうとうとし始めた頃、それはまた現れた。

2階の廊下を、小さな波動がふよふよと浮かんでいる。

中心に何かある気がするけど、なんなのかは小さすぎて全然分からない。

そして、その波動はまた峰田くんの部屋の前で止まって、体当たりをするようにノックし始めた。

そこからは峰田くんの思考が昨日と同じ感じになった。

峰田くんの悲鳴を聞いて3階で音に気が付いていた飯田くん含めた4人が2階に走って向かっている。

私には分からないけど、起きている青山くんや緑谷くんの思考からして本当に名前を呼ばれているみたいだ。

 

私は昨日以上の情報もないし、特に何も思ってないからそのまま寝ようかと思ったけど、透ちゃんと響香ちゃんが部屋に突撃してきた。

来るのはいいけど恐怖に任せてチャイムを連打するのはやめて欲しい。

私は波動で透ちゃんと響香ちゃんだって分かってるからいいけど、そうでもないと普通に迷惑行為だ。

 

「瑠璃ちゃーん!!」

 

「波動ー!!」

 

名前を呼んでくる2人に、私もドアを開けて招き入れる。

思考からして怖いから一緒にいたい、私なら感知できるから近づかれたらすぐに分かるとかが理由みたいだ。

 

「要件は分かってるけど……ここでいいの……?峰田くんの部屋……近いよ……?」

 

「そんなこと言わないで一緒に居ようよー!!1人じゃ怖いんだよー!!」

 

「ホントに無理、怖いのマジやだ……波動なら近づかれたらすぐに分かるでしょ?お願いだから一緒にいさせて……」

 

「まあ……そっちがいいなら……いいけど……」

 

2人は喜んで抱きついてくるけど、私は普通に眠いのが問題だ。

2人の感じからして固まって夜を明かすつもりみたいだけど、私は先に寝てしまいそうである。

とりあえず床に座っていてもあれだから、3人で各々の部屋から枕を回収してから私の部屋で3人並んでベッドに入る。

日中の疲れもあるし、布団でぬくぬくしてそのまますーっと眠ってしまいそうになる。

 

「る、瑠璃ちゃん、起きてる?」

 

「……すー……すー……」

 

「ちょっ、もう寝たの!?波動起きててよ!お願いだから!」

 

「……んぅ……ごめん……ねむくて……」

 

そのやり取りを何回か繰り返した辺りで、またチャイムが鳴った。

 

「ひぃっ!?」

 

「ひゃあああああ!?」

 

透ちゃんと響香ちゃんが震え上がって悲鳴を上げる。

とはいっても、来たのは三奈ちゃんとお茶子ちゃんだ。幽霊じゃない。

むしろチャイムを押した瞬間に悲鳴が聞こえて、2人ともびくって反応していたくらいだ。

 

「幽霊じゃないから……安心して……」

 

私は起き上がりつつそう言ってドアに向かう。

扉を開けると顔を青くした三奈ちゃんとお茶子ちゃんがいた。

要件は先に来た2人と全く同じである。

 

「いらっしゃい……要件は分かってるから……入っていいよ……」

 

「ありがとう瑠璃ちゃん!!」

 

「さっきの悲鳴って耳郎だよね?3階の2人がいなかったのはそういうことか」

 

「ん……だいぶ前に……2人とも来てた……」

 

「や、やっぱり皆考えることは同じなんや」

 

とりあえず部屋に招き入れる。

透ちゃんと響香ちゃんも2人の姿が見えたことで安心したみたいだった。

 

5階の百ちゃんと梅雨ちゃんも集まっているみたいだ。

今の思考の感じは怖がってはいるけど、他の人を心配する感じでもある。

まあこの2人は恐慌状態になるほど怖がっているわけじゃないし、冷静な2人だからこっちに来たりはしないと思う。

来られても寝るスペースはもう無いわけだけど。

流石に女子全員集まるのは事前にお泊まり用の布団を準備しとかないと無理だ。

5人いる今の状態ですらベッドに座っている状態なんだから。

 

そんな感じで考えていても流石に眠くなってくる時間である。

皆は恐怖で目が覚めているみたいだけど、私は普通に眠い。

男子たちも部屋の中で怖がってたり原因を探そうとしたり皆全然寝ようとしてない。

百ちゃんと梅雨ちゃんも2人で朝まで起きていた。

私も何度も何度も起こされながら、5人で夜を明かした。

明るくなってきた空を見て、私は思った。

皆寝不足だし、これは絶対に相澤先生に怒られるな。

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